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7 歓待

 太陽が西に沈みかけるころ、村長さんに言われたとおり夕食をごちそうになるため村長さんの自宅へと向かった。


「おお、待っていたよ」


 村長さんの自宅を訪れると、村長さんが待ち構えていた。


「あら、そちらの方が?」


 建物の奥からふくよかな中年の女性がやってきた。


 恐らく村長さんの奥さんだろう。


「紹介しよう、わたしの妻のメアリーだ」


「初めまして、カールの妻のメアリーです。遠路はるばるようこそおいで下さいました」


「こちらこそ、初めまして。錬金術師のブランといいます。よろしくお願い致します」


 思ったとおり村長さんの奥さんだった。


「ずいぶんお若いですね。おいくつですか?」


「学院を出たばかりで16歳です」


 この国では生まれたときを0歳として年を越すごとにみんな1歳ずつ年を重ねるという数え方をしている。


 ただ俺は孤児で本当の生まれた日が分からないため、ひょっとしたら実は年齢が違うということもあるかもしれない。


 奥さんと初対面の挨拶を交わすと、俺は自宅の奥へと案内された。


 そこには10人程度が一緒に食事できる大きさの食卓。その上にいくつもの料理が並べられていた。


「急だったので大したおもてなしはできず申し訳ないが……」


 移動には時間がかかるし、具体的にいつ俺が到着するという話にもなっていなかったので当然のことながらピンポイントに事前の準備ができるわけはない。


 ただ、俺から見れば十分すぎる食事で見ただけでも期待は高まるというものだ。


 俺は村長夫妻から夕食の歓待を受けながら今後の具体的な話をすることにした。


 まずはこの村で何を買うことができるかだ。


 俺の私生活もそうだし、錬金素材の仕入れも当然必要となる。


「ちょっとした生活雑貨であればみんなが雑貨屋と呼んでいる商店がある。そこでは店主の奥さんが毎日パンを焼いて売ってくれているよ。あと、錬金素材についてはわたしはよくわからないが、普通はどうやって仕入れているんだい?」


「そうですね、汎用的なもの、具体的には冒険者ギルドで常時採取依頼扱いとなっている物はお店で買います。そうでない物だと自分で取りに行くか冒険者ギルドに依頼を出して採取してもらいますね」


「う~ん、雑貨屋ではそういった物を見た覚えはないし、この村には冒険者ギルドもないな」


「汎用的な素材は商業ギルドに登録している商店であれば商業ギルドから商品を卸してもらえると思いますので、取り寄せていただければ」


「おお、そうか。雑貨屋も商業ギルドに登録しているし、きみを馬車に乗せた街には商業ギルドも冒険者ギルドもあるから必要があればそこから仕入れをすることができるな」


 村長さんの言葉を聞き、俺は疑問に思っていたことを聞いてみることにした。


「ところでどうして村長であるカールさんが御者をされているんですか?」


「ああ、一応乗合馬車ということになってはいるが、一番の目的は物の運搬なんだよ。この村で採れた農作物や作った商品なんかを街に持っていくんだ。帰りには街で買ってきた物を村に運ぶということもしている」


「しかし、どうしてそれを村長であるカールさんが?」


「以前はこの仕事を専門にする人がいたんだけど、その人が亡くなってね。後を継ぐ人がいなかったんだ。外の商人さんはこの村に見向きもしてくれないから自分たちで何とかしないと生活が成り立たないからね」


 昔は、田舎の村々は自給自足で他の街との交流や物流が乏しくてもよかったらしい。


 しかし、社会の進歩というか発展によって今や田舎の村に住む人たちの意識も変わり、外の物を欲しがるそうだ。


 そんな欲求を無視してしまうと、街へ人口が流出してしまい下手をすれば村が消滅するということにもなりかねない。


 そこで村長自ら、外の物を村に持ち込み、村人たちの不満が溜まらないようにしているそうだ。



「では、錬金素材を仕入れたいときは村長さんにお願いすればいいでしょうか?」


「そうだね。わたしでもいいし雑貨屋の主人にでもいいよ。汎用素材については商業ギルドに連絡してこの村の雑貨屋に卸してもらえるのであればそこから買ってもらおう。そうでない素材は冒険者ギルドに依頼を出す必要があるものは手数料はいただくけど希望があればわたしが代行できるので言ってくれ。勿論、わたしを通さずに直接冒険者ギルドに行って依頼を出してもらっても構わないよ」


 俺は、村長さんに「状況に応じてお願いすると思います」と伝えた。


「あっ、あと、この村の中や周りで素材の採取をすることもあると思いますが、何か決まりはありますか?」


「決まり? まあ、特定の管理者がいる土地にある物はその人の許可を得てもらう必要があるというくらいだな。そうではない、この村の公有地や村の外であれば基本的に好きに採ってもらっても構わないよ」


「わかりました。では村の中の区分けはまだわかりませんので、村の中での採取については最初はその都度確認させてもらってからにしますね」


「うん、そうしてもらえると助かるね」


「あと、念のための確認ですが、今日案内してもらった工房の敷地内といいますか庭にあるものは自由に採ってもいいですか?」


「ああ、敷地も含めてきみの自宅兼工房だ。自由にしてくれて構わないよ。手入れもろくにしていない雑草だらけな庭で申し訳ないが」


「いえいえ、まったく問題ありません」


 やはり庭に生えている草花の価値を村長さんはわかっていなかったみたいだ。


 こうしてこの日は長い時間、村長さんの自宅で過ごさせてもらった。

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