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22 決着

「ルキウス、今回のこと、皇帝陛下は承知しているのか! 陛下は王国への手出しは禁じていたはずではないか!」


「くくく、陛下は緩いのですよ、いつまで過去の亡霊に怯えているというのでしょうか。王国の守護者、いにしえの魔女などというありもしない幻を恐れて手をこまねいていては諸国の笑いものになるだけです。だからこそ今回第一皇子殿下はご決断されたのです」


「!? 陛下に無断、お兄様の独断での軍事行動だというの? そんなことが許されるわけ……」


 マーガレットとルキウスとでヒートアップしているところ悪いが俺は二人の会話はそっちのけでリヴァイアサンとのやり取りに集中する。


『ええ、とっても困っています。湖の沖に浮かんでいるのは帝国といって隣の国の軍船なんです。この国を攻めてこようとしているらしく、すごく困っています』


『ふむ、そうなのか。では、保留になっていたお返しとしてその軍船とやらを追い払ってみせよう、それで助けてもらった礼としようではないか』


「ふははは! 王国侵攻が成功した暁には皇帝陛下もその成果を認めざるを得まい。そのときこそ陛下も第一皇子殿下を次期皇帝と認めざるをえないだろう」


 ルキウスの言葉にマーガレットは唇をかみしめワナワナと震えている。


 しかし、俺はそんな彼女を後目に既に勝利を確信することができた。


『ではお願い致します。ただ、この辺りが死体や敗残兵でいっぱいになると困りますので脅して追い払うくらいにしていただければ』


 誰にも聞こえない声でそう願うと突然、湖面が揺れ始めた。


 さっきまで凪いでいて波一つ立っていなかった湖面にさざ波が立ったかと思えば次第に大きな波紋が浮かぶ。


 その間にも沖に小さく見えていた帝国の軍船が徐々に陸地に近づいてきて船影が大きくなってきた。


 そして陸地からはっきりと大きな船影が見える距離に近づいてきたときそれは起こった。



ーーグボオォォオッ!



 湖の中から突然飛び出してきたのは天を衝くのではないかと思わんばかりの巨大な竜の姿。


 青を基調とした色の鱗に覆われたその身体が水しぶきをあげて太陽の光をキラキラと反射させながら幻想的な光りを放つ。


「なっ、なんだっ!」

「どっ、ドラゴンだっ!」


 突然出現した巨大な竜の姿に軍船の兵士たちが慌てふためく。


 ある者は冷静に弓矢で応戦しようとその手に弓を持ち矢をつがえる。


 しかし、そんな隙を与えることはない。


 リヴァイアサンは大きくその口を開けるとその口から大量の水を吐き出した。



 ――ごおおおおぉぉっっっっつ


 

「みっ、水だっ!」

「怯むなっ! ただの水だっ!」


 たしかにただの水のようだ。


 しかし、その量が、勢いが圧倒的だった。


 勢いよくその口から放たれた莫大な量の水が軍船を直撃したかと思えば、船はその場所で真っ二つに折れてしまった。


「退避、退避だぁ~」


 船体が真っ二つに折れてしまった船は沈むしかない。


 近くにいた船がその船を助けようとするがリヴァイアサンのブレスは一度で終わるわけではない。


 最初のブレスは小手調べだったのだろう。


 次から次へと放たれる大量かつ高い水圧のブレスは最前線にいた軍船をあっという間に船を湖の藻屑と変えてしまった。


 それだけではない。


 その巨大な体に見合ったとんでもなく長い尻尾を鞭のように湖面で振るえば大きな波が立ち軍船は翻弄されるばかりで前に進むことすらできない。


 一部の船は転覆しもはや戦闘どころではなかった。



 たったそれだけ。



 それだけのことで意気揚々とこの国を侵略しようと進んでいた帝国の軍船はその歩みを止めてしまった。


 その間に帝国側は沈没し、転覆した船に乗っていた兵士たちを救助するので精一杯。


 まだ無傷だった帝国の軍船も再び口を開けて水流のブレスを放とうとするリヴァイアサンの姿をみるや一目散に方向を変えてもと来た帝国領へと逃げ帰っていってしまった。


 そして徐々に小さくなっていく船影はとうとう完全に見えなくなった。



「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 俺たちは無言でただただ茫然と湖を眺める。



『しばらくは様子を見ておいてやろう。まあ100年くらいでいいか?』


『ありがとうございます、十分です』


 俺は人知れず、この国の危機を救ってくれた救世主に感謝の言葉を贈った。








「おー、ブランくん、ようやく追いつくことができた。自警団の精鋭たちを連れてきたぞ」


 村長さんの声に振り向くと複数の馬車の姿が目に入った。


 どうやら代官が山の中に逃げたかもしれないと山狩り要員の自警団の応援の人たちがこぞって応援に来てくれていた。


 その数は30人は下らない。


 結果的には代官はここにいるので山狩りは必要ないのだがこの人数が集まったのは好都合だった。


「えーと、ルキウスさん、でしたか? そっちはあなたの側近の兵士たちが10人くらいでしょう? まだ戦いますか? 降伏すれば当面としか言えませんが命の保証はしますよ」


「……わかった、降伏しよう」


 ルキウスはリヴァイアサンが現れた時点で既に諦めたのだろう。


 この期に及んでは抵抗する気力もなかったようだ。


 事態が呑み込めていない自警団の面々に説明してルキウスとその側近たちの武装を解除させる。


 俺たちはもはや逃げる気力も失って座り込んでいた代官ともども彼らを縄で縛ると村へと戻った。

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