17 攻防
「盾を構えて賊を制圧しろ」
兵士たちは隊列を組んで集団で村の中へ押し入ろうとする。
「負けるな! あいつらを押し返せ!」
双方、盾を構えてお互いに押しつけ合う。
相手の兵士たちが構えるのは鉄でできた何の変哲もない鉄の盾だ。
一方、俺たちが使っているのは地竜の鱗の盾にこの前できたばかりのミスリル合金で表面をコーティングした盾。
そして俺たちの隊列の先頭に立っているのは日ごろ農作業をしているがたいのいい男たちだ。
「くそっ、ただの農民どもに後れをとるな! それでも栄えある王国の兵士か!」
後ろで指揮官の兵士がそう叫ぶが一向に兵士たちの動きはよくならない。
街から村にやってきたうえに作業をした疲れというのではなさそうだ。
心なしか顔色の悪い兵士たちが半分以上いる。
集団戦では不利だと思ったのか代官側は最初の鞘当てを早々に終わらせると次第に乱戦模様となった。
「明らかに練度が不足してるだろ……」
兵士が集団戦を放棄してどうするというのだろうか。
俺たちは安全第一ということで盾を構えて相手の攻撃を受け流しつつ攻撃を仕掛ける。
魔物退治のときもそうだが、この村では基本的に2、3人程度のグループになってお互いに背中を任せ合うというのがセオリー化されている。
ここ最近、パーティー活動を始めていたとはいえ、同じパーティーではない連中との即席の対応もこれまでの魔物退治に山狩りといった実際の現場で培われてきた経験のたまものだ。
「ポーションを!」
年少の自警団員の中には補給専門の役割をもっている者もいる。
彼らは怪我をした団員にポーションを届けて怪我を回復させるのが仕事だ。
怪我をして追撃を受けるのを防ぎ、治療の時間を稼ぐという役割もある。
「どうなっているんだ! どうして素人のこいつらを崩せない!」
当初余裕の表情で高みの見物を決め込んでいた代官が遠く安全な場所から喚いている。
「ちっ! こうなったら人質をとれ! お前たちで村の中に侵入して女子供を捕らえろ!」
「はっ!」
代官の守りのための側近だろう、数人が戦闘を避けて村の入り口を大きく回って村の中に入り込もうと動いている。
この村の周囲には簡単な柵があるだけでそれを越えれば簡単に村の中に入ることができる。
「まずいっ! 奴らを追います!」
「あっ、兄貴。俺も行きます」
俺に続いて近くにいたガオンと数人の自警団員が兵士たちを追いかけた。
「おいっ、どこだっ! どこにいる!」
村の中へと侵入を果たした兵士たちは目につく家々、店舗を見て回るがそこには人っ子一人いない。
「それっ! やってしまえ!」
無人の家から出てきた兵士を俺たちは3人掛かりでボコボコにしてやった。
武具を奪って武装解除させると荒縄で縛って動けないようにする。
「あと何人かいるはずだ!」
とりあえず縛った兵士はそこで転がして他の侵入した兵士を探す。
「貴様っ! そこをどけっ!」
3人の兵士を武装解除させたところで村の郊外から男の叫び声と剣戟の音がした。
「この方向は、教会か!」
思ったとおり、教会のある小高い丘に向かう道で2人の兵士が足止めを食らっていた。
「悪いわね、これも仕事なの。ここから先は通行止めよ」
「マーガレット! リセルさん!」
兵士を足止めしてくれていたのはこの村の村人ではない冒険者の二人だった。
「女、そこをどけっ! 女だからといって容赦はせんぞ!」
兵士は大声をあげてマーガレットたちを牽制するがマーガレットたちは動じない。
さすがに上級の冒険者というだけはある。
「しかしどうして2人が?」
マーガレットたちが2人の兵士を足止めしてくれている間に俺たちが奴らに追いつき兵士たちを挟撃する形となった。
「話はあとよ。いまはこいつらを倒すことだけを考えなさい!」
「くそっ !ガキどもが舐めるなよっ!」
「あんたこそ冒険者を舐めるんじゃないわよっ!」
ガキンっ!
剣と剣がぶつかり合う。
マーガレットが戦うところを見るのは初めてだがその剣筋は素人の俺が言うのもなんだが見事なものだ。
その一方、兵士のふるう剣も力強い。
代官の側近だった兵士というだけあってそれなりの力があるようだ。
しかし、この場では5対2、力が拮抗していたのであればあとは数が多い方が有利だ。
「くっ、くそうっ!」
リセルさんが振った剣が相手の手から剣をはじき飛ばす。
正直、今リセルさんが振るった剣筋はまったく見えなかった。
リセルさんの表情はまさに表情が抜け落ちたといっていいだろう。これまでに見たことのないほど冷徹な目をしていた。
(これがリセルさんの本気か……)
Aランクの冒険者とは聞いていたが最初に出会った茨の王に大怪我を負わされていたというイメージが強すぎてピンときていなかったが彼女もかなりの腕前の剣士なのだということを改めて感じた。
「マーガレット、リセルさん、ありがとうございました。それにしても2人はどうして?」
冒険者は基本的に人間同士のトラブルには介入しないという話を聞いていた俺はそう疑問をぶつけた。
特に帝国出身の二人が他国の正規軍と事を構えるというのは下手をすれば国際問題になりかねない。
「だって、盗賊が襲ってきたんでしょ? 魔物退治だけじゃないわ、盗賊退治も冒険者の仕事だもの。クエストがあれば引き受けるわよ」
「クエスト?」
「ええ、司祭様、ソフィアさんがわたしたちに臨時のクエストとして依頼をしてくださったのです。盗賊が襲ってきたということで教会が避難所になっていましたので」
「なるほど」
聞き覚えのない鐘の音はこの村に盗賊が来たことを告げる合図だったらしい。
その場合、戦闘に参加しない女子供は人質にされることを避けるため教会に避難することになっていたとのことだ。
すでに一線を退いた自警団員を中心として避難場所の教会は守られているのだとか。
「この村の人たちに助けられたんですもの、恩はきちんと返すわ」
マーガレットは得意げにそう言って胸を張った。
「とにかく助かった。俺からもお礼を言うよ」
「そう、ならありがたくその言葉、受け取っておくわ」
俺たちはどちらからともお互いに笑い合う。
「みなさん、ゆっくりしている暇はないようです、村の入り口で火の手が上がっています」
「なんだって!」
見れば村の入り口付近から赤々とした炎と黒煙が立ち上っていた。




