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15 収穫祭

 初夏のオーク祭りと同様、小さい村ながらもみんなが集まればこの村にこんなに人がいたんだと驚くほどになる。


 そのため宿屋兼食堂は基本的にお偉いさんを始めとする年上の人たちの場所で俺たち若者はもっぱら屋外に用意されたテーブル席で過ごす。


「ううっ……」

「レナ、ほらっ! シャキッとしなさいよシャキッと!」


 そんなテーブル席の一つでは何やらレナちゃんがプルプルとうめき声を上げている。


 そんなレナちゃんの隣にいたキャロルはそう言ってレナちゃんの背中を平手でパシンと叩いた。


「ううっ、キャロルちゃん、ひどいよお~」

「あんたが日頃から鍛えてなさすぎなのよ。だいたいあんた、今日だってパーティーの準備とかで作業したのは午前中だけの半日だったんでしょ?」

「だってぇ~」


 レナちゃんが涙目になってキャロルを見る。


「いったいどうしたんだ?」

「あっ、ブラン、それがレナのやつ今日の作業で筋肉痛になって身体が動かないんだって」


 筋肉痛がその日に出るというのはまだ若い証拠なのだろう。

 年齢が若いほど早く出ると聞いたことがある。

 年配の方が翌日に筋肉痛になった若い者を『鍛え方が足りん』と笑った翌日に自分が遅れて筋肉痛になったという笑い話もあるほどだ。


「ううっ、午後の準備が終わるまではまだ大丈夫だったんだけど、夕方から一気にきちゃったんだよお~」


 金色に揺れるツインテールも心なしか元気がなく、しょぼんとしている様に見える。


 涙目でプルプルしているレナちゃんはちょっと可愛くてこのまま眺めていたいと思ってしまったが、さすがにこれでは今日のパーティーを楽しめないだろう。


「もしよかったら筋肉痛の薬を融通するぞ。費用はもらうけど明日以降でいいから」

「ホント? うん、もらう。こんなんじゃせっかくのパーティーを楽しめないからね」


 錬金術で作った薬は即効性がそのメリットだ。


「おおっ、治ったよ! さすがはお兄さん!」

「ちゃんと効いたようでよかったよ」


 俺はそう言って他のテーブルを回る。


 この村にきて半年以上が経ち、小さな村ということもあってもう知らない人はいない。


 エールの入ったジョッキを片手に騒ぐ集団がいつもできていてみんな顔を赤らめて楽しそうだ。



「あっ、兄貴、お疲れ様です」


 そんな中、ガオンとヘンリーがいるテーブルから声を掛けられた。


 そのテーブル席は16歳未満の連中の集まりだったのでみんなが飲んでいたのは果実水だった。


「みんなもお疲れ、でも日頃から農作業をしているんだったらそうでもないのか?」


「いえ、日頃からやっているとはいっても今日みたいに忙しいってことはないですから、やっぱりそれなりに疲れますよ」

「そうそう、魔物退治の方がよっぽど楽だよ」


 そんな声があちらこちらから聞こえてくる。


「そういえばこの村では15歳になったら村を出るか残るかを決めるんだったよな。ガオンとヘンリーは出ていくって聞いたけど他はどうなんだ?」

「いろいろですね。実家を継ぐ奴やこの村で恋人ができた奴は残りますし。ただ最近は出ていくつもりだったけどやっぱり残ろうかというやつも増えてきていますよ」

「そうなのか?」


 図らずもダンジョンができたことでこの村でも冒険者のような活動ができたことで、このままでもいいんじゃないかと思っている若者も出てきているらしい。


 ただ、つい先日、ダンジョンが代官に接収されてしまったから決めるに決めることができないという者も多いようだ。


「あとはやっぱり兄貴がこの村に来たことが大きいですね」

「俺が?」

「ええ、やっぱり外から人が入ってくると村の雰囲気も変わりましたからね。以前はこの村で手に入らなかったものも買えるようになりましたし」


 小さな村だが規模が小さいが故に少しの変化が全体に大きな影響を与えるということだろうか。


「ガオンはどうするんだ? やっぱり外に出るのか?」

「そうですね、もともとそのつもりだったんですけど今は保留にしてます。その意味ではヘンリーはブレないんですけどね」


 ガオンはそう言って隣で果実水を飲んでいたヘンリーに視線を向けるとヘンリーは一つ大きく頷いた。


 ヘンリーは第二王女殿下、あの姫様の近衛騎士になりたいというはっきりした目標があるからな。


 その目標自体に対してはコメントできないが、夢だというなら頑張って欲しい。


 この日は、冒険者のマーガレットとリセルさんにも他の会場で会った。


 この二人は冒険者としてこの村に滞在しているだけのはずだが、今日は村の収穫を手伝ったとかで村人の一員として収穫祭に参加しているのだとか。


 この村の同年代の女の子たちとも顔見知りになっていろいろと話をしているそうだ。


 この日の夜はつつがなく穏やかに村中みんなで食べて飲んで愉快に過ごした。


 このときはこんな生活がこれからもずっと続くと思っていた。


 しかし、何気ない日常というものはいともたやすく壊れてしまうということを俺は直ぐに思い知らされることになった。

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