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6 工房


「ではさっそくきみの自宅兼工房となる建物へ案内しよう」



 俺は村長さんに連れられて自宅を出ると村長さんについて行った。


 村長さんの自宅は集落の中心エリアにあるが、そこからちょっと外れた場所に立派な石造りの建物が見えた。


「あれがきみの自宅兼工房となる建物だ」


「……結構立派ですね」


 遠目から見ると建物は広い敷地にあって庭は緑で溢れている。


 草や花が生い茂っているようだ。


「明日にでも木工店の店主を呼んで内装の話をしようと思うがどうかな?」


「はい、それで構いません」


「では、明日の打ち合わせに備えて建物の中を見ておいてくれ。事前に間取りや内装の希望をまとめてもらえれば話もスムーズに進むだろう。それと申し訳ないが、この後、外せない予定が入っているんだ。すまないが後は一人で行ってくれないか。ああ、そうだ、今日の夕食は妻に言って用意させるからうちに来てくれ。妻のことも紹介したいしね。夕食後にこれからしばらく生活してもらう宿屋に案内するから」


 村長さんは早口でそう言うと、俺に自宅兼工房の鍵の束をくれた。


 入口の鍵がスペアを合わせて3本。それ以外にも建物の中にある扉の鍵もあるようだ。


 俺は村長さんにお礼を言って、遠くに見える建物へと向かう。


 近づいてみて改めて思ったが、この村の家は木造の家が多いのに、この建物は立派な石造りなのが不思議だ。


 ただ、最近作られたものではないようで、石の表面も風雨に晒され年季が入っている。


 俺は工房の敷地に足を踏み入れた。


 敷地のうち、建物の入口までの通路となる部分は草がきちんと刈られているため歩くのに支障はない。


 しかし、そこから外れた庭と言える場所は緑が生い茂り、草花たちが秩序なく生えまくっている。


 まさに自然のままという風情だ。


 いくら田舎の村とはいってもせっかく自分の工房を新しくオープンするのだ。


 それならば、庭もきちんと手入れしておきたいところだ。


 建物の中はある程度、他の人たちに任せるとしても庭の手入れは自分でするとしよう。



 いよいよ田舎暮らしが始まるわけだな!



 俺は緑あふれる庭を見てそう思った。


 王都は石畳や石造りやレンガ造りの建物に囲まれていて、緑は少ない。


 ところどころにある広場や公園に人工的に植樹がされている程度だ。


 これまでとは随分違った環境で新生活が始まるわけで期待もある。


 俺は建物の入口に向かって敷地の通路を進んだ。


 通路を歩きながらその左右に生い茂る草花を見てみるとその中に俺の知っているものもちらほらと目に入る。


 おっ、あれは薬癒草やくゆそうじゃないか。


 こっちには薬滋草やくじそうもあるな、ふむふむ……。


 ふむふむ。


 ふむふむ?


 ぅえっ!?


 ちょっ、何でこんなところに『薬癒草やくゆそう』が生えてんの?


 それから、おい薬滋草やくじそう


 お前は中級ポーションの材料なんだからこんな街中まちなか、ではないな、村の中にしれっと生えてんじゃねーよ!


 はぁはぁ……。


 思わず自分の心の中で盛大に突っ込みを入れてしまった。


 おいおいちょっと待てよ。


 俺は息を落ち着けるとこの敷地内をぐるっと見回した。


 勿論、名も知らない雑草もいっぱい生えているし、価値の乏しいよくわからない花も咲いている。


 しかし……。


 えーっとあれは花は咲いていないけど『月夜草』だな。


 それからこれは『朝露草あさつゆくさ』だ。


 あっ、こっちに『太陽花』が咲いている。


 どれも錬金術の素材となる草花だ。


 普通であれば店で買うか、冒険者ギルドに採取依頼を出すかで手に入れる素材だ。


 それがこの庭にはなぜかあちらこちらに生い茂っていた。


 錬金術師や錬金素材の採取をする冒険者からすればこの庭は宝箱みたいな場所かもしれない。


 おそらくこの村にはこの草花の価値がわかる者がいないため、これまでこんなほったらかしになっているのだと思う。


 庭の手入れの前に錬金素材となる草花についての情報整理もやらなければいけないようだ。


 しかし、庭に錬金素材が生えているとは流石は辺境の村だ。


 この庭だけ特別なのかそれとも村全体がこんな感じなのかはよくわからない。


 ただ、どちらにしても錬金術師の俺としてはこんな身近に錬金素材があるとかテンションも上がるというものだ。





 俺は建物の入口までたどり着くと村長さんにもらった鍵で入口の扉を開けた。


 ぎ~っという音とともに扉が開くと中へと入った。


 俺の赴任が決まってからある程度掃除をしてくれたのだろう。


 建物の中は特に埃っぽいということはなく、普通の空き家という感じだ。


 これならすぐに内装工事を始めてもらえるだろう。


 この建物は入口を入ってすぐが大きな部屋になっている。


 ここは工房やお店となる商業スペースとなる場所なのだろう。


 業態に応じて自由に間仕切りをしてそれぞれのスペースを作ることができるようになっている。


 この部屋の奥まった場所にはトイレがあり、トイレの前を通ってさらにその奥には鍵の付いた扉があった。


 俺は鍵の束から玄関用ではない鍵の中から合いそうなものを差し込み開いた。


 扉を開けると廊下が続いている。


 どうやらこの先が自宅プライベートスペースになっているみたいだ。


 歩みを進めると台所とリビングダイニングと思われる大きな部屋があった。そこから部屋が3つとあと脱衣所と浴室になる予定のスペースがあるようだ。


「思っていたよりもかなり立派だな」


 正直、小さな村が提供してくれる自宅兼工房というからには、小さな工房スペースに一間の居住空間程度のちゃちな建物を想像していた。


 しかし、俺の予想はいい意味で裏切られた。


 今後俺が営むことになる錬金工房は村人向けに作ったアイテムを販売することになっている。


 そのため、錬金術で物をつくる工房さぎょうスペースだけでなく作ったものを販売する店舗スペースも必要となる。


 さて、どういったレイアウトにしようか。


 初めて持つことになる自分の工房だ。


 俺は時間になるまでああでもない、こうでもないと頭を悩ませ続けた。

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