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11 ミスリル製の〇〇

「久しぶりだったがそれなりにはできたつもりだ」


「これが……」


 ボルグさんが間借りしているユミル村唯一の鍛冶工房。


 そこで俺はボルグさんが打った一振りのショートソードを手にしていた。


 鉄とは違う青白く輝く様なその刀身。


 特筆するべきはその軽さ。


 鉄製であればショートソードとはいってもずっしりとした重さを感じ、振り回すのにもそれなりに慣れが必要だ。


 しかし、ミスリル製のものは一回りも二回りも軽い。


 それだけではない。


 軽いにも拘らず強度は鉄製のものよりも遥かに強い。


 それに――


 俺は手に持ったショートソードにゆっくりと魔力を流していく。


 すると青白い輝きが少しずつ増し始めた。


「薄々思ってはいたがお前さんの魔力はかなりのものだな。それならこいつはうってつけだろう」


 ボルグさんが光る刀身を見て目を細めた。


 そう、これがミスリルの特徴の一つ。


 使い手の魔力でその性能を引き上げることができる。


「これは凄いですね。いえ、ミスリル製ということはそうなんですが剣としてこれまで俺が使っていたものと比べて手になじむというか」


 ボルグさんが名工だということは情報としては聞いていたが実際に自分のために剣をあつらえてもらったことでそれがはっきりとわかる。


 これまで俺が使っていた汎用のものとは比べものにならないくらい握りやすく、そして扱いやすかった。


「それはよかったぜ。まあ、錬金術師のお前さんがこれを使うことはそんなにないとは思うけどな」

「ははっ、いや、それがそうでもないんですよね……」


 思わず愛想笑いをしてしまったがこの村に来てまだ半年くらいだというのにそれなりのことがあった訳でして。


「で、次はどうする? 剣か? 槍か? なんでもいいが、ただそんなに多くは作ることはできないぞ」


 そう、ボルグさんの言うとおり、俺が精錬したミスリルの量には限りがある。


 ボルグさんにはそれでもミスリルがこれほどあることに驚かれはしたが、元が貴重な金属ということもあってそこまで大量にあるわけではない。


「俺としてはこの村の役に立つものと考えているんですが、今のところ盾と後は農具ですかね」


「農具? 農具ってぇとくわや鎌の農具か?」


「ええ、その農具です」


 俺がなんともなしにそう言うとボルグさんは俯いて肩を震わせてしまった。


「くっ、くっ、くっ、まさかこの俺に農具を作らせようと考えていたとはな……」


「あの、何かおかしなことを言いましたか?」


「しかも、ミスリル製の農具だと? そんなふざけたことを言い出す奴がいるとは思いもしなかったぜ」


 ボルグさんはお腹を抱えて大声で笑い始めた。


 あれ? もしかして俺なにかやっちゃいました?


「いや、鍛冶の世界では農具よりも武具の方が格が上なわけよ。そんな中でどいつもこいつも何とかして俺に武具を作らせようとしてくるわけなんだが、おもしれぇ、しかもそれはお前さんが使うわけじゃないんだろ?」


「ええ、この村のみなさんに使ってもらおうかと……」


「まったく……、そもそもミスリルで農具を作るなんて奴は初めて聞いたぜ。そもそもこれだけの量のミスリルを自由にできるなら売った方が金になるだろうし王家に献上すれば爵位の一つでももらえるんじゃねぇのか?」


「いやまぁ、お金は普通に商売すれば何とかなりますし爵位なんて別にいらないですし……」


 そんな自分だけ大金を手に入れてどうこうしようなんてことは思っていない。


 そもそもミスリルを外に出せばどこで手に入れたのかという話になるだろうし、そうなればダンジョンやこの村に多くの注目が集まり過ぎる。


 それは俺が目指すスローライフには不要なものだ。


 ミスリルは俺を招聘してくれたこの村のために使えればいいという気持ちしかない。


「ははっ、おもしれぇ、そんなことならミスリルで農具も作ってみるか。しかし、なるべく多くの村人に恩恵をというのなら純ミスリル製じゃなく、ミスリル合金の方がいいかもしれねぇな」


「ミスリル合金、ですか?」


「ああ、鉄とミスリルを混ぜてな。ミスリルは貴重だから昔からどの割合で混ぜるのが一番割がいいかって研究はされているんだ」


「では、それでお願いしてもいいですか?」


 こうしてボルグさんには村で使うミスリル合金製の農具や武具を作ってもらうことになった。

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