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10 インゴット作り

「おう、先生。休憩か?」


「ええ、ちょっと外の空気を吸いに」



 ダンジョンの傍に作ったミスリル鉱石を貯蔵する小屋兼俺の精錬作業小屋から出ると、ダンジョンの監視当番だった村のおじさんに声を掛けられた。


 最近は週に1、2回は精錬作業小屋にきてミスリル鉱石の精錬作業をしている。


 ミスリルの加工ができるボルグさんに村に来てもらったのに肝心の原料となるミスリルがないのでは話にならない。


 そんなわけで村にボルグさんが移住して本格的に鍛冶仕事を始めるまでにはある程度の量のミスリルを用意しておきたいところだ。

 ボルグさんが住む家を準備して引っ越してくるまで2週間くらいはかかるみたいだからそれまではちょっとペースを上げておきたいところだ。


 俺はちょっと根を詰めてこの日は朝から小屋に来てぶっ続けで精錬作業をしていた。


 途中で昼食もとったが食べながらの作業で気がつけばお昼を大分回った時間になっていた。


 さすがに疲れたのもあって休憩で小屋から出たところ声を掛けられたという次第だ。


「それにしてもここも随分変わりましたね」


 俺はそう言ってダンジョンの入口の側に新たにできた建物を一つずつ見ていく。


 ここには最初、村が持っている宿泊施設コテージしかなかった。


 ソフィアさんとミリーと一緒にバカンスに来たのが最初だった。


 しかしあれからダンジョンが発見され、そこを外の冒険者たちに開放したことで大きく状況が変わった。


 最初こそ宿泊施設コテージをいろいろな用途で使っていたがそれにも限界があったのでそれぞれの用途ごとに建物が新たに建てられることになった。


 まずダンジョンに潜る冒険者パーティーの数が増えてきて既存の宿泊施設コテージだけでは手狭になったため簡易的な宿泊施設が作られた。


 冒険者たちはダンジョンで野営をすることが多いとはいえ、それなりに長期戦でダンジョン攻略したいというパーティーを中心に需要は根強いそうだ。


 次にさっき俺に声を掛けてくれたおじさんが詰めているのがダンジョンの監視小屋。


 安全のためダンジョンの入口からそこそこ離れた場所にあるが、ダンジョンの入口の様子をよく見える場所に建てられている。

 ダンジョンで異常が起こると直ぐに村にそれを知らせるという体制が整えられている。

 一番警戒していることがダンジョンからの魔物の氾濫であるスタンピードだ。

 

 そしてダンジョンに潜る冒険者をターゲットにした販売店だ。

 これはうちの村が運営している店で食料品から生活雑貨、果てはお土産まで扱っている。

 勿論うちの工房からも汎用ポーションを中心にダンジョンに必要となるアイテムを卸して売ってもらっている。


 他には冒険者ギルドの買取専門の出張所ができていてダンジョンの周りはちょっとした集落になりつつあるといった感じだ。


「ブランくん、休憩かい?」


「村長さん、どうもです」


 馬の世話をしていたのだろう村長さんが俺に気付くと近づいてきて話し掛けられた。


「これから冒険者がもっと集まってくるようになればここはもっと栄えるだろう。そのためにもブランくんにはしっかり頑張ってもらわないとな」


 冒険者が安心してダンジョンに潜るためにはポーションは必要不可欠だ。


 ダンジョンの傍でポーションを調達できるというのはやはり大きいらしい。


「それはそうとミスリルのインゴットがそれなりに用意できたのですが、村でミスリル製の道具は何か必要になりますか?」


「ん? ミスリル製の道具か……、正直どれだけ凄いものなのかがよくわからないからな。きみに管理してもらっている村のお金の範囲でお任せするよ」


 実は俺が管理しているこの村のお金というものが存在する。


 この村で大量に放置されていた魔石を俺が精錬し、魔力結晶にしたものを売った利益は魔石の精錬費用を引いた金額がこの村の利益としてプールされている。


 もともとこの村で当てにしていなかったお金ということもあって村のためになるようなことに使って欲しいと言われてそれから俺が管理しているというわけだ。


「わかりました。村の皆さんに話を聞きながらこちらで必要そうなものを用意します」


 休憩を終えた後、俺は村への馬車が出発するまでの時間、ミスリル鉱石の精錬を続けた。


 既にそれなりの量の純度の高いミスリルが集まったのでボルグさんの準備ができ次第、ミスリル製の武具や道具を作ってもらう話になっている。


「湖からの風が気持ちいいですね」


 湖からは涼しい風が吹いてきて俺は思わず湖を眺める。


 湖面を走る風がさざ波を立てているのが目に映った。


「もう夏も終わりだからだろう」


 夏も盛りを過ぎてそろそろ秋の気配を感じることも多い。


 俺は湖を眺めながらふと思った。


「そういえばこの湖の向こうって帝国なんですよね」


 向こう岸は見えない。


 この辺りの帝国との国境は基本的には山に国境線がひかれている。


 ただ、例外的と言っていいのかこの湖で湖の半ばに国境線がある。


「帝国を警戒しなくてもいいんですか?」


 この村は辺境で帝国と国境を接しているとはいえ、そこまで物々しい警戒がされている様子はない。


「こんな辺境を攻めても何も得るものがないからね。あちらさんもそこはわかっているんだろう」


「そんなものですかね」


 俺が心配することではないかもしれないがなんとなく胸騒ぎがした。

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