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4 課題

「ほう、ミスリルか……」


 俺が持ってきたミスリルのインゴットを見せるとドワーフのおじさん、名前をボルグさんというそうだ、が物珍しそうに眺めた。


「これでお願いするものを作ってもらうことはできないでしょうか?」


「う~ん、そうだなぁ~。俺は自分の好きなときに自分の作りたい物を作る、それがポリシーよ。俺のところにそう言って来るヤツはときどきいるが悪いが全部断ってるんだ」


「そこをなんとかしてもらえませんか?」


 俺はお土産に持参したお酒、ジーンの入ったボトルを差し出した。


「ほう、お前さん、わかってるじゃねぇか。しかし、この程度の酒ならそこの街に行けばいくらでも買える。すまねーがそれをもらっても『ではやりましょう』とはまでは言えないな」


「…………」


 ボルグさんの言うことはもっともだ。


 今日俺が持ってきたのもそこらで手に入る普通のお酒だ。


「きちんと料金もお支払しますし、それ以外に用意できるものがあれば」

「いや、生活に困っていないし、正直、酒以外に興味もないんだよな」


 ボルグさんはけんもほろろに首を横に振った。


 う~ん、やっぱりダメなのだろうか……。


 俺がそう思って項垂れていると、不意にボルグさんが口を開いた。


「まあ、手土産に酒を持ってきたその心意気は認めてやるよ。それにミスリルなんてのはそう滅多に扱えるわけじゃねーからな、俺も少しは心が動くってもんよ。そこでだ、お前さんが今日持ってきたこの酒を超える酒を用意できるなら頼みを聞いてやってもいいぜ」


「本当ですか!」


「ああ、ドワーフに二言はねぇ」


 ボルグさんは自分の髭を弄りながら胸を張る。


 俺はさっそくボルグさんからどんな酒が好みなのかを聞いてみることにした。

 

 お酒は嗜好品というだけあって好き嫌いというか好みによって評価が大きく変わってくる。


 少しでも好みに近づいていた方が評価も高まるに違いない。


 ボルグさんによるとこのジーンはアルコール度数は強いもののさっぱりとして癖がなくちょっと物足りないという。


 だからアルコール度数はそのままで何かこう風味の強いガツンとくる酒を飲みたいというのがボルグさんの希望だった。


 俺は「課題のお酒が用意できたらまた来ます」と挨拶すると元来た道を戻った。










「なるほど、ジーンを超えるお酒ね~」


「ええ、何か心当たりがないかと……」


 村に戻ったときにはすっかり日が暮れていた。


 俺は善は急げと食堂に夕食をとりにいき、厨房の手の空いただろうタイミングを見計らってオットーさんにボルグさんに出された課題を克服するための助言をお願いした。


「しかし、わたしが知っている程度のものではその御仁も当然ご存知だろうしな。癖のあるお酒というだけであればワインの中でちょっと変わった種類が思い浮かぶ程度だね。アルコール度数も足りないし、味や風味という点でもその御仁の言う好みとはズレているように思うね」


 オットーさんが「う~ん」と腕を組んで悩む。


 釣られて俺も腕を組んで一緒に難しい顔をしていると不意に声を掛けられた。



「そんなに深刻そうな顔をして何かあったのですか?」


 その声にパっと振り返るとフワフワなピンク色の特徴的な髪の毛が目に入った。


「あっ、ソフィアさん。お久しぶりです、お食事ですか」


「ええ、たまには外食をと思いまして」


 俺たちに話し掛けてきたのは教会の司祭のソフィアさんだった。


 少し前まではダンジョン絡みで忙しくしていたみたいだが、ダンジョンが外部に開放されてしばらく経つので今はそれほどでもないらしい。


 ソフィアさんは自炊することが多く、食堂であまりその姿を見掛けることはない。


「おにいちゃん、こんばんは、なの」

 

 ソフィアさんが預かっているミリーも一緒だ。


「ミリー、こんばんは。挨拶ができてえらいな」


 そう言って俺はミリーの頭を撫でた。


「ところで何のお話だったのですか?」


 ニコニコしているミリーを後目にソフィアさんにさっきまでしていた話を簡単に話した。


「なるほど、わたしが思い浮かぶのは香草酒ですね」


「香草酒、ですか?」


 元々お酒に詳しくないためピンとこない。


「香草酒は一般的に薬草から作られるお酒という意味です。多分ですがこの村でも造っていますよね?」

「ああ、この村で昔から伝わっている秘伝のものがあるにはあるよ。ただ、これは村人以外には飲ませてはいけない決まりがあるんだ」


 オットーさんがそう説明してくれた。


「教会でも香草酒は造ってはいますし、それなりにポピュラーだとは思いますけど」


 香草酒はどちらかというと薬用酒として薬に準じた扱いになっていることもあるようだ。


 探せばアムレーの街でも手に入るかもしれない。

 

 しかし、香草酒は癖は強いながらも俺の直感的にボルグさんの好みとは外れているように思う。


 そもそも酒好きのボルグさんが香草酒を知らないということはないだろう。


 今回の課題は一般的ではない何かを求めているのだと思う。


「ブランくん、錬金術師の世界で何か変わったお酒を造るという話はないのかい? 市中に出回っているものは大手の酒蔵が作っているものが多いが、変わった一品物は錬金術師が関わって造ることもあるという話を聞いたことがあるよ」


「錬金術か……」


 そういえば師匠に弟子入りして直ぐに蒸留絡みの知識を習ったことがあった。

 

 そのときにお酒造りの話を聞いたような気がする。


 そうだ、たしか師匠から『今は興味がないかもしれないが知っておいた方がいいことをまとめておくから必要になったときに見るがいい』と言われて手渡された資料があったはずだ。


 俺はそのことを思い出すとオットーさんたちに御礼を言って急いで食堂を出て自宅に戻った。


 そしてさっそく記憶の彼方に追いやられていた師匠にもらった資料を探してみることにした。

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