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1 鍛冶屋

「はい、送金完了しましたよ」


 アムレーの街の商業ギルドの受付で師匠宛ての送金手続をお願いすると担当してくれた受付嬢さんからそう報告を受けた。受付嬢さんはくすんだ金色の長い髪をポニーテールにした俺よりもいくつか年上とはいえまだ20歳にはなっていないだろう若くて綺麗な女性だ。


 商業ギルドに限らず冒険者ギルドも受付嬢はどこにいっても美人さん揃いでどう考えてもそういう人を置いているよなと思わざるを得ない。


 こんなことを考える余裕があるだけ最近はうちの工房の経営は順調だ。師匠への送金も問題なくできたし俺の心は羽毛よりも軽い。


「ところでお聞きしたいことがあるのですが」


「なんでしょうか?」


 受付嬢さんがニッコリと微笑む。


 営業スマイルとはわかっていても俺も年頃の男なので思わずドキっとしてしまう。


 そんなことをおくびにも出さず俺は聞きたいことを尋ねた。


「この街の鍛冶屋さんを紹介してもらいたいのです。できれば一番腕がいいと言われている方がありがたいのですが……」


「う~ん、商業ギルドで特定の方を推薦したとなるとちょっと問題になりますので申し訳ありませんが商業ギルドとしてお答えすることはできません。ただ、あくまでもわたしが一個人として雑談の一環としてお教えするというのであれば構いませんが。あと、誰から聞いたとも言わないでいただけるのであれば……」


「あっ、はい。それで結構ですので!」


 こうして受付嬢さんにお勧めの鍛冶屋さんの名前と場所を聞いて商業ギルドを出た。








「ここか……」


 商業ギルドから歩いて5分のところにその鍛冶工房はあった。


 年季の入った古めかしい石造りの1階建ての建物だ。そんな佇まいでありながら掃除が行き届いているからか決して汚くはない。


 その建物の中からはトンカントンカンという槌で金属を叩く音が聞こえてくる。


「ごめん下さい」


 建物を入ると直ぐはお店になっていてこの工房で作られたものだろう商品がところ狭しと陳列されていた。


「いらっしゃい」


 お店のカウンターで店番をしているわずかに白髪が混じり始めた赤茶色の髪のややふっくらとした年配の女性からそう声を掛けられ続けざまに話し掛けられた。


「初めて見る顔だね。今日はいったい何をお探しだい?」


「はい、実はこの工房で私が持ち込む金属を使って加工をすることができるかどうかをお聞きしたくて」


「金属かい? 失礼だけどどういったものだい? 一般的な金属ならうちである程度は取扱いできると思うけど……」


「これなんですが……」


 俺はそう言ってこの前作ったミスリルのインゴットをカウンターの上に置いた。


 青白い光沢を放つ金属を見て女性が首を傾げる。


 恐らくこれまで見たことがなかったのだろう。


「おう、お客さんか?」


 そのとき店の奥からがっちりとした筋肉をした中年のおじさんが出てきた。


 濃い茶色の髪を短く刈り込み、白いタンクトップを着ている。真夏の鍛冶場から出てきたということもあってか身体全体から汗が噴き出している。


「お前さん、お客さんが持ち込みの金属の加工ができるかってお尋ねなんだけどね」


「んっ、なんの金属だ? ってこりゃぁ!?」


 おじさんがそういって女性を押しのけてカンターへとがぶり寄る。


 そしてカウンターに置かれたミスリルのインゴットを上から下から横からと色々な角度から舐めるように見回した。


「お客さん、これは一体どこから……」


「あ~、ちょっとその辺りはお答えできません、ってことにしてもらえませんか?」


 震える声で出所を尋ねるおそらく店主さんだろう、その人にそう答えた。


「いや、俺も久しぶりに見たぜ。これを見たのはいったいいつぶりになるかわからないな」


 店主さんはそういってうっとりする表情でミスリルを眺め続ける。


「お前さん、コレはいったい……」


「ああ、これはミスリルだ」


「ミスリルっ! ミスリルってあのミスリルかい?」


 鍛冶職人ではない女性には見ただけではピンとこなかったようだ。


 この反応を見るだけで世間一般でのミスリルの希少性がわかるというものだ。


 口を半開きにしている二人だがいつまでもこの様子だと話が進まない。


「それでどうでしょう? この工房でこの金属を扱えますでしょうか?」


「…………」


 俺の質問に店主さんは黙ってミスリルのインゴットを見続ける。


 元々出ていた汗なのか、それとも新しく掻いた汗なのかはわからないが店主さんの額から汗が流れた。


「正直に言えばこの金属を扱ってみたいという気持ちはある。しかし、申し訳ないがお客さんの求める仕事ができるかと言われればできると胸を張って言うことはできねぇ……」


 店主さんから出てきた答えはそういったものだった。


「では、ここでは取り扱えないということでしょうか?」


「そうだな。申し訳ないがそういうことになる。この金属をダメにしてしまった場合、うちには弁償できるだけの資金もねぇ」


 店主さんはガックリした様子でそう言った。


「そうですか……」


 しかしこれは困ったな。


 ダメ元でやってもらうということも最悪考えられるが、貴重な金属であることは間違いない。


 できれば確実に使いこなせる鍛冶屋さんにお願いしたいところだ。


 俺がどうしたものかと頭を抱えていると店主さんから「悔しいがそれを扱えるだろうところをいくつか知ってる。もし良かったらそこを紹介しよう」と言われ俺は顔を上げた。


「いいんですか?」


「ああ、貴重な金属を無駄にすることは鍛冶屋の誇りに掛けてできねぇ。困っているお客さんを見過ごすこともできねぇからな」


 そうして俺は店主さんからミスリルを扱う技量のある鍛冶職人というか鍛冶工房を何件か教えてもらうことができた。


 しかし――


「王都か王都よりも北にある王都よりもさらに遠い街か……」


 王都の鍛冶工房は王室御用達の工房で王族以外には貴族しか相手にしておらず一般客は基本的には相手にしていないらしい。


 となると、実質依頼をすることができるのは王都よりもさらに遠くの北の街にある鍛冶工房ということになる。


 これでは実質的に頼む先がないことと変わらないのではないか。


「あ~、この近くにまったくないわけでもないんだがなぁ~」


 俺がそう思って肩を落としていると店主さんが複雑そうな表情を浮かべながら奥歯に物が挟まったかのような物言いをする。


「他にどこかあるんですか?」


「まあ、あるっちゃ~あるんだが、いろいろと問題がな~」


 俺は頭を掻きながら苦笑いする店主さんに話の詳細を聞かせてもらうことにした。


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