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18 反面教師

「マーガレットがいるということは……」


「失礼します。わたしもいますよ」


 工房の玄関で胸を張るマーガレットの後ろから顔を出したのは艶やかな黒髪のリセルさんだ。


 それにしてもマーガレットは以前とちょっと口調が変わっているな。


 恐らくこっちが素なのだろう。


 まあ、こっちの方が俺としてもしゃべりやすいし、それだけ俺に気を許していると言えなくもないので俺としては一向に構わない。


「二人はいつ来たんだ?」


「ついさっきよ。それにしてもいつの間にかこの村の近くにダンジョンができただなんてホントびっくりね」


 マーガレットが嬉しそうな声色でそう言う。


「ということはやっぱりダンジョンが目的か?」


「ええ、やはり未踏破ダンジョンを最初に踏破することは冒険者のほまれですから」


 リセルさんが横から会話に入ってきた。


「やはりそうなんですね」


 それにしてもやはり高ランクの冒険者だけあって二人はやはり向上心がある。


 俺も見習いたいものだ。


「で、ダンジョンの話は置いといて、今はさっきの話の続きをしておきたいわね」


 マーガレットの目がギラッと光る。


 リセルさんも苦笑いをしながらではあったがマーガレットを止める様子はない。


 やはりリセルさんも気になるようだ。


「じゃあ、キャロルとマーガレットたちにしばらくはテスターということで試供品を提供するということでいいか?」


「しょうがないわね。二人はこの村の人じゃないし、冒険者のテスターも必要でしょうし。でもしばらくはこのことは他言無用でお願いね」


「ええ、それは勿論!」


 キャロルの言葉にマーガレットは大きく頷くと二人はがっちりと握手を交わした。


 これは一体なんなんだろう?


「ブラン、採取が必要な素材があったら直ぐに言いなさい。直ぐに採ってくるから」


「ああ、そのときは頼むよ」


 話が一段落するとキャロルは仕事があるからとさっさと帰っていき、店の中は俺とマーガレットとリセルさんの三人だけになった。


 マーガレットが本来の目的である買い物をするというので注文を受ける。


「ポーションを初級10、中級5、上級2。それから化粧水を2人分」


「はいよ」


 マーガレットの注文に応えて直ぐに商品を用意した。


「はー、ようやくまともなポーションを使えるわ」


「んっ? いったい何の話だ?」


 マーガレットの言葉に首を傾げる。


「ブランさんはご存知ないかもしれませんが、今、他の街で流通しているポーションは粗悪品が多いのですよ」


「そうなんですか?」


 粗悪品とは穏やかではない言葉だ。


「そうなのよ。ホント、参っちゃうわ」


 マーガレットが大きなため息交じりで吐き捨てるように言った。


 常に命の危険と隣り合わせの冒険者にとってポーションは命綱だ。


 そんな命綱となるポーションが実は粗悪品でしたとなれば冒険者は穏やかではいられないだろう。


「いったいどこの工房ですか? そんな物を出しているのは?」


 これでも錬金術師の端くれだ。


 他の工房の情報も知っていることに越したことはない。


「ガリウス工房ってところよ。一度、クレームを入れたけどそのときの店員の対応も最悪だったわ」


「ガリウス工房……」


 聞いたことのない工房だ。


「ここ最近、急に大きくなった工房らしいですよ。主に、辺境地域に展開しているようですが」


「そうなんですか?」


 俺もここに来るまでは王都にずっといたので王都周りの有名な工房は知っているが小さな工房や地方の工房のことはさすがに知らない。


 うちの工房からは絶対に粗悪品を出すことがないよう、今回の話は反面教師とさせてもらおう。


 そんなことを考えながらマーガレットたちに注文を受けた商品を渡した。

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