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「どうやら『不死』じゃないな。多分……」
ゼップさんが腰の剣を抜きながら話す。
「『魔法耐性』を持ってやがるんだ。『技術』によるものか、『魔具』によるものかは分からんがね」
ゼップさんが抜いた剣は赤錆が浮いていた。
「あちゃあ。ここんところ手入れしてなかったからなあ。まあ、使用には支障なかろうが」
「さて」
ゼップさんは私たちの方に向き直ると、
「1人はわしが防ぐ。残りの2人はすまないが、カトリナとデリアがクルトたちが戻って来るまで防いでくれ。パウラは随時様子を見て、『治癒』をかけてくれ」
私たちは大きく頷く。近接戦闘は得意ではないが、そんなことは言っていられない。
◇◇◇
ドカッ
その音はそう聞こえた。
カトリアちゃんと「武術」の訓練をしている時、私の杖が衝撃で発する音は「ガツン」だ。たとえそれが「木の杖」から「鉄の杖」に代わっても。
だが、その野盗が振ってくる剣を受け止めた時、聞いたこともない重い音を発した。重いのは音だけじゃない。衝撃で腕が痺れる。脂汗が出てくる。
ドカッ
ドカツ
ドカツ
正直、受け止めるだけで精いっぱいだ。この野盗たち。今まで戦ってきた中で、間違いなく一番強い。
ドカッ
ドカツ
ドカツ
腕の痺れが取れる前に次の攻撃を受ける。気が遠くなりそうになる。杖を取り落としそうになる。だが、駄目だ。これだけ相手が強いとなると、私よりレベルが高くとも体の小さいカトリナちゃん、ブランクのあるゼップさんもギリギリ防いでいる状態だろう。
これでは私が倒されると、数が3対2になり、残った2人もあっという間にやられてしまうだろう。倒される訳にはいかない。クルト君が助けに来てくれるまで……
ドカッ
ドカツ
ドカツ
まだまだっ! クルト君が来てくれるまでは…… クルト君が来てくれるまでは……
ドカッ
ドカツ
ドカツ
きっ、きついっ! クルト君、早く来てっ! 早くっ!
ドカッ
ドカツ
ドカツ
気が…… 気が…… 遠くなる…… クルト君っ! クルト君っ!
◇◇◇
...... ......
...... ......
...... ......
いけない…… 私…… 気を失って……
!
次の瞬間、私が見たのは全身血塗れのクルト君の槍の穂先が野盗の剣を受け止めているとこだった。
「ごめん。デリア。遅くなっちゃって」
「クッ、クルト君ッ! そんなことより血塗れ……」
「デリアッ!」
私の言葉を遮ったのは、ゼップさんの大声だった。
!
「デリアッ! クルトの他にヨハンとカールも駆けつけてくれたっ! だが、3人とも傷だらけだっ! カトリナとパウラと一緒にありったけの『治癒』をかけろっ!」
「はいっ!」
私は大きな声で返事をすると、カトリナちゃんとパウラちゃんと向き合い、3人で大きく頷き合う。
「行っくよーっ!」
「はいっ!」
「はいっ!」
「治癒」
「治癒」
「治癒」
3人とも頑張れっ! 頑張れっ!
「治癒」
「治癒」
「治癒」
頑張れっ! 頑張れっ! 苦しいけど頑張れっ!
「治癒」
「治癒」
「治癒」
うーん。
「残念ですが、押されています。何か策を講じないと」
カトリナちゃんが真剣な顔で言う。
◇◇◇
私は少しだけ考えた後に言った。
「カトリナちゃん、『混乱』はまだ残ってる?」
「一つだけは……」
「野盗にだけ浴びせることは出来る?」
「範囲を絞れば…… でも、効くかどうか…… 相手は『魔法耐性』を持ってるようだし……」
「やろうよっ!」
私はカトリナちゃんの手を握る。
「クルト君たちも格上相手に頑張っているんだよ。私たちは『魔法耐性』を突き破ってやろう」
「……」
「私は『雷光』を範囲を絞って、集中させて放ってみる。一緒に『魔法耐性』を突き破ろうっ!」
「…… やりましょう」
カトリナちゃんは頷いた。私たちは野盗たちに向き合うと、集中を始めた。
いつもよりいつもより集中して、狭い範囲を強くイメージして、あそこに、あそこに「魔法」を放つっ!
「雷光」
「混乱」
◇◇◇
私の放った「魔法」はクルト君の相手に、カトリナちゃんの放った「魔法」はカール君の相手を直撃した。
直撃された相手は動きを止める。押されていたクルト君とカール君は一息つく。やったか?
だが、相手はゆっくりとまた動き出す。くそっ! 駄目だったか。クルト君とカール君は槍を握り直す。
ずっ、ずずっ、ずずーっ
相手の二人はそのまま倒れ込む。クルト君とカール君はすかさず止めを刺す。そこで、初めて安堵の表情を見せる。
私とカトリナちゃんは思わず顔を見合わせる。喜びがこみ上げてきて、カトリナちゃんに飛び付く。
「やったあーっ、カトリナちゃんの『魔法』すごおいっ! 『魔法耐性』突き破ったよーっ!」
「デリアちゃんだって、すごいですよお」
◇◇◇
ヨハン君と戦っていた野盗は、他の2人がやられたとみるや、剣を投げ捨て、逃走した。私たちのパーティーも追撃する余力なんて残っていなかった。
沈黙が支配する中、クルト君がポツリと口を開いた。
「勝ったん……だよね?」
「ええ、勝った……んですよね?」
「勝ったんですよっ!」
「勝ったんですよっ! 勝ったんですよっ!」
パーティーに大歓声が上がる。
ゼップさんは苦笑していた。
だけど、後で、
「こいつら、このまま順調に成長して行けば、10年後にはハンスとナターリエのパーティー以上に強力になる」とあの時思ったと教えてくれた。