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但し、クルト君の敏捷性がギードよりかなり高いのであれば、逆転もあり得る。
だけど、ギードもその辺は計算済だろう。
それでも!
私は見てしまった。ギードが広刃の剣を構えた時、クルト君がほんの一瞬だけ笑ったのを。
カトリナちゃんが心配そうに問いかけてくる。
「デリアちゃん。卑怯な手と言われるでしょうが、『魔法』の準備をしておいて、クルト君が危なくなったら、ギードにかけましょうか?」
カトリナちゃんもクルト君の一瞬の笑みには気付かなかったらしい。私はわざと淡々と答えた。
「多分、大丈夫だと思うけど、勝負ごとに絶対はないから、用意だけはしておいて。但し、『雷光』は使わないでね」
カトリナちゃんは腑に落ちないという顔をしている。
◇◇◇
ドカッ
展開は予想どおりになった。
ギードは広刃の剣をクルト君の頭上に振り下ろした。クルト君は槍を頭上に横に構え、その一撃を受け止める。
ピシリ
最初の一撃で早くも槍の柄にヒビが入る。
「くっくっく」
ギードは不気味に笑う。
「さあて、何回、耐えられるかな? その柄は」
ドカッ
二撃目。更にヒビが広がる。
ドカッ
三撃目。柄全体にヒビが広がる。
ドカッ
四撃目。柄が粉々に砕ける。
ノルデイッヒのギルドメンバーの女の子たちの悲鳴が上げる。
◇◇◇
「ぐおっ!」
クルト君が砕け散った筈の槍の柄でギードの左頭部を強打する。
「がはあっ!」
態勢を崩したギードの胸をクルト君の槍の穂先が貫く。
ギードは吐血した。
「デリアちゃんっ、あれって」
ふふ。さすがにカトリナちゃんは気付いたね。
◇◇◇
砕け散ったのは柄の周りの木の部分だけ。
クルト君の槍の柄は鉄芯入りの特注品。
柄を砕いて、勝ちを確信したギードの一瞬の心の隙に、クルト君は残った柄の鉄の部分でギードの頭部を強打しての逆転勝ち。
「これで分かりましたよ。普通、槍なんて、銀貨1枚なのに、クルト君だけが銀貨5枚も払っていたのはこういう訳だったんですね」
カトリナちゃんは納得したような、呆れたような顔で続けた。
「でもそれなら最初から木で覆わずに、柄を全部鉄製にした方がまだ安上がりなんじゃなんですか」
「それ、なんだけど」
私は内情を話す。
「武器として使うのに、どうしても木の感触がいいんだって」
「うーん。それって」
カトリナちゃんはなおも複雑そうだ。
「何かおじいちゃんみたくないですか。渋過ぎと言うか」
私は胸を張って返答する。
「そこがいいんじゃない」
「そこがいいんですか?」
「そこがいいんです!」
◇◇◇
「てめえっ! やってくれたじゃねえか」
「おうっ! 真ん中の野郎。汚い手を使いやがってっ!」
「おめえだけは許せねえっ! ぶっ殺してやるっ!」
残った野盗たちはいきり立つ。そこへ……
「やめろっ!」
ギードが大きな声を絞り出す。シンとする野盗たち。
「思い出した…… 『僧侶戦士のクルト』。わしらには及びもつかねえ恐ろしい奴だ。なんせこいつは……」
何を言ってるんだという顔をしているクルト君。私もそう思う。
「あのファーレンハイト商会に乗り込み、そこの令嬢を略奪した。大盗賊だっ!」
! え? 何その話? そう思う間もなく……
「キャーッ」
後方のノルデイッヒのギルドメンバーの女の子たちの悲鳴が上げる。クルト君の槍の柄の木の部分が砕け散った時とは別の種類の悲鳴。黄色い悲鳴というやつだ。
◇◇◇
「なっ、おま…… 何を言って……」
クルト君の顔は真っ赤。それでも槍をしっかり構えているところはさすが。
もっともギードもやっと立っている状態。あ、また、吐血した。
「だから…… おめえらとっとと…… に・げ・ろ…… あいては…… だいとうぞくだ……」
「まっ、ままま、待てっ」
クルト君はパニック状態。
「ぼっ、ぼぼぼ、僕と…… デッ、デデデ、デリアは…… 両性のごっ、合意に基づいて、おっ、お付き合いをし、そっ、相互の協力により…… じゃなくて、略奪とかしてないし……」
ちょっとクルト君。何を言ってるんだかさっぱり分からないし、聞いてる私の方が恥ずかしくなってくるよお。
ノルデイッヒのギルドメンバーの女の子たちはキャーキャーキャーキャー大盛り上がり。
残りの野盗たちは残らず逃げてしまった。
そして、カトリナちゃんが右手でクルト君の左肩をポンと叩く。
「クルト君……」
「なっ、ななな、何?」
「もう、ギードも立ったまま絶命しましたし、釈明しなくてもいいですよ」
「そっ、そう……」
◇◇◇
それからも苦戦の連続だった。
槍の柄の木の部分を失ったクルト君は戦闘にいつもの冴えがない。
私やカトリナちゃんにしても、次々現れる強力な「魔法耐性」を持った野盗たちに苦しんだ。
もう、何でってくらい「魔法」をかけてもかけても歩みを止めない。
最後はこちらも鉄の杖を使っての白兵戦で、やっと倒せたケースも多い。
そして、私たちはほぼ「魔法」を使い切った状態。クルト君たちは血塗れのボロボロ状態で、中間地点の廃屋に到着。
廃屋にはゴブリンが何匹か巣くっていたが、疲れ切ったクルト君が槍を一振りして睨みつけると大慌てで逃走した。
大きく上がる歓声。みんななだれ込むように廃屋に入った。
参考文献 日本国憲法第24条




