12
この町を出る時も、ゼップさんは門番に金貨を1枚握らせた。
それに対して門番は、舌打ちしながら、こう言った。
「来た時より、随分、人数が増えてるじゃねえか」
ゼップさんは黙って金貨をもう2枚握らせた。
門番は不機嫌そうな顔を隠さず、言い放った。
「しょうがねえな。全く。手間ばっかかけんじゃねえよ」
私たちは門番にペコリと頭を下げ、そそくさと城門を通り抜けた。
避けられる厄介ごとは避けるに限る。でも、本当に空しい。
◇◇◇
ノルデイッヒのギルドメンバーはやはり元気がない。
無理もないけど、そんな彼らにも野盗たちは全く遠慮しない。当たり前と言えば、当たり前だ。
! 私たちパーティーメンバーは顔を見合わせた。いるっ!
「ノルデイッヒから来た人たちは、ゼップさんを囲むように布陣して下さいっ! 後ろの岩陰に隠れている連中はクルト君たち、お願い出来ますか? 私とデリアちゃんは前から来る連中をやりましょうっ!」
カトリナちゃんの判断は素早い。大きく頷いたクルト君はカール君とヨハン君を引き連れて、岩陰に近づく。
それに対し、ノルデイッヒから来た人たちは、戸惑いを隠せない。不慣れなんだろう。おろおろしながらもゼップさんの周りにいる。
「デリアちゃん。前から来る野盗に『火炎』で攻撃してください。その後に、私が『混乱』で動けなくする戦法で行きましょう」
デリアちゃんの提案は、私たちコンビの定番のコンビネーションだ。だけど、その時の私には別に思うことがあった。
「うーん。今回の野盗はそう強いほうでもないと思うんだ。だから、ちょっと試してみたいことがあるんだ」
「え? 試してみたいこと……ですか?」
「うん。さっき私は『混乱』を手に入れたし、カトリナちゃんは『超・火炎』を手に入れた。まだ、お互い不慣れな『魔法』だけど、試してみるいい機会だと思うんだ」
カトリナちゃんはニヤリと笑う。
「いいですね。デリアちゃんのそういうチャレンジングなところ、私、好きです」
◇◇◇
「超・火炎」
カトリナちゃんの放った初めての中級「魔法」。
ゴオオオオオ
カトリナちゃんの杖から発せられたそれは凄まじい音と共に、前方一帯を火の海にした。
「うわああああ」
「何だこの『火炎魔法』はー」
「普通じゃねえぞ。これは」
わざとらしく街道を歩いてきた野盗ばかりでなく、付近の草むらに潜んでいた野盗もたまらず飛び出す。
うーん。いいなあ。中級魔法。私も欲しくなった。でも、「混乱」のツケもあるしなあ。
おっと、いけないいけない。次は私の番だ。
「混乱」
「ぐわあああ」
「ぐおっ」
「ぎいやああああ」
野盗たちは火の中をのたうち回るが、決して火から逃れられない。
初めて使う「魔法」にしては上出来だ。
ノルデイッヒのギルドメンバーたちはさっきまでの悲しみも忘れ、呆然とした顔で戦況を見つめている。
ふふふ。まだまだ。真打はこれからだよ。
◇◇◇
「てめえら、やってくれたじゃねえか」
囮の筈の前方の一団をカトリナちゃんと私の連係プレーであっさり潰滅させられた野盗たち。
もはや、岩陰に隠れることもせず、クルト君たちに襲い掛かって来た。
クルト君は槍の柄を巧みに使い、数多い敵をあしらうように態勢を崩させる。
態勢を崩した敵を槍の穂先で仕留めるのは、クルト君の両翼を固めるカール君とヨハン君の仕事だ。
見入っていたノルデイッヒのギルドメンバーたちから思わず声が漏れる。
「凄い」
「あの人たち、僕らとそう齢変わらないよな」
「僕らも訓練を積めばああなれるのかな」
ふふふ。見ていてくれているかな? あれが私の彼氏クルト君だよ。
ちょっと自慢気な気持ちになった私に一際大きな敵の声が響いた。
「おめえら、下がっていろっ! あの真ん中の奴は結構出来るぞ。わしが相手する」
◇◇◇
後方から現れたのは他より一回り大きな体をした野盗。族長か。
さすがにクルト君の表情にも緊張が走る。
「どうなんだ。てめえ。わしとの一対一受けるのか。あ?」
戦況はこっち優位だから、敵は一対一で逆転を狙おうというのだろう。こちらが受けてやる義理もない。だけど……
「受けようじゃないか。一対一」
クルト君はやはり受けた。今回はノルデイッヒのギルドメンバーが多くいる。勝負を避けることは士気の低下、内部的な混乱を招く、それを恐れたんだと思う。
敵の部下たちは後ろに下がった。カール君とヨハン君は顔を見合わせていたが、クルト君に促されて後ろに下がる。
「いい度胸だ。それだけは褒めてやるぜ。わしは『暴虐のギード』。貴様は?」
「『僧侶戦士のクルト』」
ギードはあざけるように笑った。
「何だそれは? ふざけた二つ名だな。『僧侶』なのか『戦士』なのか、はっきりしろいっ! まあ、いい。そんなふざけた二つ名を持つ奴の命も今日までだ」
そして、広刃の剣を構えた。
◇◇◇
! その場に衝撃が走り、ざわめく。
広刃の剣。切れ味より衝撃力を重視している。衝撃力で相手を圧倒する目的で作られた剣。
それに対するクルト君の武器は柄が木製の槍。私とカトリナちゃんが木の杖で打ち合いをしたら、二本とも粉々に砕けてしまったように、木製は衝撃に弱い。
クルト君にとっては、相性の悪い組み合わせなのだ。