エピローグ
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雑草と低木が点在する荒野に、使い古された荷馬車を引き連れた一団が歩いていた。暑さ対策のために全員ケープを羽織り、フードをかぶっている。一団の先頭を行く者は、槍を持っていた。
彼らの行く先に、長い城壁と建物が見えてきた。
「あれが傭兵を募集している城塞都市?」
荷馬車の横を歩くアリシアが言った。すると馬の口を取っているクレマンが答えた。
「カスティーリャの第二師団が近くに来ているらしいよ」
「街だ。今度こそ、ギロウに行けるかな?」
フィーが訊いた。するとニコラスがその肩を叩いて、ニンマリと笑う。
「フィー、妓楼じゃなくても女と遊べるぞ。何せ傭兵目当ての娼婦が集まっているからな」
「相変わらずサイテーだわ、あんた」
アリシアが白い目でニコラスを見た。
「でも歩き詰めで疲れたわ。クレマン、馬車に乗ってもいい?」
「これ以上馬車が重くなったら馬が曳けなくなっちゃうよ、高齢なのに。アリシアたちが前の町でこんなに買い込むから。女の人って、なんでこんなに荷物が多いの?」
「必需品なのよ、全部! 今度の戦争で売るためにリズと作った霊薬なんだから、捨てたりしたら燃やすわよ」
「それにしても量多すぎない?」
荷馬車に積まれた霊薬の小瓶の山を、クレマンは振り返って恨めしそうに眺めた。
「けど、材料費にかなりお金使っちゃいましたね」
アリシアのすぐ後ろを歩くリズが苦笑した。
「必ず元手より稼いでみせるわ。そしたら新しい服と香水と、それから二頭立ての馬車を買うんだから。町から町へ歩いて旅するなんてもうまっぴらよ。これからもっともっと稼いで、いずれ上流階級に返り咲いてみせるわ」
アリシアの眼は野望に満ちていた。だがクレマンは心配そうに言った。
「女の人が傭兵相手に商売するのは危ないよ。気が荒いのが多くて、何をしてくるかわらないし。販売は僕たちがするから、宿屋で待っていたらどうかな?」
「ご心配なく。変なことしてきた奴がいたら、燃やすから」
城砦の門が見えてきた。入城の検閲には長い行列ができている。列に並んで半刻もすると、ようやく自分たちの番が来た。守衛は彼らの先頭を歩く槍使いに、紙を渡した。
「これに名前と目的を書いてくれ。文字が書けないなら代筆するから言ってくれ。それと、フードを取って顔を見せてくれるか?」
槍使いは言われた通りフードを脱いだ。褐色の肌に中性的な顔立ちをしており、どこか儚げな雰囲気が漂う。頭にはバンダナをしていたが、そこから鮮やかな緑色の髪が伸びている。
「イリス・ラクシュミー、傭兵を募っていると聞いて来た。」
碧いショートヘアが風になびいた。
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