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人類とは  作者: 相馬惣一郎
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男性について

 鮭が生まれた川へ戻ろうとするように、私は子宮を欲した。そこは花園のように美しく、なんの穢れもない静寂に満ちた世界だろう。

 私はたちまちその妄想にうっとりとしましたが、ふと、


「それでは性行為そのものも同じなのではないだろうか……」


 という疑問がわきあがってきました。

 男性ならば理解していただけると思いますが、男というのは危機的な状況(程度にもよるので、適度なストレスといったほうがよいかもしれない)にあるときほど性欲が強くなります。不安が強くなれば、イライラして、やりたくなる、出したくなる。終わってから冷静になって、時に後悔する、といったことがしばしばあります。

 これは子宮というのが夢のような世界であることを知っているからではないだろうか。産まれる前の心地よい感覚をどこかに記憶しているために、それを求めるのではないだろうか。


 性行為というのは、

「入れてくれよ! お願いだから、そこへ入れてくれよ!」

 と、ドアをノックするようなものではないだろうか。


 私はあまりに不安が強すぎたために、自分の体ごとそこへぶつかってドアをぶち破ろうとしていたのではないか。

 そんなふうに考えたわけです。


 男性は子宮を求める。

 子宮というのは言い換えると、自分が理想とする世界、自分がそこで暮らしたいと思うような理想郷を示しているのではないか。もう少しかみ砕くと、居場所ということになるのではないかと思います。理想郷とまではいかなくとも、自分が安心してすごせる場所、たとえ小さくても、そういう自分だけの世界、空間というものを男というものは欲しているものです。


 そう考えていくと、少年漫画の王道ストーリーだったり、過去から脈々と受け継がれている男性的な物語などと、通ずるものがあることに気づきました。少年というものを主人公にすると必ずといっていいほど、自分という不確かな存在を定めようとしていますし、そこへ導く者を師として仰いでいますし、理想的なものを追い求めているのもそうですし、それを妨げるものを敵として排除し、同じ目的を持つように改心すれば仲間として受け入れ、自分の存在意義をより高めようとしたりしています。そして、たいていワクワクするような冒険です。なにかしらの可能性を秘めた未知なる世界です。


 子宮から生れ落ちる。

 男性は子宮を持っていないために、それを追い求める。

 そう考えていくと男性というものが理解できるように思うのです。

 太古の昔、男性は狩猟をしていたといわれています。これは未知なもの、状況というのを適切な判断により切り開き、目的を遂行するという男性の持つこの性質があったためだと考えます。


 男性は子宮がない。それゆえに居場所を求める。それゆえに、この性質が培われていく。生きていくためには誰かが狩をする必要があった。男性にはその能力があった。だから男性が狩を担当した。同時にこの性質をより強化していった。それがまた自分たちが所属する集団や縄張り、つまりテリトリーを守ることに一役買い、さらに、より多くの集団となる町や国をつくりだし、発展させるための大きな力となった。

 こんなふうに考えることができると思います。

 これはとても強いエネルギーだといえます。そして、それは性的エネルギーとも密接しているので、これも相当なものだといえるでしょう。

 よく浮気をする男というのは、不安が強いのか、理想的なものを追い求めすぎるのか、するのでしょう。

「ひょっとするとあっちのほうが自分の求めるものなのかも……」

 そんなふうに常に冒険心でいっぱいなのです。結婚して自分の居場所、帰る場所ができたがゆえに、落ち着いて冒険に出かけられるということもあるでしょう。

 秘密基地を夢見るのも男性の特性ですし、職人に男性が多いのも理想を追い求める性質があるからでしょうし、電車やバス、車、飛行機といった乗り物が好きなのも子宮を感じさせるものがあるからだと思います。


「男性が乗り物を好きなのはわかるが、じゃあ、若者の車離れが進んでいるのはどういう理由だ? 小子化か?」

 と、疑問をもたれる方もいると思います。


 小子化もその理由のひとつですが、ただそうとばかりもいえません。

 一家の大黒柱として父親が威厳を保っていた時代。そこは当然ながら父親の居場所です。息子は居場所をつくろうにもつくれません。下手をすれば、排除されます(反抗期というのはこういうところからきているのだと思います)。


 では、息子はどうするか?

 兄弟も多く、家の中に居場所を築くのは難しいため、外へ目をむけなければなりません。そんなときに車という乗り物はちょうどよかったのです。自分の意思でどこへでも行くことができますし、自分が落ち着くように内装を凝らすこともできます。とても便利で都合がよく、憧れを抱くのにはもってこいの存在です。

 当然、若者は車を持ちたいと思います。大人になって独立するとその夢を実現させるでしょう。

 ですが、父親の威厳が徐々になくなり、子どもも減り、家の中に一人一部屋と自分の快適な空間をつくる居場所ができる。ネットの存在も大きいでしょう。そうすると、別に車というもので、その欲求を満たす必要がなくなります。金持ちでもないかぎり、居住スペースに快適な場所があるのに、大金をかけてわざわざ外に居場所をつくる必要などありませんから(まあ、快適な空間を移動させればいいのだ、という発想のもと、家を捨て、キャンピングカーを選択する人がいてもおかしくはないですけど)。

 結果、車離れとなるわけです。

 結婚して家族ができるとか、地方に住んでいるとか、車好きである、といったことでもないかぎり、車にお金を使うメリットがありません。そうするよりも、自分の居場所をもっと快適なものにするとか、自分の世界に浸れる趣味のためにお金を使おうとするのは当然と言わざるを得ないでしょう(まあ、金持ちが見せびらかすツールとしては有効なのかもしれませんけど)。

 そうすると今後、車というのは、やはり個人のものというより、シェアリングやタクシーのように乗り捨てるものというほうへ進んでいくのでしょうか。自動運転も進んでいますし、都会だと無人タクシーが飛び交っていれば、便利といえば便利なのかもしれません(ですが、本当に車離れになってるんでしょうかね? 町に出て車であふれかえっているのを見ると本当なのかと思ってしまいます)。


 さて……。

 少し話がそれましたが、ようするに男性というのは、子宮の中にいたときのような快適で理想的な何かを常に追い求めている、ということです。

 これで男性というものがおおよそ理解できたと私は思いました。するとまた、ふと、疑問がわきあがってきたのです。

 では、女性は……?

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