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エゴイズム ~それをいったら戦争です!~  作者: パラサイト
【第1章】迷子の迷子の桃華ちゃん、あなたの未来はどれいですか♪
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【第7話】 エトランゼ

「エトランゼってなに?」


異界人エトランゼはトウカお姉ちゃんのように別の世界から来た人間を指す言葉さ。ただ、ごめん。あまり悪く取らないで欲しいんだけど、この世界では良くも悪くもあまり歓迎されてない存在だから、トウカお姉ちゃん自身、このことは隠していたがいいと思う」


 アルくんの忠告に素直にうなづく。

 郷に入れば郷に従えというやつだ。


「で、話しを戻すけど、さっきの質問、ちょっと分からないや」


 そううまくはいかないか。

 もしかしたらと期待していたんだけど、いや諦めるのはまだ早い。

 

「……だれか知り合いでもこの世界にいるかもしれないの?」


「知り合いというより、私の妹。私が住んでいた家の近くにある裏山で行方不明になったの。当時は六歳だから、今は十四歳か。たしかにアルくんと同じ歳ね。大きくなっているはずだわ」


「僕と同じ年の異界人エトランゼ……か」


「私や両親は勿論もちろん、警察や近所の人たちも捜索したんだけど、見つからなくて、お婆ちゃんは『神隠しにあったんじゃ!』なんて言い出すし……結局、妹は見つからずに今に至るわけだけど、私はあの子が生きていると信じてるし、どこにいても必ず、見つけて見せるわ」


 ――私はお姉ちゃんなんだから


「……なんだかトウカお姉ちゃんも兄弟関係で大変なんだね。大丈夫! 妹さんはきっと見つかるよ。僕もできる限り協力はするしね」


 なにかシンパシーを感じたのか、アルくんは協力を申し出てくれた。


「ありがとう。アルくん」


「えへへ、任せといてよ。ところで、神隠しってなに?」


 興味津々といった感じでアルくんが質問する。


「神隠しっていうのは、神様が人をさらって、行方不明にしちゃうことなの。さらわれた人は神様の世界に連れて行かれるみたい。……今の私みたいに元の世界から消えちゃうことね。……お婆ちゃんの言ってたことが本当だった。きっと、妹はココで生きている」


 根拠はない。

 けど、不思議な確信を私は持っていた。


「神の世界かぁ……よし! そういうことならなおさら、協力するよ。トウカお姉ちゃん一人だとこの世界は危ないしね。僕の家に帰れば、妹さんのことや元の世界への帰る方法も分かるかもしれないし……そういえば妹さんの名前は何ていうの?」


悠久ゆうき 花蓮かれんよ。優しくてかわいい大切な私のたった一人の妹……」


「花蓮ちゃんね。うん! きっと見つかるよ」


 満面の笑みで応えてくれるアルの言葉に、桃華は不思議な安心感を見いだしていた。


「ありがと。アルくんにも兄弟はいるの?」


 アルくんはしどろもどろに返事する。


「えっ、えと、ちょっと変わり者の兄がいるんだ。ただ、最近は折り合いが悪くて、兄さんの所から離れて暮らし始めたから、トウカお姉ちゃんは遠慮なんかせずにいつまでも僕の家に滞在しても大丈夫だよ。……もちろん、ペットじゃなくお客様としてね」


 それはとてもうれしい申し出だ。

 だが、気になる部分もあった。

 アルくんの年齢的にも、保護者が必要にみえるのに、ご両親は一緒に住んでいないのかな? トトという名前が兄を指すものではないところ、やはり家令かれいさん、あたりだろうと推測。

 なら、アルくんの面倒も家令かれいさんがみているってこと? プライベートかつデリケートな部分には、づかづか踏み込む趣味は毛頭ないし、その部分を意識しつつ聞いてみよう。


「ありがとう。アルくん、お世話になるね。ところで折り合い悪いっていってたけど、お兄さんはアルくんのことを心配してるんじゃないの?」


 キョトンというような表情をアルくんは浮かべる。


「心配? 心配はしていないと思うよ。ただ、僕が傍にいないから寂しがっているとは聞いたけどね。逆に僕が兄さんのことを心配だよ」


 ハァっとため息を漏らすアルくんの姿が、気苦労の絶えないる大人みたいだ。


「心配って、なにか心配事でもお兄さんにはあるの?」


「………………」


 重い沈黙が場を支配してしまった――地雷を踏むつもりはないのに、踏んでしまったかのようだ。アルくんの口が重厚感のある扉のように開き言葉を紡ぐ。


「……トウカお姉ちゃんには妹がいるんだよね? だったら分かるかな? 比較される者の気持ちが」


「比較される者の……きもち?」


「そう、天使も人間も必ず何かと比べるでしょ? 物であったり、者であったり、これは便利だとか、これは使えないとか。評価される物も者も、無機物ならば何もいわず、評価された内容をそのまま受け入れる」


 それは当然の行為に思えた。

 企業であれば面接を行い、その中から欲しい人材を選ぶ。

 商品であれば当然、安くていいものを買い求めるのは人の性質であり、それがよりよい商売の発展につながるのだから。


創造主クリエイター側はそうもいかないだろうけど。知性があり、意思疎通ができるとね。善意と悪意が明確に出るんだよ。片方が褒められ、おだてられる反面、もう片方はけなされ、憐憫れんびんを受けているようなものさ」


 沈痛な表情で言葉紡いでいくアルくん。


「重さも内容も均等に取り合える存在ならば、同一の評価もされるだろうけど、そんなのは稀有けうな事柄だよね。天秤てんびん《はかり》のはかりに比べる対象が乗っている限り、それは永遠のように続いていくんだ。はかりの所有者がいなくなってもそれは終わらない。今度ははかりに乗っているもの同士が比較しあうだけだから」


 アルくんになんて言葉を掛ければいいか分からなかった。


 比較される者――アルくんは私の妹を引き合いに出して、シンパシーを抱いてきた。

 そう考えると、アルくんとアルくんのお兄さんは、誰かになんらかの引き合いにされて、アルくんは苦い思いをしてきたってことかな?


 自分と誰かを比較されてイヤな思いをしたことなど誰にでもあるだろう。

 私も幼いころ、お姉ちゃんなんだから我慢しなさいと母さんにいわれたことはあるが、そんな軽いものじゃなく、アルくんの苦渋は私の想像の範疇を超えているように思えた。


 自由闊達じゆうかったつにみえたアルくんの意外な一面。

 それでも、なにか言ってあげたくて言葉の取捨選択は続ける。


「あはは、なんかゴメンね。ただ、なんだろ。トウカお姉ちゃんには話しを聞いてもらいたい気がする。ちょっと、愚痴になるけどいい?」


「断る理由なんてなんにもないよ。私でよければ聞かせて欲しい」


 これは本心の言葉だ。

 命の恩人なことも含めて、アルくんをこの短い時間だけで、とても大切な存在に思える。


「……僕ら兄弟はね。常に誰かに誰かの天秤てんびんはかりに乗せられて比較されているんだ。どっちが優秀で、どっちが無能なのかを、ね……僕らに直接言うわけでもなくただ、天秤てんびんの所有者と測定者達だけで、はかりの結果を議論していく」


 どっちが有能でどっちが無能、それはとても両極端で分かり易い反面、心を無視した行為に思えた。


「ああ、そういえば口には出さずに行動で示してくれてたや。派閥なんてもんでね。僕ら兄弟には安寧の日々なんて皆無だったよ。兄さんはそんな状況をどう受け止めてたかは分からないけどね」


 再び、沈痛な表情を浮かべるアルくん。

 その表情を見た瞬間にチクリと胸が痛んだ。


 ――なんでだろう? アルくんには笑ってて欲しい。

 話を聞く限りでも、彼を取り巻く環境は大変そうだ。

 結局のところ、ぶっちゃけてしまえば、私はアルくんの苦悩を理解することも共有することもできない。

 だけど! 正直、アルくんの取り巻く環境なんて今はどうでもいい。

 ただただ、アルくんの表情が曇っているのが気に入らない!


「ねぇ、アルくん。アルくんは私をお客様として迎えてくれるみたいだけど、私はアルくんのこと命の恩人だし、会って間もないけど、アルくんのことをとても大事に思っている。だけど、アルくんにとっては私なんてお客様なんだね? およよ……しくしく……チラっ」


 話の脈絡なんて知らない。

 そんなのお構いなしだといわんばかりの私の唐突な行動にアルくんはあたふた、オロオロ、うんがらうんがらと超パニくりはじめた。


「え? え!? ええっ?? 急になに? ど、どうしたぅん? 僕が大事って、ええええっっ!!!!」


 慌てふためく様相は年相応に見えてとてもかわいいく見える。


「アッ! 口元が笑ってる! ぼ、僕をからかったんだなぁっ!」


 本当に表情がころころとよく変わる少年だ。

 もっと見てみたいけど、あまり目立つのも問題だし、ここはなだめることにした。


「あはは、ゴメンゴメン。けど、気分は晴れたでしょ? アル君ってばムスゥってしているんだもん。アルくんはイケメンなんだからスマイル、スマイル。……それに大事な人っていうのはホントだよ? 命の恩人でそして、この世界での最初のお友達」


 私の放った言葉を受けアルくんは意表をつかれたのか、茫然自失ぼうぜんじしつとしている。

 ややあって、私の意思をみ取ったように、アルくんも今の気持ちを素直につづるように話し始めた。


「……ありがとね。トウカお姉ちゃん。実は僕にとってもトウカお姉ちゃんが異界人エトランゼの最初の友達になるんだ。……うん! えへへ、トウカお姉ちゃん! やっぱり、お客様じゃなくて僕の友達として、僕の家に来てよ」


 最初からイエスで答えてるのだ。

 断る理由なんてどこにもない。

 逆にこっちからお願いしたいぐらいだ。

 だから、せめて、彼に負けない最高の笑顔で言葉きもちを伝えよう。


「喜んで」

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