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エゴイズム ~それをいったら戦争です!~  作者: パラサイト
【第6章】無慈悲な終焉
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【第58話】 その歩調はだれとも合わず 

(瞬間移動を前提に連続で攻撃するしかない――ね!)


 アルフェルは漆黒姿の男めがけて飛翔()んだ。

 四枚の翼がまるで腕や足の代わりをなすように勢いよくはためく。

 腕に宿した炎が襲い来る逆風に大きく揺らめくも、その炎は消えることもなく影のようにピタリと張り付きそして、今にも目の前の標的を灰に帰さんとばかりに振るわれようとしたとき、漆黒姿の男が唇を小刻みに動かしたのをアルフェルは見逃さなかった。


「愚かなり」


 漆黒姿の男がそう呟くなりや、一瞬にして廊下の奥へと移動したのがアルフェルの目に入り込んだ。

 予測していたアルフェルにとっては、今度は驚くこともない。

 想定の範囲内だ。

 かえってあの男の能力が瞬間移動だと確信を持てる要素が増えて助かるくらいである。

 仲間の支援では、あそこまでケースバイケースで動けるはずもない。


 回避されることを前提としていたアルフェルは虚空(こくう)彷徨(さまよ)った腕に気を落とすこともなく、赤いマントを追いかける闘牛の如く、漆黒姿の男へ滑走していく。


「まこと愚かなり」


 漆黒姿の男がさきほどと同じ内容を呟く。

 漆黒姿の男が立っている場所は廊下の奥、逃げ場は左右の恐らく廊下であろう。

 あの男の言葉の意味からして自身での迎撃とは受け取れない。

 既に漆黒姿の男の剣はアルフェルの障壁を貫通できないという事実を突きつけられているのだ。

 加えて、魔法系統も移動系で間違いない。


 魔法使ユダいたちの魔法起源は空間や物、状態や現象など一つに絞られる。

 そこから練度を高め応用力を上げたり、使用回数を増加させるのが基本だ。

 漆黒姿の男の能力が瞬間移動である以上、警戒するべきなのはこの男以外の者や物を瞬間移動させて攻撃することが可能なのか。

 状況を加味するならば、単純に左右どちらかの曲がり角の死角から仲間との挟撃、または左右正面からの三位一体(さんみいったい)の攻撃も考えられる。


 思考は一瞬で終了する。


(なにが待ち伏せされてようとかまうものか! あいつの目の前で一瞬だけ障壁の強度を全開にして、また、攻撃を弾けばいいだけだ。今度は逃がさずに焼き殺してやる! 愚かなのはおまえたち人間だ!)


 早急に仕留めるはずだった人間に二度も愚弄され、格下の相手に思考を巡らせさせられる行為がアルフェルの内に知らずにストレスが溜まっていたのか。

 魔法戦はもちろん、集団戦でもアルフェルは非常に高い戦闘力を要する。

 それは自他共にだけではなく、敵である理想郷アルカディア・ベルですら認めている現実だ。

 そんなアルフェルが歴戦の戦士でもない顔も知らぬ構成員程度にもたついている事実がアルフェル自身に負荷を負わせ、また、桃華やシャレットの主人の救出や理想郷アルカディア・ベルの壊滅という制限時間すら分からない零れ落ちる部分が隠された砂時計を持たされたかのような重圧があったのか。

 またはそれら全ての要素が絡み合ったからこそ、この瞬間、アルフェルの頭から大事な情報がすっぽり抜けていた。



 シャレットがどのように殺されたのかを――



 漆黒姿の男との距離があと一翼動かすだけで、たどり着く距離に押し迫る。

 今からおまえを殺すといわんばかりの勢いで突撃するアルフェルに激痛が走った。


「ぐわぁぁあああ!」


 漆黒姿の男の攻撃が貫いたわけではない。

 漆黒姿の男は痛みからか空中から地面に落下したアルフェルを警戒するように見下ろしている。

 曲がり角の死角から攻撃されたわけでもない。

 なぜなら、アルフェルは漆黒姿の男との距離がまだあるのだ。

 その死角から飛び道具を受けたわけでもない。


 では、アルフェルの痛覚はどこからきているのか。

 背中からだった。

 背中だけではなく、翼からも伝わる激痛が神経を刺激する。


 アルフェルは、焦っていた。

 攻撃を受けた事実に。

 障壁を全開に強化する前の膨張を狙われたことに。

 さらに不意を衝かれたため、障壁はほぼ展開されていない状態だったことも最悪だった。

 状況と情報はさらに最悪な旨をアルフェルに与え続けていた。

 攻撃された箇所から体にとってマイナスにしかならない様々なものが侵食してきていること。


 それは猛毒による痛みだろうか。

背中も皮膚も細胞すらも焼けつけるような痛みが流れ込み、それらはジワジワと恐怖心を煽ってくる。

 手足だけではなく、唇も動かすのが億劫になるのは神経が徐々に麻痺しているせいか。

 体だけではなく、精神にまで作用するものがあるのか。

 脳にただただ、眠りを訴えかけてくるこれは睡眠剤のせいかそれとも、この状況からの逃避のためか。


 そして、アルフェルが必死に休止を求めてくる脳に反抗して、首を出口の方へなんとか向ける。


 そこには――――だれもいなかった。


 背後を攻撃された事実だけ残して、襲撃者は煙のように姿を消したみたいだ。

 『いない者(インビジブル・エアー)』による攻撃か。

 ならばいつ追撃がきてもおかしくはない。

 頭上にギラリとした殺気がうねる。

 漆黒姿の男が無言で剣を今にも振りかぶらんばかりだ。


 脳が抵抗するな! 楽になれるぞ! と、自分の体とは思えないような提案をアルフェルはまるでもう一つ能でもあるかのようにひたすら否定する。


 障壁を展開できてないこの状態ではあの凶刃は容易く頭を切断してしまう事実。

 アルフェルはこの状況にどうしようもなく――頭にきていた。

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