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エゴイズム ~それをいったら戦争です!~  作者: パラサイト
【第6章】無慈悲な終焉
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【第55話】 歪まされた日常

 ミルが言っていたシャレットの家は状況的に理想郷アルカディア・ベルに占拠されている可能性が高い。


 誰もいないところから声が聞こえたのも『いない者(インビジブル・エアー)』が発したと想定するのが濃厚だろう。

 なにに対して笑っていたのかは不明だけれども。


 他の町同様に天使の家を襲い、拠点にするのはやつらの常套手段(じょうとうしゅだん)だ。

 この先は富裕層が住まう住宅街でもある。

 居住の広さにしても、資金にしても潤沢な環境はなるほど、害虫が喜ぶほどの物件だろう。


「すぐに駆逐してやる!」


 固い意志を胸にアルフェルは翼を広げ、目標に向けて飛び立つ。


 が、ミルとの約束をどうするかの答えは出ていない。


 理想郷アルカディア・ベルが占拠していれば、当然、戦闘は避けられないだろう。

 その上で当面の目的である桃華の確保が最優先であることを考えると約束の達成は難しいかもしれない。


 桃華がまだシャレットの家で拘束されていれば、救出後にミルのご両親に伝言することも可能だ。

 けど、もし『いない者(インビジブル・エアー)』が桃華を連れ出していたなら、状況は今以上に逼迫(ひっぱく)したものになる。

 心は自分のとは思えないほどに騒めいている。

 とても伝言する余裕は生まれない。


 左腕の銀のアミュレットに目を落とす。

 変化はなにもなし。

 となれば、今ある手掛かりのみで行動するのみだ。




 そうこう考えているうちにミルが教えてくれた目的地にたどり着く。

 茶色の家と青の三回建ての家、外観も聞いていた通りのままだ。

 目的地に相違ないことを確認したところで、例の笑い声が聞こえたという脇道を覗く。


 ――歩いて見る限り、なにもおかしいところはない。

 どこにでもある道だ。


「となると」


 調査対象は必然、青の三回建ての家、シャレット宅となる。

 普通の調査なれば呼び鈴を押して、お邪魔するところだが占拠されていることを考えると、それは相手に逃げる準備と迎撃の余裕を与えるだけなので、ここでは当然パスとアルフェルは判断する。


 アルフェルは静かに両翼の翼で塀を越え、敷地内で着陸する。

 見渡す限り、ここも異常なく至って平穏を感じさせる庭園だ。

 七百坪くらいだろうか。

 それなりの広さを感じる。


 家の構造を推測している時間もない。


「本当はこのまま、どこかのドアからお邪魔したいところだけど」


 まだ、ここが理想郷アルカディア・ベルの拠点だという確信がない。

 正面の門に感知センサーがあった場合、最悪それに感知されることなく忍び込めたと想定して、正面からお邪魔することにした。


「ある意味、これも奇襲になるでしょ」


 センサーに感知がないのに、正面のドアが開くのだ。

 もちろん、馬鹿正直にアルフェルは玄関ドアを開けるつもりは毛頭ない。


 てくてくとアルフェルは正面の門から玄関を示すように伸びる石畳の先端を目指して歩く。

 立派なドアを正面にし、ドアノブを握るとアルフェルは呪文を唱えた。


「形骸は許さず、概念は違わず、儚い現実は陽炎に伏す『形ある(メルト・)もの紅蓮に帰す(イクスティンクション)』」


 アルフェルが呪文の詠唱を唱える。

 するとどうだろう、アルフェルが握ったドアノブがまるでチョコレートを熱で(あぶ)るようにみるみると溶けていく。

 しばらくするとドアノブが存在していた場所には小さなトンネルが開通していた。

 ドアの蝶番(ちょうつがい)も一緒に消え去ったのかギィッっとドアが音をたてて少し開く。


 アルフェルはそれを確認すると、遠慮なくドアを開ける。

 玄関に入るも、アルフェルの視線には別段目を引くものはなかった。

 いくつかの部屋へつながっている長い廊下だけを今は視認できるだけだ。


 声を発することなく、アルフェルは足を玄関から廊下へ移動させる。


「ど、どなたさんですか?」


 声から少し遅れて、二つ奥の右側の廊下からのそのそと天使のお婆さんが現れた。


 お婆さんは突然の来訪者に驚いているのか、(おび)えた感じでアルフェルに問う。


 それは当然の反応か。

 呼び鈴もなく、玄関から在宅の声をかけることもなく、さらに鍵をかけていたであろう玄関のドアが開いているのだ。

 普通なら驚くどころか(おび)えるのも当然だ。

 僕が大人だったら、このお婆ちゃんをただただ狼狽(ろうばい)させていただけかもしれないとアルフェルは考えた。


「こちらにお住まいのシャレットさんですか?」


「ええ、そうですけども」


 疑心に満ちた瞳でアルフェルを捉えながら、シャレットは(うなづ)き肯定する。


「実はですね、最近、シャレットさんのお宅から不振な人物が見受けられるとの連絡がありまして」


「もしかして、ミルちゃんに頼まれたのかい? それは新しい使用人だから、異常はないとミルちゃんやご両親に伝えてもらえるかしら?」


 ミルの頼みで友人がきたと思ったのか、シャレットから猜疑心(さいぎしん)がいくらか消え、温和な笑顔が浮かぶ。


「分かりました。伝えておきます」


 理解を示す言葉を告げるもアルフェルはシャレットに背を向けることなく、会話を続ける。


「そうそう、こんなお話を知っていますか?」


「どんなお話かしら?」


「この世界の王の一人である方のお話です。幼い身ながら幾多の理想郷アルカディア・ベルの組織を壊滅させた王子が今、この町にきているみたいですよ」


 シャレットがアルフェルを発見したときなど比較できないほどの驚愕した表情を表に出す。


 小さな希望を何度も打ち砕かれたのだろうか。

 救助を求めることもできず、救助に救われることも(かな)わず、抗うことを諦めて、抵抗は影へと身を落とし、後悔しかない記憶を連綿とつづってきたのだろう。

 

 過去に幾度となく証左となった反応に、アルフェルは疑念を確信へと昇華させた。

 もとより、タイミングが良すぎたのだ。


 呼び鈴も声も上げていないのに誰かが来ている前提で声をかけて来るのは、誰かにそれを確認して来いと命じられたのが濃厚。

 決定的なことは、ただの日常会話に過ぎない話題に大きなリアクションを取ったという事実がアルフェルを次の行動へと突き動かす。

 迷いない足取りでアルフェルは前へ進む。


「僕がそうですよ」


 シャレットを前にアルフェルは(りん)とした声で静かにそう口にした。

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