【第21話】 魔法使いたちの信念
アルくんはこの件にもう触れない方が良いと判断したのか、咳払い一つ後、場の空気を戒める。
「話がスゴイ脱線したけど戻すね。つまり、トウカお姉ちゃんのように異世界から来た人間はほぼ魔法を使えるんだ。もとから使えたわけじゃなく、この世界に来てから発現するようになったのは、間違いないみたい」
実際にそうだと思う。
私の世界でも神話の中で魔法や現代に至っては超能力なんてものは言葉では存在するけど、どれが本物で偽者なんていまだに真偽が明かされることはない。
本当にそんな超現象を使用できても、公の場で明かされることはないだろう。
世界の秘密なんて幽霊を信じる信じないという二極の答えに応えたところでなにも変わらないけど、今の私は身を持って超常現象を体験しているのだ。
なら、私たちの世界もこの世界に負けないほどの可能性を秘めている神秘に満ちた地球だ。
そんな星の住人だからこそ、この世界の化学反応かなにかで魔法を使えるようになったのかな?
「ほぼって言った理由が魔法の発現には個体差があり、すぐに使えるわけでもなく、魔法の特性や強弱も個性さまざまなんだ。発現した人間の話だと自分の命の危険が及んだ時に、魔法が使えるようになる傾向が強いみたい」
「それじゃあ、私もこの前の誘拐犯たちに襲われていたときに魔法を使えるようになる可能性があったってこと?」
「うん、可能性はあったよ。ただ、絶対じゃないからね! 命を落としても魔法を発動しなかったケースもあるんだから。ただ、もし長期的に魔法が発現しなかった異世界の人間は強力な魔法の使い手になる傾向もあるんだ」
好奇心が首を出してきたところ、アルくんのお咎めがスパッと刈り取る。
君子危うきに近寄らず、好奇心は猫を殺すと国を超えたありがたきお言葉に従うのが吉だよね。
大器晩成型を目指してコツコツと日々を頑張るのが私らしい。
――魔法、ちょっと使ってみたいけど。
「この世界では野良の人間にとっては危険なこともあるから、当然、魔法使いへの覚醒は嫌が応にも早くなる。ちなみにユダは魔法を使える人間の呼称だよ」
ユダ、たしかなにか私たちの世界では有名な人物だったような? うーん、こういうときに神話に詳しいアイツがいたらなぁ。
「さて、問題! トウカお姉ちゃん、この異世界の人間たちは魔法を覚えたら、なにをまず始めると思う?」
私のように異世界から来た人間が魔法を覚えたら、まずすること。
話の流れからして、私にもいつかは魔法は使えるってことよね? 今はアルくんたちのおかげで、身の安全を確保できてるけど、それができなかった人は――。
「自分の身の安全の確保かな?」
私の答えにアルくんが頷く。
「そう。さっきも言ったとおり、魔法の発現条件は自分の命の危険が及んだ時が最も高いからね。必然的にまずやることが自分の身の危険に害なすモノを排除して、その後の身の安全も確保」
ゴクリと喉を鳴らす。
「簡単に言うと、周囲にいる天使を殺し、安全といえる拠点の確保ってところかな。大体、魔法を発現する状況は処分されそうになっているケースがほとんどだしね。まぁ、今は処分する際は魔法を使える保護員を雇っているのがほとんどだから、あの頃のような災害はないけど」
淡々と私たち人間も天使も殺されることをさらりと口にするアルくん。
正直、この世界の仕組みは教わったけど私は運が良かっただけであり、処分されていた可能性、そして処分された同じ世界の人間のことを思うとなにか胸が痛い。
「じゃ、次はトウカお姉ちゃん、力も拠点も手に入れた魔法使いは次になにをすると思う?」
次に取る行動――私ならもとの世界に帰る方法かな。
けど、なんだろう? アルくんの言い方はまるで一方通行のようにその魔法使いは必ず、その行動を取るような言い方をしているように聞こえる。
「わからない? 天使狩りだよ。野良のころの鬱憤を晴らすかのように暴れるんだ。意趣返しといわんばかりにね。そして、必ず、的外れな行動を取る」
「天使狩り?」
あまりいい響きに聞こえない。
オヤジ狩りとかのように負の印象を受ける。
一狩りいこうぜ! とかは楽しいイメージを受けるけど人狩りいこうぜ! だと別物の不穏さを曝け出すかのようだ。
「魔法使いたちが僕たち天使を目に付くたびに殺して回る野蛮な行為さ」
受けたイメージそのままの凄絶さだった。
けど、困ったことに魔法使いたちの気持ちもなんとなく分かる。
私の世界にも過去の歴史に同じ人間を捕まえ、尊厳を踏みにじり、奴隷へと仕立て上げた歴史がある。
けど、それも良識ある人間の手によって人間は自由であるべきだと、自由であれと声高々に掲げた人々の言葉と行動は奴隷と呼ぶ存在を穿ち破壊した。
「幸せな家庭を破壊し、沙汰の限りを尽くす。そして、人間に必ずこういうんだ。『助けに来た』って。自分を生まれた頃から愛し、育ててくれた自分の御主人様たちの血で染まった手を差し延べて、ね」
アルくんが私の答えを待ちきれなかったのか答えを口にする。
「けど、人間からしてみれば、大好きな家族を殺されて、飼い主がいなくなれば、野良になってしまうわけで、助かるどころか家族も家も未来さえも奪った人間がこれ見よがしに、もう大丈夫だ! ってほほ笑みかけてくる状況って考えただけでも寒気がするよ」
口調は怒りを宿し、同胞を殺された無念を嘆く為政者のようにみえた。
私が、あっちの世界の人間だからだろうか。
魔法使いたちの考えが不思議と分かる。
魔法使いたちにしてみれば、神がこうするべきだと与えたと思える力を振るい、ペットのように扱われ尊厳を奪われているこの世界の自分と同じ人間という同胞を助けようとしているのだろう。
嘗ての歴史で、良識ある人間が奴隷に関わる悪人、罪人を罰し、奴隷という鎖を物理的に引き千切り、おまえ達は自由だ! と言葉の武器で奴隷という鎖を精神的にも断ち切り、安心を与えるためにほほ笑み、もう大丈夫! と救済の手を差し延べる。
難しいことではない。
理解もできる。
人間特有の同属愛による行動だ。
アルくんは話しを続ける。
「当然、ご主人様を殺した人間の差し延べられた手を振り払い、保護員のもとへ駆け込み、事情を説明し、『殺天鬼』を捕まえてくれと願う。けど、『殺天鬼』は処分されても、野良となった人間は飼い主が見つからなければ、当然……」
「アルフェル様」
急に別の声が割り込んだ。
アルくんの話を遮ったのはトトさんだ。
「急になんだい? トト」
自分の話に割り込まれたのが気に食わないのかちょっと不機嫌な声を出すアルくん。
「主の話を妨げる非礼は重々承知の上で申し上げます。この話はもうトウカに聞かせる必要性はないかと、トウカの人柄はあのような野蛮な人間たちとは違うことはわたくしが保証いたします」
凛としてされど、情熱的にトトさんは唇を躍動させる。
「ですから殺伐とした事柄ではなく、本題に入られてはいかがでしょうか? わたくしはトウカにあの蛮行となる内容を聞かせたくはないのです。お願い申し上げます」
トトさんの申し出に私を始め、マーリンさんもアルくんも驚きのあまり口をあんぐり開けていた。
もっとも、驚いた表情をしていたのは当の本人だったけど。
トトさんの申し出を気に入ったのか、アルくんはさっきまでの不機嫌さとは一転して、上機嫌にそれを受け入れた。
「……分かったよ、トト。本題に入ろう。トウカお姉ちゃんも構わないよね?」
私に意思の確認を取ってくる。
「……え? うん。大丈夫よ」
本音を言えば、さっきの話の続きも気になる。
けど、それ以上にトトさんの気遣いがうれしかった。
トトさんの方を見ると、照れくさそうに視線を逸らす。
かわいいなぁ。
きっと、このあと「弟子に悪影響を与えないためであり、ひいては私の手を煩わせないためです。勘違いなさらないようにっ!」って言うんだろうなぁと勝手にイメージした。
――のちに、一言一句違わず、ビシッと決めポーズまで付けられたのを見て、私が笑うのは、別のお話。




