【第20話】 魔法使いになるには
「トウカお姉ちゃん、どうしたの?」
アルくんの声が耳に届き、意識が現在に戻る。
「……あ! ごめんなさい。ぼーっとしてたわ。ちょっと、昔を思い出して……」
「……そう、あ! このサラダ、トウカお姉ちゃんが作ったんでしょう? すごくおいしいよ」
アルくんが話題を変えようしてくれてるのかワザとらしいほどの明るい声を張り上げる。
その気遣いに感謝して、私もそのはなしに乗った。
「ありがとうアルくん。まだ、マーリンさんがそばにいてくれないとその味は出せないけどね」
「それでもスゴイよ! うんうん、トウカお姉ちゃんは頑張り屋さんだなぁ。そんなトウカお姉ちゃんに、このおいしい料理のお礼も兼ねて、イイコトを教えてあげるね」
「良いことって、私は料理を教えてもらっているし、居候の身なんだからむしろ……」
「ストップ! その先は言わなくていいよ」
アルくんが私の口上を手で静止したところで、マーリンさんが口を挟んだ。
「そうじゃよ。坊ちゃまがイチゴお嬢ちゃんを喜ばせるために頑張ったんじゃから、そんな建前なんぞいらんぞい」
建前ではなく、ここにきてお世話になってばかりだから本心で間違いないのだけど、次のマーリンさんの言葉にそんな本音もどこかに飛んでいくこととなる。
「イチゴお嬢ちゃんは坊ちゃまにおいしいと言ってもらいたいため、坊ちゃまはイチゴお嬢ちゃんの喜ぶとこが見たいだけ。それだけで十分。料理のお礼、居候のお礼、そんな建前はぽ~いして、大好きな天使や人のためにだけでいいんじゃぞ?」
「………………」
「………………」
アルくんも私もつい俯いてしまった。
なんだか気恥ずかしい。
「ま、まぁ、マーリンの言うとおり、建前は置いてじゃなく、料理はホントにおいしかったんだからそこは勘違いしないでよね。……えっと、何を言おうとしてたんだっけ? あ! そうそう、トウカお姉ちゃんの妹のカレンちゃんのことが分かったよ」
「えっ!? ホントに!?」
妹がこの世界にいる予感はあった。
――けど、それは根拠の欠片もないものだ。
まさかこんなにも早くカレンのことが分かるなんて! 妹がこの世界に『いる』それだけで、私がここにいる意味が見いだせる。
元の世界に早く帰らなきゃ、家族が心配するかもしれない――ううん、妹のときでさえあんなことになったのだ。
きっとしているだろう。
だけど、あの日々を取り戻すチャンスを神様がくれているのなら、なんでもやってやる! 妹と元の世界に帰るんだ!!
一番うれしい知らせを持ってきてくれたアルくんに感謝しつつ、私は会話の続きを促した。
「うん、ホントだよ。なにより、こんな早く分かったのもカレンちゃんもトウカお姉ちゃんと同じ場所からこの世界に現れたからなんだ」
「私がこの世界にきた場所と同じところ?」
「うん。あの場所は特異点となっていて、異世界からの来訪者はこの町では、あそこに現れやすい傾向があるんだ。だから、僕がトウカお姉ちゃんにあそこで会ったのも偶然じゃないよ」
「……偶然じゃない? 偶然じゃなければ運命の……出会い!?」
女の子のトキメキワードにキャーッキャーツと興奮状態の私――――とドン引きムードの周囲。
――お恥ずかしい限りです。
「……ええっと、確かに運命とも呼べるね。僕もこんな展開は予測してなかった。ついでだから、さらに話を脱線させるけど、トウカお姉ちゃんこの世界に『魔法』があるのはもう実感したよね?」
「うん、一部の天使たちが使えるっていう不思議な力のことでしょ?」
実感も何も常時、魔法を使っているマーリンさんたちがいるせいか、もう見慣れたものになってきている。
「そう。この力は本来、天使の一部しか発現しない力なんだけど、実は人間にも『魔法』が使える存在がいるんだよ。トウカお姉ちゃんにはそれが、どんな存在か分かる?」
「魔法が使える人間……? まさか!」
たしか男子たちがうわさしていたのを聞いたことある。
三十歳までにピーッしなかったら、魔法使いになれるっていう――アレのこと!?
「アルくん!! その質問はセクハラだよっ!?」
「うぇっ!? なんで??」
「なんでって、それは私もよく分かんないけど、好きで魔法使いになった人ばかりじゃないだろうし、と、とにかく、セクハラ! セクハラッ!!」
私のセクハラ連呼攻撃にどうしたらいいのか分からずに泣きそうになっているアルくん。
そんな中でボソッと優しくささやきかける声。
「イチゴお嬢ちゃん、前に言ったであろう? この世界の人間で魔法を使える存在とは、イチゴお嬢ちゃんのように異世界から来た人間じゃよ。ちなみに、イチゴお嬢ちゃんの考えておるのとは違うんじゃよ」
元祖セクハラ爺さん、マーリンさんの言葉に今度は私がビクッとし、ぎぎぎと首をマーリンさんの方に向ける。
「私の考えてたこと……分かるんですか?」
「うむ、顔を見れば分かると言ったじゃろ?」
穴があったら入りたい。
慙愧の念が堪えないとはこのことか。
「トウカは意外と耳年増ですわね」とトトさんの追い打ちが直撃する! はう、つ、つらたん。
「マ、マーリンさん、このことはご内密に」
私のお願いに対し、マーリンさんは好好爺の笑顔で首を軽く揺らす。
「かわいい友人の頼みを聞くのは親友の特権じゃわい」
――うう、前回とは違う意味の涙が止まんないよ。




