【第19話】 ロスト・ハッピー
アルくんのお城に住み始めてから二ヶ月がたった。
あれからというもの、時間の都合さえつけば私は、マーリンさんから料理をトトさんには菜園をそして、アルくんにはこの世界についていろいろと教えてもらった。
特筆すべき点は、この世界の人間の在り方は家畜、愛玩動物のような――ううん、存在がそのものだった。
家族のように扱われる人もいれば、労働要員として扱われる人もいる。
存在が認められない人もいれば、無情に縊り殺される人も――いる。
この世界で生まれ育ててくれる天使を飼い主とし、家族として愛情を受ける。
それがこっちの世界では当然の成り立ちと教わった。
今ならあの町の人間の反応も理解できる――気がする。
自分より存在価値が上のモノに歯向かう者なんていない。
環境に適応し、周囲に流されるのが人間だから。
生まれ育った世界の根源を疑うことなど、よほどの変わり者ぐらいだろう。
そういう世界の仕組み故に、私はこのお城に入ってから以降、敷地から出たことがない。
首輪を着けない私が街に出掛ける = 即、お持ち帰りぃ~~~! つまり誘拐待ったなしというわけである。
実際、身を持って体験した私はあんなひどい目に遭うのは金輪際、一切喝采御免被るのでおとなしく引き篭もりになっている。
――ニートじゃないんだからね。
家事手伝いもちゃんとやってるし。
本当はつい最近、出かける機会はあった。
トトさんが菜園の仕方だけではなく、食材の目利きを私に教えるためにアルくんに私との外出許可を取りに行った時のはなしだ。
アルくんが当然のように首輪着用の許可をしないことを告げるとトトさんは、それを意に介さずに私の意志を尊重して手を握って連れて行くことを提案した。
その発言に私もアルくんも互いに顔を見合わせた。
狐に抓まれたような私たちをみるや、トトさんは少し不機嫌そうにぷくーっと頬を膨らませ再度、許可を求めた。
アルくんは「う~ん」と一頻り悩むとやっぱりダメと返事を返した。
この前のでき事も考慮した上での判断で、あの誘拐犯達に会うかもしれない危険性、それ以外のトラブルに巻き込まれる可能性もあるからってアルくんはすまなそうに断りを入れた。
正直、町にはまったくこれっぽっちも良い思い出はないけど、外に出たい気持ちはあった。
けど、困ったことにこの世界での私は歩くトラブルメーカーなわけで、お世話になっているみんなに迷惑を掛けてまでやることじゃない。
なにより、トトさんの行為や言葉は私にはうれしかった。
最近のアルくんとトトさんの会話は私のことで持ちきりみたいで、あの子は筋が良いとか草花達があの子の優しさに触れて喜んでいる、気遣いのできる子として、べた褒めしてるとアルくんが自分のことのように話してくれた。
――私の記憶が確かなら才能がないわねとか、乱雑な扱いを受けて、草花達も嘆いているわとかなら言われたことはあるけど――あれって褒められてた――のかな?
私が複雑な表情をしていると、その心情を汲みとったアルくんがトトはツンデレだからとフォローを入れてきて、二人で笑ったりもした。
実際にアルくんの言葉は気遣いではなくホントのことなんだって分かっているんだ。
私が料理を失敗したりして、落ち込んだままトトさんのところに行くと、トトさんはオロオロしながら、一生懸命に励ましてくれたりする。
言葉的にはキツイ口調だけど――励ましてくる内容もマーリンさんの教え方が悪いとか、マーリンさんの性格が悪いとかマーリンさんのetc――。
要約すると全部、マーリンさんが悪いの一言で完結みたいなところがあるトトさんだけど、実はマーリンさんと夫婦なのがこの城内で一番にびっくりした。
たしかに今にして思えばそこに思い当たる点があった気がする。
口で罵りはしても、固い絆で結ばれているのも、この二ヶ月で充分すぎるほど知ってるよ。
マーリンさんもトトさんと同じ反応で、私を慰めてくれるもん。
同様にトトさんのせいにして、示し合わせているかのように締めは『あのババア(ジジイ)の腕は確かだから、頑張って教わりなさい。大丈夫、もっと優しく丁寧に教えるように叱っとくわい(叱っときますわ)』って、二人とも同じようなことを言うんだもの、思わず吹き出しちゃった。
顔を会わせれば痛罵しあう間柄ながら、心ではお互いを尊重し尊敬しあってる。
二人に素直にうらやましいと伝えたら、マーリンさんもトトさんも照れるから性格は別物でも夫婦なんだなぁって伝わったよ。
このことを、食事中にアルくんに伝えると全力で否定しあう二人を見て、アルくんが楽しそうに笑い、私もつられて笑い、マーリンさんもトトさんも笑う。
――暖かい団欒ってこういうことをいうんだろう。
こういうの妹がいた頃、以来な気がする。
§ § § § § § § § § § § §
妹が行方不明になってからは、父さんも母さんも色んな方法で妹を探していた。
それこそ、藁にも縋る勢いで。
警察はもちろん、親戚、知人による捜索に始まり、探偵による事件性などの調査、この辺まではよかったかな。
捜索が続く中、手掛かりは何一つ掴めずに、時間とお金を浪費する日々。
警察から捜索の縮小宣言、親戚や知人たちの諦念の押し付けで精神的にも弱りきった両親を獲物でも見つけたかのように、擦り寄ってくる怪しい信仰集団が現れた。
あの手、この手で両親を絡め取り、財産をむさぼっていく集団はまさにハイエナのようだった。
幼いながらも、両親に私は「お父さん、お母さん、あの人たちは悪い人たちだよ。関わり合うのをやめようよ」と懇願した。
そういった私を、お父さんは「おまえが信じていないから花蓮が見つからないんだ!!!」と怒鳴り、頬を叩かれたんだっけ。
それを見たお婆ちゃんとお爺ちゃんが私を連れて、近くのアパートに引っ越すことが決まった。
お父さんもお母さんも反対しなかった。
ただ、今まで見たことのない両親の視線がただただ、怖かった。
それから一週間後、引っ越しの準備をし、家を出る頃にはもう夜になっていた。
私は外に出て今まで育った家を見上げてポツリと呟いた。
「お父さん、お母さん。私もお父さんとお母さんの子供だよ?」
そう呟いた私を、お婆ちゃんは泣きながら、私を抱きしめてくれた。
何で泣いているか分からなかったけど、泣いているお婆ちゃんを見て、なぜか悲しくなり、私も泣いた。
大声でわんわんと泣いた。
遅れて、やってきたお爺ちゃんが「大丈夫だから、お父さんもお母さんも桃華のことが大好きじゃから、今は悪いことが重なっておるだけじゃよ」と言ってくれた。
なんでこんなに家族みんながつらい思いをするのか。
どこから、幸せは崩れたのか。
両親が悪い人たちに騙されたから――。
ちがう
両親が妹をずっと探し続けているから――。
――チガウ
私があの日、妹を放って――。
――そう、あの日が始まり。
その原因は――幸せだった家族を崩壊させたのは――ワタシ。
だから、私は幸せ(いもうと)を求める。
あの日以来欠けた、日常のパーツ(かたち)、私のかわいい妹。
あの日の続きをこの見知らぬ世界で始めよう。




