【???】蠱毒
ここは地獄のような場所だった。
ううん、正しくは地獄と化しただ。
血飛沫が舞い、断末魔が轟き、肉が燃上り、阿鼻叫喚の絵図が現在進行形で行われている。
私もその仲間に入るのはそう遠くないのは分かっている。
この地獄絵図を作り出した張本人が私を見逃すわけがない。
彼女の標的が私なことを含めると、私自身もこの地獄を具現化した元凶ともいえるのかもしれない。
助けてください! 死ぬのは嫌だ! と救助を求める声が耳に届く。
ごめんなさい。
私にはそんな力はないの。
なにが救いの女神だ! なにがジャンヌダルクの写し身だ! と怨嗟に満ちた声が耳に響く。
ごめんなさい。
私にはそんな力はなかったの。
もう嫌だ! もとの暮らしに戻してくれ! と回帰を心から望む声が耳に入る。
ごめんなさい。
私にその力があればよかったのに。
一人、また一人と襲撃者の手によって命が絶たれていく。
「こいつの命が欲しいんだろ! こいつを殺したら俺たちは見逃してくれよ!」
男性が私の腕を掴み、うなだれてた体を無理やり立たせると、襲撃者の前へドンと私を突き出した。
抵抗する力もない私は長い間、求め焦がれた襲撃者の前へ無防備に身を晒す。
ああ、これで楽になれると頭の片隅で思いながら。
だが、次の瞬間に響いた叫び声は私のものではなかった。
なんで? と、私を突き出した男性の言葉が背後から届く。
私もなんで? と思い、痛む体を後方に向ける。
襲撃者は返り血で汚れ、鉄錆のような血臭をまとう体を気にすることもなく、うれしそうに私にささやいた。
「私の大切なあの方を殺したあなたは最後のデザートだよ。あなたを苛めたこいつらはゴミだから掃除してあげるよ。静謐が満ちたときにあなたを食べてあげる」
グリムリーパーと呼ばれた鋭い鎌を手に襲撃者は縦横無尽に殺戮を行う。
蠱毒の中にいるようなこの惨劇は襲撃者である彼女が独り、読んで字のごとく孤独にならない限り終幕することはないだろう。
なんでこうなってしまったのか。
涙は流れ嗚咽は途絶えることなくただ、私は回顧していた――。