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メイヴィール家へ


 城を出た俺は本堂(ほんどう)の案内で、メイヴィール家へと向かう。


「なぁ、本堂。メイヴィール家の人たちって、どんな人たちなんだ?」

「……というと?」

「ほら、怖かったり、厳しい人なら覚悟しておかないといけないから」


 その理由に理解したのか、「ああ……」と本堂は少し考える素振りをする。


「持っている爵位は公爵だけど、当主様に関して言うのなら、厳しかったり、怖いっていう訳じゃないけど、きちんと自分のするべきことをしない人は嫌いなタイプかな」

「そうか」

「でも、奥様の方が結構スパルタ。一般常識とか学校で習う授業内容みたいなものとか、知っておかないといけない事や物とかは結構厳しめに教えられる」

「お、おお……」


 話を聞く限りだと、教育ママ的な人なのか?


「でも、困っていたり、悩んでいたりすると、ちゃんと相談に乗ってくれる優しい人」


 微笑んでそう言う本堂に、「良い人たちだな」と告げれば、「うん」と返される。


「そういえば、陛下が言っていたことだけど……」

「それについては、後で説明するよ。君に手を出されたり、被害が出てからだと遅いから」


 それはつまり、手を出されたり、何かされるようなことがあると言いたいのか。それとも、本堂がそういう目に遭ったために、俺のことを心配しているのか。


 そんなことを考えている間に、馬車は目的地――というよりは、その少し手前に着いたらしい。

 そこからまた少し歩いた場所に、目的地であるメイヴィール家はあるとのこと。


「今日は晴れてて良かったけど、もし雨だったら、どうしていたんだ?」

「馬車を屋敷の敷地内まで入ってもらう……って、言いたいところだけど、基本的には貴族みたいに専用の馬車を持っている人たち以外の馬車は、何があっても門の前か停車場所に停めるのが決まりだから、雨でもどっちみち歩かないと駄目だね」


 今日は晴れてて良かったと、心からそう思った。

 雨の中をあんまり歩きたくない。


「さっすが、貴族……」


 そして、停車場所から歩いて見えてきたのは、城ほどではないにせよ、大きなお屋敷。

 旅している時にも、招待されたりして、何回か見たことはあるが、(元)仲間内で大きさランキングを付けるとなると、かなり上位に入るんじゃないのか?


「ほら、行くよ」


 本堂に促され、その後ろを慌てて付いていく。


「……アイリス様? アイリス様ですか?」


 特に隠れることもせずに敷地内を歩く俺たちの存在に気づいたのだろう、専属の庭師なのか、男性が驚いた様子で声を掛けてくる。


「ただいま」

「よくぞご無事に帰られました。いえ、ご無事なのは知っていたのですが、やはりこうしてお姿を見ることができると……」

「心配させてごめんなさい」

「いえ、アイリス様がお謝りになることはございません」


 一安心だと言いたげな庭師の人に本堂が謝罪するが、庭師の人は首を横に振って、それを否定する。


「旦那様たちは居るかな?」

「はい、本日はまだお屋敷から出られていないはずなので、いらっしゃるかと思いますよ。詳しいことは、ルーベンスさんに聞いた方が早いかと」

「それもそうだね。ありがとう」


 また新しい人の名前が出たなぁ、と思っていたら、本堂はお礼を言って、こっちだよ、と再び案内を始める。


「ルーベンスさんっていうのは?」

「メイヴィール家の執事さん。旦那様付きだから、実質、使用人のトップだね」


 玄関扉の前まで行けば、本堂が軽く深呼吸して、その扉を開ける。


「……」


 当たり前だが、すぐには出迎えられるはずもなく。


「……」

「本堂?」


 何を考えているのか、無言で思案する本堂に目を向ければ――


「あ、アイリスお嬢様!?」


 この家のメイドであろう女性の登場である。


「え? あ、お嬢様!?」


 メイドの隣にいた、同じ格好をした女性が声を上げる。


「えっと……ただいま、二人とも」

「お帰りなさいませ、お嬢様」

「わ、私は旦那様たちに知らせて参ります」


 先に気付いたメイドさんが頭を下げ、後に驚いていたメイドさんが慌てながらも知らせに向かう。


「私がいない間に何かあった?」

「いえ、特には。(むし)ろ、お嬢様の無事を気にするばかりでした」

「そう」


 メイドさんの言葉に、本堂は何事も無いかのように返す。


「ところで、そちらの殿方は?」

「ああ、彼は――」


 本堂が俺について説明しようとしたタイミングで、俺の隣を凄い勢いで何か(・・)が横切っていく。


「お帰り! アイリスちゃん!」

「……」


 俺の隣を横切った何か(・・)は人だったらしく、嬉々として本堂に抱きついていた。

 そして、その被害者とでも言うべきであろう本堂は、というと、ものすごく嫌そうで、面倒くさそうな顔をしている。


「……ただいま、戻りました。エクレリアス様」

「そんな他人行儀な呼び方はしないでくれって、前に言っただろ?」

「……その前に、離れてください。エクレリアス様」


 あくまで別の呼び方をしてほしいと告げるエクレリアス様……?に対し、呼び方を変えない本堂。

 明らかに、妙な空気になってるのは分かるのだが、俺はいつまで放置されなければいけないのだろうか。

 それを尋ねるために、口を開こうとすれば遮られる。


「あら、エクレリアス。貴方はお客様を放ったらかしにして、一体何をしているのかしら?」


 そちらに目を向ければ、にこにこと笑みを浮かべる美人な女性がそこにいた。

 エクレリアス様と似ていることから、きっとこの屋敷の――本堂曰く、スパルタな面も持つ――メイヴィール夫人なのだろうが、本堂と、彼女から一瞬にして離れたエクレリアス様はだらだらと汗を流していた。

 ああ、これがその人について知ってる人と知らない人の差か、と思っていれば、メイヴィール夫人から謝罪が飛び出る。


「お客様を放置し、このような場面をお見せ致しましたこと、この息子に代わり、謝罪いたします。それでは、今すぐご案内いたしますね」


 こちらに、とメイドさんに声を掛けられ、本堂に目を向ければ、「先に行ってて」と言われる。


「私は、少し話していくから」

「あら、貴女も一緒に行っていいのよ?」

「ええ、そのつもりですが、貴女方にも話しておかなければならないことがありますし、同席してもらわなくてはならないので……」


 どうやら、本堂は陛下たちとの会話を話す気らしい。


「そう……分かったわ」


 そして、そのまま四人で歩いていき、目的の部屋へ着いたのだろう、先頭を歩いていたメイドさんが、軽くノックをする。


「旦那様。お客様とお嬢様方をお連れいたしました」

「入れ」


 許可が出たので入室すれば、見るからに『公爵』だと言える雰囲気の男性が居た。この人がきっと――メイヴィール家当主。

 その人がいきなり立ったかと思えば、頭を下げる。


「まずは感謝とお礼を。何の関係もない、この世界のために働いてくれてありがとう。そして、ご苦労だった」

「……え?」

「……」


 いきなりのことに内心戸惑う俺を余所に、本堂が隣に並ぶ。


「頭を上げてください。私は私のしたいようにしただけですし、そうするように言ってくれたのも、そう出来るように助力してくれたのも貴方がたです。貴方がたがどれだけの感謝とお礼を述べたのだとしても、結果として今の私が存在できてることに変わりはありません」


 ――だから、こちらこそ、感謝しているんです。


 本堂はそう告げる。


「俺は、ほん……アイリスの様に上手く言えませんけど、少なくとも、公爵のような方がいらっしゃることは有り難いし、今みたいな言葉を掛けてもらえて、やっと『勇者』であって良かったと思うことが出来ました」


 そりゃあ、対面してすぐに労われるとは思いもしなかったし、もしかしたら、普通にあの国に帰っていたら聞けた言葉だったのかもしれないけれど、それでも嬉しく思ったのは事実だ。


「そうか。いや何、お客人を立たせたままで悪かったな。早く座るとしよう」


 二人まで呼んだ理由も有りそうだしな、と公爵の目が夫人とエクレリアス様、本堂の順に向けられる。

 そして、全員が着席すると、公爵は口を開く。


「まずは自己紹介をしよう。私は、レオナール・レイ・メイヴィールだ。そして、妻のステラティアと息子のエクレリアスだ」

「ユーリ・アリムラです。勇者を……してました」


 公爵の紹介に合わせるかのように、夫人のステラティア様には微笑まれ、エクレリアス様には会釈するかのように軽く頭を下げられる。

 ただ、そんな彼らに対しての挨拶が過去形になったけど、大丈夫だよな……?

 本堂が何も言ってこないのを見ると、正解だったらしい……――というか、どちらかというと、どちらでもいいって感じか?


「そうか。それでは、これからユーリ殿と呼ばせてもらおう。まず最初に確認したいのたが、ユーリ殿はアイリスのことをどれぐらいご存知かな?」


 その問いに、本堂が不満そうな声を上げる。


「レオナール様!?」

「いや、気にせずに答えてくれ」


 そんな本堂の態度にも、特に気にした様子もなく、公爵が促してきたので答えることにする。


「どのぐらいと言われましても、彼女が『アイリス・リーン・メイヴィール』ではなく、『本堂愛理(あいり)』という名前であることは知っております」

「そうか……それなら良い」


 どうやら、公爵はその確認がしたかったらしい。

 一体、何だったんだろう?


「それでは、本題に入るとするか。何故、この場に亡くなったとされている勇者殿が居て、君と一緒に行動しているのかを」

「ええ、元よりそのつもりですし、ここからは勇者一行の一人である『アイリス・リーン・メイヴィール』として、こうなった経緯をお話しさせていただきます」


 公爵の言葉を受け、少しだけこちらに目配せした後、佇まいを直した本堂がそう返し、ここまでの経緯を説明することになるのだった。


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