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入国と謁見


「さあ、着いたよ。ようこそ、『【魔迷国家】ラウリンハルト』へ」


 【魔迷(まめい)国家】ラウリンハルト。

 別名、迷宮都市ならぬ迷宮国家とも呼ばれ、勇者パーティに加わる前の本堂(ほんどう)が居た(らしい)この国は、魔法と迷宮の国と呼ばれるほどに、魔法に詳しく(特化ではない)、幾多の迷宮を有する国である。

 ちなみに、俺を召喚した国はハウンドリーゼルという名前な訳だが、もう戻ることも無いだろうから、特にこれといって気にすることもないだろう。


「それで、最初は城に向かうんだっけか」

「そ。陛下に話を通しておかないと、後々面倒だし、上手くいけば後ろ楯にもなってくれるだろうし」


 俺の後ろ楯はハウンドリーゼルにも居るといえば居るが、後ろ楯ってほど何かしてもらった覚えも無ければ、思い入れもない。

 もし仮に、少しでも情があったのなら、ハウンドリーゼルに戻ろうとしていたのかもしれないが、それすらも無いのだから、俺の中にもそういう部分はあったらしい。


「ところでさ。これって、不法入国にならない?」


 そんな俺の質問に、本堂から「今さら何言ってんの?」とでも言いたげな表情を向けられる。


散々(さんざん)、不法入国してきた人の台詞とは思えないんだけど」

「いやまあ、そうなんだけど」


 否定できないのが悔しい。

 『勇者』なんて、言い方を変えれば犯罪者みたいなものだしなー。


「……って、あれ? でも、俺の名前で勇者ってバレないか?」

「そうだね。君の名前は各国が大々的に知ってるし、勇者は魔王との決戦で死んだことになってるから、その名前を出せば、間違いなく疑われることだろうね」

「だったら、どうするんだよ! 下手したら、ハウンドリーゼルに送り返される可能性だってあるじゃねーか」


 でも、そんな俺に、本堂は「そうだね」としか返さない。


「でも、私が何の考えも無しに連れてきたと?」

「何か、策でもあるのか?」


 質問を質問で返したわけだが、本堂は笑みを向けてくる。


「だからこその、ラウリンハルトだよ」


 この時の俺にはその意味が分からなかったのだが、この後の謁見で、その意味を知ることになる。


   ☆★☆   


「はぁ~、前々から連絡を受けておったとはいえ、お前さんも随分無茶をする」


 目の前で頭を抱えるのは、ラウリンハルトの国王陛下。


「え、でも事実ですし」

「いいか、私は知らないからな? 知らないからな?」

「大事なことでもあるまいし、二回も言わなくていいですよ」


 何だ、この状況。

 陛下に対して、口調を変えない本堂も本堂だが、それを注意しない陛下も陛下である。


「ほら見ろ、お前のせいで勇者殿が困っているだろうが」

「それは、ご自身も含まれていることを、ご理解しておりますか?」


 敬っているのか、いないのか。

 というか、そんな話し方をして本当に大丈夫なのか、不安になる。


「ああ、こいつの口の聞き方については気にしない方がいいぞ」


 陛下、もう指摘するのを諦めたんですね。


「で、本題だが……正直、戦争を起こしたくないのが本音だ」

「でしょうね。私も駆り出されるのは嫌ですし」


 どうしたものか、と唸ってはいるが、本堂。お前が俺をここに連れてきたんだからな?


「まあ、この国にいる間は、私が身元引き受け人にはなるし、身元保証もしてはやれるが、もし一度(ひとたび)国外に出ればそうは行かないことは理解しておいてくれ」

「はい」

「まあ、ラウリンハルト(ここ)にはたくさんの迷宮もあるし、生活には困らないと思うよ」


 陛下に続いて、本堂はそう言うけど、不安しかない。


「何、困ったことがあれば、こいつに聞けばいい」

「私に丸投げですか」

「お前さんが連れてきたんだろうが。最後まで責任を持て」


 元よりそのつもりだったのか、本堂の表情は変わらない。


「それにしてもなぁ……今まで色恋沙汰が無いとは思っていたが、まさか男を連れて帰ってくるとはなぁ」


 うんうん、と納得したかのように首を縦に振っている陛下だけど、言われてる張本人の本堂の表情はどんどんヤバくなっていた。


「そんなんじゃないし、ぶん殴っていいですかね?」

「すでに殴る用意は出来てんぞとばかりに、拳を握りしめるのは止めて!?」

「……」


 何となく、この二人の関係性が分かった気がする。


「そもそも、私がそういう面で男性陣を信頼してないの、知ってるでしょうに」

「いや、そうだったな。悪かった」


 何となく、空気が重くなった気がした。

 というか、この問題、俺も触れて良い問題なのか?


「なぁ、勇者――いや、ユーリよ。こいつのことを頼むな。気難しいところもあるかもしれんが、基本的には良いやつだから」

「それは分かってるので大丈夫です。一緒に旅もしましたし」

「なら、いいんだがな」


 陛下が一安心したかのように、息を吐く。

 本堂は、というと、目を逸らしていた。


「アイリス・リーン・メイヴィール。そなたが責任を持って、現勇者(・・・)、ユーリ・アリムラの身柄を保障せよ」

「はい、王命に従い、最後まで責任を持って、この任を務めさせていただきます」


 先程とは打って変わり、本堂が臣下の礼を取る。


「うむ、ご苦労であった。あと、早くメイヴィールの方にも顔を見せに行ってやるといい。無事なのは分かっていたが、かなり心配していたからな」

「そのつもりです」


 メイヴィールっていうと、本堂が世話になっている後見人の家か。


「ユーリ殿も一緒に行ってくるがいい。どうせ、遅かれ早かれ会うことにはなるんだしな」

「えっと、それは……」


 本堂次第では?


「……何」

「いや、一緒に行っていいものかと……」

「別にいいよ。うちは、王家に次いで権力やその名が知られてるから、この国での有村君の後見人にもなってくれるだろうし」


 え、そうなの?


「いや、ちょっと待て。ユーリ殿のこの国での後見人は私が務める」

「はい?」

「そもそも、お前のことも押し付けたようなものだというのに、ユーリ殿まで押し付けるわけにはいかないだろ。それに、何を言われようと、彼はこの世界が決めた『勇者』なんだ。もし、後見人が王族(こちら)であれば、何か起きたときに対処は出来るが、お前さんのことまで出された場合、他の貴族を黙らせるのも困難になりかねん」

「チッ、面倒な」


 本堂が顔を顰めているが、俺がこの国に滞在するとなると、やはり何か問題があるのだろう。


「なぁ、本堂。やっぱり、俺――」

「君は何も気にしなくていいよ。問題はこっちで解決するから」

「そうは言うけど、俺が居ると、さ」

「それは君のせいじゃない。そもそも、あいつらがあんなことさえしなければ、こんな問題は起きなかったわけ。だから、何か言いたければ、あいつらに言って。文句だろうが何だろうが、あいつらには言われる権利があるんだから」


 たとえ、それが正論だったとしても、俺はきっと文句は言えないだろうから。


「まあ、ユーリ殿は文句の一つや二つ言っても、許されると私も思うよ」


 陛下まで……


「もし、そこで君にまた危害を加えようとするのなら、今度こそ返り討ちにすればいい。だって、君の側にはアイリスも――愛理(あいり)もいるのだから」


 そういえば、殺す理由が無いとか言ってたっけ。

 同郷の者だからとか、そんな理由だったけど。


「それじゃ、まずはメイヴィールへのご挨拶に向かいますか」

「ああ、そうだな」

「気をつけて行ってくるがいい。――ああ、あとアイリス」

「はい?」


 謁見の間を出ようとすれば、陛下に呼び止められ、本堂が振り返る。


「もしかしたら、途中であやつらと会うかもしれん。何もなければいいが、一応は気を付けろよ」

「ええ、分かってます」

「……?」


 一体、何のことを言っているのか、俺には分からないが、きっと俺が知らない『本堂愛理』という人間にも、俺たちと会うまでにいろいろなことがあったのだろう。


「ユーリ殿も、よろしく頼むな」

「は、はい……」

「……じゃあ、行こうか」


 そう言って、本堂は俺の前を歩いていく。

 陛下には、あんな頼りなさそうな返事をしてしまったけど、ただ――いつか、彼女のことをもっと知ることが出来たらいいなとは思うのも事実で。


 でも、まさか意外と早くその時が来るなんて、この時は予想できなかったし、知る(よし)も無かった。


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