02
魔王城を出れば、いつ振りかの太陽が姿を見ることとなった。
その日差しを浴びるのも、いつ振りだろうか。
「ん~~。さて、有村君。忘れ物はないよね?」
軽く伸びをした後、本堂がそう聞いてくる。
「ああ、武器とかは本堂が纏めて封印? してくれたから、持っていかれずに済んだけど、金銭面はなぁ」
道具はそれぞれ自己管理という方針が利点として動いてくれたのか、食料や金銭類は無かったものの、他のものは残っていた。
そこに不自然さが無いわけではないが、もし本堂以外が持っていったんだとすれば、取り返すのはもう絶望的だろう。
「はい」
「ん?」
「有村君の分」
何か袋を差し出されたが、何が入っているのか分からないから、地味に怖い。
「お金。君が持っていた分に、君が報償として貰うべき分を加算したやつ」
「おっも!」
中身が分かったのはいいが、何これ。ずっしり来たんですけど。
「現状、君の所持金額は、それがすべて。あちらに着くまでは、無駄遣いはしないようにね」
「あ、ああ……」
何かその言い方では、俺の就く仕事がもう決まっているように聞こえるんだが、俺の返事も含めて、本堂が特に気にした様子もなく、そのまま歩き出したので、慌てて袋をしまって追いかける。
「それにしても、あれが演技だったなんて、今でも信じられないんだが」
本人曰く、今はほとんど素で話してるらしいが、つまり旅の間は演技していたことになるわけで。
「全部が全部、演技って訳じゃないよ。あっちもあっちで、私の性格だし」
そうは言うが、今の方がやっぱり生き生きしているように見える。
「それに、君の性格は旅の間で把握してるから、特に隠す必要も無いかな、って思っただけ」
「俺の方も演技かもしれないぞ?」
冗談混じりにそう言ってみれば、少しばかり驚いたような、きょとんとしたような顔をされる。
「あっはは、それは無いわー」
笑われた。
しかも、何かイラッときた。
「何でそう言いきれるんだよ」
「あー、ごめん。顔に全部出てるって訳じゃないんだけど、基本的に利益にならなかったり、迷惑になるような嘘をつかないことは知ってるからさ」
「利益?」
「チームの利益にならないことを、嘘をついてまで言ったこと無いでしょ? 後は、どこにいるのか分からない敵に、何をどう聞かれても大丈夫なように嘘を交えて話してたぐらいにはさ」
……おおう。
「まあ、私も私で気づかれないように防音結界張ってたから、結果としては意味無かったんだけどねー」
再びけらけらと、本堂は笑う。
こうして見てると、本当は喜怒哀楽がちゃんと出る子なんだと、よく分かる。分かるのだが。
「……」
「どうしたの?」
「いや、そうやって笑ってる方がいいと思ってな」
今度は間違いなく、驚いたらしい。
「……笑ってる方も演技かもしれないよ?」
「もし、そうだとしたら、ものすごく面倒くさいな」
だって、そうだろう。
何で一度素を見せておいて、また演技に戻る必要がある? 奴らが近くにいるわけでもあるまいし――……
「まさか、奴らが近くにいるのか?」
「いや、あいつらはいないよ。すぐに反応できるように数分間隔で探知魔法使ってるし、今のところ魔物すら引っ掛かってもいない」
じゃあ、何で……
「有村君」
立ち止まって、前方を歩いていた本堂が振り返る。
「人には言いたくないことも、あるんだよ」
そんな彼女の表情は、旅の間に幾度となく見てきた、無表情に近い表情。
「……」
……もしかして俺、本堂の地雷か何か踏んだのか?