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酒癖

作者: だいふく

 小萱(こがや)叡智(あきさと)が机に向かっていると、インターホンが二度続けて鳴らされた。それだけで、叡智には訪問者が誰なのか予想がついた。

 小さく溜息をついてから、広げていた教科書にシャープペンシルを挟み込んで立ち上がると、今度はドアを叩く音とともに、女性の声が聞こえた。


「小萱くーん、入れてよー!」


 やっぱり彼女か。正直居留守を使ってもいいのではないかと叡智は考えたが、後日拗ねられるのも面倒臭い。それを表情に出さないように気をつけながら叡智が鍵を開けると、彼女はすぐにドアを開けた。直後に、ぷうんとアルコールの匂いが叡智の鼻をついた。


「また飲んできたんですか、(あきら)さん」

「うぇへへ、飲んできちゃいました~」


 叡智は咎めるような物言いをしたはずなのに、吟は意にも介さず、にこにこ笑いながらするりと玄関に入り込む。


「……酔いが覚めたらさっさと自分の部屋に戻ってくださいよ」

「わかってるってぇ」


 叡智がそう言ううちに、吟は流れるような動きでサンダルを脱ぎ捨てて部屋に上がり込んでいた。ふらふらと覚束ない足取りで彼女が廊下を歩くのを見て、叡智はシンクに置いてあったグラスに水を注いでから後を追った。


「どうぞ、水です」

「ありがと~」


 ハンドバッグを投げ出してベッドにへたりと腰掛けた吟にグラスを差し出すと、彼女はそれを両手で大事そうに受け取る。吟がそれに一口つけるのを見て、叡智は椅子を引いて腰を下ろした。

 伊崎吟は叡智の隣人だ。

 隣人とはいっても、同じアパートの一階に叡智、二階に吟が住んでいるのであって、本当に隣り合っているわけではない。

 吟は叡智よりふたつ年上だ。同じアパートの住人とはいえ、本来ならばそう関わりを持つことはなさそうなものだが、こうして吟が叡智の部屋に転がり込むようになったのはふたつ理由がある。

 まずひとつが、そもそもこのアパートには吟と叡智以外には誰も住んでいないということ。この春まではもうひとりいたらしいのだが、叡智と入れ替わりになる形で出ていったようだ。お互いに唯一の隣人なのだと認識しているから、こうしてよくわからない付き合いが生まれた。

 また、酔って帰ってきた吟が自室への階段を登りたがらないというのがある。これが最も大きな要因であるが、叡智としても隣人が階段から転げ落ちて死ぬなんてことになっては寝覚めが悪いので、こうして酔っ払った吟を迎え入れている。叡智が引っ越してくるまでは前の住人の部屋に転がり込んでいたのかどうかは気になるところだが、それは未だに聞けずにいる。


 今日の吟は、涼し気なレモン色のブラウスに青のスカートを履いている。髪は後ろでまとめ上げているが、あまり気合の入った感じではないから、たぶん友人と飲んできたのだろう。顔が真っ赤だが、ここまで一人で帰ってこられたのだから泥酔しているというわけではないと思う。だからといって、叡智の部屋に来るのを良しとするわけではないのだが。


「吟さん、いい加減その酒癖の悪さはどうにかした方が良いですよ」


 諭すような口調で叡智が言うと、吟はむすっと頬を膨らませた。


「わかってるってばぁ」

「わかってないです。僕は良いけど、迷惑に思う人もいますからね」

「小萱くんは良いんだぁ」


 けらけらと笑いながら吟が言う。


「酔っ払いの相手はしたくないですけどね」


 叡智は椅子を回して机に向き直った。栞代わりのシャープペンシルを頼って、教科書のさっきと同じページを広げる。


「そんなこと言わないでぇ、小萱くんも飲もうよぉ」

「いつも言ってますけど、僕未成年ですからね」

「良いじゃん良いじゃん、減るもんじゃないし」

「飲みませんからね」

「えー、けち」

「ケチで結構です」


 ようやく会話が一段落ついて、叡智は教科書の続きを読み始めた。吟は喋り疲れたのか、グラスを傾けながらぼうっとしている。

 しばらくは会話もなく、叡智がノートに文字を書く音だけが部屋の中に響いていた。そのうちに、吟は空になったグラスを右手に持って、空いた方の手でスマホをいじり始めた。しかしそれもほんの数分のことで、彼女はベッドの上にスマホを投げ出して、叡智の方を見た。


「ところで小萱くん、なにやってるの?」

「勉強です。週末微積のテストなんですよ」


 教科書から視線を離すことなく叡智が答える。


「微積ぃ……? いんてぐらるとか、そんなのだっけ?」

「まあ、そんな感じです」


 微分積分なんて大学を受験するほとんどの人間が学んでいるはずで、特に叡智や吟の通う大学ではどの学部でも必須だ。とはいえ、吟はそれを最後に学んだのが二年前で、以降全く触れてこなかったのなら記憶が薄れているのも仕方ない。


「わたし文系だから、教えたくても教えてあげられないや。ごめんねぇ、ふへへ」

「最初から当てにしてないので大丈夫ですよ」


 頬に手を当てて言う吟に、叡智はぶっきらぼうに言葉を返す。

 叡智は理学部だから必修単位だが、吟の在籍する文学部はそもそも微積分学の授業を履修することができない。吟に理系科目を教えてもらおうなんて、はじめから選択肢に入っていないのだ。

 吟は吟で「ちょっとは当てにしてよ~」なんてぼやいているが、完全に戦力外なので叡智は無視して勉強を続ける。

 結局、吟が自分の部屋に帰ったのはそれから二時間経ってからで、それまで叡智は勉強の片手間に彼女の話に付き合わされ続けた。

 

     ***


 前日の金曜日に微積分学のテストが終わり、そのために徹夜をしていた叡智は昼過ぎまで寝ていた。起きてからもだらだらと時間を過ごして、彼が活動をし始めたのは夕方になってからだった。

 食べるものがないことを思い出して、弁当でも買いに行こうと着替えて部屋の外に出ると、ちょうど階段を降りてくるところの吟とばったりはち会った。


「あ、吟さん。こんにちは」

「む、こんにちは~」


 ひらひらと手を振る吟は、今日は白のカットソーにグリーンのフレアスカートという出で立ちだ。

 三日前に吟が部屋に押し入ってきてからは一度も顔を合わせていないのだと叡智は思い出した。

 ほぼ毎日一限に授業がある叡智は八時半には家を出るが、吟は昼から大学へ向かうことが多い。帰ってくる時間も吟のほうが遅いため、どうしても入れ違いのようになってしまう。わざわざ顔を見に行くということもないので、今日まで機会がなかったのだ。


「どこか行かれるんですか?」


 聞くと、吟は頷いた。


「うん、友達と飲みに行くの。小萱くんは?」

「僕は晩飯を買いにスーパーに」

「じゃあ途中まで一緒に行こうよ」


 吟が飲みに行くのは駅前の方だろうからバスを使うだろう。バス停はスーパーの近くで、誘いを断る理由もない。


「いいですよ」

「やった」


 表情を砕けさせて、吟は階段の残り二段を飛び降りる。叡智が先を行くと、吟は早足でそれに追いついてきた。叡智と吟とでは身長差が一〇センチほどしかないため、歩く速度に気を遣う必要はあまりない。

 並んで歩き始めると、吟が再び口を開いた。


「テスト、どうだった?」

「良くはなかったです。期末考査頑張らないと単位落とすかもしれません」


 叡智の言葉に、吟は慌てたような表情を見せた。


「え、大丈夫なの? 必修でしょ?」

「まあ、なんとかなると思います。中間の配点そんなに大きくないんで」

「でも期末の方が難しいんじゃないの? 過去問とかある?」

「今年から先生変わったみたいで、去年のは使えないんですよね」

「そっか……わたしが何かしてあげられたらいいんだけどな……」


 萎れたように呟く吟。


「勉強が足りなかったのは僕のせいですし、気にしないでください」

「でも……」


 まだ何か言おうとしていたようだったが、ちょうどスーパーの前に着いた。吟にも約束があるのだからあまり長話してはいけないと思い、叡智は立ち止まった。


「それじゃあ僕はここで」

「あ、うん。ばいばーい」


     ***

     

 日付が変わる頃にチャイムが鳴った。

 吟が飲みから帰ってきたのだろうと思ったが、いつものようにドアを叩く気配はない。こんな時間に彼女でないなら誰だろうと思って、覗き穴から訪問者を確認する。知らない女性だ。

 念の為チェーンを掛けて、ドアを少しだけ開ける。


「はい」


 訪問者であるショートカットの女性は、叡智とほとんど変わらない歳に見える。女性は叡智の顔を見ると、安心したようにほっと息を吐いた。


「あ、すみません。わたし、伊崎吟の友達なんですけど……君が小萱くん?」

「そうですけど、吟さんの友達がどうして僕に?」


 叡智のことを知っているのは、吟から聞いたからだろうとは思うが、こんな時間に一人で尋ねてくるわけがない。吟がアパートに連れて来たにしても、その本人が見当たらない。


「あ、もちろん吟もいるのよ。完全に酔い潰れちゃってるから、そこの階段に置いてきてるんだけど」


 階段の方を指さして、女性が答える。酔い潰れた、ときたか。


「……とりあえず外出ますね」


 チェーンを外してドアを開ける。サンダルに足を通して階段へ向かうと、手すりにもたれ掛かって寝息を立てている吟がいた。


「うわ、ほんとに酔い潰れてる」


 近づくだけでいつも以上の酒臭さが鼻をつく。女性が溜息をついて、叡智の隣に立った。


「ひとりで帰れないくらいで、わたしがここまで連れてきたんだけど、さすがにこのレベルを放ったらかしってのはマズいかなって思ってさ。わたしも帰らないといけないし」

「で、僕に介抱してくれと」

「お願い! 埋め合わせは吟がするからさ!」


 両手を顔の前で合わせて、女性が頭を下げる。頼み込まれずとも、介抱はいつもやっていることだ。


「別に良いですけど、部屋の中に移すのだけ手伝ってもらっても?」



 両脇から二人で抱え上げ、どうにか吟を叡智のベッドへ寝かせることができた。結構荒々しく扱ったのだが、吟は全く起きる気配を見せなかった。


「ほんと、ありがとうね」


 床に座り込んだ女性――美織さんというらしい――が頭を下げる。叡智はそれに頭を振って返した。


「いつものことですし、大丈夫です。にしても、なんで吟さんはこんなになるまで飲んだんですか?」


 いつもなら、必ず自分ひとりで帰れる程度に抑えているはずだ。まだ浅い付き合いだが、酔い潰れるまで飲んだ吟を、叡智は一度も見たことがない。

 叡智の問いに、美織は複雑な表情をしてみせた。


「あー、それ聞くかぁ……」

「? どういうことですか?」


 要領を得ない返答だったので、叡智は再度尋ねる。


「いや、なんと言うか……やけ酒みたいなもんなんだけど……」


 美織は言葉に詰まったように、しどろもどろな言葉を返す。


「やけ酒? 夕方に会ったときは吟さんいつも通りでしたけど、何かあったんですか?」


 少なくともあのときの吟はこれからやけ酒をするような様子には見えなかった。となると、その後に何かしらあったのだろうか。

 美織はわずかに逡巡を見せて、それから口を開いた。


「うーん、まあ、言っちゃうか」


 なんだかとても大事なことを言うような雰囲気になってきたので、叡智は思わず息を呑んだ。

「吟、小萱くんのテストがうまくいかなかったの自分のせいだって思っちゃっててさ。それで今日ずっと『わたしのせいだー』って飲んだくれてたの」


 思い当たる節が叡智にはあった。


「吟さんのせいって、もしかして夜中に僕の部屋に来たからですか」

「そうみたい」

「一日だけですし、別にそのせいでテストがダメだった訳じゃないんですけどね」


 確かに少しは迷惑ではあったが、テスト前日という訳でもなかった。叡智は、自分の不出来を他人のせいにするほど幼稚な人間ではないと自覚している。


「わたしもそう言ったんだけど、吟って一度思い込むとああだから」


 夕方、吟が別れ際に何か言いたそうだったのはそれだったのだと、叡智は気づいた。


「否定はしたつもりだったんだけどなぁ……」


 吟のせいではない、ときちんと口に出して言えば良かったのだろうか。そもそも、あれくらいのことをまさかここまで気にしているとは思いもしなかったのだから仕方ないのかもしれないが。


「とにかく、吟さんが起きたらそのことについてはちゃんと説明しておきます」

「うん、お願い」


 それから少しの間、室内に沈黙が訪れた。吟の静かな寝息が聞こえるくらいで、他にはなんの音も聞こえない。

 その静寂を打ち破ったのは、美織だった。


「そういえば、小萱くんは吟のことどう思ってる?」

「どうって……」


 叡智は言葉に詰まった。自分が吟のことをどう思っているかなんて、そんなこと、一度も考えたことがなかった。

 叡智が答えられないので、美織が言葉を続ける。


「夜中に押し掛けてくる面倒臭い先輩?」

「まあ、それはあります」


 即答だった。疑う余地もなくその通りだ。

間髪入れずに答えたのがツボに入ったのか、美織はけらけらと笑った。


「嫌だったらちゃんと言った方がいいよ。吟は物分り良い方だから、小萱くんが迷惑だって言ったら自重するよ」


 今度は即答できなかった。少し考えて、叡智は自分の中にある答えを確かめてから答える。


「嫌ではないんですよ、別に。むしろ少し嬉しいくらいで」

「一人暮らしは寂しいもんね、分かるよ」

「ええ」


 お互いに頷き合う。どうやら美織も一人暮らしらしかった。

 美織は吟へ視線をやって、言う。


「たぶん、吟もそうなんだよね。吟ってあんまり小萱くんと話さないんじゃない?」


 叡智は頷きを返す。


「生活リズムが合わないんで、確かに普段はあまり話さないですね。夜中に転がり込んでくるか、たまに外ではち合わせたときくらいのもので」


 叡智の答えを聞いてから、美織は吟に顔を近づけて何かを確認した。


「……吟は寝てるな。よし、良いこと教えてあげる」

「なんですか?」

「吟って、小萱くんのこと大好きなんだよ」


 一瞬吹き出しそうになった。本人の寝ている前で、ジョークにしてはなかなか悪趣味だ。


「……冗談でも、そういうこと言うの止めたほうが良いですよ」

「冗談で言うもんか。吟がお酒飲んでここに帰ってくるの、小萱くんと話したいからなんだよ」


 美織の目は真剣そのもので、これが嘘だったなら彼女は相当な役者だ。


「信じられないです」


 叡智は首を横に振る。


「ホントだって。吟、一緒に飲むといつも君の話ばっかりするの。まあ、酔っ払うといつも同じことばっかり言ってるんだけどね」

「……」


 叡智は何も答えられなかった。


「今回は迷惑掛けたからって、すごい落ち込んでたんだよ。わたし行かないほうがいいかなぁって」

「そんなことは、ないですよ」


 自分が動揺しているのが分かる。さっきよりも心臓の鼓動が早い。もしかしたら顔も赤くなっているかもしれない。


「吟が起きたら、それを言ってあげてね。少し嬉しいっていうのも」


 悪戯っぽく笑って、美織は立ち上がった。


「それじゃ、わたしはそろそろ帰るね。吟のこと、後はよろしく」

「あ、はい。ありがとうございました」


 反射的に礼を言って、見送りをしようと叡智も立ち上がろうとした。


「こちらこそ、助けてくれてありがとうね。じゃ、おやすみ。ここでいいよ」

「あ、はい。おやすみなさい」


 美織が手で制止するので、叡智は立てていた膝をもとに戻した。

 美織が部屋を出て、再び部屋の中に静寂が訪れた。

 すぅ、すぅ、と規則正しく吟の寝息が聞こえてくる。

 寝顔を見る。

 指でつつきたくなるような白皙の頬は、アルコールのせいか随分と赤く染まっている。小ぶりな胸が寝息に合わせて上下している。白のカットソーの下に着ているキャミソールが僅かに浮き出ているのが目に入ってしまい、叡智はそこから視線をそらした。無防備なせいか、いつもに増して可愛らしく見える。

普段ならきちんと自分の部屋に帰るから、吟のこんな姿を見るのは初めてだ。

 そうだ。いつも、彼女のことを可愛いと思っていた。

姉のように気にかけてくれて、どこか妹のように無邪気な側面も見せる吟が、自分を訪ねてきてくれることが嬉しかった。

出会って三ヶ月。想いを寄せるにはまだ早いように思えるけれど。それでもきっと、叡智は吟のことが好きなのだ。


「吟さん」


その小さな呟きが、彼女の耳に入ったのか。ぴくり、と吟の身体が動いた。


「ん……小萱、くん?」


 ほとんどうわ言のようで、まだきちんと目覚めてはいないのだろう。だとすれば、好都合だ。まともなときの吟にそれを言えるほど、叡智は勇敢な人間ではない。小学生のように、好意を向ける相手になかなか素直になれない。

 吟のそばに寄って、叡智は言う。


「吟さんが来てくれて、僕は嬉しいですからね」


 卑怯かもしれないが、いまはこれが精一杯だ。

 それを吟はきちんと認識したのか、夢の中と錯覚しているのか、とろけたように笑った。

 不意をつくように、吟の両腕が叡智の首に回される。思ったよりも強い力で、叡智は抵抗できず吟の胸元に倒れ込んだ。ちょうど、母親に甘える幼児のような、姉に甘える弟のような格好になった。


「わたしも、小萱くんと話せて嬉しいよぉ……」


 たぶん、寝ぼけている。明日になったら吟は覚えていないかもしれないけれど、叡智は嬉しかった。

 段々と眠気が押し寄せてきて、叡智はいつの間にか眠りについた。


     ***


 吟の叫び声で、叡智は目を覚ました。


「な、なにこれ……!」

「……?」


 頭が完全に覚醒するまで数秒の時間を要したが、ああなるほど、昨日は吟に抱かれたまま眠ったのだった。叡智が身体を起こすと、吟はベッドから跳ね起きた。

 吟は目を覚ましたら何故か後輩の顔を胸に押し付けているのだから、それはもうパニック状態だ。


「こ、こここ小萱くん! 変なことしなかった!? 何があったの!?」


 やっぱり何も覚えていないらしい。しかしあんなに酔っていたのに、二日酔いは大丈夫なのだろうかと叡智は思った。


「吟さん、酔い潰れて美織さんに連れて帰って貰ったんですよ。僕が介抱して、そしたら吟さんが僕に抱きついて離れないから、仕方なくそのまま寝たんです」

「は……」


 呆然、といった様子だ。叡智は事実を述べたまでである。一部意図的に伝えてない部分があるがそれはそれだ。迷惑を被っているのだから、それくらいしても罰は当たらないだろう。


「わたし、何も変なこと言ってないよね……?」

「別に何も」


 言ってたけど。

 叡智の返答に安心したのか、吟は胸に手を当てて一息ついた。途端、前のめりになるように立ち上がった。


「? 吟さん?」

「は、吐く……」

「えっ、ちょっ、せめてゴミ箱に――」

「おえっ」

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