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エクストリームガールズ!!  作者: 井村六郎
春期始動編
9/40

第九話 愛奈危うし!? 江口ギャング団の大逆襲!!

今回はちょっとシリアス寄りです。

 笑特小。


「紅蓮情激波ーーーー!!!」


「「「ぎゃあああああああああああああああああ!!!」」」


 のっけから紅蓮情激波を浴びせられ、江口ギャング団は吹き飛ばされました。

 今日はテストの日。さすがの江口ギャング団も大人しくしていると思いきや、テストが終わった瞬間に浩美先生のスカートをめくろうとした為、愛奈ちゃんがそれより早く手を打ったのです。


「く、くそ……!!」


「またやられた……」


「今日は大人しくしていると油断させて、最後に思いっきり暴れるという僕の作戦が通じなかったッス……」


「あんた達が考える事なんて、大体わかるよ」


 ぶっちゃけ江口ギャング団がやる事ってワンパターンなので、愛奈ちゃんにもわかっていました。


「何はともあれ、テスト終了~!」


 愛奈ちゃんは大喜びです。退屈だったテストも終わり、明日はいよいよ遠足なのですから。


「浩美先生も楽しみだよね! ね!」


「は、はい。そうですね」


 愛奈ちゃんに釣られる形で答えましたが、浩美先生もこういう行事は好きです。


「早く明日にならないかなっ!」


 愛奈ちゃんは笑顔で言いました。





 ◇◇◇





「勇子ちゃん」


「あ、氷華お姉ちゃん」


 学校が終わって帰っていた勇子ちゃんは、氷華さんに出会いました。


「何だか嬉しそうだね。何かあったの?」


「……わかっちゃった? 明日遠足があるから」


 勇子ちゃんも、明日の遠足を楽しみにしています。


「そうなんだ。場所はどこか決まってる?」


「うん。尾形山だよ」


 笑特小から少し離れた所に、ちょっとした山があります。それは尾形山と呼ばれていて、ハイキングコースにも使われている有名な山なのです。


「……氷華お姉ちゃん?」


 勇子ちゃんは、氷華さんが怖い顔をしている事に気付きました。


「……尾形山に行くなら、ハイキングコース以外の道は歩いちゃ駄目だよ」


「もちろんそのつもりだけど、どうして?」


 当然、整備された道しか通りません。なぜこんな事を言うのかと思い、勇子ちゃんは聞き返しました。


「これは私のお母さんから聞いた話なんだけどね……」


 一旦回想入ります。




 それは、氷華さんが和来町に来る前の事でした。


「これからお前が人間社会で生活する為の、最後の修行を与える。和来町という町に行き、そこで人間として過ごすのだ」


 北海道の山奥で、一人の女性が言いました。彼女は氷華さんのお母さんの、氷雨さんです。


「はい、母上」


 氷華さんは氷雨さんの命令に、素直に従いました。


「この修行に取り組むに当たって、守らなければならない点が二つある。一つ目は、人間に正体を知られてはいけない事。理由はわかるね? もし知られたら……」


「その時は、私が責任を持ってその人間を消します」


「よろしい。それからもう一つ。人間から尾形山と呼ばれている山には近付かない事」


「どうしてですか?」


 一つ目はわかりますが、二つ目がわからなかったので、氷華さんは氷雨さんに訊きました。


「あの山の奥深くには祠があってね、その中には悪霊が封印されているんだ。人や妖怪に取り憑いて、操ってしまう」


 氷華さんの力はとても強いです。しかし、悪霊の力もまた強く、氷華さんが取り憑かれてしまう事を恐れていました。


「わかりました。では、その二つの点を必ず守ります」


「よろしい。さ、行っておいで。このまま一緒にいると、お前との別れがつらくなってしまうからね」


「はい。では、行って参ります!」


 こうして氷華さんは、和来町に来たのです。




 という事があったので、氷華さんは尾形山の事を警戒していました。そんな危険な所に、勇子ちゃんを行かせたくありません。


「そ、そうだったんだ……」


 こんな事を聞くと、自分が恐ろしい魔境に行くような気がして、勇子ちゃんは心配になってきました。でも、悪霊が封印されているから行き先を変更して欲しい、なんて言えませんし、何より遠足はもう明日です。


「でも、祠に行かなきゃいいんだよね?」


 しかし、勇子ちゃんが尾形山に行くのは、今回が初めてではありません。いつもの三人で何回か登頂しており、その度に無傷で帰ってきています。


「うん。祠の封印を解かない限り、何も起こらないよ」


 氷華さんも、祠に近付かない限りは、悪霊に憑依される事はないと知っています。用は、祠にさえ注意すればいいのです。


「じゃあ気を付ける。愛奈達にも伝えておくね」


 とはいえ、やっぱり不安は拭えませんでした。





 ◇◇◇





「ったく高崎のやつ、ムカつくぜ!」


 帰り道を行く江口ギャング団。


「つーかよ半助。お前の作った人間パチンコ何の役にも立たなかったじゃねーか!」


「あんなスピードで攻撃されたら、準備暇なんてないッスよ。もっと考える必要があるッスね」


 半助くんは再び、愛奈ちゃんに逆襲する方法を考えます。


「甚吉。お前何かねーのかよ」


「何かと言われても……やっぱり俺達も高崎並みに強くならなきゃ駄目だと思います」


「それが出来ないから考えてんじゃねーか!!」


「痛っ!」


 江口くんは八つ当たり気味に甚吉くんの頭を殴りました。


「くそ~……なんかねーのかよ。高崎をぎゃふんと言わせる方法はよ!」


「その方法、教えてやろうか?」


「あ?」


 江口くんが愚痴っていると、後ろから声が掛かりました。振り向いてみると、ローブを纏い、顔をフードで隠しているという、怪しさ満点の人物がいました。


「高崎愛奈に復讐する方法を教えてやろうか、と訊いている」


 ただ、声の感じと背丈からして、江口くん達と同年代の少女のようです。


「な、何だお前!?」


「名を名乗れッス!!」


 露骨に警戒する甚吉くんと半助くん。しかし、江口くんはさほど警戒していません。


「……お前、どっかで会ったか? なんかお前の声、聞き覚えがあるんだけどよ」


「「え!?」」


 というのも、少女の声に妙な既聴感を感じていたからです。


「忘れたのか。まぁ三年も前の事だから、無理もあるまい」


 やはり、少女も江口くん達と面識があるようです。


「それより、どうする? 本当にやる気があるなら、高崎愛奈に復讐する方法、教えてやるぞ?」


「……面白ぇ。聞こうじゃねーか」


「ちょ、ちょっとリーダー! こんな得体の知れない女の言う事を聞くんですか!?」


「そうッスよ! 考え直して欲しいッス!」


「やかましい!! お前らがあてに出来ないからだろうが!! 黙ってろ!! それで?」


 止めようとしてくる甚吉くんと半助くんを黙らせ、江口くんは少女に話を訊きました。


「尾形山を知っているな?」


「ああ。明日遠足に行く場所だ」


「今から尾形山に行って、奥にある祠を開けろ」


「ほ、祠って、それだいぶまずいやつじゃないッスか?」


 少女が話した普通じゃない事に、半助くんは怯えます。


「やるかやらないかはお前達次第だ。山の入り口に目印を残してあるから、祠への道はすぐにわかる」


 それだけ言うと、少女は三人に背を向けて、帰ってしまいました。


「どうするんですか……?」


「……行く」


「ええっ!?」


「やめた方がいいッスよ!!」


「なら俺一人で行く」


「ちょっ、リーダー!!」


「待って欲しいッス!!」


 少女の口車に乗ってしまった江口くんは、一人で尾形山に行ってしまいます。江口くん一人を行かせるわけにはいかないので、二人は慌てて追い掛けました。




 尾形山。

 明日行く予定の場所に、一日早く来てしまった江口ギャング団。まだ日は落ちていませんが、夕方の山はかなり不気味です。

 と、三人は整備されていない方角にある木に、矢印が刻み付けられているのに気付きました。矢印の先にはまた木があって、同じように矢印が刻まれています。

 最初の矢印の下には、小さな懐中電灯が落ちていました。きっと、あの少女が置いていったのです。暗くなったらこれで道を照らせ、という事なのでしょう。


「あいつが行ってた目印ってのはこれの事か」


「り、リーダー! これ以上は本当に危ないですって!」


「うるせぇ!」


 甚吉くんの手を払い除け、江口くんは一人進んでいきます。


「ま、待って下さいよ~!」


「リーダー!」


 ずんずん進んでいく江口くんを、甚吉くんと半助くんが追い掛けます。

 奥へ奥へと進んでいくうちに、日は段々落ちてきて、暗くなってきました。江口は懐中電灯の明かりを点けますが、日が暮れた山は独特の雰囲気を放っており、こんな小さな明かり一つでは心もとありません。


(び、ビビるんじゃねぇ。この程度でビビってちゃ、江口ギャング団のリーダーは勤まらねぇぜ!)


 江口くんは自分に言い聞かせ、なおも前に進みます。甚吉くんと半助くんも、怖がりながらついていきました。




 やがて三人は、最後の矢印が示す場所にたどり着きました。

 そこには、少女の言っていた祠があります。ただその祠、三本もの注連縄を巻き付けてあり、その上から数えきれないほどたくさんの御札が貼ってあって、絶対に開かないよう厳重に閉じられていました。


「……こいつが例の祠で、間違いなさそうだな」


「リーダー、本当にやるんですか?」


「やめた方がいいッス! これ絶対、ヤバいもんを封印してるじゃないッスか!」


 ここで止めなければ、本当に取り返しのつかない事になる。そう思って、二人は必死に止めます。

 しかし江口くんは、聞こえているのかいないのか、祠の下を懐中電灯で照らしました。


「お、やっぱりあった」


 祠の下には、大きなハサミが置いてありました。御札は剥がせても注連縄が切れないので、あの少女がまた何か用意していないかと思ったのです。案の定、注連縄を切る手段が用意してありました。

 ハサミの存在を確認した江口くんは、御札を乱暴に剥がし始めます。


「「リーダー!!」」


「うるせぇ!!」


 二人は止めますが、江口はまた一言、怒っただけでした。


「こ、こうなったら、もうなるようになれッス!」


 何を言っても無駄です。それなら、リーダーの力になろうと思い、半助くんも御札剥がしに加わりました。

 それを見て甚吉くんも諦め、ハサミを拾い、注連縄の切断に入ります。



 全ての御札を剥がし、注連縄も切り落とし、もう三人を阻むものはありません。


「行くぜ!」


 江口くんはとうとう、祠を開けてしまいました。

 祠の中には、小さな石が入っています。


「何だこれ?」


 江口くんが疑問を浮かべた時でした。

 突然石が光ったかと思うと、黒い闇が溢れ、江口くんの口と鼻から入ってきたのです。


「うわあああああああああああああああ!!!」


「「リーダー!!」」


 江口くんは絶叫しますが、闇は止まりません。

 やがて全ての闇が、江口くんの中に入りました。


「リ、リーダー……?」


 甚吉くんが心配そうに、江口くんに尋ねます。


「……ああすまねぇな、突然騒いだりしてよ」


 江口くんは何事もなかったかのように、二人に向き直りました。


「だ、大丈夫ッスか?」


「ああ。そうそう、高崎に仕返しするいい方法を思い付いたんだ。今日はもう遅いから、明日またここに来い」


「は、はい……」


「わかりました……」


 二人はそれ以上何も聞く事が出来ず、江口に着いて山を下り、帰宅しました。





 ◇◇◇





「うふふ! うふふふふふ!」


 遠足当日。尾形山のハイキングコースを、愛奈ちゃんは上機嫌で歩いていました。


「楽しいね! 浩美先生!」


「はい」


 当然、浩美先生の隣を。

 遠足の日程は、尾形山のハイキングコースを歩いて頂上に行き、そこで休憩を取った後、下山。学校に帰るという流れです。

 尾形山の頂上には遊具が多数設置されており、スペースも広いので、遠足には最適の場所なのです。


「ったく、愛奈って本当にすごい体力ね……」


「さすがに鍛え方が違う」


 勇子ちゃんの顔には、疲労の色が見え隠れしています。他の生徒もそうでした。整備された道とはいえ、かなり大きな山なので、小学生の体力にはキツいものがあります。

 しかし、愛奈ちゃんはけろりとしていました。まぁ、いつもいつも頭のおかしい修行をしている愛奈ちゃんにとっては、この程度の運動は運動の内にも入りません。


「浩美先生大丈夫? よかったらお姫様抱っこしてあげよっか?」


「い、いえ! 大丈夫です!」


 教師として、そんな事は出来ません。


「うふふふ、照れちゃって可愛い♪」


 しかし、愛奈ちゃんにはそうとしか見えなかったのです。


「浩美先生……本当に大丈夫ですか?」


 そう言ったのは、浩美先生と同じく、引率の鬱田先生でした。


「私は何とか。私としては、鬱田先生の方が心配なんですけど……」


「私は、大丈夫です。こう見えても、い、一応、体育のた、担当教師、ですから……」


 そう言われても、暗い顔をして歩く鬱田先生を見ていると、浩美先生は不安しか感じませんでした。




 しばらくして、愛奈ちゃん達は山頂に着きました。


「僕滑り台!」


「私ジャングルジム!」


「シーソーやろ!」


「うん!」


 みんなそれぞれ、設置してある遊具で遊びます。


「あんたは遊ばないの?」


 ですが愛奈ちゃんは遊ばず、勇子ちゃんにその事を指摘されました。


「うーん……なんか物足りないっていうか……」


「……なるほど」


 そりゃあ物足りないでしょう。


「た、高崎ちゃん……」


 と、愛奈ちゃんに半助くんが話し掛けてきました。


「あれ? あんたがあたしに話し掛けてくるなんて、珍しいね」


「……どうしたの? 顔が真っ青よ?」


「あ、あの……何も言わずに僕についてきて欲しいッス」


「……いいよ。ついてったげる」


「ありがとうッス。じゃあこっちッス」


 半助くんは先立って歩き始めます。ついていこうとする愛奈ちゃんを、友香ちゃんが呼び止めました。


「いいの? どう考えても、愛奈を嵌めようとしてる江口の罠にしか見えないけど」


「いいのいいの。ちょっと退屈してたところだったから」


 愛奈ちゃんだけを標的にしてくるなら、愛奈ちゃんにとってはいい暇潰しです。なので特に警戒はせず、半助くんについていきました。


「どうする?」


「どうするも何も、愛奈を一人にしておけないでしょ」


 愛奈ちゃんなら大丈夫だとは思いますが、心配なので勇子ちゃんと友香ちゃんもついていく事にしました。


「……あれ?」


 他の生徒を相手していた浩美先生は、愛奈ちゃん達がどこかに行こうとしている事に気付きました。


「あの子は……亀梨くん?」


 それから、奇妙な事に気付きます。いつも一緒にいるはずの、江口くんと甚吉くんがいないのです。


「……鬱田先生。ちょっと生徒をお願いします」


「は、はい……」


 胸騒ぎを覚えた浩美先生は、ちょっと心配でしたが、鬱田先生にこの場を任せ、見つからないように愛奈ちゃん達を追い掛けました。


「鬱田先生! あっちの倉庫にボールとグローブがあったから、キャッチボールしよー!」


「よっしゃあやってやるぜオラァァ―!!!」


 その後、鬱田先生はキャッチボールに誘われ、打造モードになりました。




 一方その頃、銀嶺高校。


(……藤堂さん?)


 授業を聞きながら、弓弩くんはおかしな事に気付きました。

 氷華さんが、しきりに窓の外を見ているのです。何やらとても焦っているようで、普通ではありません。

 弓弩くんは両手を机の下に隠し、気付かれないようにラブハートアーチェリー出して、


「ラブスリープハープ」


 弦を軽く弾きました。すると、弦から出た音が教室中に反響し、それを聞いた人達は、氷華さん以外全員眠ってしまいました。


「えっ、何?」


「僕が全員眠らせた。さて、話してもらおうか。何があったの?」


 弓弩くんは氷華さんから話を聞く為、彼女が話せるようにみんなを眠らせたのです。これで心置きなく、氷華さんは話す事が出来ます。

 まず、尾形山に悪霊が封印された祠がある事を話しました。


「実は、昨日尾形山から、ものすごい邪気を感じたの」


 驚いた氷華さんは、氷雨さんから言われた事を思い出し、急いで駆けつけました。見てみると、祠の封印が何者かによって解かれており、悪霊が封印されているはずの要石には、悪霊がいなかったのです。周囲をよく探してみましたが、封印を解いた者はどこにもいませんでした。


「そんな事があったのか……全然気付かなかったな……心器使いの僕ですら気付けない事に、君はよく気付いたね」


「えっ……」


 それは氷華さんが、幽霊に近い存在だからでしょう。氷華さんは、自分が雪女だという事を弓弩くんに話していません。自分の秘密を知る者を、これ以上増やしたくなかったからです。

 だから、自分は氷を主に使う霊能力者だ、という事にしています。


「竜胆くんの力と私の力は違うから、そのせいだと思う」


 氷華さんはうまく誤魔化しました。


「いずれにせよ、君はその悪霊の事が気になるんだろう? じゃあ、今から尾形山に行ってみようか」


「えっ!? 今から!?」


 生徒や教師は眠らせているので、あまり長く離れなければ大丈夫でしょう。しかし悪霊は、既に誰かに憑依した後です。今さら尾形山に行ったところで、捕まえる事は出来ません。


「犯人は現場に戻るって言うだろう? 何にしても、僕は直接現場を見てない。僕が行けば、出来る事があるかもしれないからね」


 それは確かに、理にかなっています。


「善は急げだ。ラブインビジブルハープ!」


 弓弩くんは再び、弦を鳴らしました。すると、弓弩くんと氷華さんの姿が透明になります。技が掛かっている二人は、互いの姿をぼんやりと確認出来ますが、それ以外の人には全く見えません。

 授業中に抜け出すわけですから、万全を期しました。


「さぁ、行くよ!」


「きゃっ!」


 弓弩くんは氷華さんを抱き抱えると、窓を開けて飛び出しました。





 ◇◇◇





 愛奈ちゃん達は半助くんの後ろを歩いて、江口くん達が待っている場所に着きます。


「待ってたぜ、高崎」


 江口くんは笑みを浮かべます。愛奈ちゃん達を案内し終えた半助くんは、走って江口くんの隣に並びました。


「この場所って……!!」


 勇子ちゃんは、ここがどこなのか知っています。

 来る事自体は初めてですが、話を聞いて知っています。



 それは、祠がある場所でした。



「ちょっと……祠が開いてるじゃない!!」


 無造作に御札が散らばり、注連縄が落ちており、祠の扉が開いています。

 という事は――、


「――ふん。お前はこの祠の事を知っていたか」


 唐突に江口くんの口調が変わりました。


「あんた、いつもの江口じゃないね」


「それはこの身体の持ち主の名だ。もっとも俺の名など、お前達が聞く必要はない」


 愛奈ちゃんも、江口くんの様子がおかしい事に気付きます。


「勇子。何か知ってるなら教えて」


「氷華お姉ちゃんから聞いたのよ。あの祠には人間に取り憑く悪霊が封印されてるから、絶対に近付いちゃいけないって!」


「……!!」


 勇子ちゃんから情報を聞いて、友香ちゃんは戦慄しました。なぜなら、悪霊の目的がわかってしまったからです。


「そういう事だったのか!!」


「おかしいとは思ってたッス!!」


 事件の当事者の一人である甚吉くんと半助くんは、江口くんから距離を取ります。


「単刀直入に言うぞ。俺の目的は、お前の身体だ!!」


「ば、バカ!! あんたいつからそんな変態になったの!? あたしはあんたなんて全然タイプじゃないよ!! それにあたしには浩美先生が」


「バカはあんたよ!!」


「セクシャル!!」


 顔を赤くして両手で身体を隠していた愛奈ちゃんは、勇子にハリセンで頭を叩かれました。


「こいつに憑依した時、頭の中を見た。そうしたら、ずいぶんと強いガキがいるじゃないか。お前の強靭な肉体を手に入れて、俺は完全な復活を遂げる!!」


「やっぱり……!!」


 友香ちゃんの予想通りでした。

 悪霊が愛奈ちゃんを呼び出したのは、江口くんの復讐を代行する為ではありません。愛奈ちゃんの強さに目を付け、それを手に入れる為だったのです。


「そんな事させるわけないじゃん。取り憑かれる前にやっつけちゃうよ」


 幽霊を倒す方法はわかりませんが、とりあえず気絶させれば、愛奈ちゃんに取り憑く事は出来ないはずです。


「出来るかな? 俺はお前の知り合いの身体を乗っ取ってるんだぞ。それを忘れてるんじゃぼぶっ!?」


 愛奈ちゃんは何の呵責もなく、江口の顔面に拳を叩き込みました。


「……えっ?」


 あまりにあまりな行動に、悪霊は困惑しています。

 しかし、愛奈ちゃんは即座にもう一発、また一発、さらに一発と江口くんを殴りつけました。


「ちょっ! 待て! やめっ、やめろ!」


 悪霊は大慌て。愛奈ちゃんは一切容赦する事なく、江口くんを殴り続けます。


「やめろって言ってるだろ!!」


「おっと」


 悪霊は江口くん身体から黒いエネルギーを出し、愛奈ちゃんはそれをかわして距離を取りました。


「し、信じられん真似をするやつだ! お前、こいつの知り合いだろう!?」


「知り合いだけど好きじゃないよ。っていうか、ぶっちゃけそいつ嫌いだし。だから容赦は、しません」


「痛いっ! やめろ! だからやめろ!」


 愛奈ちゃんは今度は蹴りを織り混ぜて、再び江口くんを攻撃し始めました。


「取り憑く相手を間違えたとしか言えない」


 友香ちゃんはこの状況を見て呟きます。


「やめろこのくそガキ!!」


「おっと」


 またエネルギーを出してきたので、愛奈ちゃんはかわしました。


「むぅ~……江口って弱いくせにやたら頑丈だから、なかなか気絶しないよ。やっぱり手加減してちゃダメかな?」


「一応手加減はしてたんだ……」


 今度は勇子ちゃんが呟きました。


「こ、こうなったら……ハァッ!?」


「えっ!? うわあああああああ!!」


「わああああああああ!!」


 江口くんは甚吉くんと半助くんに手を向けて、黒いエネルギーを飛ばします。すると、二人は悲鳴を上げてから無表情になり、江口くんの隣に移動しました。

 悪霊自身、江口くんと愛奈ちゃんの力の差が、離れすぎている事はわかっています。なのでこのままでは勝てないと悟った悪霊は、自分の憑依能力を応用し、自分の力を取り憑かせ、甚吉くんと半助くんを操ったのです。


「どうだ!! こいつは嫌いかもしれんが、この二人はそうではないだろう!? さぁ、お前の身体を明け渡せ!!」


 今度は三人がかりで、一斉に愛奈ちゃんに飛び掛かりました。

 ですが、悪霊はとんでもない勘違いをしています。


「お前ら全員嫌い!!」


「「「ぎゃあああああああああああ!!!」」」


(ですよねー)


 愛奈ちゃんの拳の連打で吹き飛ばされる三人。甚吉くんと半助くんには江口くんほどの耐久力がないので、あっさり気絶しました。勇子ちゃんはわかりきっていた展開に、無言でした。


「これでふりだしだね。今度は本気でやっちゃうよ!」


 愛奈ちゃんは、紅蓮情激波の構えに入ります。



 その時でした。



「愛奈さん!!」


「浩美先生!! ダメ!!」


 浩美先生が駆けつけてきてしまったのです。

 愛奈ちゃんの反応を見て、絶対に傷付けられない人間だとわかった悪霊は、江口くんの身体から飛び出し、浩美先生の体内に入りました。


「きゃあああああああ!!」


「浩美先生!!」


 浩美先生は悲鳴を上げた後、がくりと肩を落とします。同時に、体内から悪霊が消えた江口くんは、その場に倒れて気絶しました。


「ま、まさか……」


 勇子ちゃんは震えながら一歩後ずさり、友香ちゃんは無言で勇子ちゃんの前に出ました。


「この身体は貧弱だが、お前の身体を手に入れるまでの繋ぎだと思えば、悪くない」


 勇子ちゃんの予想通りでした。浩美先生は、悪霊に憑依されてしまったのです。


「どうしよう!! あたし、人の身体から幽霊を追い出す技なんて使えないよ!! 友香!! 何か出来ないの!?」


「出来ない。そんな便利な能力使えない」


「もう!! いつもいつも肝心な時に役に立たないなぁ!!」


「こんな状況でなかったら地球の裏まで吹き飛ばしてる」


「あんた達いい加減にしなさいよ!! そんな事言ってる場合じゃないでしょ!?」


 口喧嘩を始める愛奈ちゃんと友香ちゃん。すると、悪霊は提案を持ち掛けました。


「お前が大人しくその身体を渡すなら、この女は離してやる」


「ほ、本当ね!?」


「ああ。俺は一人の人間にしか取り憑けないし、お前の強靭な身体さえ手に入れれば、こんな貧弱な身体に用はない」


 確かに、嘘を吐く理由はありません。愛奈ちゃんが自分の身体を差し出せば、悪霊はあっさりと浩美先生を返してくれるでしょう。


「わかった。じゃあ、あたしの身体をあげる」


「ふん。それでいい」


「だ、駄目よ愛奈!! あんたがいなくなったら、誰がこいつを止めるの!?」


「友香がいるじゃん。どうにでもなるよ」


 勇子ちゃんは止めましたが、愛奈ちゃんは悪霊の要求を飲むつもりでいます。


(愛奈はどんどん強くなってる。私でも止められるかわからない。それに止めたとしても、悪霊を愛奈の身体から追い出す方法がわからないから、結局勝てない)


 友香ちゃんはどうすればいいかを考えています。



 その時、



「勇子ちゃん!! みんな!!」


 弓弩くんにお姫様抱っこされた氷華さんが、愛奈ちゃん達と悪霊の間に割り込みました。山に着いた段階で透明化は解除しているので、愛奈ちゃん達にも姿が見えます。


「氷華お姉ちゃん!! ごめん!! 近付いちゃ駄目って言われてたのに、浩美先生が悪霊に取り憑かれちゃった!!」


「わかるよ。浩美先生から、すごく禍々しい気配を感じる!!」


「……邪魔が入ったか」


 勇子ちゃんは氷華さんに謝ります。悪霊は氷華さんを睨み付けました。


「藤堂さんから事情は聞いてるよ。こうなる前に何とかしたかったんだけど、さてどうすればいいかな……」


 弓弩くんも幽霊と戦うのは初めてです。幽霊に有効な技なんて使えません。


「……竜胆兄さん。背中に何貼り付けてるの?」


「えっ?」


 と、勇子ちゃんは弓弩くんの背中に、何かが貼り付けてあるのに気付きました。

 弓弩くんは背中に手を回し、それを剥がして見ます。

 紙でした。紙にはこう書いてあります。


『奴に闘気を叩き込め』


「いつの間にこんなものが……これは悪霊を倒す方法か?」


「闘気を叩き込めって、そんな事したら浩美先生死んじゃうでしょ!!」


 愛奈ちゃんは反論します。


「任せて。悪霊は私が浩美先生の身体から追い出す」


 そう言って、氷華さんはスカートのポケットから、一枚の御札を取り出しました。

 また回想入ります。




「ああすまない。ちょっとお待ち」


 氷雨さんは、旅立とうとしている氷華さんを呼び止め、御札を渡しました。


「もしかしたら、お前以外の誰かが封印を解くかもしれない。だからこれを持ってお行き」


 尾形山に封印された悪霊は、日本全国で危険視された強力な悪霊です。封印には人間だけでなく、妖怪も協力していました。

 氷雨さんはその時悪霊を封印した妖怪の一匹で、封印した後人間の僧から、悪霊が復活した時の備えとして、この御札をもらっていたのです。


「これを持っていれば悪霊には憑依されない。他の者が憑依された時、これを貼れば悪霊を追い出せる。ただし、長くはもたない一時しのぎだ。すぐに逃げるか封印するかのどちらかをする事。いいね?」




 回想終わり。


「私がこれを浩美先生に貼る」


 氷華さんは、浩美先生を救う事が出来る唯一のアイテムを構えました。


「そんなもの、使われるとわかっていて使わせるか!!」


 悪霊は妨害する為、浩美先生の身体を動かそうとします。


「うっ!?」


 しかし、動けませんでした。


「私が動きを止める。もう浩美先生の身体で、それ以上の好き勝手はさせない」


 友香ちゃんが念力で、浩美先生の身体を止めていたのです。

 その間に氷華さんが駆け出し、浩美先生の額に御札を貼り付けました。


「うがあああああ!!」


 悪霊は御札の力で浩美先生の身体から弾き出され、浩美先生は糸が切れた人形のように倒れます。氷華さんがすぐ受け止めました。


(ま、まずい!! 誰でもいいから早く取り憑いて……!!)


 もう自分を守る盾はありません。急いで再び江口くんに取り憑こうとしましたが、


「さっさと成仏しろ!!」


「ぎゃばっ!!?」


 勇子ちゃんがハリセンでツッコミを入れて、江口くんから弾き飛ばしました。


「ラブプリズンアロー!!」


「うげっ!!」


 勇子ちゃんは自分のハリセンが幽霊にも通じるとは思っていなかったので、驚いて震えていましたが、弓弩くんがそれに構わず、間髪入れずに矢を放ちます。矢は光の檻となって、悪霊を閉じ込めました。弓弩くんの心器は汎用性が高いです。


「よくも浩美先生を操ったね!! 絶対に許さない!! 紅蓮情激波―――!!!」


「ぎゃああああああああああああああああああああ!!!」


 愛奈ちゃんはかつてない威力を秘めた紅蓮情激波を放ちます。怒りの闘気は、檻ごと悪霊を消滅させました。





 ◇◇◇





「う……ん……」


「浩美先生!!」


 目を覚ました浩美先生に、愛奈ちゃんは抱き着きました。


「ま、愛奈さん? それに藤堂さんと、竜胆くんも……?」


「よかった……本当によかった……!!」


 特に後遺症なども残っていないようで、愛奈ちゃんは涙を流して喜びます。


「……ありがとうございます」


 浩美先生は何が起きたのかわかりませんし、自分が何をしたのかも覚えていませんが、愛奈ちゃん達が自分を助ける為に、すごく頑張ってくれたという事だけは、なんとなくわかりました。


「ん……ん~?」


「どうなったんだ?」


「何が起こったッスか?」


 同時に、江口くん達も目を覚まします。

 氷華さんと勇子ちゃんが、ここにある祠の事と、江口くん達が悪霊に操られていた事を話しました。


「まったく、何でこんな事したの? おかげで浩美先生が大変な事になったんだけど」


「お前のせいだよ。どうしてもお前にやり返したくてな」


「何それ!? どう考えてもあんたが悪いでしょ!?」


「うるせぇ!! 悪事を働かなくて何が江口ギャング団だ!!」


「こいつ全然反省してない!! もう怒った!! 今日という今日は徹底的に」


「まぁまぁ」


 今にも江口くんに殴り掛かろうとする愛奈ちゃんを、友香ちゃんが止めました。

 氷華さんが事情を聞きます。


「どうして悪霊の封印を解いたの?」


「……昨日変な女に会ったんだよ。んで高崎にやり返したかったら、そこの祠を開けろって」


「変な女?」


 今度は江口くん達が、昨日祠の事を教えた少女について話しました。


「フード被ってたから顔は見えなかったけど、なんかどっかで見た事のあるやつだったんだよ。あいつも俺達の事を知ってた。高崎に恨みがあったみたいだったしな。三年前に会ったとかなんとか……」


「あたしに恨み?」


「どういう事? 愛奈、誰か知ってる?」


「……全然」


 愛奈ちゃんは誰か全く知りませんでした。


(……三年前……まさか……)


 友香ちゃんは、一人だけ心当たりがありましたが、確証がなかったので黙っていました。




 尾形山から少し離れたビルの屋上。


「私ならあの女ごと消し飛ばしていたがな」


 フードを被った少女は尾形山を見ながら、独り言を言いました。


「まぁいい。奴が闘気を使えるようになったという噂が真実だという事は、確認出来た」


 その噂は、実際に闘気という言葉が入っていません。ただ、『高崎愛奈という少女が手から光を出せる』という噂です。

 しかし、噂だったとしても、彼女がこの町に戻るきっかけには充分でした。


「君! そこで何をしているんだ!」


 そこに、見回りに来たこのビルの警備員が、驚いて少女に駆け寄ってきました。


「黙れ」


 少女は驚くべき速度で動き、警備員の顔面に蹴りを喰らわせます。警備員は悲鳴も上げられず、一瞬で意識を刈り取られました。


「さて、次はじっくりと調べさせてもらうぞ、高崎愛奈。お前を釣り上げる餌をな」


 少女はそう呟き、姿を消しました。




 一方、尾形山の山頂では、


「お前らだらしねぇぞオラ!! 遠足だからって気を抜いてんじゃねぇぞオラ!!」


「ごめんなさい……」


「もう許して……」


 打造先生の気合で、生徒全員がダウンしていました。

うーん。タイトル詐欺だったような気がしないでもないような……


江口「全然逆襲出来てねぇ!!」

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