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エクストリームガールズ!!  作者: 井村六郎
春期始動編
8/40

第八話 お騒がせゴールデンウィーク!! 和来町の日常

 今までいろいろありましたが、笑特小もゴールデンウィークに突入しました。

 今日はゴールデンウィークの二日目。休める時間はまだまだ残っています。今日はどこに行こうかな? 明日は何をしようかな? そんな予定をたくさんの人が考えています。


「なのに何で勉強なんかしなきゃならないの~!?」


「しょうがないでしょ。休み明けにテストがあるんだから」


 愛奈ちゃんの嘆きに、勇子ちゃんは冷酷に答えました。

 彼女達はまだ学生です。勉強しなければなりません。今勇子ちゃんが言った通り、ゴールデンウィーク明けにはテストがあるのです。今愛奈ちゃん、勇子ちゃん、友香ちゃんのいつもの三人組は、テストに備えて勇子ちゃんの家で勉強会を開いていました。


「でもそんなに悪い事ばかりじゃない。テストが終わった後は……」


「遠足~~!!」


 友香ちゃんは愛奈ちゃんを慰めます。

 そうです。テストが終わってすぐ、一学期のメインイベントと言える大行事、遠足があるのです。


「遠足を思いっきり楽しむ為にも、テスト、頑張らなきゃね」


「それにテストでいい点を取ったら、浩美先生喜ぶ」


「!!」


 友香ちゃんが浩美先生の事を引き合いに出した瞬間、愛奈ちゃんが真剣な顔になって、勉強を始めました。


「これでしばらく黙ってる」


「さすが友香」


 愛奈ちゃんの扱いは手慣れたものです。とはいえ、愛奈ちゃんに負けてはいられません。二人もまた、机に向かいました。

 ちなみに今日の気分シャツには、『退屈日和』と書いてありました。





 ◇◇◇





 さて、この作品を読んで下さっている皆様は、これで終わりだと思いますか? 

 そんなわけありません。小学生の女子三人が、ただ黙々とテスト勉強をしているところなんて、面白いですか? まぁ面白いと思われる方もいるかもしれませんが、作者は面白くありません。

 この作品はとにかくカオスが売りです。平和なのは少しだけ。

 というわけで、今回はいつものメンバーから少し焦点をずらして、和来町の人々にスポットライトを当ててみます。

 ネタバレ。結局いつものメンバーも絡んできます。



 和来町の東側の住宅街。ここに、どこにでもありそうな普通の一軒家がありました。

 住んでいるのは、独り暮らしをしているサラリーマンの猫飼藤田さん。最近残業続きで、半ばブラック企業化している平和商事という会社で働いています。


「はーいメムちゃん。ごはんができまちたよ―」


 そんな彼の唯一の癒しは、飼っている黒猫のメムちゃんと触れ合う事です。メムちゃんはお気に入りのキャットフードをもらって、美味しそうに食べ始めました。


「メムちゃんは可愛いでちゅね~」


 赤ちゃん言葉でメムちゃんに話し掛ける猫飼さん。メムちゃんはそれを無視して、ご飯を食べ続けています。


「……今日ぐらいはのんびりしたいところだけど……」


 そう言って猫飼さんは、冷蔵庫の中から瓶を一本、取り出しました。ラベルには、『元気億倍!! パワードEX』と書かれています。

 これはドリンク剤です。今日は休みですが、猫飼さんは最近の激務のせいで、休日でもドリンク剤を飲んでしまうという、超重度のドリンク剤フェチになってしまったのです。


「今のところまだ休日出勤はないけど、この分だといつそうなるかわからないんだよなぁ……用心して飲んどこう」


 猫飼さん、すっかり社畜の精神ですね。ともあれ、猫飼さんは瓶を開けようとします。


「ん?」


 しかし、この瓶は妙に固く閉められており、開きません。


「このっ……!!」


 猫飼さんは瓶を握り直し、さらに力を入れて蓋を回しました。


「ああっ!!」


 蓋は開きましたが、力を入れすぎたせいで、中身がこぼれてしまいました。


「ヤバいヤバい。雑巾雑巾」


 猫飼さんは慌てて雑巾を取りに行き、雑巾を一枚持って戻ってきました。

 と、メムちゃんが床にこぼれているドリンク剤を、ぴちゃぴちゃと舐めています。猫は興味を持ったものの匂いを嗅ぎ、たまに舐めようとしますからね。


「メムちゃん!! それメムちゃんが飲めるものじゃないよ!!」


 猫飼さんは驚いてメムちゃんを抱き抱え、ドリンク剤から離れている場所に置きます。



 しかし、時既に遅しでした。



「ウウウウ……ニャアアアアアア!!!」


 突然メムちゃんの全身の筋肉が盛り上がったかと思うと、元に戻り、その後メムちゃんは窓を突き破ってどこかに走っていってしまいました。


「メムちゃん!! メムちゃぁぁぁぁぁぁん!!!」


 猫飼さんは床の汚れを拭く事も忘れて、メムちゃんを追い掛けました。

 テーブルに置かれたパワードEXの注意書に、こう書いてありました。


『当製品は非常に強力です。二十歳以上の方のみが、疲労で生活に支障をきたされている場合のみ、一日一本の用量を必ず守ってご使用下さい。注意点を守らなかった場合、どのような症状が発症しましても、当社は一切の責任を負いません。予めご了承下さいませ』





 ◇◇◇





 浩美先生は体育の担当教師ではありません。しかし、教師という子供の模範となるべき人間ですから、健康には気を使っています。


「!!!」


 そんな浩美先生が、体重計に乗って絶句していました。


「ふ、太ってる……!!」


 それから、体重計の上に震えながら座り込みました。




 なんて事があった浩美先生は、現在ジャージに着替えて、町内マラソンをしています。


(1キロも増えてた!! 1キロも増えてた!! 痩せなきゃ!! 痩せなきゃ!!)


 浩美先生は身体を動かすのがあまり得意ではないので、ついつい運動不足になりがちです。なので油断すると、すぐこうなっちゃうんですね。


(痩せなきゃ痩せなきゃ痩せなきゃ痩せなきゃ……)


 愛奈ちゃんのようにとはいきませんが、やはり運動は大事だという事を思い知り、浩美先生は走ります。

 でも普段身体を使わない人が急に動こうとすると、


「はぁ……はぁ……」


 すぐ息切れしてしまいます。浩美先生は五分で走れなくなってしまいました。壁に両手を着いて、両足はガクガクと震えています。


「ちょっと……計画性なさすぎたかしら……」


 体重が増えた事に気が動転しすぎたと、反省する浩美先生。もう少し休んで、息が整ってからまた走ろうと、近くのベンチに腰掛けます。



 その時でした。



「ウニャー!!」


 何かが浩美先生の目の前を、何かがものすごいスピードで横切ったのです。


「……えっ……」


 続いて、胸元が何だかスースーしてきました。浩美先生が目を落としてみると、何とジャージの胸元がズタズタに引き裂かれており、そしてブラジャーがなくなっていました。


「きゃああああああああああああああ!!!」


 浩美先生は両手で胸を隠し、上体を伏せて、悲鳴を上げました。





 ◇◇◇





「はっ!! 浩美先生!!」


 浩美先生の危機を敏感に察知した愛奈ちゃんは、宿題を放り出して家を飛び出しました。


「ちょっと愛奈!!」


「追い掛ける?」


「もちろん!!」


 愛奈ちゃんを一人には出来ません。友香ちゃんの念力を使って、二人は猛スピードで走る愛奈ちゃんを追い掛けます。


「いってらっしゃ~い」


 尚子さんが見送りましたが、三人は気付きませんでした。


「浩美先生お待たせ!! どうしたの!?」


 あっという間に浩美先生の前にたどり着きました。


「何かが私の前を通って、通ったと思ったら、私の服が……ブラジャーが……!!」


 浩美先生、もう愛奈ちゃん達が駆け付けた事にはツッコミません。赤面しながら、今さっき起きた事を話します。


「ええっ!? 浩美先生下着ドロに襲われたの!? じゃあ今あたし浩美先生の生乳触り放題って事!?」


「邪悪な事を考えるな!! あと声がでかい!!」


 相変わらずな愛奈ちゃんに、勇子ちゃんは怒ります。浩美先生はただでさえ赤くなっている顔をもっと赤くして、縮こまってしまいました。


「犯人は見てないんですか?」


「それが……何も見えなかったんです」


 友香ちゃんが詳細を訊きます。追い掛けようにもどんな相手だったのかがわからなければ、探しようがありません。しかし浩美先生は、犯人の姿が見えませんでした。何かが通りすぎたとしかわからなかったのです。


「すいません!!」


 するとそこに、猫飼さんがやってきました。


「あの、ウチのメムちゃんを見ませんでしたか!?」


「め、メムちゃん?」


 浩美先生はは聞き返します。


「あ、私が飼ってる猫の事なんですけど、黒猫です!」


「……そういえば、猫の鳴き声が聞こえた気がします!」


 その言葉を聞いて、三人はピン、ときました。浩美先生を襲ってブラジャーを剥ぎ取っていった何者かは、そのメムちゃんに違いありません。


「でも、どうして猫が先生のブラジャーなんて取ったの?」


「だから言うな!!」


「めごふ!!」


 一切の恥じらいなくブラジャーという言葉を口に出した愛奈ちゃんを、勇子ちゃんがハリセンで叩きます。


「実は、私が今日飲もうとしていたドリンク剤を、誤って飲んでしまって……」


 ああ、なるほど、と四人は思いました。言うまでもありませんが、ドリンク剤は人間に合わせて作られています。それを動物が、それも人間より小さい猫が飲んだらどうなるか。特に猫飼さんが飲ませたパワードEXには、興奮剤としての成分も含まれています。だからメムちゃんは興奮しすぎてしまって、自分でも意味不明な事をしてしまっているのです。


「とにかく、その猫を捕まえないと! 浩美先生! 猫がどっちに走っていったかわかる!?」


「一瞬しか見えませんでしたけど、あっちです!」


「ありがとう!! じゃあちょっとブラジャー取り返してくる!!」


「だから言うなって!!」


 勇子ちゃんがツッコミを入れる暇もなく、愛奈ちゃんは浩美先生が指差した方向に走り出し、あっという間に見えなくなりました。


「ありがとうございます!! メムちゃーーん!!」


 猫飼さんも追い掛けました。


「仕方ないから、私達も追い掛けるわよ!」


「了解」


 勇子ちゃんは友香ちゃんにお願いして、念力で飛んで愛奈ちゃんを追い掛けます。


「みんな……」


 浩美先生は無事ブラジャーを取り返せるかどうか、不安になりました。

 もっとも強い力で無理矢理ひっぺがされたんで、取り返せたとしてもホックやら何やらが大惨事になってる可能性もありますけどね。





 ◇◇◇





「見つけた!!」


 走り出して数十秒後、愛奈ちゃんは凄まじい速度で走る一匹の黒猫を見つけました。車よりも速く走っていますし、口にブラジャーをくわえています。間違いなく、あれが件のメムちゃんです。


「待て―!! 下着泥棒猫―!!」


 メムちゃんを追い掛けて、さらにスピードを上げる愛奈ちゃん。一方メムちゃんも、なぜかスピードを上げます。猫は人見知りが激しいから、知らない人に追い掛けられると逃げちゃうんですね。


「メムちゃん……待っ……」


 一般人程度の速度でしか走れない猫飼さんは、追いつけません。息切れしてます。それを、勇子ちゃんと友香ちゃんが追い抜きました。


「ねぇ、追い抜いちゃったんだけど……」


「構ってる暇はない」


 友香ちゃんの念力にも有効射程範囲があり、その中に入れられなければメムちゃんは捕まえられません。今メムちゃんを捕まえようと、友香ちゃんも必死です。


「こ、こうなったら……!!」


 猫飼さんは近くにコンビニがあるのを見つけ、急いで中に入り、パワードEXを買って飲みました。すると、メムちゃんのように全身の筋肉が一瞬大きく肥大化し、それから元に戻ります。


「パワー億倍!! 待ってろよメムちゃん!!」


 パワードEXで能力が上がった猫飼さんは、メムちゃんや愛奈ちゃんと同じ速度で走り始め、勇子ちゃんと友香ちゃんを追い抜きました。目には目を作戦です。財布を持ってきていたのは幸いでしたね。


「今度は追い抜かれたけど!?」


「すぐに追いつく」


 友香ちゃんは念力を強め、速度を上げました。




 その頃、


「あなた。お話があります」


「奇遇だな。俺もお前に話がある」


 ここに、一組の夫婦がいました。夫の怒野髪木さんと、妻の爆さんです。

 この二人はいつも何かに対して怒っており、常に夫婦喧嘩が絶えません。


「今日こそ、離婚届にサインをお願いします!」


 そう言って爆さんは、机の上に離婚届を叩きつけました。溜まりに溜まった不満が、遂に爆発したのです。


「おう! お前みたいな暴力女、こっちから離婚してやる!!」


 すると、髪木さんが立ち上がって怒ります。


「何を!! あんたこそ暴力夫でしょうが!!」


 爆さんも負けじと立ち上がりました。


「こんのお前言わせておけば!!」


「うるさいよクソ亭主!!」


 サクッと離婚すれば済むだけの話なのに、それが出来ないのがこの夫婦。取っ組み合いの喧嘩を始めてしまいました。



「ニャー!!」



 その時、壁を突き破ってメムちゃんが飛び込み、また壁を突き破って外に出ていきました。


「待て―!!」


 遅れて愛奈ちゃんが、同じように壁を破壊して侵入、逃走し、


「メムちゃーん!!」


 猫飼さんが同上。


「すいません通して下さーい!!」


 最後に勇子ちゃんと友香ちゃんが通過しました。


「な、何だったんだ今のは……」


 あまりに突然の出来事に、髪木さんと爆さんは驚いて思わず喧嘩をやめてしまいました。


「あ、あんた!」


 と、爆さんが気付いて指差します。

 今愛奈ちゃん達が通ったところは、ちょうど机があるところでした。そしてその机の上には離婚届が置いてあり、愛奈ちゃん達が通ったそこにあった離婚届は、見る影もないほどボロボロになっていたのです。これではサインなど出来るはずがありません。


「あいつらよくも……!!」


「私達の離婚の邪魔を……!!」


「「許さん!!!」」


 この二人が一番嫌いな事は、誰かに自分達の喧嘩を邪魔される事です。


「待てこのクソガキどもがーー!!!」


「慰謝料払え―!!! 修理代払え――!!!」


 髪木さんと爆さんはそれぞれ金属バットを持ち、愛奈ちゃん達を追い掛けました。




「ほっほっほ……」


 ここに、お屋敷がありました。庭に一人、おじいちゃんが出ています。

 三上荘二郎さん。二年前に定年退職し、今は趣味の盆栽弄りに毎日を費やしている日々です。


「さあ今日も、キレイキレイにしましょうね~」


 そう言いながら、ハサミを持って盆栽を手入れします。端から見るとかなり危ない人ですが。


「ウニャー!!」


「待て―!!」


「メムちゃ―ん!!」


「すいませ―ん!!」


「「お前ら待てやぁぁぁぁぁ!!」」


「ぎゃあああああああああ!!!」


 しかしその時、愛奈ちゃん達が現れて荘二郎さんの前を通り、荘二郎さんは驚いて飛び退きました。


「ほぺああああああああああああ!!!!」


 次に、大事にしていた盆栽が全て破壊されているのを見て、二度目の悲鳴を上げました。


「よくもわしの可愛い盆栽ちゃん達を……許さぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」


 怒った荘二郎さんは鎌を両手に持って、愛奈ちゃん達を追い掛けました。




 テレビ局。今ここに、一人の女優が到着しました。彼女の名は、花園美羽。下積み生活からトップスターに登り詰めた、和来町出身の女優です。


「美羽さん!!」


「美羽さん何か一言!!」


 テレビ局には記者が大勢押し寄せ、美羽さんにインタビューしようとしています。


(うふふ。今じゃ私が、トップスターか……)


 厳しい下積み時代と、今の自分の姿を重ねる美羽さん。感慨深いものがあります。


(これからは、私の時代よ!)


 自分はトップスターとして、芸能界に名前を残す。これからそんな華やかな未来が、自分を待っている。美羽さんはそう感じていました。


「ニャニャニャニャニャニャニャニャ!!」


「待て待て待て―!!」


「メムちゃぁぁぁぁん!!」


「本当にごめんなさーい!!」


「「うおおおおおおおお!!」」


「殺しちゃるわぁぁぁぁぁ!!」


「あらららららら―!!?」


 しかし、報道陣を蹴散らしてきた愛奈ちゃん達が、猛スピードですれ違った反動で高速回転。治まった時、美羽さんはセットしたメイクも髪型も、台無しになっていました。


「私の薔薇色人生をよくも――!!」


 やはり怒った美羽さんも、愛奈ちゃん達を追って駆け出しました。





 ◇◇◇




(どうしよう。動けない……)


 浩美先生は困っていました。何せジャージを引き裂かれ、ブラジャーをひん剥かれたのです。両手で隠していますが、何かの拍子で丸見えになってしまうかもしれません。自分の胸の大きさを、今ほど恨んだ事はありませんでした。


(こんな事なら、せめて松下さんか要さんのどっちか片方についててもらえばよかった……)


 愛奈ちゃん達がメムちゃんの捜索に行ってすぐ気付いた事を、後悔しながら思い直す浩美先生。


「あれ? もしかして浩美先生ですか?」


 すると、そこに氷華さんと弓弩くんが通りがかりました。今日はゴールデンウィークなので、デート中です。


「どうしたんですか? 気分が悪いんですか?」


「ち、違います。実は……」


 近付いてくる二人に、浩美先生は事情を説明しました。


「そうでしたか。じゃあ、僕の上着を使って下さい。悪いけど氷華さん、君が着せてあげてくれないか。僕は後ろを向いてるから」


「わかった」


 弓弩くんは自分の上着を氷華さんに渡して後ろを向き、氷華さんは上着を浩美先生に着せてあげました。弓弩くんの上着はチャックが付いているので、ちょうど浩美先生の胸が隠れます。


「もういいかな?」


「いいよ弓弩くん」


 氷華さんに確認して、弓弩くんは浩美先生に向き直りました。結構気遣いが出来る人です。


「それにしても災難でしたね。彼女は一体どこまで探しに行ったの……か……」


 愛奈ちゃんを探す弓弩くん。と、ある方向を見た弓弩くんの表情が、固まりました。


「どうしたの弓弩くん?」


「……あれ」


 氷華さんが尋ね、弓弩くんがその方向を指差します。二人は弓弩くんの指の先を見ました。



「ウニャァァァァァ――!!」


「待―て―!!」


 その先には、メムちゃんとそれを追い掛ける愛奈ちゃん。そしてそれを追い掛ける、猫飼さん、勇子ちゃん、友香ちゃん、怒田夫婦、荘二郎さん、美羽さんがいます。

 いえ、それだけではありません。

 シェフや八百屋さんや肉屋さんや子供に両親に外人、とにかくたくさんの人が追い掛けてくるのが見えました。桃野さんと美魅さんが乗るミニパト、マッシヴファイターやニードル忍者の姿も見えます。


「な、何あれ!?」


「どうなってるんですか!?」


 これには氷華さんも浩美先生も唖然としていました。どうしてこんな事になったのかわかりません。

 詳しく説明させてもらいますと、愛奈ちゃん達はメムちゃんを追い掛けて、和来町を一週したんです。その間に色んな人から怒りを買って、追い掛け回されているんですね。


「あれが件の猫か……」


 こんなあり得ない状況を目にしているのに、弓弩くんは最初ちょっと驚いただけですぐ冷静さを取り戻していました。

 この事態を解決するには、とにかくメムちゃんを捕まえなければなりません。弓弩くんは自分の心器、ラブハートアーチェリーを出すと、矢をつがえて放ちました。


「ラブキャッチアロー!!」


 その矢は光の紐で、ラブハートアーチェリーと繋がっています。そして矢の先端がマジックハンドのように開き、メムちゃんを捕まえました。


「捕まえた!」


「ウニャー!!」


 弓弩くんは紐を引っ張ってメムちゃんを引き寄せ、矢を持ちます。メムちゃんは暴れますが、弓弩くんの手に届きません。


「弓弩お兄ちゃん!! 氷華お姉ちゃんも!! こんな所でどうしたの!?」


「ちょっとね」


 そこに、愛奈ちゃん達が追い付いてきました。


「ああっ!! メムちゃん!!」


 メムちゃんに飛び付く猫飼さんに、弓弩くんは矢を解除して渡します。


「ニャニャニャニャ!!」


「あだだだだだ!!」


 しかしまだ興奮しており、猫飼さんの顔面を思いきり引っ掻きました。



 ですが、残念ながらまだまだ、めでたしめでたしとはいきません。



 愛奈ちゃん達を追い掛けてきた人達が、全員一同を取り囲みました。その顔は、全員例外なく怒っています。


「これ、やばいよね……」


「ちょっと愛奈!! あんたのせいでこうなったんだから何とかしなさいよ!!」


「えー!? 不可抗力だよ―!!」


「全員ねじふせてみる?」


「やめなさい!!」


 愛奈ちゃん達三人組は、どうしたらいいかで揉めています。

 しかし、弓弩くんは冷静でした。


「まぁまぁ皆さん落ち着い……てっ!!」


 にこやかに笑ったかと思うと、ラブハートアーチェリーに矢をつがえ、真上に向けて放ちます。


「ラブヒーリングアロー!!」


 その矢は空中で破裂し、細かい光の雨となって、全員の上に、いえ、町全体に降り注ぎました。


「……あれ? 私何で怒ってたんだっけ?」


 誰かが呟きました。全員が、そんな顔をしています。

 ラブヒーリングアローは癒しの矢。光に当たった者の傷と心を癒します。これでみんなの精神を抑えました。


「帰ろうか」


「そうだね。離婚届ならまたもらえばいいし」


「盆栽ちゃんはまだまだあるからのう」


「今から収録があるんだった。こんな事してる場合じゃないわ。そこの婦警さん、テレビ局まで乗せて下さる?」


「いいですよ―」


「本当はこういう使い方しちゃいけないんですけど、今気分がいいからいいです」


「ふむ、何か勘違いをしていたようだ」


「そのようだな」


 誰も彼もが口々に言い、帰っていきます。


「弓弩お兄ちゃんって、こんな事も出来るんだ……」


「これで、君に借りを返せたね」


「むぅ~! 悔しいけど助かったよっ!」


 弓弩くんはこの前愛奈ちゃんに負けた借りを、ようやく返す事が出来ました。


「皆さん、本当にありがとうございました!」


「にゃ~ん」


 猫飼さんとメムちゃんも、すっかり元に戻っています。





 ◇◇◇





「そっか~。じゃあ浩美先生は、ダイエットしようと思ってあんな所にいたんだね」


 猫飼さん達と別れた愛奈ちゃん達は、浩美先生を家に送っていました。


「はい。無計画なダイエットは、色んな意味でいけないってわかりました」


 浩美先生は私服に着替え、弓弩くんに借りた上着を返します。


「じゃあ私達も、勉強に戻りましょうか」


「え~!?」


「え~じゃないわよ。私達は計画立てて勉強してたんだから」


「でも、いい気晴らしにはなった」


 友香ちゃんの言う通り、たまには休憩も必要です。


「……あっ!!」


 と、愛奈ちゃんが突然大声を上げ、


「浩美先生の生乳揉むの忘れてた!!」


「いい加減にしろ!!!」


「パイ!!!」


 勇子ちゃんにハリセンで叩かれました。ゴールデンウィークのある一日の出来事でした。

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