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エクストリームガールズ!!  作者: 井村六郎
春期始動編
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第五話 激騒カーチェイス!!

何でだろう……どうしてこんなに長くなっちゃうんだろう……まだ無駄な文が多いのかな……。

「きゃああああああ!!」


 浩美先生は今日も、江口ギャング団にいたずらされました。また、スカートめくりです。


「「しつこいんだよ!!」」


「「「ぶべーーー!!!」」」


 激怒した愛奈ちゃんと勇子ちゃん。何も言っていませんが、実は今回の制裁には友香ちゃんも参加してます。愛奈ちゃんは馬鹿力の拳で、勇子ちゃんはハリセンで、友香ちゃんは念力で、江口ギャング団を殴り飛ばし、いつものように頭を天井にめり込ませました。


「ったく、懲りない連中だよね。他にやる事ないのかな?」


「今回ばかりはあんたと同じ気持ちね。本当に毎回毎回、低レベルないたずらばっかり」


 愛奈ちゃんと勇子ちゃんは呆れています。今回ばかりというか、江口ギャング団に限った話だと思いますが。


「あの……助けてくれるのは嬉しいんですけど、これはちょっとやりすぎというか……」


 浩美先生は天井に突き刺さって首から下をプラプラさせている江口ギャング団を見ながら言いました。いや、やりすぎとかそういう次元じゃないんですが。


「やりすぎじゃないですよ。スカートめくりなんて、これぐらいされて当然です」


「そうそう! まだ足りないくらいだよ!」


 勇子ちゃんと愛奈ちゃんは、江口ギャング団への怒りを露にしています。愛奈ちゃんはもっとやりたいそうですが、やめてあげて下さい。いくらギャグ小説で死人が出ないとはいえ、あまり痛い目に遭うと可哀想です。それが例え自業自得であっても。


「私はこの作品で初めて江口ギャング団にツッコミました」


「あ、はい……」


 友香ちゃん。メタ発言は出来る限りやめて下さい。


「っていうかさぁ。浩美先生にそういう事していいのは……」


 愛奈ちゃんは友香ちゃんを無視して、浩美先生の背後に回り込み、


「あたしだけだから!!」


「きゃあああああああああああああ!!!」


 浩美先生のスカートの中に頭を突っ込みました。


「今日は青だね!」


「いやあああああああ言わないでぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 愛奈ちゃんが浩美先生のパンツの色を言ったので、浩美先生は悲鳴を上げ、周りの生徒達は赤面しています。


「うえ!?」


 しかし、友香ちゃんに念力で引っ張り出され、


「何やってんだこのすっとこどっこいが―――!!!」


「ぼばあああああああああああ!!!!」


 ハリセンで叩かれ、頭から壁に突き刺さって動かなくなりました。


「浩美先生。授業を始めましょう」


「そうしましょうそうしましょう」


 勇子ちゃんと友香ちゃんが、早く授業を始めるよう言います。


「で、でも……」


「「始めましょう」」


「……はい……」


 愛奈ちゃん達の事が気になる浩美先生ですが、二人から圧力を掛けられて、仕方なく授業を始めました。


「で、では皆さん。教科書の十五ページを開いて下さい」


 浩美先生の担当教科は、国語と道徳と学活です。


「じゃあこのページを……千景さん、音読して下さい」


「は、はい……」


 浩美先生から指名された千景という女の子は、ページの音読を始めます。

 ですが……


(気まずい……)


 天井と壁に突き刺さっているクラスメイトが気になって、すごく居心地が悪そうでした。それは勇子ちゃんと友香ちゃん以外の全員がそうでした。





 ◇◇◇





「おじいちゃん!」


「おお、どうした愛奈?」


 亮二さんが居間でお茶を飲んでいると、愛奈ちゃんが駆け込んできました。


「あたし、もっと強くなりたい! あたしに稽古を付けて!」


「む!?」


 これには亮二さんも驚きです。


「おじいちゃん前に行ってたでしょ? 修行するより組み手した方が強くなれるって!」


「う、うむ……確かに言ったが……うーむ……」


 亮二さん、悩んでます。実戦の方が強くなれるとはよく聞く話ですが、それは相手が自分と同格か、それ以上の場合に限られます。はっきり言って、愛奈ちゃんはもう亮二さんより強いんです。気功波とか撃てませんし、飛んでくる銃弾を見切って掴んで握り潰すなんて出来ませんし。愛奈ちゃんより弱い亮二さんでは、組み手の相手になるなんてとても無理なんです。


「お願い!! あたしもっと強くなって、浩美先生を守れるようになりたいの!!」


「……浩美先生か……」


 亮二さんは、浩美先生に会った事がありません。ですが、愛奈ちゃんの必死な姿から、愛奈ちゃんにとってとても大切な人だという事はわかります。


「わかった。組み手の相手は出来んが、お前が強くなれるよう、出来る限りで協力しよう」


 そんな愛奈ちゃんの姿を見て、おじいちゃんが首を横に振るなど、決して出来ません。


「ありがとうおじいちゃん!!」


 愛奈ちゃんはお礼を言いました。





 ◇◇◇





「おはよう友香」


「おはよう」


 翌日、勇子ちゃんと友香ちゃんは、いつも通り登校しました。


「今日もまた、愛奈に会わなきゃいけないのね……」


「つらい?」


「そういうわけじゃないけど、いつもいつもやらかされると、その相手するのに疲れるのよ。愛奈自体は、全然嫌いじゃないんだけどね」


 勇子ちゃんはため息を吐いています。まぁあの子はボケ担当ですし。


「でもその割りには楽しそう」


「えっ?」


「私には、愛奈と一緒にいる時の勇子が、一番楽しそうに見える」


 なんというか、イキイキしてますよね。


「ば、バカっ!」


 勇子ちゃんは顔を真っ赤にして、そっぽを向きました。そんな勇子ちゃんを目にして、友香ちゃんは珍しく微笑んでいます。


(そんなわけないじゃない! 楽しくなんて……)


 勇子ちゃんは自分の中に芽生えた気持ちを、どうにかして消し去ろうとしていました。



 と、



「715!! 716!! 717!!」



 誰かの声が聞こえて、二人は立ち止まりました。数を数えているようでしたが……。


「……ねぇ友香。今、愛奈の声が聞こえた気がするんだけど……」


「私も」


 気のせいか、その声は愛奈ちゃんにとても良く似ていた気がするのです。



「718!! 719!! 720!!」



 そして、それは気のせいではありませんでした。



「721!! 722!! 723!!」



 二人の横を、軽トラックが通り過ぎました。愛奈ちゃんがその軽トラックの荷台にロープで両足を縛り付け、引きずられながら腹筋をしていたのです。



「ええええええええええええ!!?」


 驚く勇子ちゃん。これには友香ちゃんも、目を見開いて驚いています。


「何してんのよ!?」


 勇子ちゃんはツッコミましたが、愛奈ちゃんは軽トラックに引きずられているので、もう向こうです。


「追いかける?」


「もちろんよ!! えっ?」


「わかった」


 勇子ちゃんが聞き返す暇もなく、二人の身体は浮き上がり、軽トラックに向かって飛んでいきました。


「ええっ!!? これどうなってるの!!?」


「念力で浮かせて飛ばしてるだけ」


 友香ちゃんは冷静に説明しました。念力で自分や他人を浮かせて飛ばせば、空中浮遊の代わりになります。


「もう追いつく」


 速いです。軽トラックは50キロは出しているのに、二人はもう追いつきました。


「愛奈!!」


「732……ええっ!? いさちんに友香!? 二人とも何してるの!?」


「それはこっちのセリフよ!!」


 愛奈ちゃんに逆に驚かれました。いやまぁ、どっちもどっちなんですけどね。


「あんた何してんの!?」


「修行だよ。トラックに引きずられながら、腹筋するの。その間、牙鎧呼法で身体を守るんだよ。町内一周で一セット。今二セット目」


 愛奈ちゃんがやっている修行は、耐久力と持久力、腹筋と呼吸法を鍛える修行です。

 長時間軽トラックに引きずられる事で、愛奈ちゃんの身体は常に攻撃されている状態になります。だから、先日披露した牙鎧呼法で、身を守らなければなりません。呼吸が乱れれば、牙鎧呼法による防御は機能しなくなり、摩擦で大惨事になります。

 加えて呼吸を乱しやすくなるよう、腹筋を並行して行います。極限まで身体を痛めつけながら呼吸法を維持する事で、その呼吸法を平常時でもごく自然に行えるようになるのです。

 愛奈ちゃんは頑丈ですが、弓弩くんのようにその防御を貫いてくる相手との戦いに備えなければなりません。牙鎧呼法を使えば、頑丈になるだけじゃなくて、力も強くなりますからね。


「あんた、今普通に話してるけど、大丈夫なの?」


 勇子ちゃんは不安になりました。今話している間も、愛奈ちゃんの背中はアスファルトと擦れまくって、すごい音を出してます。ズザザザザー!! じゃなくて、ガガガガガー!! って音です。それだけ今の愛奈ちゃんが頑丈になってるって事なんですね。


「大丈夫大丈夫! 牙鎧呼法はちゃんと使えてるから!」


 どうやら呼吸自体は、何も問題がないようです。愛奈ちゃん、早くも牙鎧呼法を平常時でも使えるようになってきてます。


「あ!!」


 と、突然愛奈ちゃんが大声を出しました。


「ど、どうしたの!?」


「二人がいきなりあたしの横まで飛んできたから、びっくりして何回腹筋してたか忘れちゃったじゃん!! どうしてくれんの!?」


 何かと思えば下らない心配です。まぁ、本人からしたら大真面目な問題ですが。


「732回」


「ありがとう! さっすが友香!」


「いや覚えてたの!?」


 友香ちゃん、結構頭はいいですからね。


「じゃあ続けるから、邪魔しないでね」


「いや、邪魔しないけど……でももうすぐ登校時間よ? 大丈夫なの?」


「平気平気。カバンとかみんなおじいちゃんが持ってるし、このまま学校まで送ってもらうから」


 愛奈ちゃんはこの体勢のまま、学校まで行くそうです。それはそれで大惨事になりそうなんですが……。


「ったく、この修行バカ。友香、付き合いきれないから、私達はもう学校行くわよ」


 愛奈ちゃんの修行に付き合う義理はないので、勇子ちゃんはもう登校する事にしました。


「……友香?」


 しかし、友香ちゃんは念力を止めず、下ろしてもくれません。


「聞こえなかった? 学校行くから下ろして」


「面白そうだから付き合う」


「は!? じゃああんただけ付き合いなさいよ!!」


「旅は道連れ」


「は、はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」


 というわけで、勇子ちゃんも道連れにされる事になりました。





 ◇◇◇




 一台のミニパトが走っていました。


「まさかこんな朝早くからパトロールなんてやらされるとはね―」


「まぁまぁ。これも一応仕事だし」


 ミニパトには、二人の婦警さんが乗っています。運転しながらぼやいたのは、小林桃野さん。助手席にいるのは、玉城美魅さんです。

 和来町に異常がないか、婦警さん達はパトロールをしています。とても頑張ってますね。

 さて、二人がミニパトを走らせていると、交差点に差し掛かりました。二人が走る車線は、信号が赤です。公的機関の模範として、ミニパトを停めました。



 その時でした。ミニパトの目の前を、軽トラが通りました。



 ただの軽トラではありません。荷台に足をくくりつけた女の子を引きずり、しかもそれと並行する形で女の子が二人、飛んでいます。



「「ぶっ!?」」


 これには二人も噴きました。二人からはよく見えませんが、軽トラを見ていた他の車に乗っている人達も、目玉が飛び出さんばかりに驚いています。


「な、何よあれ!?」


 美魅さんはわけもわからず、ただ驚くばかりです。まぁちゃんと事情を説明してもらわなければ、何が起こっているのかさっぱりわからないでしょう。


「美魅。追いかけるわよ」


「え?」


 桃野さんの言葉に、美魅さんはまた驚きます。

 その時に、美魅さんは桃野さんの目を見ました。桃野さんの目には、『面白そう』という文字が浮かんでいました。どういう理屈でこうなっているかわかりませんが、とにかくこうなっていました。


「ああ~!! 桃野の悪い癖がまた始まった!!」


 美魅さんは頭を抱えます。

 桃野さんは厄介そうな事、面白そうな事を目にすると、絶対に関わろうとするのです。しかも、美魅さんを巻き込んで。


「行くわよ!!」


「きゃあ!!」


 桃野さんは美魅さんの返答を聞かず、パトランプのスイッチを入れ、サイレンを鳴らし、猛スピードで愛奈ちゃん達の軽トラを追いかけました。急な加速で美魅さんが悲鳴を上げます。


(いや、確かにこの状況は追いかけるのが正解なんだけど……!!)


 もう一つ問題があります。それは、桃野さんが自分と美魅さんの二人だけで、厄介事を解決しようとする事です。


「桃野!! 本部に応援を要請した方がいいわ!! だってあの内の誰か知らないけど、能力者がいるもの!!」


「冗談!! 応援を呼んだりなんかしたら、私の楽しみが減るじゃないのよ!!」


 こんな感じで、美魅さんが応援を呼ぶよう言っても、桃野さんは絶対に断ってしまうのです。


「ああもう!!」


 こうなったらどうにもなりません。美魅さんは大人しく運転を桃野さんに任せる事にしました。





 ◇◇◇





 一方愛奈ちゃん達。


「ねぇ!! パトカーが追いかけてくるんだけど!?」


 最初に気付いたのは、勇子ちゃんでした。


「800……あ、ほんとだ」


「リアクション薄っ!」


 勇子ちゃんに言われて気付いた愛奈ちゃん。ですが、その反応は自分の周りを飛ぶ虫に気付いた時のように、とても薄いです。


「早くおじいちゃんに教えて、停めてもらわなきゃ!!」


「任せて」


 言われた友香ちゃんが、軽トラの運転席の横まで身体を進め、窓を叩きます。友香ちゃんの存在に気付いた亮二さんが、窓を開けました。


「おお、友香ちゃんか。どうしたのかな?」


「後ろからパトカー」


「ん?」


 言われて亮二さんは、ミラーで後ろから、ミニパトが追いかけてきているのを確認します。


「あ、ほんとだ」


 亮二さん、愛奈ちゃんと同じ反応です。


「誰を追いかけとるんじゃろうな? まぁわしらではないと思うから、安心してついてくるといい」


「わかりました」


 亮二さんからそう言われた友香ちゃんは頷いて、勇子ちゃんに報告しに戻りました。


「友香? 何でおじいちゃんトラック停めないの? おじいちゃん何て?」


「私達じゃないと思うから大丈夫だって」


「いやいやいやいや!! どう見たらそう思えるのよ!?」


「あたしのおじいちゃんがそう言うなら大丈夫だよ」


「そんなわけないでしょ!!」


 その時、


「そこの軽トラ、停まりなさい!!」


 ミニパトから、美魅さんがスピーカーで呼び掛けてきました。


「ほらやっぱり!!」


「あらら~、ほんとにあたし達だったね~」


「何であんたは落ち着いてんのよ!? もう一回おじいちゃんに言いに行って!! あたしも連れてよ!!」


「わかった」


 あんまりあてにならなそうな愛奈ちゃんを残し、友香ちゃんはもう一度亮二さんに報告しに行きます。今度は勇子ちゃんを連れて。


「おじいちゃん!! パトカーが追いかけてきてるから停まって下さい!!」


「みたいじゃな……」


 追いかけられて当たり前の事をしているのに、亮二さんはなぜか釈然としない顔をしています。


「仕方ない。一旦停まって――」


 軽トラを停めかけて、亮二は気付きました。時計です。見ようとしたのではなく、偶然に目に入ってしまいました。笑特小学校には、八時二十分までに着かなければならないのですが、今の時刻は八時十分。あと十分しか時間がありません。このまま停まって桃野さん達となんやかんややっていたら、間違いなく遅刻してしまいます。


「まずい! もうこんな時間か! ええい、こうなったら!」


 愛奈ちゃん達を遅刻させるわけにはいかないので、軽トラを走らせました。


「すまん婦警さん方! 話なら学校でたっぷりするからの!」


 しかし、そんな声が聞こえるはずもなく、


「停まらない!? 逃がすかぁぁぁぁぁぁ!!」


 桃野さんの闘志に火を点けてしまいました。


「ちょっとおじいちゃん!! 何で停まらないんですか!?」


「君達を遅刻させたくない!!」


「いやそんなのいいですから!! おじいちゃんが犯罪者になる方が問題ですから!!」


 勇子ちゃんは亮二さんを一生懸命説得しようとしています。



 そんな時でした。



「待て!!」



 遥か前方から、男性の声が飛んできたのです。



 勇子ちゃんが見てみると、その先には、胸Mと書かれた全身赤タイツで筋肉ムキムキの男性が立っていました。


「正義のヒーロー!! マッシーーーヴファイター!!!」


 男性は名乗りを上げながら、左手を腰に当て、右手でブイサインし、それを上に挙げてから前に向けるポーズを取りました。


「誰だコイツ!!?」


 しかし、勇子ちゃんの感想は辛辣でした。その横で、友香ちゃんがぶつぶつ何か言ってます。


「マッシヴファイター。攻防一体の最強の筋肉を持つ、和来町のスーパーヒーロー。マシンガンの掃射すら寄せ付けず、パンチ一発で巨大な鉄塊を砕く事が出来る」


「何で解説してんの!? っていうか何で知ってんの!?」


「まさかマッシヴファイターが出てくるとは……」


「おじいちゃんも知ってたの!? あんなのがこの町にいたなんて私全然知らなかったんだけど!!」


「えっ!? マッシヴファイター!? どこどこ!?」


「うっそぉ!?」


 どうやら、勇子ちゃん以外は全員マッシヴファイターの事を知っていたみたいですね。


「危険な運転をする犯罪者め!! この私の筋肉で止めてやる!!」


 マッシヴファイターは両手を広げ、軽トラを受け止める体勢を取ります。


「マッシヴファイターが協力してくれるみたいよ! 桃野! このままだとぶつかっちゃうから、スピード落として!」


「せっかく面白そうだったのに……」


 桃野さんはものすごく不満そうに、ミニパトのスピードを落とします。


「ヒーローが相手では停まるしかない。やむを得んか……」


 亮二さんも仕方なく、軽トラを停める事にしました。




 一方その頃、近くのバス停で二人のサラリーマンが、そんな騒動などどこ吹く風といった感じで新聞を読みながら、バスを待っていました。

 二人が同時に記事をめくると、『今週のラブリーペットコーナー』というコーナーが目に入ります。


「「デュフフフ……」」


 動物好きなサラリーマン達は、猫や犬などの可愛いペットの写真に、鼻の下を伸ばしまくっています。



 次の瞬間、



「「あっ」」



 突然強風が吹いてきて、気と顔が緩みきっていたサラリーマン達は、新聞を飛ばされてしまいました。




 そしてその新聞は、あろうことか一枚が軽トラのフロントガラスに。もう一枚がマッシヴファイターの顔に被さりました。



「うわっ!! 新聞が!!」


「おわっ!! 何だ!?」


 亮二さんもマッシヴファイターも大慌て。亮二さんは新聞を取ろうとして、間違えてアクセルを思いっきり踏んでしまいました。コントロールを失った軽トラは、そのまますごいスピードでマッシヴファイターに激突します。


「ぎゃああああああああああああああああああ!!!」


「轢いた―――――!!!!」


 新聞を取ろうと体勢を崩していたマッシヴファイターは、足腰に力を入れられず、軽トラに跳ねられ、どこかへ飛んでいってしまいました。勇子ちゃんは驚きすぎて、一瞬目玉が飛び出します。


「す、すまんマッシヴファイター!! この埋め合わせはいずれ必ず!!」


 亮二さんはようやく新聞を取り除き、コントロールを取り戻して軽トラを走らせます。


「そういう問題じゃないでしょ!! 人を轢いちゃったのよ!?」


「大丈夫。スーパーヒーローは死なない」


「そういう問題でもないわよ!!」


「ダイ!!」


 勇子ちゃんはハリセンで友香ちゃんの頭を叩きました。


「あの軽トラ……マッシヴファイターを轢いた挙げ句、それでも停まらないなんて……」


「い、いや、桃野? 今のは不慮の事故みたいなもので、故意にやったわけじゃ」


「許せない!!」


「桃野ーー!?」


 桃野さんは美魅さんの説得を聞かず、スピードを上げました。


「ちょっとこれどうするのよ!? もう取り返しのつかない事になってるんだけど!!」


 勇子ちゃんは悲鳴に近い嘆きを漏らします。



「待て!!」



 その時、また遥か前方から男性の声がしました。



 勇子ちゃんが見てみると、今度は黒い忍者の装束を着た男性が立っています。男は名乗りました。



「ニードル忍者、参上!!」



 男は、両手に五本ずつ、長い針を持ちます。


「またなんか変なのが来た!!」


「ニードル忍者。忍術を操る和来町のスーパーヒーロー。忍者の武器である千本をさらに強化した針、穿ち千本を主に使う」


「また解説してるし!! あんなのもこの町にいたの!?」


「まさかニードル忍者まで出てくるとは……」


「ニードル忍者!? どこどこ!?」


「だから何で知ってんのよ!? 何で私はあんな色モノ連中がこの町に潜んでる事を知らなかったのよ――!!?」


 色モノ連中とは失礼な。一応スーパーヒーローですよ?


「口でわからぬ悪党には、身体を以て償わせるのみ。俺の穿ち千本で、タイヤをパンクさせて止めてくれる!!」


 そう言いながら、ニードル忍者はタイヤ目掛けて穿ち千本を投げました。


「冗談じゃない!! この軽トラのタイヤは、先月買い換えたばかりなんじゃ!! パンクなんぞさせてたまるか!! 七十二歳のドラテクを見よ!!!」


 亮二さんは軽トラのハンドルを巧みに操り、穿ち千本をかわします。


「キャー!! ニードル忍者から穿ち千本喰らっちゃった―!!」


 ちなみに外れた穿ち千本は全部愛奈ちゃんに当たりました。牙鎧呼法のおかげで効いてませんけど。


「なかなかやるな。だがこれはどうだ!!」


 ニードル忍者はさらに多くの穿ち千本を両手に構えます。



 一方その頃、亮二さんとニードル忍者の戦いが行われている道路のすぐそばにあるホテルの、四階のベランダに二人の男性の宿泊客が出ていました。


「おい! あれニードル忍者だぞ!」


「本当だ! 頑張れ―!! ニードル忍者―!!」


 この二人はニードル忍者のファンらしいですね。


「おっ、おい! あそこ見てみろ!」


「ん?」


 と思ったら、二人が向かい側にある家のベランダを見ました。そこには、同じく下の戦いを見ている女性がいました。かなり美人で、しかもミニスカです。二人が食い入るように女性の下半身を見ていると、


「きゃっ!」


 おおっと! また突然強風が吹いて女性のスカートがめくれ上がったぁ! パンツの色は赤だぁ―!!


「「ぶ――っ!!」」


 それを見ていた宿泊客二人、鼻血を吹き出す!! すごい量だ!! 五リットルはあるか!? そしてその鼻血は、片方が道路へ、もう片方が軽トラのフロントガラスにかかった―!!!


「うわっ!! 汚なっ!!」


 勇子ちゃんが露骨に汚がりますが、飛沫を友香ちゃんが念力でそらします。


「おおっ!!?」


 穿ち千本を投げようとしていたニードル忍者は、目の前に落ちてきた鼻血に怯み、投げるタイミングを失いました。


「ぬおおっ!! 前が!! 前が見えん!!」


 そして亮二さんが、またしてもブレーキと間違えてアクセルを踏んでしまいました。


「ぎゃああああああああああああああああああ!!!!」


「また轢いた―――――!!!」


 マッシヴファイターと同じように、ニードル忍者もどこかに飛んでいきます。勇子ちゃんの目玉がさっきよりも遠く飛び出しました。


「すまん!! 本当にすまん!! 必ず償うから今は許してくれ――!!」


 ワイパーとウォッシャー液を使って鼻血を洗い流した亮二さんは、涙をだばーと流して謝りながら、学校を目指します。


「あの暴走トラック、ニードル忍者まで!!」


「だからあれは故意じゃないって!!」


「絶対捕まえてやるぅぅぅぅぅぅ!!!」


「桃野スピード出しすぎぃぃぃぃ!! ぶつかるぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」


 やる気のボルテージが頂点に達し、桃野さんは一気にアクセルを踏み込みました。法定速度を守っている亮二さんに対して、桃野さんが出したスピードは速すぎです。すごい勢いで軽トラの荷台が迫ります。


「よっ」


 それに気付いた愛奈ちゃんが、腹筋を利用して身体を跳ね上げ、両手両足を着いてミニパトと軽トラの間に挟まれる形となり、追突を防ぎました。


「なっ!?」


 桃野さんはミニパトの突撃が止められた事に驚いています。ミニパトはそれ以上軽トラに近付けません。


「今日は風が強いね―。学校まだかな―?」


 二台の車に挟まれているのに、愛奈ちゃんは涼しい顔です。


「おじいちゃん!! まだ着かないんですか!?」


「もうすぐ見えてくるはずじゃ!」


 勇子ちゃんとしては、これ以上恐ろしい事にならない内にこの馬鹿みたいなカーチェイスを終わらせたいのですが、肝心の学校がまだ見えてきません。


「見えた」


「おお! やはり近かったか!」


 友香ちゃんが学校を見つけました。しかし、同時に勇子ちゃんが異変に気付きます。


「あれって……竜巻!?」





 ◇◇◇





「おはようございま―す!」


「はーい、おはようございます」


 浩美先生は、登校してきた生徒達に挨拶していました。笑特小学校では先生が挨拶当番をしており、三日毎に交代します。今日は浩美先生の番です。


「愛奈さん達、まだかな……」


 いつもならもっと早く来ているはずの愛奈ちゃん達が来なくて、浩美先生は心配していました。当番の時間が終わるまで、あと二分です。



 その時でした。突然強風が吹き荒れ、浩美先生のすぐ近くに集まってきたのです。



 風はどんどん勢いを増していき、そして竜巻になりました。


「た、大変!! みんな!! 急いで校舎の中に!!」


 浩美先生は慌てて、校庭にいる生徒達に避難するよう呼び掛けます。もちろん浩美先生も逃げます。

 しかし、竜巻は校舎に行かず、巨大化しながら、なぜか浩美先生を追いかけてきました。


「浩美先生!!」


「竜巻に追いかけられてる!!」


「浩美先生って高崎さんだけじゃなくて、竜巻にも気に入られちゃったの!?」


 生徒達が慌てています。最後のは、なんか違うと思いますが。


「くっ!」


 浩美先生は走りますが、竜巻の方が速いです。加えて浩美先生は体力もないので、どんどん距離を詰められていきます。


「愛奈さん……」


 気が付けば、浩美先生は思わず愛奈ちゃんの名前を呼んでいました。いつも自分を守ってくれる、小さなヒロインの名前を。


「愛奈さん!!」





 ◇◇◇





「はっ!」


 愛奈ちゃんは嫌な予感を覚えました。


(浩美先生が危ない!!)


 そう思った愛奈ちゃんは、全身に一気に力を入れ、ミニパトを軽トラから引き離します。それから一度身体を道路に叩きつけ、反動をつけて起き上がりながら、手刀でロープを切りました。その勢いで荷台の上に着地し、ロープを完全に足から取り払います。


「あっちね!」


 次に、学校の位置と、竜巻の存在を確認しました。あの竜巻のすぐそばに、浩美先生がいる。根拠はないのに、そんな確信がありました。


「友香!! あたしが飛んだら、あたしの背中に念力をぶつけて!!」


「わかった」


 愛奈ちゃんは友香ちゃんにお願いすると、荷台の上を走り、助走をつけて勢い良く飛びます。その瞬間、友香ちゃんは言われた通り、愛奈ちゃんの背中に念力をぶつけました。


「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 愛奈ちゃんの超人的な跳躍力と、友香ちゃんの強力な念力が合わさり、愛奈ちゃんはひとっ跳びで、浩美先生の前までたどり着きます。


「愛奈さん!?」


 浩美先生は突然現れた愛奈ちゃんに驚きますが、それに対応している暇はありません。


「高崎流気功術奥義!!」


 愛奈ちゃんは素早く両手を腰溜めに構え、気を集めます。


「紅蓮情激波ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 そしてその気を、竜巻目掛けて解き放ちました。町を壊さないよう、出来るだけ上を狙って。かなりの大きさになっていた竜巻でしたが、愛奈ちゃんの気功波には勝てず、あっさりと打ち破られて消滅します。


「おはよっ! 浩美せんせっ!」


 それから何事もなかったかのように振り向き、屈託のない笑顔で、浩美先生に朝の挨拶をしました。


「は、はい。おはようございます!」


 浩美先生もまた、笑顔で愛奈ちゃんに挨拶しました。

 そこへ、軽トラとミニパトも校庭に飛び込んできます。今ちょうど、登校時間の終了を知らせるチャイムが鳴りました。


「おおっ! みんなギリギリ間に合った!」


 全員遅刻せずに登校出来た事を、愛奈ちゃんは喜んでいます。


「あの……愛奈さん? これって一体、どういう状況ですか?」


「あたし、修行しながら登校したの」


「パトカーに追いかけられるってどんな修行ですか!?」


 それは説明しないとわかりませんね。というわけで説明しました。


「そんな修行したら追いかけられるに決まってますよ!!」


 ですよね。


「コラ―!! 危険運転者!! 大人しく正義の御旗の縄に付けい!!」


 ミニパトから降りてきた桃野さんが、手錠を出して亮二さんを逮捕しようとしています。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!! わしはちゃんと署長に許可を取ったぞ!! ほれ許可証!!」


「「えっ?」」


 桃野さんと美魅さんは、亮二さんが出した許可証を見て、頓狂な声を上げました。


「異能力者育成法の事、知らんわけではなかろう? 許可を取るくらいの事はちゃんとするわい!」


 この世界には、異能力者育成法という法律が存在します。世界には特殊な力を持っている人間が多数存在し、その中には一般的な鍛練法では自分の力を伸ばせない人間もいるのです。そういった異能力者の意見を尊重し、許可を取れば、危険な鍛練をしてもいい事になっているのです。


「そんな法律あったの?」


「子供に法律の勉強はまだ難しいからのう」


 勇子ちゃんはそんな法律がある事を知りませんでした。


「許可を取りに行ったのは?」


「昨日じゃ」


「そんなに早く許可証もらえるわけないでしょ!!」


 もちろん大切な法律ですから、厳正な審査が必要になります。一日や二日でもらえるという事は、基本的にありません。しかし、許可証には昨日の日付が書いてあります。


「わしは昔署長に気功術を教えていた事があってな、わしからの口添えじゃ。それにウチの孫には、この前デパートを襲った強盗を撃退したという功績もある」


「えっ!? じゃあ署長が時々言ってた気功術の達人って、あなたの事だったんですか!?」


「よく見たらこの子、この前のお手柄小学生の一人だわ!!」


 それだけでなく、亮二さんは自警団のメンバーに入っていて、通り魔など変質者の退治に貢献し、署長さんとの交流もあります。そんな人からの口添えは大きいです。


「でもそれならそれで、許可済みのステッカーを貼る事が義務付けられてますよ?」


「それならちゃんとここに……ありゃ!! ステッカーがない!!」


 桃野さんに指摘されて、亮二さんが軽トラのドアを見てみると、そこに貼ってあるはずのステッカーがありませんでした。



 その頃、高崎宅。


「あら? これ……」


 外に掃除に出た梨花さんは、家の出口にステッカーが落ちている事に気付きました。それを拾ってみると……


「……うわっ。裏が錆びだらけ……」



 確かにステッカーは貼りましたが、車体が錆び付いていたせいで、錆びごと剥がれて落ちたのでした。


「申し訳ない! まさかステッカーが剥がれていたとは……」


「それなら仕方ないです。でも、人を轢いたのは……」


「大丈夫。私が念力で助けたから」


 詳しく説明しますと、友香ちゃんはマッシヴファイターやニードル忍者が轢かれる寸前に、念力を使って危険がない場所に弾き飛ばしていました。


「ねぇちょっと待って」


 勇子ちゃんはおかしな事に気付きます。


「それってあんな風に轢かれたように飛ばさなくても、普通に飛ばす事も出来たわけよね?」


「うん」


「何で普通にしなかったの?」


「面白そうだったから」


「ふざけんなテメー!!!」


「ぼべし!!!」


 怒った勇子ちゃんは、友香ちゃんをハリセンで打ち上げました。友香ちゃんは近くの木に落ちて、気絶します。


「本当にすいませんでした!!」


「すいませんでした!! 私の友達のせいで!!」


「こちらこそ申し訳ありませんでした!! ほら桃野も謝って!!」


「……すいませんでした」


 亮二さん、勇子ちゃん、婦警さん二人は、お互いに謝り合っています。結局事件は何も起きていない、とんだお騒がせカーチェイスでしたね。


「婦警さん!」


 と、愛奈ちゃんが割って入りました。


「あたしの事、心配して来てくれたんだよね? 心配掛けさせてごめんなさい。来てくれてありがとうございました」


 愛奈ちゃんが謝る姿を見て、桃野さんと美魅さんは言葉に詰まります。


「どうやら私達は、とんでもない勘違いをしていたようだ」


(また来た……)


 勇子ちゃんは若干引きながら、追いついてきたマッシヴファイターとニードル忍者を見ました。


「あの先生を守っていた君の瞳の中に、正義の光が見えた」


「すまなかった。君もスーパーヒーロー……いや、スーパーヒロインだったんだな」


「君は君の正義を貫くといい。私達は君の味方だ」


「ではさらば!」


 愛奈ちゃんの浩美先生を守ろうとする姿に心を打たれたスーパーヒーロー達は、愛奈ちゃんの前から去っていきました。


「……まあ、スーパーヒーローにああ言われちゃ、私達が言う事は何もないわね。では、失礼しました!」


「失礼しました!」


 婦警さん達もミニパトに乗り、パトロールに戻ります。


「やれやれ……一時はどうなる事かと思ったが」


「一件落着だね!」


 そう言って、亮二さんと愛奈ちゃんは笑い合いました。

 勇子ちゃんが、浩美先生に耳打ちします。


「あいつに正義なんてあると思います?」


「えーっと……」


 浩美先生は勇子ちゃんの問い掛けに、答える事が出来ませんでした。

オチが弱い!

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