表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エクストリームガールズ!!  作者: 井村六郎
秋期騒乱編
40/40

第三十九話 修学旅行!! 行き先は遊園地でございます

今回から長編が始まります。

 背中から透明な羽を生やした女の子が、何かから必死に逃げていました。


(誰か……誰か……)


「え? きゃあっ!」


 しかし、羽が急に動かなくなり、女の子は地面に落ちてしまいます。見てみると、女の子の羽は透明なクリスタルに纏わり付かれ、固められていました。


 もう逃げられない。そう悟った女の子は、強く願います。


(誰か、フェアリーランドを救って……)





 ◇◇◇◇





「そうだ、京都行こう」


 呟いた愛奈ちゃんは、現在、新幹線と絶賛並走中でした。もう、狂っているとしか言いようのない状況ですね。


 笑特小の六年生達は、今日は修学旅行です。旅行先は京都で、新幹線に乗って二時間で行くのですが、愛奈ちゃんは新幹線代を浮かせる為、そして鍛錬の為、歩き、というか走りで京都を目指していました。


「新幹線って結構遅いんだね。合わせるの面倒だから、あたしだけ先に京都に行っちゃおうかな?」


 まぁ愛奈ちゃんが出せる本来の速度からすれば、新幹線なんて遅いですからね。


「でも、やっぱり団体行動で行かなくちゃ。それに、あたしが目を離した隙に浩美先生がヤバい事に、なんて事になりかねないし」


 愛奈ちゃんは思い留まりました。偉いですね。


「本当は浩美先生と一緒に乗りたかったけど、あたしはもっと強くならなきゃいけない。僅かな時間も修行修行! これも愛の試練だよっ!」


 偉いんだか低俗なんだか、よくわからなくなってきました。


「相変わらずとんでもないわね」


 新幹線の窓から、すぐ隣を並走している愛奈ちゃんを見ていた勇子ちゃんは呟きました。


 ちなみにこの新幹線には、もう一人乗っていない生徒がいます。勝希ちゃんです。何でも今朝突然、どうしても外せない会議が入ったとかで新幹線に乗れず、笑特小組とは現地で合流する話になったのです。


「あっちもこっちも超人ばっかり。私の愛する普通の世界が、どんどん壊されていく感じがするわ」


「それは勇子だってお互い様。あなたのハリセンも結構なチート武器」


「変態の女神っていうおまけ付きでね」


 友香ちゃんからツッコミを入れられて、勇子ちゃんは遠い目をしました。テアーラさんは今のところ大人しいですが、いつボケに走るかわからないので、勇子ちゃんとしては戦々恐々の日々です。


 新幹線では、勇子ちゃんのすぐ隣の席が友香ちゃんです。というのも、今回の修学旅行は出発前から三~四人で一組の班を作るように言われていまして、愛奈ちゃん、勇子ちゃん、友香ちゃん、勝希ちゃんの四人がメンバーです。で、そのメンバーで新幹線のボックス席に座るよう言われているわけですね。


 今このボックス席には、二つの空席が出来ています。理由は、さっき説明した通りです。


「先が思いやられるわ……」


 勇子ちゃんには、この二席がとても怖く見えました。





 ◇◇◇◇





 旅行といっても授業の一環で組まれた旅行ですからね、遊びに来ているわけではありません。しかし、歴史的建造物を学ぶだけが、今回の修学旅行の内容ではありません。生徒達が学校の外の空気と、たくさんの人間と触れ合い、社交性を磨くのも立派な学習です。


 というわけで、午後からは自由時間です。


「それで、どこから回るのだ?」


 訊ねたのは、合流してきた勝希ちゃんでした。彼女は会議で遅くなると言っていたのですが、ちょうど新幹線が京都駅に到着する十分前に会議が終了し、三分で着替え、五分で駅まで飛んできました。ええ、比喩ではなく本当に。だから実質、遅刻はしていません。


「もちろん、フェアリーランドだよ!」


 愛奈ちゃんはとても嬉しそうに答えました。


 フェアリーランドとは、一ヵ月ほど前にオープンした遊園地の事です。


「もうそこから回るのか?」


 話は聞いていましたが、最初からそこを回るとは思っていませんでした。てっきり、一番最後に回すと思っていたのです。


「私としても特に行きたい所とかないし、別に急いでもいないからいいかなって」


「右に同じ」


 勇子ちゃんと友香ちゃんは言いました。


「いいからさ、早く行こうよ!」


 愛奈ちゃんは急かします。というのも、予約している温泉旅館への集合時間が五時なので、それまでに帰らなければならないからです。


 四人はバスに乗って、フェアリーランドに入園します。愛奈ちゃんが周囲を見回してみると、あちこちに笑特小の生徒達がいました。どうやら、考えている事は同じのようです。


「しかしこの前宇宙一のテーマパークに遊びに行ったばかりだというのに、もう別のテーマパークに遊びに行きたいとはな」


「いいじゃん別に。このフェアリーランドは一ヵ月にオープンしたばっかりの新品だよ? 古くならないうちに遊ばなきゃ損だって!」


 呆れる勝希ちゃんと、はしゃいでいる愛奈ちゃん。楽しい場所は、何回だって行きたいものです。


 と、誰かが勝希ちゃんの肩を叩きます。振り向いてみると、友香ちゃんでした。


「実は、私もここに行きたい理由があった」


「何?」


 友香ちゃんは話し出します。


 実はこのフェアリーランド、まだまだオープンしたばかりだというのに、曰く付きです。


「ここに来た人が、一日に数人、行方不明になっているらしい」


 行方不明になっている人数は、一日に平均で二~三人程度。しかし既に警察による捜索が始まっており、誰もまだ戻ってきていないらしいのです。


「一説によると、ここは元々墓地だった所を更地にして建てられたそうで、成仏していない人達の祟りなんじゃないかって言われてる」


「その真相を探りたいと?」


「うん」


「オカルトマニアの貴様らしい理由だな」


 話を聞いて、勝希ちゃんは呆れました。


「とはいえ、実害が出ているのなら放置は出来んか」


 単なる噂ならそれでよかったのですが、警察が実際に動いているとなると話は別です。


「わかった、協力しよう」


 こうして、勝希ちゃんの協力も得られる事になりました。前道グループの今後に関わるかもしれないからと、そう思ったのです。



 さて、件の遊園地に着いたので、めぼしい所から調べていくわけですが、どこから行ったものでしょうか。


「フェアリーランドはかなり広くて、まだ工事中の所も多い」


 友香ちゃんは言いました。調べるとしたら、そういう立ち入り禁止区域でしょう。もし誘拐だというのなら、人通りの多い所に秘密を隠しておくのは避けるはずです。


「テーマパークってさ、ただ歩くだけでも楽しいよね」


 愛奈ちゃん、脳天気です。これから大事件が起こっているかもしれない場所に、潜入調査を試みるというのに。


「で、どこから調べる? 立ち入りが禁止されてる所って言っても、結構あるわよ?」


 勇子ちゃんはパンフレットを見ながら言います。フェアリーランド全域が記された地図。そこには五カ所ほど、近日オープンと書かれた場所があります。それが、立ち入り禁止区域です。


「ここからだと、この結晶の館っていう所が一番近い」


 友香ちゃんはパンフレットを指差しました。今四人は小人の街路と書かれている場所にいて、そこから二百メートルほどの場所に結晶の館と書かれた区域があります。パンフレットによると、幻想的な美しいクリスタルの数々が来館者を魅了する迷路の館と書かれていました。


「迷路系か……人を隠しておくなら一番いい場所ね」


 勇子ちゃんは、壁の中に隠されている隠し通路のスイッチや、落とし穴を想像します。


「……高崎はどうした?」


「え?」


 勝希ちゃんから指摘を受けて、勇子ちゃんと友香ちゃんは気付きます。いつの間にか、愛奈ちゃんがいなくなっていたのです。


「あれ」


 と、友香ちゃんが指差します。そこには結晶の館と書かれた建物があって、愛奈ちゃんがそこに入っていくのが見えました。どうやら、もう目的地のすぐ近くまで来ていたようです。


「あのバカ! あそこは立ち入り禁止だって言ってんのに!」


 勇子ちゃんは慌てて追い掛けます。調査といっても、まだ人が入ってはいけない場所を調べるので、フェアリーランドのスタッフの方が有利です。もし見つかったら、大変な事になってしまいます。だから慎重にならなければならないのですが、愛奈ちゃんにそこまで考える頭はなかったようです。


「私達も行くわよ!」


「静かに、素早く」


 愛奈ちゃんをこのまま放ってはおけません。大事件に発展しない内に、捕まえなければなりません。勇子ちゃんと友香ちゃんはKEEP OUTのテープをくぐり、愛奈ちゃんを追い掛けます。


「……やれやれ。どうやら私は、あの連中に感化されたらしい」


 いやいやながらも、勝希ちゃんは三人を追い掛けていきました。





 ◇◇◇◇





「ふーん。未完成とか言って、結構出来上がってるじゃん」


 愛奈ちゃんはゆっくりと歩きながら、品定めをするように周りを見回していました。


 見た感じ、そこかしこにクリスタルが設置され、パンフレット通りの美しく幻想的な雰囲気です。それに迷路自体もかなり入り組んでいて、迷ったらしばらく出てこれなそうな感じもしました。


 アトラクションの一つとしては、申し分ない完成度です。これなら今すぐオープンしても、問題ないでしょう。


「ちょっと愛奈!」


 そこへ、勇子ちゃん達が追い付いてきました。


「あ、お久しぶり」


「お久しぶりじゃないわよ!!」


「アデュー!!」


 ふざけて挨拶した愛奈ちゃんの脳天に、勇子ちゃんのスーパーハリセンによるツッコミが炸裂します。


「ここが立ち入り禁止だってわかってんの!?」


「見つかったら大変な事になる」


「大丈夫大丈夫。このアトラクションかなり入り組んでるから、係員さんと出くわすなんてそうそうないよ。もし見つかったとしても、簡単に撒けちゃうから」


 愛奈ちゃんは大して気にしていません。むしろ、彼女の興味は別の部分にありました。


「っていうかさ、どうやら勝希ちゃんは迷っちゃったみたいだね」


「「え?」」


 ほくそ笑む愛奈ちゃんと、驚いて振り向く勇子ちゃんと友香ちゃん。先程まで確かについてきていたはずの勝希ちゃんが、いつの間にかいなくなっていました。


「嘘!? まさか本当に迷っちゃったの!?」


「それはないと思う」


 友香ちゃんは否定しました。というのも、勝希ちゃんは友香ちゃんと同じく、相手の気を追い掛ける事が出来るからです。愛奈ちゃんの気はとても大きく、さらにサイコメトリーも駆使する事で、友香ちゃんは難なく愛奈ちゃんを見つける事が出来ました。勝希ちゃんはサイコメトリーこそ使えませんが、頭がいいので迷路で迷ったりはしないはずです。


 そんな勝希ちゃんが、ついてきていない。これは一体なぜでしょうか?


「ん~。もしかして、あたし達を追い掛けて来られない何かがあったとか?」


「……まさか……」


 愛奈ちゃんの予想を聞いて、勇子ちゃんは嫌な想像を巡らせます。


 そもそも自分達がここに来た理由は、行方不明事件の真相を暴く為です。被害者の共通点は、不明。誰が狙われるかわからない状況。つまり、勝希ちゃんが標的になったとしても不思議はないのです。


「急いで捜さなきゃ! 友香、サイコメトリーをお願い!」


「わかった」


 勇子ちゃんは友香ちゃんにお願いして、勝希ちゃんを捜す事にします。まずは勝希ちゃんの残留思念を見つける為、今来た道を戻り始めました。


「勝希ちゃんが誘拐されるなんてまずないと思うけどなぁ」


 愛奈ちゃんはぼやきます。ですが、もしそうだったとするならば一筋縄ではいかない相手だと、警戒する事にしました。




 勝希ちゃんは今、一人結晶の館の中をさまよっていました。


 別に、迷っているわけではありません。この館に一歩足を踏み入れた瞬間から、奇妙な声が聞こえるのです。うまく聞き取れないのですが、助けてと言っているような気がしました。


(誰だ? 私を呼ぶのは)


 勇子ちゃんと友香ちゃんは構わず突き進んでしまったので、勝希ちゃんにしか聞こえていないようです。


 声の主を捜して館を探索する勝希ちゃん。


(助けて!)


 次の瞬間、その声ははっきりと聞こえました。やはり、助けを求めています。


(どこだ?)


 周囲を見回してみますが、そこは行き止まりで、ただ無数のクリスタルが不規則に並ぶのみです。


 と、勝希ちゃんは気付きました。設置されているクリスタルは大小様々ですが、この行き止まりにあるクリスタルの内の一つが妙に大きいのです。大人二人分はありそうな、とても大きなクリスタルでした。


 勝希ちゃんはその大きなクリスタルに、手を伸ばします。入り口や通路に『クリスタルには手を触れないで下さい』と書かれた張り紙があるのですが、構いません。


 クリスタルに触れた瞬間、勝希ちゃんの手が中に吸い込まれました。


「これは……」


 初めて見るタイプですが、このクリスタルはゲートや転移装置の類いのようです。予想通り、隠し通路がありました。木を隠すなら森の中、通路を隠すなら迷路の中。触らないように注意書きもありましたし、これでは見つかりっこありません。


 この隠し通路の向こうに、助けを求める声の主がいる。そう確信した勝希ちゃんは、クリスタルの中に飛び込みました。


 クリスタルの向こうには、壁も床も天井も、全てが宝石のようにカットされ、光を乱反射する不思議な個室が存在していました。まるで巨大なクリスタルの内に入ったみたいです。


 その個室の中央にクリスタルで出来た台座があり、その上にまたクリスタルが浮かんでいます。その中には、背中に羽が生えた女の子の人形が入っていました。


 想像を絶する修行の果て、暗黒闘気を身に付けるに至った勝希ちゃんは気付く事が出来ます。これはただのクリスタルではないと。


「これは力の塊だ」


 強大なエネルギーがクリスタルの形をしている。しかも、中に入っている人形は人形ではなく、生きているという事にも気付く事が出来ました。間違いありません。助けを求めていたのは彼女です。


「封印の類いか……まず封印を解いて名を訊かねばなるまい」


 勝希ちゃんはクリスタルに触れます。その瞬間、稲妻のようなものが勝希ちゃんを襲いましたが、勝希ちゃんにダメージを与える事は出来ませんでした。


 クリスタルを台座から下ろすと、稲妻が消えます。許可した者以外は触れない、セキュリティーのようなものでしょうか。だとしたら、急がなければなりません。


「ふん!」


 クリスタルを構成する力に割り込みを掛けるように、暗黒闘気を注入します。すると、勝希ちゃんが持っている部分を中心に、クリスタルに黒い亀裂が入りました。


「……はっ!」


 次に、注入した暗黒闘気を破裂させます。女の子に被害が及ばないよう、外側に向かって。クリスタルは粉々に砕け散り、女の子が勝希ちゃんの腕の中に収まりました。女の子はまぶたを少し震わせると、目を覚まします。


「私は封印されたはず……この強い力、あなたが私を助けて下さったのですか?」


「そうだ。私は前道勝希」


「わ、私はミシェラと申します」


「ではミシェラ。詳しい話は後で訊くから、今はここを脱出するぞ」


「は、はい!」


 このミシェラという少女は、明らかにここに囚われていました。それには何か理由があるはずで、彼女を捕らえていた何者かはここから連れ出して欲しくもないはずです。急いでここから脱出しなければなりません。


 勝希ちゃんはすぐに来た道を戻ろうとしました。しかし、出口に稲妻が流れており、通れなくなっています。


「やはり結界が……」


「小賢しい!!」


 ミシェラは事情を知っているようですが、そんな事など知った事ではない勝希ちゃんは、暗黒闘気を宿した拳で稲妻を叩き砕きました。


「あの結界を一撃で!?」


「行くぞ」


 驚くミシェラを抱えて、勝希ちゃんは出口を抜けました。



「勝希はこの中に入って行った」


 サイコメトリーで、友香ちゃんは勝希ちゃんがクリスタルに入って行った思念を読み取ります。


「入って行ったって、これどう見てもただのクリスタルじゃない」


「でもよく見たらさ、大人が二人分通れるゲートにも見えるよ?」


 勇子ちゃんにはわかりませんでしたが、愛奈ちゃんは視点を変えてみる事で、これが隠し通路への入り口である事を見抜きます。


 その時、勝希ちゃんがクリスタルの中から飛び出してきました。


「うわっ! ほんとに出てきた!」


「勝希ちゃんやっほー」


「そんな所で何してたの?」


 驚く勇子ちゃんと、笑顔で手をひらひらと振る愛奈ちゃん。そして、問い掛ける友香ちゃん。


「詳しい説明をしている暇はない」


 今はとにかく、この館の、いえ、この遊園地の外に出る事が先決です。外に出たら、次は宿泊地のホテルに戻るのがいいでしょう。


 ですが、その時でした。


「お嬢ちゃん達、ここは立ち入り禁止だよ」


 係員さんが一人、現れたのです。係員さんは、勝希ちゃんが抱えているミシェラに気付きます。


「あらら、ミシェラ姫を連れ出しちゃったか」


「姫? それ、人形じゃないの?」


 愛奈ちゃんはミシェラを見ます。


「あの……」


「君達さぁ、好奇心猫を殺すってことわざ、知ってる?」


 説明しようとするミシェラを、係員が遮りました。


「見たところまだ子供だし、習ってないかな? じゃあせっかくだし教えてあげるよ。まぁざっくり説明すると、余計な事を知ったら寿命を縮める事になるって意味」


 説明する係員の身体が変色し、どんどん大きくなっていきます。やがて額から一本のクリスタルで出来た角が生えてきて、顔が鬼になりました。


「ミシェラ姫の事を知られた以上、生かして帰すわけにはいかない。ここで全員死んでもらうぞ!!」


「ちょちょ、ちょっと何なのよアレ!?」


 勇子ちゃんは取り乱します。ミシェラは鋭く叫びました。


「ガッチン!! あれは結晶の魔女の手下です!!」


「結晶の魔女の手下!?」


 ミシェラはやはり、このクリスタルの角を持つ鬼の事を知っていました。


「何だかよくわかんないけど、ぶっ飛ばせばいいんだよね?」


 愛奈ちゃんは指の骨を鳴らしながら訊ねます。ガッチンと呼ばれたこの鬼はかなりの大柄で、道を塞ぐように立っています。加えて、ここは行き止まりの袋小路。脱出の為には、撃退して押し通るしかありません。


「ほう。少しは腕に覚えがあるらしいな? だが俺はクリスタルオーガ族でも最も強い力を持つ、ガッチン様だ。子供相手にやられはしねぇよ」


「あんたがどんだけ強いのか知らないけど、あたしの敵じゃないのは確かだよ」


 愛奈ちゃん、臨戦態勢です。


「面白ぇ。だったらまずお前からぶっ殺して」


「黙れ!!」


「ぶごぉ!!」


 愛奈ちゃんの先制攻撃。アッパーで顎を打ち抜きました。


「あんたの話は全然面白くない!!」


 みぞおちを連打する愛奈ちゃん。


「すごいです。あの子もあなたに負けず劣らず、強大な力を……」


「……」


 ミシェラは感心しています。勝希ちゃんは鼻を鳴らしました。愛奈ちゃんと比べられるのは癪ですが、強いのは確かだと思っています。


「何だか、大丈夫そうね」


 勇子ちゃんは安心しました。相手は只者ではなさそうでしたが、愛奈ちゃんに何も出来ずにボコられているので、いつものように終わりそうです。


「とどめだよ!! 紅蓮情激波!!」


 愛奈ちゃんの十八番、紅蓮情激波です。これで決まりました。


 と思いきや、闘気の閃光は、ガッチンの額の角に吸収されました。


「お返しだ!!」


「わぁ!!」


 そのまま、吸収した紅蓮情激波をそのままの威力で愛奈ちゃんに返します。


「ガッチンに光線技は効きません!! 全て跳ね返されます!!」


「そんな……愛奈の必殺技が効かないなんて……!!」


 ミシェラからの説明を聞いて、勇子ちゃんは震えます。


「痛たたた……あたしの紅蓮情激波が返されるなんてね……」


 ダメージを受けましたが、まだ戦えそうです。


「でも残念。あたしの決め技は、紅蓮情激波だけじゃないんだよ!!」


 次の技を出そうとする愛奈ちゃん。


(打撃技か)


 勝希ちゃんは予想を付けます。


「高崎流気功術超奥義、紙飛行機マスターマーナ!!!」


 しかし愛奈ちゃんは突然紙飛行機を取り出し、それを投げつけました。


「それ技なのかよ!!?」


 思わずツッコミを入れる勇子ちゃん。


「ぐはああああああああああ!!!」


 投げた紙飛行機は赤く発光しながら飛んでいき、ガッチンの胸に大穴を空けました。


「でもすごい威力!!」


 これには勇子ちゃん、大ショックです。


「こ、この俺様が……こんな技で……」


 しかし、一番大きなショックを受けていたのは、他でもないガッチンです。


「スラーガ様ーーーーーーッ!!!」


 ガッチンは断末魔を上げると、クリスタルの破片となって砕け散りました。


「やったよ!」


「流石愛奈」


「今のうちに、ここから離れるぞ」


 喜ぶ愛奈ちゃんと、それを褒める友香ちゃん。勝希ちゃんは三人を促し、四人は結晶の館から脱出しました。


「ま、愛奈さん!?」


「浩美先生!?」


 結晶の館の出口で、愛奈ちゃん達は浩美先生と出くわします。生徒達が一番訪れているのがフェアリーランドなので、監督役として様子を見に来たのです。


「すごい音が聞こえましたけど、何かあったんですか?」


 浩美先生は訊ねますが、今は詳しい説明をしている暇はありません。ここはどうも、危険地帯のようなのです。立ち話をしていれば、すぐに追っ手が来ます。


「一緒にホテルに帰ろっ! そこで全部話すよ!」


「え!? は、はいっ!」


 状況はわからないながらも、愛奈ちゃんの様子にただならぬものを感じた浩美先生は、愛奈ちゃんに手を引かれてフェアリーランドを脱出します。



 波乱に満ちた修学旅行は、まだまだ始まったばかりです。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ