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エクストリームガールズ!!  作者: 井村六郎
夏期激闘編
35/40

第三十五話 船長ファギマ!!

 ビッグコズミックワンダーランド、地下動力室。


 隔壁はモノタイタンズの攻撃でとっくに破壊され、影も形もありません。今は氷華さんが作った氷の壁を盾にしながら、弓弩くんが応戦している形です。


 氷と光線銃なら、光線が普通に透過してしまうと思われますが、その点は氷華さんが氷に妖力を込める事で、光線も通さない壁を作っています。


 しかし、そういう特殊な壁は、作るのにいつも以上の妖力を使ってしまいます。それに、モノタイタンズの攻撃手段も、光線銃だけではありません。手榴弾の類いも、普通に使ってきます。


「くそ……!!」


 珍しく悪態をつく弓弩くん。もうかなりの数の相手を倒したはずですが、まだ終わりが見えません。


 ラブハートアーチェリーは心器、心器は使い手の精神力によって威力を増減させます。精神が昂ぶっている状態なら普段以上の威力を叩き出す事が出来ますが、長く続く戦いで消耗していると、大きく威力が落ちてしまい、最悪心器が消滅してしまいます。そうなったらしばらく休憩しないと、また心器を出す事は出来ません。


 弓弩くんは鍛錬を怠ってはいませんが、これほど多くの敵相手に、ひっきりなしに矢を撃ち続けた事はありません。もう、限界が近いのです。


「弓弩、くん……」


「ああ、ごめん。君も、もう限界が、近いよね……」


 氷華さんも、もう妖力が尽き掛けています。たった30分とはいえ、この場で戦える人間が二人しかいないので、当然こうなります。


「おかしい。もうとっくに30分経っているはずだ。なぜ連邦はなぜ来ない!?」


 ジョイさんは妙に思います。やはり、30分は既に経っていました。しかし、連邦はいつまで待っても助けに来ません。


 それもそのはず。ジョイさんが連邦に通報した直後、モノタイタンズの別動隊が連邦本部を襲撃しており、到着が遅れていたのです。


「このままじゃ、覚悟を決めなきゃいけなくなっちゃうかな……」


 弓弩くんは、いざとなったら突撃して心器のエネルギーを解放し、モノタイタンズに自爆特攻を仕掛けるつもりでした。この分だと、いよいよその覚悟を決めなければなりません。


 そう思っていた時、モノタイタンズの攻撃が突然やみました。


 どうしたのかと見ていると、


「アンブレイカブルアーツ、ソニックストライク!!」


 通路の向こう側から聞き覚えのある声が聞こえて、さらに爆発音が聞こえました。


「皆さん、大丈夫ですかね?」


 それから、しろがねさんが入ってきます。


「しろがねさん!」


「園長さん。こんな所におられましたか」


 駆け寄るジョイさん。現れたのがアンブレイカブルファミリーのシルバーグランマである事に気付き、弓弩くんと氷華さんも警戒を解きます。


「え? しろがねさん? しろがねさんがシルバーグランマ?」


 弓弩くん達はしろがねさんの正体を初めて知りました。襲ってくるモノタイタンズを一通り蹴散らした後とはいえ、まだ危機的状況は変わっていないので、ジョイさんはしろがねさん達との繋がりを手短に話します。


「私達の事、学校のお友達には黙っていて下さいね。もっとも、あなた達も人に言えない秘密を抱えているようですが」


「あはは……」


 弓弩くんは苦笑しました。


「おっと、第二陣が来たようです。皆さんは休んでいて下さい」


 しろがねさんは、新しい敵の来訪に気付きます。


「でも……!!」


「こういう事は、荒事に慣れている人に任せるべきですよ」


 一緒に戦おうとする弓弩くんを言葉で制し、しろがねさんは敵陣に突っ込みます。


 そして、一瞬で全滅させました。


「まぁ、これくらいの相手なら、私一人で充分ですよ」


 流石、年期が違いますね。





 ◇◇◇◇





 それぞれがそれぞれの戦いを続けている中、愛奈ちゃんと勝希ちゃんの真打ちが、最強の敵と戦っていました。


「はぁっ!!」


「だぁっ!!」


 愛奈ちゃんと勝希ちゃんは跳躍し、真上からファギマに拳を放ちます。しかし、ファギマは右手で愛奈ちゃんの、左手で勝希ちゃんの拳を掴み取り、投げ飛ばしました。


 即座に反撃したのは勝希ちゃん。壁を足場に、素早く再び飛び掛かり、空中で反転して跳び蹴りを放ちます。しかし、これも片手で止められました。


「なかなかのパワーだ。ウチの部下に欲しいくらいだな。どうだ? 今からでもモノタイタンズに入らないか?」


「お断りだ!!」


 勝希ちゃんを勧誘するファギマ。当然応じるわけもなく、勝希ちゃんは足を掴まれた状態から、身体をひねって離脱し、その状態からファギマの左の頬に蹴りを喰らわせます。真横に大きく吹き飛ばされたファギマへと、暗黒闘気で追い打ちを。それを見ていた愛奈ちゃんも、闘気を飛ばしてさらなる追い打ちを喰らわせました。


「いいな。久々に楽しくなってきたぞ」


 しかし、ファギマは無傷です。とはいえ、勝希ちゃんも愛奈ちゃんも、今までの攻撃は小手調べのようなものだったので、まだまだ余裕はあります。


「ふん。戦いはこれからだ」


「右に同じ!」


 勝希ちゃんの脇をすり抜けるようにして飛び出してきた愛奈ちゃんが、ファギマの懐に飛び込んで、顎にアッパーカットを喰らわせました。


「まだまだ!!」


 それから、愛奈ちゃんは空中から連続で、ファギマの胸板に蹴りを叩き込みます。ファギマが大きくよろめきました。


「よっわいなぁ。そんなんで宇宙最強になれたの?」


 見た感じ、ファギマはさっきからやられっぱなしです。これで宇宙最強を名乗れるのかどうか、愛奈ちゃんにとっては甚だ疑問でした。


「不本意ではあるが同感だ。宇宙最強の称号というものは、案外近くにあるものなのかもな」


 勝希ちゃんも、愛奈ちゃんと同じ疑問を感じていました。これでは最強の称号を求める者として、あまりにあっけない戦いになってしまいます。


「……ふふふふふ……ははははははは!!」


 しかし、どう見ても追い詰められているはずなのに、ファギマは突然笑い出しました。


「やはりお前達は子供だな。宇宙最強の存在に対して、少しでも、短い間でも、優位に立てているという優越感を与えてやろうという大人の配慮が、わからんかったらしい」


「何だと!?」


「気付いていないのか? 俺は一度も攻勢に回っていないんだぞ?」


 ファギマの人を舐め腐ったような態度に、勝希ちゃんは激昂しかけましたが、言われて気付きます。


 そうです。勝希ちゃんや愛奈ちゃんの攻撃に対して、受けたり反撃したりする事はあっても、ファギマ側からは一度も攻撃していないのです。


「そうかそうか。それほどまでに見たいというのなら、仕方あるまい。見せてやろう」


 次の瞬間、ファギマは二人の目の前に立っていました。


「真の宇宙最強の力を!!」


 そしてまた次の瞬間、愛奈ちゃんは殴り飛ばされていました。


「……え?」


 速いです。あまりの速さに、愛奈ちゃんは後ろの壁に激突する寸前で、殴られた事に気付きました。しかし、そこから気付いたのではもう遅い。そのまま、壁をぶち抜いて、廊下の床に叩き付けられました。


「なっ!?」


「何を驚いている? 見たいと言ったのはお前達だ」


 続いて、驚いている勝希ちゃんの頭を片手で掴み、床に叩き付けました。


「ほら、ほら、ほら! しっかり味わえ!!」


 一度ではなく、三回叩き付け、三回目で手を離し、バウンドして空中にある勝希ちゃんを愛奈ちゃんのところまで蹴り飛ばします。愛奈ちゃんは廊下の床で止まりましたが、勝希ちゃんには先程以上の力を込めていたようで、廊下の壁に叩き付けられます。


 その勝希ちゃんの腹に、壁を突き破って飛んできたファギマが、蹴りを叩き込みました。


「うああああああああああああ!!!!」


 盛大に吐血してから、勝希ちゃんは激痛に悲鳴をあげます。


「そんなに楽しかったか」


 ファギマは勝希ちゃんの頭を再び掴み、部屋の中へと投げ戻しました。


「楽しいよなぁ! さっきまで嬉しそうに参加していたお遊戯会と、どっちが楽しい?」


 宇宙最強を決める大会をお遊戯会と称し、下卑た笑顔で訊ねるファギマ。


「やああああああああ!!!」


 起き上がった愛奈ちゃんは駆け出し、ファギマの延髄へと拳を叩き込む為、途中で跳躍します。


 しかし、ファギマは回し蹴りを放ち、勝希ちゃんのところまで愛奈ちゃんを飛ばしました。


「当然、こっちの方が楽しいよな。俺も楽しいぞ! 身の程も知らずに挑んできた、ムカつくクソガキを叩きのめすのはなぁ!!」


 二人の返答を聞かず、勝手に答えを決めるファギマ。こんな戦い、楽しいはずがありません。


「……調子に乗るな。宇宙海賊風情が!!」


「あたしだって、まだまだ本気、出してないもん!!」


 勝希ちゃんと愛奈ちゃんは、暗黒闘気と闘気をそれぞれ解放し、ファギマに突撃します。


「おお!?」


 二人は同時に、息の合った連続攻撃を、嵐のようにファギマに浴びせました。


 この反撃は予想外だったようで、ファギマは驚きながら迎撃します。しかし、数の力は偉大です。ファギマがどれだけ激しく反撃しようと、二人はそれを上回る手数で攻め立てました。


「だぁ!!」


「うらぁ!!」


 二人の拳が、ファギマの顔面にクリーンヒットします。


「う、ぐ……くくく……!!」


 再び逆転した力の関係を目にしてなお、ファギマは笑っていました。


「少し舐めすぎたか。仮にも俺の親衛隊を倒した連中を、この姿で相手にするのは無理があったようだ」


「この姿、だと?」


 気になるワードを口にします。まるで、今のファギマの姿が、本来のファギマではないかのような言い草です。


「宇宙は広い。これだけ広ければお前達のような比較的まともな外見の人間だけでなく、様々な民族がいるというものだ。俺も、普通の宇宙人ではない。俺は、変身型の宇宙人だ」


 変身型の宇宙人とは、何らかの理由で変身する能力を身に付けている宇宙人の事で、宇宙全体を通して見ても、かなり珍しい種族です。


 その理由というのは、身体に合わない星に住まなければならなくなった時に適合する為。別の星の社会に溶け込む為というのがほとんどです。しかし、ファギマの場合は違いました。


「この俺の力を、どこまでも高める為だ。宇宙最強の座を求める、飽くなき探究心がもたらした俺の姿、そして力を、その目に焼き付けるがいい」


 そう言うと、ファギマは自分の力を高めます。


「あいつの気が……!!」


「まずい!!」


 自分が最も力を発揮出来る姿に、変身しようとしている。その変身をさせてはいけない。本能でそう感じた二人は、ファギマの変身を阻止する為に飛び掛かりました。


「はぁぁぁ!!!」


 しかし、妨害に入るのが遅かったようです。ファギマは高まった自分の力を解放し、二人を吹き飛ばしました。


 そして、ファギマの姿が変わります。あちこちから痛そうなトゲが突き出し、角が四本生え、身体は一回り大きくなっています。


「面白いだろう? 宇宙には、こんな事が出来る奴もいる。いい社会勉強になったな。もっとも、それを生かす機会は、もうないが」


 つまり、自分がこの姿になった以上、生かしては帰さない。確実に殺す。ファギマは二人に、遠回しな死刑宣告をしました。


 二人は黙ったまま、仕掛けません。ファギマの力は、変身前の十倍にまで高まっており、それを察している二人は、仕掛けられないのです。迂闊に仕掛ければ、待っているのは確実な死です。


「情けない顔をするな。お前達が挑んでいる相手は、宇宙最強だぞ? もっと誇りを持って挑めばいい」


 口ではもっともらしい事を言っているファギマですが、これが格闘大会のチャンピオンに言われるならまだしも、こちらを殺す気満々な人間に言われたところで、そんな気分になれるでしょうか。もちろん、二人は全くそんな気分になっていません。


「来ないのか? 来ないなら、俺の方から行くぞ!」


 ファギマはまたしても答えを聞かず、二人に突撃しました。焦った二人は迎撃しますが、今度はファギマの攻撃速度の方が二人の手数を上回っています。しかも、当たっても効きません。


「ちっ!」


 このまま受け続けても勝てないと思った勝希ちゃんが、ファギマから離れました。愛奈ちゃんも同じ事を考えていたようで、素早くファギマから離れます。


「闇黒刃!!」


 打撃が効かないならと、勝希ちゃんは両の手刀に暗黒闘気の剣を出現させ、乱舞を放ちました。それを見たファギマは、何の細工もしていない普通の手刀で、これを受け止めます。


 互いを斬り合う二人。しかし、速度はファギマが上です。受けきれず、回避する勝希ちゃん。ファギマの手刀が、床を斬ります。勝希ちゃんの手刀が鋭利な切れ味で切り裂くのに対して、ファギマの手刀は力で強引に叩き斬る感じです。とはいえ、威力はファギマが上でした。


「どうしたどうした! 避けてばかりでつまらんぞ!」


 貫手で攻撃するファギマ。それを、闇黒刃を交差させる事で防ぐ勝希ちゃん。しかし、防ぎきれずに闇黒刃が破壊されてしまいます。それでも、突きの速度を遅らせる事には成功しており、のけぞってかわしました。


「どいて、勝希ちゃん!!」


 防戦一方だった勝希ちゃんに、愛奈ちゃんから声が掛かります。見ると、愛奈ちゃんは両手を腰溜めに構え、闘気を集中していました。一緒に攻撃に参加しても勝てないと思った愛奈ちゃんは、勝希ちゃんがファギマを引きつけている間に、確実に勝てる一撃を叩き込む為、闘気を溜めていたのです。


「!!」


 このままだと巻き添えを喰らってしまいます。勝希ちゃんは絶影呼法でスピードを高めて、全速力でファギマから離脱しました。


「何!?」


 ファギマは愛奈ちゃんの方を見ましたが、


「紅蓮情激波ーーーーーっ!!!」


 よけられるより先に、愛奈ちゃんが己の全てを懸けた紅蓮情激波を放ちます。


 紅蓮情激波はファギマを飲み込み、二人はファギマがどうなったのか、固唾を飲んで見守ります。


「くくくっ! 思ったよりやるじゃないか!」


 そこには、身体の左半分を消し飛ばされたファギマが立っていました。しかし、消滅した左半身はみるみるうちに再生を始め、やがて元に戻ってしまいます。


「再生能力だと!?」


「それだけじゃないぞ!」


 ファギマは右手から灰色のエネルギー弾を飛ばし、二人を吹き飛ばします。


「遠距離攻撃も完備だ。さて、どんな気分かな? 俺の予想では、今お前達は絶望を味わっていると思うんだが」


 自分の力を誇示してから、ファギマは二人の訊ねました。そりゃもう、絶望感じまくってますよ。さっき撃った紅蓮情激波は、勝希ちゃん相手なら確実に戦闘不能に出来る威力でした。何より、全闘気を注ぎ込んで放った一撃です。それを、事も無げに完全回復してみせたのですから、これで絶望を感じない人間には感情がないです。


「だが、俺はお前達を許しはしない。お前達がどんなに泣き叫ぼうと、俺はもう一切容赦をしない。俺の道を阻む者は、それが例え老人や子供であっても全力で叩き潰す。あの時はそれを怠って失敗した」


 ファギマは、かつて自分が金剛さんと戦い、敗れた時の事を思い出しました。特殊戦闘スーツを着込んだだけの老人に、宇宙最強の肉体を持つ自分が負けるはずがない。そう思って舐めて掛かり、体勢を立て直す暇もなく倒されたのです。


「だが、もう失敗しない。一年という準備期間を費やして、俺もあの時より大きくパワーアップを遂げた。もはや、俺を阻める者など存在しない!」


「……あんたが何言ってんのかよくわかんないんだけどさ」


 愛奈ちゃんは、闘気も尽きた身体に鞭打って立ち上がります。


「あたしは負けないよ」


 無茶でも何でも、ここでファギマを倒さなければ、まだビッグコズミックワンダーランドに残っている浩美先生が危ないのです。こんな野蛮な男を野放しにしておいたら、一体何をしでかすか。


「小さいのに大した心意気だ。一体なぜそこまで必死になって立ち上がる? そんなに宇宙最強の称号が欲しいのか?」


「そんなのもうどうだっていいよ。あたしはただ、あんたを倒したいだけ」


「……俺を倒したいだけか。だが、俺は倒れない」


 歩く事すら難しい愛奈ちゃんの心情を察してか、ファギマは右手にエネルギーを溜めます。


「倒れるのは、お前だ!!」


 これでとどめとばかりに、右手がより強く輝きました。



 その時、壁を突き破って、宇宙船が飛び出し、ファギマを突き飛ばしました。



「うおあああああああああああ!!?」


 突然の奇襲を受けて、ファギマは床を転がります。


「お待たせ」


「友香!?」


 宇宙船の扉が開いて、中から友香ちゃんが出てきました。


「私だけじゃない。これ、琥珀くんの宇宙船」


「な、何をしに来たのだ、貴様ら!?」


「そうだよ! 危ないから逃げてって言ったじゃん!」


 勝希ちゃんも愛奈ちゃんも驚いています。せっかく逃がそうとしたのに、こんな敵の真っ只中に飛び込んで来るなど、正気とは思えません。


「……面白い真似をするじゃないか」


 ファギマが起き上がってきました。早く逃げないと、大変な事になってしまいます。


「友香、早く逃げて! いくら友香でも勝てないよ!」


「私の力じゃ無理なのはわかってる。だから、勝利の女神を連れてきた」


 そう言った友香ちゃんは、一度宇宙船の中に引っ込みます。そして、浩美先生の手を引いて出てきました。


「ひ、ひろみ、せんせい……?」


 愛奈ちゃんの声が震えています。


 それもそのはず。


 浩美先生が、バニーガールの格好をしていたからです。


「そ、その、かっこ、は……?」


「……要さんから、お願いされたんです。これを着て、愛奈さんを応援してあげてって」


 浩美先生は恥じらいながら答えました。


 友香ちゃんは先程、宇宙武闘祭出場選手の控え室で、バニーガールの衣装を見つけていたのです。それを見た瞬間に、友香ちゃんの未来予知の能力が発動しました。見えた未来は、浩美先生が愛奈ちゃんを、バニーガール姿で応援しているビジョンです。


 これを見た友香ちゃんは、このバニーガールの衣装こそこの戦いの鍵であると思い、これを拝借して、宇宙船の中で浩美先生を着替えさせたのです。


「浩美先生」


 しかし、まだ着替えただけです。問題はここからでした。友香ちゃんは浩美先生に、愛奈ちゃんを応援するよう促します。


「ま、愛奈さん!! 頑張って下さい!!」


 バニーガールの衣装を着て小学生を応援するとか、どんな羞恥プレイでしょうか。


 しかし、愛奈ちゃんの為ならと、浩美先生は顔を真っ赤にしながら、恥を捨てて応援します。


「みなぎってきたーーーーーー!!!!!」


 その甲斐あって、愛奈ちゃんは完全回復アンドパワーアップを果たします。何だか、いつもより強くなっている感じです。


「エクストリームラブパワー!!!」


「ごはっ!!」


 浩美先生への愛に溢れて、愛奈ちゃんはファギマの顔面を殴り飛ばしました。


「バ、バカな……俺があんなふざけたパワーアップで、ダメージを負っただと……!?」


 ショックを受けています。まぁ確かに、信じられない現象ではありますが。


「勝負あったね、宇宙海賊の船長さん」


 浩美先生大好きパワー(バニーガールver)が入った以上、自分に負けはない。勝利宣言をする愛奈ちゃん。


「……舐めた真似してくれるじゃねぇか」


 しかし、ファギマは引き下がりません。


「どうやらお前相手には、全力を出す必要がありそうだな」


 ファギマは右目の眼帯に手を伸ばし、眼帯を引きちぎって床に投げ捨てました。眼帯の下には、黄金の瞳が輝いています。右とは違う色の瞳ですが、義眼というわけではなさそうです。


 そして、ファギマの気がさらに、三十倍に膨れ上がりました。


「驚いたか!! 俺の一族は変身型の宇宙人の中でもさらなる変異種でな、左右どちらかの目が力の源になるんだ!! 眼帯は俺の力を抑制する為の枷なんだよ!!」


 ファギマは失明しているのではありません。本来の力を隠す為、そして戦いを楽しむ為に、わざわざ特殊な眼帯を作らせ、それで力を抑制していたのです。愛奈ちゃんのパワーアップが、あらゆる意味で予想外過ぎたので、スターライトコアを奪った後の対ダイヤモンドグランパ戦まで温存しておくつもりでしたが、使う事にしたのです。


「俺のプライドに泥を塗った貴様は、地獄に叩き落としてやる!!」


 ここからが本当の戦いの始まりです。自分の全ての力を解放し、ファギマは愛奈ちゃんを殺すと宣言しました。


 一方愛奈は、


「泥? そんなの塗った覚えないよ。っていうかどうやって塗るの?」


 真面目に疑問を抱いていました。


「いや、塗るというのはそういう意味ではないぞ」


 どうにか復帰した勝希ちゃんは、勇子ちゃんの代わりにツッコミを入れます。


「まぁいいや。よくわかんないけど、泥を塗られて怒ってるみたいだから、顔に歯磨き粉塗ってあげるね」


 愛奈ちゃんは素早くファギマに近付くと、歯磨き粉のチューブを出して、顔面にぶりゅりゅと塗りつけました。ちなみに歯磨き粉のチューブは、トラベルセットに入っていたものです。


「だからそういう意味ではないと言っただろうが!! それに塗る物を変えればいいというわけでもないぞ!!」


 っていうか何で歯磨き粉なんて持ってるんでしょうかね。しかも使い方違いますし。


「このクソガキが……ぶっ殺してやる!!」


 ここに来て突然ギャグに走った愛奈ちゃんに、ファギマは歯磨き粉を拭ってから激怒します。そりゃ怒りますよ。


「ああ……松下さんがいないから収拾が付かない事に……」


 浩美先生は焦っています。そういう問題でしょうか。


「勇子なら心配ない」


 友香ちゃんは宇宙武闘祭の会場で浩美先生に言った事を、もう一度言います。未来予知で見たからではありません。


 ただ、勇子ちゃんが持っているものが何なのかを、よくよく思い出して頂ければ、自然とわかる事です。


 愛奈ちゃんの専属ツッコミ係である勇子ちゃんが、愛奈ちゃんの悪ふざけに対して、全く反応しないなどという異常事態が起こるでしょうか? そんな事はあり得ません。あったかもしれませんが、今ここではあり得ません。




 今、モノタイタンズの旗艦を目指して、ビッグコズミックワンダーランドから、巨大な物体が飛んできていました。


「何だあれは!?」


「ま、まさか、ハリセン!?」


 そうです。それはとてつなく巨大な、スーパーハリセンです。


 敵も味方も困惑し、困惑している間に、超巨大スーパーハリセンに吹き飛ばされていきます。


 スーパーハリセンの先端には、勇子ちゃんが凄まじい形相で、ガイナ立ちしていました。


「シリアスな空気を壊しやがって……」


 勇子ちゃんはガイナ立ちをしたまま微動だにせず、スーパーハリセンを操り、


「このバカ愛奈ーーーーーーーっ!!!」


 そのままモノタイタンズの旗艦に突撃しました。



「「おわーーーーーーっ!!」」


 その突撃はちょうど船長室に飛んでいき、壁を突き破って出てきたスーパーハリセンが愛奈ちゃんを吹き飛ばします。ついでに近くにいたファギマも一緒に吹き飛ばしました。なんというとばっちり。


「ま、松下さん!?」


「だから心配ないって言った」


 浩美先生は恐ろしい登場のし方をした勇子ちゃんを見て驚き、友香ちゃんは浩美先生に笑いかけました。笑い事ではないんですが。


「浩美先生!? どこ探してもいないと思ったらこんなところに……って何ですかその格好……」


 勇子ちゃんは浩美先生の存在に気付き、そしてバニーガール姿に困惑しました。


「私の発案」


「てめーが原因か!!」


「ぼべし」


 そして、あっさり白状した友香ちゃんを、元の大きさに戻ったスーパーハリセンで叩きました。


「いたたた……ひどいよいさちん。っていうかもうちょっと普通に出てくる事って出来ないの?」


 盛大に吹き飛ばされてきた愛奈ちゃんが、頭をさすりながら復帰してきました。


「私のせいか!? 私のせいなのか!?」


「まぁまぁ。何だか私にもよくわかっていませんけど、愛奈さんのおかげでこうして合流出来たみたいですし、許してあげて下さい」


「……浩美先生がそう言うなら」


 猛り狂う勇子ちゃんを、浩美先生が抑えます。素直に従う辺り、勇子ちゃんも浩美先生が好きなんですね。


「ふう……ようやくここに入れたわい」


 と、金剛さんまでがスーパーハリセンの空けた穴から、侵入してきました。勇子ちゃんのおかげでモノタイタンズの攻撃に隙が生まれ、こうして侵入出来たのです。


「それがお前の仲間達か。そして、ダイヤモンドグランパ。久し振りだな」


「ふん。まだやられ足りなかったようじゃから、もう少しやりに来てやったぞ」


 ファギマは再生能力でダメージを回復し、金剛さんを見つめます。全力を使おうと思っていた相手と、少し早めですが再会したので、気合いが入ったのでしょう。


 しかし、ここを訪れたのは、彼らだけではありませんでした。


「突っ込むゾイ!」


 度重なる攻撃で制御を失った半蔵さんの宇宙船が、緊急着陸の為、モノタイタンズの旗艦に突っ込んだのです。


「ごわああああああああ!!!」


 そして、こちらも狙ったように、船長室の壁を突き破って、ファギマを突き飛ばしました。


「あででで……」


「どうやら、助かったみたいですね」


「ひどい目に遭ったッス……」


 江口ギャング団、合流。


「あ! 江口ギャング団!!」


「あ! 高崎!」


 江口くんと愛奈ちゃんは、互いに指を差し合います。


「……貴様ら、殺す!」


 再生したファギマは、青筋を浮かび上がらせていました。


「ど、どうなっちゃうんですか、この戦い……」


 もうどうやったら収拾が付くのか、わからなくなってしまった浩美先生。


 というところで、また次回! 宇宙編、遂に完結!


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