第三十四話 宇宙海賊モノタイタンズ
ここは、ビッグコズミックワンダーランドの園長室。
園長のジョイさんは、多数の屈強な男性から、光線銃を突きつけられていました。
「いつまで強情を張るつもりだ? さっさとスターライトコアを渡せ!」
男性達はもちろん、モノタイタンズの潜入部隊です。ビッグコズミックワンダーランドの制圧を、アルティメットフォースや本隊のみならず、潜入部隊を潜り込ませる事で、より円滑に行うという作戦でした。
そして、ジョイさんからスターライトコアを奪うという役目も与えられています。
「渡さないと言ったはずだ! さあどうする? 渡す意思はないぞ。なら私を殺すか? だがな、スターライトコアには自爆プログラムが組み込んである。私が死ねば、その瞬間にコアは自爆するのだ。絶対にスターライトコアが貴様らのものになる事はない!」
ジョイさんは、絶対にスターライトコアを渡さないつもりです。こんなならず者集団が、スターライトコアを手に入れたりしたら、宇宙は滅ぼされてしまいます。
「このテーマパークは既に、我々の本隊が包囲している。来客どもを逃がす事は不可能だ。お前が死ねば、スターライトコアと一緒に、このテーマパークも爆発する。お前一人の身勝手の為に、大切なお客様まで道連れにするつもりか?」
「ぬ……!!」
海賊に言われて、ジョイさんは言葉に詰まりました。
コアを渡して助かるか、お客さん達と一緒に心中か、究極の二択。しかし、大人しくコアを渡したからといって、助けてくれるとは思えません。だって相手は、宇宙海賊なのですから。
(どうする!? どうすれば全員助けられる!?)
選択肢など、実質あってないようなものです。ジョイさんはこの状況を打開する方法を、必死に考えました。
しかし、考えがまとまる前に、状況は動きました。
突然、どこからともなく光の矢が飛んできて、ジョイさんを脅迫している以外の、全ての海賊の光線銃を破壊したのです。
「何!?」
リーダーの海賊の光線銃も、突然飛んできた氷柱で粉砕されました。
その後、また無数の矢が飛んできて、海賊達の身体に突き刺さります。矢は海賊達の体内に吸い込まれていき、海賊達は眠ってしまいました。
「ラブスリーピングアロー。ラブスリープハープより強力な、局所睡眠攻撃さ」
「大丈夫ですか!?」
現れたのは、弓弩くんと氷華さんです。
「き、君達は!?」
「話しは後です! 今はとにかく、ここを離れましょう!」
二人はジョイさんを連れて、園長室から飛び出します。
と、既に別の海賊が向かってきていて、氷華さんはジョイさんを壁に引き込みました。その隙に、弓弩くんが矢を撃ち放って海賊を倒します。
「強いな……そうだ! 君達、これから私についてきてくれないか!?」
「ついていくって、どこへですか?」
「奴らの狙う物がある場所だ」
「……わかりました。案内をお願いします」
海賊の狙いがわかっているなら、願ってもない話です。二人はジョイさんについていきました。
三人が辿り着いたのは、ビッグコズミックワンダーランドの最下層でした。そこには、長い廊下が一本だけ伸びている広い部屋があって、廊下の先に何かあります。
ジョイさんは隔壁を下ろして誰も入れなくすると、二人を連れて廊下の一番奥まで行きました。そこにあったのは、真っ白な光を放つ、野球ボールぐらいの大きさのガラス玉でした。氷華さんが訊ねます。
「これ、何ですか?」
「スターライトコア。このビッグコズミックワンダーランドにおける、全ての電力を賄っているエネルギーコアだ」
「こんな小さなコアで!?」
弓弩くんは驚愕しました。こんな、片手で持てるような小さなエネルギーコアで、惑星と同じ大きさのテーマパークの全電力を供給しているなど、信じられない話でした。
「この部屋には常に、星の光を供給している。このスターライトコアは、星の光を原動力にして、一瞬でその何千倍ものエネルギーを生み出す。連中はこれを狙っているのだ」
「じゃあ、今すぐこれを持って逃げないと!」
「そうはいかん。これを動かせば、ビッグコズミックワンダーランドの全てのライフラインが停止してしまうのだ」
氷華さんはスターライトコアを動かすよう勧めましたが、ジョイさんは首を横に振ります。つまり、これをここから動かす事は出来ないのです。
「じゃあ、僕達でこれを守ればいいんですね?」
「ああ。既に銀河連邦には連絡してある。30分もあればここに到着し、モノタイタンズを鎮圧してくれるだろう」
弓弩くんは、ジョイさんが二人をここに連れてきた意図を理解しました。海賊達を瞬殺する力を持つ弓弩くん達で、宇宙の治安維持部隊が到着するまでここを守り続ける事です。
「わかりました」
弓弩くんが言った瞬間、隔壁の方から爆発音が聞こえました。どうやら隔壁の向こうには、もうモノタイタンズのクルー達がひしめいていて、ここに突入しようとしているようです。まだ隔壁は突破されていませんが、遠からず雪崩れ込んでくるでしょう。
「弓弩くん……」
氷華さんは氷で隔壁を補強してから、弓弩くんの服の裾を握りました。宇宙海賊との戦いなど初めてで、30分も持ちこたえられるかどうかなど全くわかりません。
「大丈夫。君は僕が守る」
弓弩くんは氷華さんを勇気づけますが、彼としても全く自身がありませんでした。しかし、スターライトコアを奪われる時は、自分も氷華さんも死ぬ時です。氷華さんと一緒なら、死ぬのは怖くない。そう思いながら、弓弩くんはラブハートアーチェリーを構えました。
◇◇◇◇
「亮二!」
「おお、師匠! ご無事で!」
「当たり前じゃ。わしを誰だと思っとる?」
亮二さん達は、金剛さん達と合流する事が出来ました。
「金剛さん。ここを攻めてきてる宇宙海賊って……」
梨花さんの問い掛けに、金剛さんは頷きます。
「かつてわしが園長と出会った時に、退けた連中じゃ。その後もここに攻め込む事があって、返り討ちにしてやったんじゃが、どうも懲りておらんかったらしいな」
金剛さん達は一昨年のお盆、ビッグコズミックワンダーランドに来ています。その時は、モノタイタンズがジョイさんではなく、ビッグコズミックワンダーランドそのものを襲撃しており、金剛さん達アンブレイカブルファミリーによって撃退されました。
「仕方ない。また相手をしてやるとするか……」
そう言って、石原家の人々は、アンブレイカブルファミリーのスーツを装着しました。
「金剛さん! 実は、愛奈と浩美先生が……!」
「む? そういえば、愛奈ちゃん達と浩美先生の姿が見えんな」
慎太郎さんの訴えによって、金剛さん達は愛奈ちゃんがいない事に気付きます。亮二さんが、愛奈ちゃんと勝希ちゃんは、モノタイタンズの船長を倒しに行った事を教えました。
「モノタイタンズの船長を!? なんて無謀な事をするんだ……」
「あいつ滅茶苦茶強いんだよ! おじいちゃんじゃないと勝てないくらいに!」
日長さんと鉄男くんが驚きます。アンブレイカブルファミリーは、モノタイタンズの船長の実力を見ていました。そして、金剛さん以外のアンブレイカブルファミリーは敗れており、とてつもない実力を見せつけていたのです。
「勇子ちゃんと友香ちゃんは!?」
こがねちゃんが車椅子の上から、二人の所在がなぜないのか確認しようと、梨花さんに催促しました。
「それが、この人混みのせいで別れちゃって、どこにいるかわからないのよ」
誰もが我先にと逃げ出すこの大パニックのせいで、梨花さん達は避難に相当難儀しており、勇子ちゃんと友香ちゃん、それから浩美先生が巻き込まれて、行方不明になってしまっていたのです。
「じゃあ、僕が探してきます!」
琥珀くんがバイクに変化した自転車に、レーダーを追加します。
「先生達の捜索は、琥珀くんに任せよう」
「私達は、モノタイタンズを片っ端から倒していくわよ!」
日長さんと銅子さんが、役割を分担しました。
「亮二。お前は他の皆さんを連れて、避難所に行っておれ。わしは奴らの旗艦に乗り込み、親玉を叩いてこよう」
「わかりました」
流石の亮二さんも、宇宙海賊が相手では戦力外です。それに、金剛さんは愛奈ちゃん達より先にモノタイタンズの旗艦に辿り着き、船長と戦う前に倒さなければなりません。
「では、外の敵をみんなに任せて、私はスターライトコアを守りに行きましょうかね」
しろがねさんは、モノタイタンズの狙いである、スターライトコアの守護に回ります。
「よし、各自散開!」
金剛さんの指示で、アンブレイカブルファミリーが方々に散っていきます。
「こがね、大丈夫か?」
「うん。スーツのおかげで何とか」
スーツには飛行機能があるので、不調時でも飛べます。
「こがねちゃん。補助エネルギースイッチを使うといい。気休めにはなるよ」
「ありがとうお父さん」
日長さんに言われて、こがねちゃんはスーツに着いているスイッチの一つを押しました。補助エネルギースイッチ。その名の通り、余分なエネルギーを装着者の力に回せる装置です。疲弊した時の緊急用装置なので、本当に余分なエネルギーしか入っていませんが、それでも今のこがねちゃんにとってはマシな措置です。
「あんまり前に出ないで、私達に前衛を任せなさい」
「大丈夫。僕達がお前を守るからね」
銅子さんと鉄男くんが言います。こがねちゃんは、家族というものの暖かさを感じていました。
「ありがとう。でも大丈夫! 私だってアンブレイカブルファミリーの、ゴールドシスターだもん!」
悪が現れたら戦う。その為に、自分はアンブレイカブルファミリーを名乗っているから。こがねちゃんは、みんなにそう言いました。
「では、わしらも行きましょう」
モノタイタンズはヒーロー達に任せて、亮二さん達は避難所に行く事にしました。
「勇子は、勇子は無事でしょうか?」
尚子さんは勇子ちゃんを心配しています。
「大丈夫ですよ。あの子もあれで、なかなかたくましいですからな」
亮二さんは尚子さんを勇気づけました。
◇◇◇◇
「船長、アンブレイカブルファミリーが来ているようです。奴らの生命反応を確認しました」
モノタイタンズの船長室に、クルーの一人が連絡をしに来ました。
「やはり来たか。あの手を使え」
船長は鼻を鳴らすと、クルーに対アンブレイカブルファミリー用の戦術を取るよう命じました。
モノタイタンズの戦艦から、無数の小さなロボット達が出撃してきます。
「カッパーライトニング!!」
銅子さんは電磁力使いです。両手から電撃を放ち、ロボット達を次々となぎ払っていきました。しかし、ロボットも戦艦と同じく、次々出てきます。
「奴め……わしを近付かせんつもりか……!」
金剛さんは舌打ちしました。モノタイタンズの船長は、アンブレイカブルファミリーとの戦闘に敗北した理由を研究し、戦いを乱戦に持ち込んで、物量作戦を仕掛ける事を考えたのです。闘気で一気に消し去ろうとすれば、ビッグコズミックワンダーランドの防衛部隊を巻き込みます。となれば、地道に潰していくしかなくなるわけです。
モノタイタンズの旗艦も、途中で近付くのをやめてしまいました。旗艦が止まっている場所は宇宙空間なので、こちらからでは宇宙船にでも乗らないと近付けません。
現在、アンブレイカブルファミリーのスーツは、バイザーが顔全体を覆っています。水中や宇宙空間で活動する為の形態です。その為、宇宙に飛び出す事自体は問題ないのですが、宇宙空間である為、ロボットによる守りが厳重です。
金剛さんがどうやって突破しようか考えていた時でした。亮二さんは、赤い光と黒い光が、旗艦に向かって飛んでいくのに気付きました。
「あれは、まさか……!」
日長さんも気付きます。あれは、愛奈ちゃんと勝希ちゃんです。あの子達には闘気があるので、自分達の身を闘気で守りながらなら、短時間、宇宙空間でも戦えるのです。
そして、小さいので小回りが利き、ロボットを倒さずにかいくぐっていけるのです。あ。と思ったら今、味方の戦艦を貫通しました。
「無茶苦茶だよあの二人!」
鉄男くんは呆れています。
「いかん、あの子達に力では……!」
金剛さんは二人が、モノタイタンズの船長と鉢合わせる事を危惧していました。
「お父さん! 奴らの戦力も、決して無尽蔵ではありません!」
「倒し続けていけば、必ず終わりは来るはずよ!」
日長さんと銅子さんが言います。確かに、いくらでもロボットや戦艦を用意するなどという事は、流石に最強の宇宙海賊でも出来ません。
(わしが行くまで、死ぬなよ、二人とも!)
その終わりが来るまで、どうにか持ちこたえて欲しいと、金剛さんは願いました。
一方、愛奈ちゃんと勝希ちゃんは、ビッグコズミックワンダーランドから飛び出したままの速度で、モノタイタンズの旗艦に突っ込みました。
頑丈な装甲が破壊され、戦艦の中の空気がすごい勢いで出ていきますが、今空けた大穴は、すぐに塞がってしまいました。
「おお。さっすが、宇宙の技術だねー」
愛奈ちゃんは闘気のガードを解きます。
「無事に侵入出来たようだ。さて、次は……」
勝希ちゃんもまた、暗黒闘気の守りを解いて、周囲を見回します。
上手くモノタイタンズの旗艦に乗り込めました。ここから先は、強い気配を追って艦内を突き進めばいいのですが、どうやらそう簡単にはいかないようです。敵兵大量発生。
「邪魔だなぁ」
「私がやろう」
向かってくる敵兵を見て、勝希ちゃんが前に出ました。
「お、勝希ちゃん優しい!」
「勘違いするな。お前にやらせて、この船が破壊されでもしたら元も子もないのでな」
あー、それはあります。
「前道流気功術、操黒指閃!!」
勝希ちゃんは両手を交差するように構えると、両手の指全てに暗黒闘気を灯し、両手を前に向けて、十本の黒いレーザーを飛ばしました。放たれたレーザーは生き物のように動き、敵兵の急所を正確に射抜いていきます。一人貫いてもレーザーは消えず、その後ろの敵、横の敵とどんどん貫いていき、兵士は全滅しました。
「殺しちゃったの? えげつない事するねぇ」
「今頃はワンダーランド側からも、公的機関に連絡を飛ばしているだろう」
「……こーてききかん?」
「警察のようなものだ。遊園地があるのだから、当然警察もある。そして、奴らは海賊。捕まれば、死罪は免れん。なら今死のうと同じ事だし、正当防衛が成り立つ」
「ふーん、怖いなぁ」
「私はお前の方が怖い」
正直、愛奈ちゃんは今勝希ちゃんが言った事の七割くらい理解出来ていません。なので、軽く流していました。まぁ愛奈ちゃんも、この前異世界で大勢死人を出しましたし。
「さっさと行くぞ。生きてようが死んでようが変わらないゴミ屑相手に時間を浪費するなど、愚か者のする事だからな」
「はーい」
愛奈ちゃんは生返事を返し、船長を探しに行きました。
◇◇◇◇
「迷った」
友香ちゃんは呟きました。
浩美先生、勇子ちゃん、友香ちゃんの三人は、人混みに飲まれてしまい、まず人の少ない安全な場所に出ようと試みていました。その甲斐あって人混みからは出られたのですが、会場自体からはまだ出られておらず、迷子に。しかも、勇子ちゃんとはぐれてしまっていました。
「どうしましょう!? 早く松下さんを見つけないと……!!」
「勇子は心配ない。それより、私達がここから出る事の方が先決」
どうしてそんな自信があるのかわかりませんが、友香ちゃんは勇子ちゃんの事を全く心配していません。自分達の脱出を最優先にしています。
「か、要さん!」
友香ちゃんは本当に、勇子ちゃんの事を心配していないようで、勝手に近くの部屋を開けて入って行ってしまいました。浩美先生は、慌てて友香ちゃんを追い掛けます。
「この部屋は……」
「出場選手の、控え室でしょうか?」
部屋の中には、タオルやスポーツドリンクなどが置いてありました。どうやら、出番待ちの選手が休憩する為の、控え室のようです。
「要さん、何してるんですか?」
友香ちゃんは、控え室の中を物色し始めます。
「脱出に使えそうな物があるかもしれない。地図とか」
「泥棒してるみたいで嫌ですけど、そういう事なら私もお手伝いします」
というわけで、浩美先生も物色を始めました。
その時です。
「友香お姉ちゃんに浩美先生ー! 壁から離れて下さーい!」
どこかから、琥珀くんの声が聞こえてきました。
「今の、琥珀くんの声!?」
浩美先生は気付いて、物色をやめます。しかし、妙です。琥珀くんの声が、まるでスピーカーから聞こえてくるかのようにくぐもっていて、しかも壁から離れて欲しいとまで言っていました。
その理由はすぐわかりました。控え室の一番奥の壁が、突然吹き飛んだのです。
舞い上がる土煙にむせる浩美先生。そしてその向こうに、小型の宇宙船のようなものが見えました。
琥珀くんの自転車です。浩美先生達の捜索が予想以上に難航してしまった琥珀くんが、自転車をさらに強化したのです。
「見つけましたー!」
「琥珀くん!」
浩美先生は安堵します。これで、自分達の安全は確保されたようなものです。
「早く乗って下さーい!」
着陸した琥珀くんは、出入り口を開けて、浩美先生達を収容しようとします。
「はい! 要さん、早く!」
「わかった」
物色をようやく終わらせた友香ちゃんは、浩美先生と一緒に自転車へと乗り込みました。
「二人が見つかってよかったでーす! ところで、勇子お姉ちゃんはどうしたですか?」
「それが、はぐれてしまって……」
「勇子なら心配ない。それより、今すぐあの一番大きな戦艦に向かって欲しい」
友香ちゃんは指を差し、モノタイタンズの旗艦を示します。
「え? 何でですかー?」
「理由はあとで教える。今はとにかく向かえばいい」
「んー……わかりましたー」
琥珀くんは少しばかり思案しましたが、やがて承諾し、自転車を発進。モノタイタンズの旗艦に向かって舵を切りました。
「それと、浩美先生は、今すぐこれに着替えて欲しい」
「えっ?」
友香ちゃんは、先程控え室で見つけ、そして拝借してきた物を、浩美先生に見せます。見た瞬間に、浩美先生は顔を真っ赤にしました。
「む、無理です! そ、そんな恥ずかしい服……!!」
「お願い。これを着てくれないと、愛奈はモノタイタンズの船長に勝てない」
「えっ!?」
その話を聞いて、浩美先生の顔色が変わります。
このままでは、愛奈ちゃんが勝てない。しかし、自分が少し恥ずかしい思いをすれば、勝つ事が出来る。自分の教え子の為に、愛奈ちゃんの為に、自分に出来る事があるなら、何だってしようと考えていた浩美先生です。それならばと、浩美先生は服を受け取りました。
「わかりました。私、やります」
「ありがとう。浩美先生がそれを着て応援すれば、愛奈は間違いなくモノタイタンズの船長に勝てる」
「着替えるですか? じゃあ個室を作るですから、そこを使って下さーい」
友香ちゃんは浩美先生にお礼を言って、操縦しながら話を聞いていた琥珀くんが、船内の一部に更衣室を作ります。
「ありがとうございます」
浩美先生はお礼を言って個室に入り、友香ちゃんから渡された服に着替え始めました。
◇◇◇◇
モノタイタンズ旗艦内部。
愛奈ちゃんと勝希ちゃんは、とうとう船長室に辿り着きました。
しかしこの船長室、やけに広いです。幅も奥行きもあって、しかも船長とおぼしき、右目に眼帯を掛けた男性が一番奥の、玉座のような場所に座っていました。ここはまるでRPGのボスのような部屋で、いくら暴れても構わないと言われているかのようです。
「貴様がモノタイタンズの船長か」
勝希ちゃんが訊ねると、男性が答えました。
「いかにも。俺はモノタイタンズの船長、ファギマ・オーガだ」
勝希ちゃんと愛奈ちゃんは、男性の声が、あの通信機から聞こえてきた声と全く同じである事に気付きます。どうやら、彼がモノタイタンズの船長で、間違いなさそうです。
「しかし、ずいぶんと可愛らしい客人が来てくれたものだな」
「甘く見てると痛い目見るよ。アルティメットフォースって、あんたの親衛隊だったんだっけ? 弱すぎて話になんなかったね。今すぐおうちに帰ってくれるなら、あいつらと同じ目を見なくて済むよ。どうする?」
愛奈ちゃんはファギマに、降伏勧告をします。
「残念ながら、それは出来ん。こちらも、一年跨いで練り上げた計画だからな」
当然、受け入れてはもらえませんでした。
「しかし、パライオン達が敗れるとは……お前達強いな。久し振りに、面白くなってきたぞ」
愛奈ちゃんはファギマを脅すつもりだったのですが、逆にファギマの闘志に火を点けてしまったようです。
「あいつらを倒した程度の事で調子に乗らない方がいい。何せ俺も、あの大会の優勝者の一人だからな」
「えっ!?」
「貴様が宇宙武闘祭の優勝者だと!?」
これは知りませんでした。ファギマは宇宙武闘祭に参加した経験があり、しかも優勝者だったのです。
「俺は毎年のように仲間と宇宙武闘祭に参加し、優勝し続けた。そして十二年前、表舞台で頂点に立つ事に飽きて、宇宙海賊になったというわけだ」
それも、常連でした。彼がスターライトコアを狙う理由も、この大会に参加していた事を思い出したのがきっかけです。
「宇宙武闘祭って、宇宙最強のチームを決める大会でしょ? 友達は止めなかったの?」
「もちろん止めてきたさ。だから、全員殺してやった」
愛奈ちゃんは絶句しました。ファギマが宇宙海賊になろうとした時、当然チームメイトは止めました。しかしファギマは聞かず、それどころかチームで誰が最強か決めるバトルロワイヤルを始めてしまい、チームメイト達を皆殺しにしてしまったのです。
「……あたしは、あんたに帰ってもらえれば、それでいいって思ってた。でも、あんたを倒す事にしたよ。だってあんて、いくらなんでも危なすぎるもん!」
宇宙海賊というからにはまともな人間ではないという事を、ある程度は覚悟していました。しかし蓋を開けてみれば、ファギマは想像以上の危険人物だったのです。愛奈ちゃんは何が何でも、ここでファギマを倒し、モノタイタンズを壊滅させる事を決めました。
「前宇宙最強が、このような場所にいたとはな。宇宙最強の称号を手にする機会を奪われた八つ当たりをしてやろうと思っていたが、面白い。貴様を倒し、真の宇宙最強を名乗らせてもらう!」
愛奈ちゃんは怒りから、勝希ちゃんは最強への渇望から、同時にファギマに突撃しました。




