第三十三話 激突!! vsアルティメットフォース!!
「……ん」
こがねちゃんは、医務室のベッドの上で目を覚ましました。ここには(なぜか)他にも何人か選手が搬送され、寝込んでいますが(インコ人間やカエル人間がいるのはたぶん気のせい)、こがねちゃんが一番最初に起きたようです。
「私……」
「気が付いたかい?」
「まだ動かん方がいい。愛奈ちゃんとの戦いで、お前はかなり消耗したからな」
しろがねさんと金剛さんの声が聞こえます。見てみると、石原家の人々が全員来ていました。
「おじいちゃん、おばあちゃん、みんな……私、負けちゃったんだね……」
こがねちゃんは、自分が負けたという事を自覚し始めました。不思議と、悔しさはありません。むしろ、あれだけ猛っていたのが嘘のように、とても穏やかな気持ちです。
「フォローが足りなくてごめんよこがねちゃん。僕もまだまだ、修行不足だった。デキる男にはほど遠いねぇ……」
「いや、日長君はよくやった。相手の勝利への渇望が、それ以上だったというだけだ」
金剛さんは、こがねちゃんに謝る日長さんを慰めました。
「父さんもこがねも悪くないよ。悪いのは僕さ」
「あんたも悪くないわ。悪いとしたら、相手が悪かったとしか……」
銅子さんも、鉄男くんを慰めます。確かに鉄男くんの場合、相手が悪かったとしか言えません。
「僕も、負けちゃったです……」
「琥珀。お前はよく頑張ったよ」
日長さんは、琥珀くんに優しい言葉を掛けました。
「みんなありがとう。でも、今は愛奈ちゃん達を応援しなくちゃ。今、誰の試合かな?」
こがねちゃんは自分の事より、愛奈ちゃん達の事を心配しています。
「お前がここに運び込まれてから、もう二時間は経ったはずじゃ。今頃は恐らく、決勝戦が始まっておるじゃろうな」
「決勝戦!? じゃあ早く愛奈ちゃん達を応援しに行かなくちゃ!!」
こがねちゃんは一刻も早く愛奈ちゃん達を応援しに行こうと、ベッドから起き上がります。しかし、ベッドから下りようとした時、力が入らずバランスを崩して落ちそうになりました。日長さんと銅子さんが、慌てて支えます。
「無理をするなこがね」
「だって、愛奈ちゃん達がちゃんと勝てるかどうか、見たいもん!!」
金剛さんは止めますが、こがねちゃんはもう、居ても立ってもいられません。
「……仕方ないなお前は。母さん、車椅子を借りてきてくれ」
「はい、あなた」
このままではとても会場まで辿り着けないので、車椅子を使う事にしました。しろがねさんが借りに行きます。
「……何だか外が騒がしいねぇ……」
車椅子は医務室の出入り口に十台ぐらい用意してあります。その車椅子の一つに手を伸ばした時、しろがねさんは、外で何事か喧噪が起こっている事に気付きました。
最初は、会場の盛り上がりがここまで伝わってきているのかと思いましたが、どうやら、そうではないようです。銃声らしき音が聞こえました。
しろがねさんは騒動の原因を確かめるべく、扉を開けます。
「何ですか一体? 今怪我人がいるんですよ」
正確に言うと怪我をしてはいないのですが、歩くのにすら支障が出るほど疲弊しているので、怪我人と言えるでしょう。
「ウラァッ!!」
怒ったしろがねさんが、外で騒いでいる何者かに叱責を飛ばした瞬間、マシンガンで武装した屈強な男が飛び込んできて、銃床でしろがねさんの顔面を殴り付けようとしました。
「!?」
驚いたしろがねさん。しかし、しろがねさんはその一撃を素早くかわし、男の首筋に手刀を喰らわせて、気絶させました。
しろがねさんの能力は、身体能力強化です。単純な腕力や脚力から、動体視力や反射神経まで、自身のありとあらゆる身体能力を自在に強化出来ます。
この能力を使えば、男の攻撃をかわすなど容易い事ですが、突発的な状況で自身の能力の使用を選択して回避、反撃にまで転じるというのは、流石歴戦のヒーローの一人といったところでしょうか。
「ハァッ!」
「リャアッ!」
しかし、騒動を起こしていた相手は、一人だけではありませんでした。屈強な男があと二人、向かってきます。
とはいえ、既に能力強化済みであるしろがねさんに敵うはずもなく、二人とも一瞬で無力化されました。
戦いとすら呼べない蹂躙劇を終わらせたしろがねさんは、周囲を見回します。辺りには、警備員と思われる服装をした男性や女性の死体が、いくつか転がっていました。
「これは……」
「おばあちゃんどうしたの!?」
しろがねさんが顔をしかめていると、騒ぎを聞きつけて、鉄男くんと日長さんが様子を見に来ました。二人もまた、同じように顔をしかめます。それから、しろがねさんは気絶してうつ伏せに倒れている男を仰向けにさせ、胸元を見ました。さっき戦った時、何か見えた気がしたのです。
「すぐにここを離れましょう。どうやら、何か良からぬ事が起こっているようです」
それからしろがねさんは、すぐにここから離れる事を提案しました。しろがねさんの提案に、二人は頷きます。その後、三人は車椅子を一つ使い、こがねちゃんを乗せて、周囲に最大限の注意を払いながら、医務室を離れました。
◇◇◇◇
遂に、この時がやってきました。
宇宙武闘祭、決勝戦です。
愛奈ちゃん達エクストリームガールズの対戦相手は、前回優勝を飾った、本物の宇宙最強チーム、アルティメットフォース。前回の準優勝チームを難なく下し、決勝戦に勝ち上がってきました。
「あれが、現在宇宙最強を名乗るチームか。なるほど、面構えが違うな」
「ホントね……見ただけで強いってわかるわ」
勝希ちゃんはアルティメットフォースを品定めします。勇子ちゃんは武闘大会については完全に素人ですが、それでも対戦相手が、宇宙最強を名乗るに相応しい戦士達だと、直感でわかったようです。本物は知識を持たない者にも、外見だけで強いと認識させる。そういう事ですね。
「あの人達を倒せば、いよいよあたしが宇宙最強……うふふふふ……!!」
愛奈ちゃん、笑顔と笑い声が気持ち悪いです。まぁ彼女も、興奮はしています。宇宙最強の称号に王手が掛かっている状態ですから、戦う事が好きでなくても、興奮はするのです。
「……勇子」
「ん? どうしたの?」
友香ちゃんが、唐突に勇子ちゃんに話し掛けました。
「何かおかしい」
「何かって、何が?」
「わからないけど、あのチーム、何かおかしい」
どうやら友香ちゃんは、アルティメットフォースに対して、何か危険な予感を感じたようです。
(卑怯な手を使ってくる、って事かしら?)
自分なりに、友香ちゃんの警告の意味を考える勇子ちゃん。
しかし、テーマパークでの戦いとはいえ、これは宇宙最強を決める大会。それに出場する選手が、卑怯な手を使ってくるなどとは信じたくない話です。
(……ちょっと待って。よく考えたら、私達はこの大会に初めて参加するわ。当然、アルティメットフォースとも、今回が初対面なわけで……)
ふと、勇子ちゃんは気付きました。そうです。つまり勇子ちゃん達はアルティメットフォースの事を、何も知らないのです。本当に卑怯な手を使ってくるかもしれないという可能性も、捨てきれないのです。もしかしたら、前回の大会でも、周りが気付いていないだけで、卑怯な手を使って優勝したかもしれません。
いずれにせよ、友香ちゃんが感じた予感には、必ず何か意味があるはずです。どんな事が起こってもすぐ対応出来るように、勇子ちゃんは一層警戒を強めました。
「さぁ、それでは頂上決戦を始めましょう!! 王者アルティメットフォース対、期待の新星エクストリームガールズ、試合開始!!」
試合が始まり、愛奈ちゃんと勝希ちゃんが構えます。友香ちゃんが睨み付け、勇子ちゃんがスーパーハリセンを抜きました。
しかし、アルティメットフォースは動きません。膠着状態に突入します。
何かしてくるかと、警戒するエクストリームガールズ。
「おかしい」
「えっ……?」
やがて、愛奈ちゃんが呟きました。勇子ちゃんが、そんな愛奈ちゃんの顔を見ます。
「奴ら、なぜ動かない?」
勝希ちゃんも、同じ疑問を抱きました。
既に試合は始まっています。だというのに、アルティメットフォースの戦士達は誰一人動こうとしません。戦おうという気配すらなく、不敵な笑みを浮かべたまま、棒立ちになっています。
「どうしたんだろう?」
アルティメットフォースの異変は、客席にも伝わり始めます。弓弩くんは、なぜいつまで経ってもアルティメットフォースが動かず、戦いを始めないのか、疑問に思っていました。
「弓弩くん、あれ」
と、氷華さんが声を潜め、弓弩くんの袖を引き、指を差しました。その方向には、何やらいそいそとどこかへ走っていく、地球人タイプの宇宙人の男性がいます。
「……すいません、ちょっと石原さん達の様子を見てきます」
「私も!」
「ん。師匠達によろしくな」
猛烈に嫌な予感がした弓弩くんと氷華さんは、亮二さんに適当な理由を言って、客席から離れます。
「あんた達、何で仕掛けてこないの?」
遂に痺れを切らした愛奈ちゃんが、アルティメットフォースのリーダーと思しき男性に訊ねました。
「お前達の出方を伺っているだけだ」
男性はそれっぽい言葉を返しますが、愛奈ちゃんはそれが嘘だと一発で見抜きます。
「ウソだね。出方を伺って反撃しようって気配が、あんた達から全然感じられない。それどころか、戦おうって気配すら感じないよ。やる気あんの?」
辛辣な言葉です。しかし、実際そうなのですから、そうとしか言えません。
「もちろんあるともさ」
「お前達よりずっとな」
「まぁ私達の場合、やる気の方向性が違うけどね」
愛奈ちゃんから挑発としか思えないような言葉を飛ばされたのに、アルティメットフォースのメンバー達は、意味深な事を言いながら笑っているばかりです。
「どういう意味?」
女性メンバーの口から放たれた、やる気の方向性が違うという言葉。その意味がわからず、勇子ちゃんは訊ねました。
しかし、女性はそれに答えません。代わりに、リーダーが服のポケットから、小さな機械を取り出しました。
「船長。そろそろいいですかい?」
リーダーは機械のスイッチを押すと、何者かに問い掛けます。
「ああ。始めろ」
どうやらあの機械は通信機の類いのようで、機械から野太い男性の声が返ってきました。
「了解」
リーダーは軽く笑うと、通信を切り、通信機をしまいました。と思ったら、今度は別の機械を取り出します。これは、通信機の類いには見えません。愛奈ちゃん達が固唾を飲んで見守る中、リーダーは機械のスイッチを押します。
その瞬間、リング全体を、この会場そのものを、赤い透明なバリアが覆いました。
「な、何だこれは!?」
慎太郎さんが動揺します。客席と会場内部を繋ぐ通路にもバリアが張られ、誰も出入り出来なくなります。
「あ、あんた達何をしたの!?」
ただならぬ事態が起こっている。そう感じた勇子ちゃんは、何をしたのか種を明かすよう、リーダーに求めます。
「こういう事さ」
リーダーは、いえ、アルティメットフォースのメンバー達は、着ていたスーツを脱ぎ捨てました。
スーツの下には、何やらガラの悪そうな服を着ており、その服の中央に、隻眼の鬼のような顔が描かれています。
「あ、あれは、モノタイタンズのシンボルマークだ!!」
観客の一人が叫び、周囲が弾かれたようにパニックに陥ります。
「な、何なの、モノタイタンズって……」
梨花さんは何なのか、わかっていないようでした。他のみんなもそうです。
「師匠から聞いた事がある」
モノタイタンズというらしい集団について、正しく理解出来ていたのは、亮二さんだけでした。
「最強最悪の宇宙海賊。かつてこのビッグコズミックワンダーランドの園長を襲ったのも、そいつらだと……」
「宇宙海賊!?」
浩美先生は、目を見開いて驚きます。
「俺達は最強の宇宙海賊、モノタイタンズさ!」
リーダーは自分達の素性を明かしました。
「宇宙海賊ですって!?」
「これはまた物騒な連中が出てきたな。で、その宇宙海賊が、ただのテーマパークに何の用だ?」
勇子ちゃんも驚きましたが、勝希ちゃんは冷静に訊ねます。
「ただのテーマパーク? お前達、このビッグコズミックワンダーランドが、本当にただのテーマパークだと思ってるのか?」
リーダーは笑い飛ばしました。確かに、最強の宇宙海賊と銘打たれる者達に狙われるのですから、ただのテーマパークとは思えません。
「このビッグコズミックワンダーランドが、宇宙一のテーマパークと呼ばれている理由を教えてやろう。それはな、このテーマパークの動力源さ」
ビッグコズミックワンダーランドは、惑星級の超巨大テーマパークです。これだけの施設の全域を賄おうと思えば、そのエネルギー総量はとてつもない事になります。少なくとも、地球の科学力では、絶対に無理な量です。
宇宙全体から見ても、賄えている事が奇跡と言えるほどのエネルギー総量です。そんなエネルギーをどこから調達しているのか、それがモノタイタンズの狙いでした。
「星の光を原動力に、一分でその数千倍のエネルギーを生産する究極のエネルギー炉、スターライトコア。ここの園長が偶然開発に成功したんだ。エネルギーを無限に生産出来るこのスターライトコアを手に入れたら、俺達はどれだけの力を手に出来ると思う?」
スターライトコアというエネルギー炉を手に入れる事が出来れば、生活が豊かになるだけではありません。エネルギーを生物にも転用し、さらなる生命体に進化する事も出来ます。
モノタイタンズの目的は、スターライトコアを入手し、自分達を真の最強の宇宙海賊にする事なのです。
「俺達は今まであらゆる方法を使って、スターライトコアを手に入れようとした。だが、全て失敗したんだ。だから、こんな回りくどい作戦を実行するしかなかったのさ」
まず、腕自慢の選手になりすまし、ビッグコズミックワンダーランドで開催される宇宙武闘祭に潜入。優勝し、注目と信用を集める。
そして次の大会に参加し、決勝戦まで勝ち進んだところでバリアを展開。出場選手と関係者を会場に閉じ込める。その間にモノタイタンズの本隊を攻め込ませ、スターライトコアを強奪する。一年を跨いだ、壮大な回りくどい作戦です。
警備が厳重な宇宙武闘祭の会場をバリアで閉じ込める事で、ビッグコズミックワンダーランドの警備の大部分と、強力な出場選手達を封印出来るのです。
「つまり、あなた達は捨て駒?」
友香ちゃんは率直な疑問を抱きました。バリアに閉じ込められているのは、アルティメットフォースのメンバー達も同じです。つまり、彼らは捨て駒という事になります。
「そうでもないさ。ここまで勝ち上がってきた選手なら、バリアを破れるくらい強いかもしれないからな。俺達には、そんな連中を封じ込める役目もあるんだよ」
彼らはモノタイタンズの船長を守る親衛隊です。間違いなく、モノタイタンズにおける最強の戦力であり、それをこの大会に参加させる事は、本隊の戦闘力を大幅にダウンさせる事になります。しかし、決して捨て駒というわけではなく、大会の最強戦力を封印するという重大な役目を兼ねていました。
「こっちもバカじゃない。この日の為に、一年も準備したんだ。俺達抜きでも、ここを落とせるよう準備してある」
「バリアを破ろうとしても簡単にはいかないぜ。何せ改良に改良を重ねて、滅茶苦茶頑丈に造ってあるんだからな」
アルティメットフォースのメンバー達が言うように、警備員達がバリアを破ろうとしていますが、バリアには傷一つ付いていません。
「た、大変よ愛奈! 私達閉じ込められちゃったわ!」
つまり、愛奈ちゃん達はどうしても、モノタイタンズ最強戦力と戦わなければならないわけです。勇子ちゃんは事の重大さを、愛奈ちゃんに伝えます。
一方愛奈ちゃんは、
「王手!」
一人で将棋に興じていました。
「あんた何してんのよ!!」
すかさずツッコミを入れる勇子ちゃん。一人で将棋って何でしょうか。作者も書いてて意味がわからなくなりました。
「話が難しすぎる上に長すぎて、何言ってんのか全然わかんないからさぁ、暇で暇でしょうがなかったんだよね。意味わかんない事いつまでくっちゃべってんのさ」
「あんたはわからなくても、向こうは大真面目で話してんの!!」
今度はポテチを食べ始める愛奈ちゃん。もうこの子、完全にやりたい放題です。
「最近ギャグが少なくて、この作品の存在意義がなくなり掛けてきてたからさ、暇なついでにふざけようかなって」
メタ発言はやめて下さい。シリアスな空気が死んでしまいます。
「お前……バカにしてんのか……?」
おっと、これにはアルティメットフォースのメンバー達も怒り心頭です。
「お? 話は終わり? じゃあそろそろ、バトル始めちゃう?」
愛奈ちゃんは片手でポテチの袋の口を閉じると、もう片方の手で袋を叩いて破裂させました。中身がたくさん残ってる状態で破裂させたので、ポテチがリング上に散らかりました。
「もう試合どころの話じゃなくなってんの!! 私達バリアの中に閉じ込められてて、このままじゃ殺されちゃうのよ!!」
「ああ、そんな話してたね」
マイペースです。危機感が全くありません。
「何をやっているんだあいつは……」
愛奈ちゃんの奇行は、慎太郎さんもしっかりと見ていました。
と、浩美先生だけはそれに全く構う事なく、両手を口元に添えて、大きな声で叫びました。
「愛奈さん頑張って!! みんなを助けて下さい!!」
その声とともに、愛奈ちゃんにスイッチが入りました。
「……いさちん。確か、バリアを壊せばよかったんだよね?」
「え? うん……」
真面目な声で訊ねる愛奈ちゃんに、勇子ちゃんはちょっと緊張してしまいます。
「おっけ」
愛奈ちゃんの全身から闘気が溢れ出し、愛奈ちゃんは両手を腰溜めに構えます。
「紅蓮情激波ーーーーーー!!!!」
そして、紅蓮情激波を斜め上に目掛けて撃ちました。紅蓮情激波は、いとも簡単にリングの、そして会場のバリアを破壊してしまいます。愛奈ちゃんはその状態で、紅蓮情激波の範囲を拡大させながら、なぎ払うようにして移動させます。
「ば、ばかな……都市破壊級のミサイルさえ、無傷で防ぐバリアが……」
リーダーは震えています。改良に改良を重ねた自慢のバリアが、あんな小さな子供に破壊されてしまったのですから、ショックは大きいです。
「で、次は何すればいいかな?」
「あいつらを倒せばいい」
勇子ちゃんは目の前の出来事が衝撃的すぎて放心状態になっていた為、代わりに友香ちゃんがやるべき事を指示しました。
「おっけ」
身構える愛奈ちゃん。
「な、舐めるなよ!! 俺達はモノタイタンズ船長の親衛隊、アルティメットフォースだ!!」
負けるわけがないと、アルティメットフォースのメンバー達は身構えます。
「チーム一の力自慢、ゴラック!!」
「チーム最速の男、シュリス!!」
「アルティメットフォースの紅一点、メラン!!」
「そしてリーダーのこの俺、パライオン!!」
「「「「いくぞ!!」」」」
勇ましく名乗りを上げたアルティメットフォースは、一斉に突撃を仕掛けました。
「うざい!!」
「「「「ぎゃあああああああああ!!!!」」」」
しかし、愛奈ちゃんが一発、拳を放った瞬間に、アルティメットフォースは宙を舞いました。ベルトのライフは0にされたのみならず、全員ボロボロにされます。これは、ベルトの転移機能が発動する前に、許容量を超えるダメージを受けたからです。通常なら絶対に起こりえない事態なのですが、浩美先生の応援パワーでブーストが掛かった愛奈ちゃんの力が、あまりにも強力すぎたので起きてしまいました。あとギャグ補正です。
「やはりこうなったか」
勝希ちゃんは、絶対にこうなると予想していました。浩美先生大好きパワーでブーストが掛かっている時の愛奈ちゃんとは、もはや戦いが成立しないからです。浩美先生が大好き。その気持ちだけで、肉体は限界を超え、物理法則を破壊し、常識をねじ曲げる。
あらゆる不可能を可能にする、理不尽そのもの。それが、今の愛奈ちゃんなのです。
「ま、まさか、ここまでとは……」
パライオンというらしいアルティメットフォースのリーダーだけは、理不尽の権化となった愛奈ちゃんの攻撃を受けてなお、意識がありました。意識があるというだけで、戦闘は不可能ですが。
「だが、無駄な事だ。俺達を倒せても、船長だけには絶対に勝てない。それに、今頃は、本隊が……」
そう言い残して、パライオンは気絶しました。
「あ、そういえば宇宙海賊なんだっけ? じゃあまだ仲間がいるんだよね」
愛奈ちゃんがそう言った瞬間、地面が大きく揺れました。
一方、ビッグコズミックワンダーランドの外。
「着いたゾイ!」
半蔵さんと江口ギャング団は、スーパーワープを終えて、ビッグコズミックワンダーランドが存在する宙域に出ました。
「おお! 遂に来たか! ここがビッグコズミックワンダーランド……」
江口くんは、はしゃぎ掛けて声を失います。
なぜなら、ビッグコズミックワンダーランドはモノタイタンズが用意した大量の宇宙戦艦から、攻撃を受けていたからです。ビッグコズミックワンダーランドからも戦艦が出撃し、激しい艦隊戦を繰り広げていました、
要するに、ただいま絶賛戦争中です。
「もしかして、俺達ヤバい時に来たんじゃなんですか?」
甚吉くんの言う通り。しかし、もう遅いです。
「危ないッス~!!」
四人が乗ってきた宇宙船は、モノタイタンズの仲間だと勘違いされ、ビッグコズミックワンダーランドの防衛部隊から攻撃を受けました。
「「「「ぎゃああああああああああああ!!!!」」」」
◇◇◇◇
「ここはもう危ない。早く逃げる」
友香ちゃんは愛奈ちゃん達に、ビッグコズミックワンダーランドから退避するよう勧めました。
「こんなの逃げられるわけないわ!! 周り全部宇宙海賊の戦艦に囲まれてるのよ!?」
勇子ちゃんは言いました。ここからでも、ビッグコズミックワンダーランド全域を囲む、ものすごい数の艦隊が見えます。どうやらモノタイタンズの準備とやらは、とんでもなく念入りに進められていたようで、防衛隊も必死に反撃していますが、艦隊はいくら撃ち落としても現れ続け、終わりが見えません。このままでは、お客さんを避難させる事も、出来そうにないです。
「そもそも、まだバリアは全部消えてないわ!!」
会場を封鎖するバリアは愛奈ちゃんに破壊されましたが、通路を閉鎖するバリアは消えていません。
「これ押せばいいんじゃない?」
友香ちゃんはパライオンの服のポケットに手を伸ばし、スイッチを押しました。これにより、バリアが完全に消えます。
「バリアが消えたぞ!」
「よし、逃げよう!」
避難経路が確保され、お客さん達が全速力で逃げ出します。
「わしらも逃げるぞ!」
「でもどうやってですか!?」
尚子さんは訊きます。周囲は敵に囲まれ、逃げ場はどこにもありません。
「とりあえず、師匠と合流を! それだけでも状況は変わってくる!」
亮二さんは、医務室にいるはずの金剛さん達を探しに行く事にします。
「さて、どうしたものか……」
勝希ちゃんは、この状況を打開する方法を考えていました。
「!」
と、愛奈ちゃんは、おびただしい艦隊の向こう側から、とてつもなく大きな気を感じ取ります。
「大きな気が、こっちに近付いてくる……」
「……私も感じた。恐らくこれは、連中の頭だろう。自らスターライトコアとやらを取りに来たか」
勝希ちゃんもまた、大きな気を感じ取りました。このタイミングで現れるとしたら、モノタイタンズの船長しかあり得ません。スターライトコアの強奪を部下に任せるつもりだったのでしょうが、目当ての品を目前にして、待ちきれなくなったのです。
見てみれば、周りの戦艦など比較にならないほど大きな戦艦が、こちらに向かってきていました。あれがきっと、船長の船です。
「遠からずここに着陸するな。しかし、これはチャンスだぞ。奴らの頭を倒せば……」
「あたし達の勝ち、だね」
愛奈ちゃんも、これは理解出来ました。船長さえ倒せば、モノタイタンズは霧散します。
「友香といさちんは、浩美先生達を守ってて。あたしがあの戦艦に乗り込んで、海賊の船長をとっちめてやるから!」
「私も行こう。このままでは、どうにも消化不良でな」
「オッケー! じゃあいさちん、友香、あとお願いね!」
「愛奈! 勝希!」
愛奈ちゃんと勝希ちゃんは、勇子ちゃんが止める間もなく、戦艦に向かっていきました。
「勇子。私達は、私達に出来る事をしよう」
「……わかったわ」
勇子ちゃんは友香ちゃんの手を取り、友香ちゃんは念力で飛んで、浩美先生の元へと急ぎます。
大波乱となった宇宙旅行編も、いよいよ大詰めです。




