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エクストリームガールズ!!  作者: 井村六郎
夏期激闘編
32/40

第三十二話 世紀の対決!! エクストリームガールズvsアンブレイカブルファミリー!!

 遂に始まった、宇宙武闘祭の本戦。


 愛奈ちゃん達のチーム、エクストリームガールズは、第一回戦の対戦相手、ワイルドシングズと向き合います。


「さあ、私達の歌の力を、全宇宙に轟かせるわよ!」


「「「はい、お姉様!!」」」


 カエルの宇宙人でした。オネエ口調で萌え要素皆無な、カエルの宇宙人でした。


「宇宙にはオカマしかいねぇのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


「「「「スクリーーーーーム!!!!」」」」


 激怒した勇子ちゃんは、開幕と同時にハリセンを叩き込み、カエルの宇宙人四人を一撃で打ち上げました。ちなみに本戦のルールは、イリーガルトーナメントとほぼ同じです。リングがあって、場外に落ちれば負け。


 ただ今回は、ライフベルトが着いたままです。ベルトのライフが0になると、その選手は脱落。四人全員が脱落したチームは失格となり、勝ったチームは次の試合に出場となります。予選と同じく、誰か一人でも勝ち残れば、脱落した選手も次の試合に出場出来ます。


 それと、公平な試合をする為に、予選で獲得したり失点したりしたライフはリセットされ、100ポイントに戻っています。


 今回は勇子ちゃんの一撃で、ワイルドシングズは全員場外負けとなり、エクストリームガールズは二回戦に出場となりました。


「……やっぱり一番優勝狙ってんのいさちんでしょ」


「うるさい!!」


 愛奈ちゃんの疑問に、勇子ちゃんは怒号を飛ばしました。まぁ、この鬼神のごとき活躍を見られれば、そう思われても仕方ないんですけどね。



「ぐ……は……」


 アンブレイカブルファミリーも、一回戦の相手であるスラッシャーズをあっさりと下し、二回戦に進出します。


「みんなすごい!」


「ここまでは順調だね……」


 知人達の戦いぶりに興奮する氷華さんですが、弓弩くんは少し不安そうです。


 なぜなら、エクストリームガールズの二回戦の相手が、アンブレイカブルファミリーだからでした。宇宙最強の称号を手に出来るのは、わずか一組だけ。つまり、どちらか片方は必ず潰れなければなりません。


「心配する事はない。愛奈は勝負に対しては真剣でな、相手が知人だろうと手は抜かん」


「それはわしの家族も同じ事じゃぞ、亮二。特に日長君には、もし手を抜いたら勘当すると言ってある」


「か、勘当!?」


「それはちょっとやりすぎなんじゃ……」


 梨花さんと慎太郎さんは驚きました。


「アンブレイカブルファミリーとしての自覚を持ってもらわねばならんからな。それに、負けたらとは言っとらん。手を抜いたらと言ったのじゃ」


 彼らはヒーローですからね。ヒーローは、常に全力投球です。全力を出してはいけないのは、全力を出すと被害が大きくなる時だけです。


「……始まるわ」


 銅子さんが、リングを見て言いました。




「やっほーこがねちゃん。勝ち上がってきたよー」


「待ってたよ愛奈ちゃん。やっと試合が出来るね」


 リング上で向かい合う愛奈ちゃんとこがねちゃん。試合が始まる前から、もう一触即発状態です。


「ここまで来たら、もう後には引けない。悔いが残らないよう頑張ろう!」


「うわぁ……本気だ……」


 鉄男君はかなりやる気ですが、勇子ちゃんはもう逃げ出したい気持ちで一杯でした。


「試合、開始!!」


 しかし、無情にも二回戦は始まってしまいます。


「行くよ、愛奈ちゃん!!」


 こがねちゃんは開幕と同時に、口から火を吐きました。こがねちゃんの能力は、炎熱操作です。口から炎を吐く戦い方を主に使い、必要な時には炎を超高熱のレーザーに変えます。


「おっと!」


 愛奈ちゃんはそれを回転しながらかわし、拳から二連発で闘気を飛ばしました。こがねちゃんはレーザーを二連発で吐き、闘気を相殺します。


「石原日長。私の相手をしてもらうぞ」


「やっぱり僕の相手は君か」


「貴様が一番強そうだったのでな。そちらも、子供の相手はつまらんだろう?」


「そんな事はないけど、君の実力には興味があったよ」


 勝希ちゃんと日長さんも、睨み合っています。


「ならば、たっぷりと味わってもらうぞ、サンストーンファザー!!」


 先に仕掛けたのは、勝希ちゃんでした。日長さんに向けて、暗黒闘気弾を放ちます。


 しかし、暗黒闘気弾は、日長さんに当たる直前で塵になりました。一瞬の内に無数の斬撃を叩き込まれ、切り刻まれたのです。


「本名ではなくヒーローネームを呼ぶ辺り、君はちゃんとわかってるね」


 この程度の芸当、日長さんにとっては朝飯前でした。


「僕の能力が防御にしか使えないと思ったら、大間違いだよ!!」


「きゃああああああ!!」


 アイアンシールドを飛ばして、勇子ちゃんを場外に押し出そうとする鉄男君。勇子ちゃんは悲鳴を上げて、リング上を逃げ惑います。


「…………」


「…………」


 無言で向き合う友香ちゃんと琥珀くん。


「……よろしく」


「はーい!」


 友香ちゃんは片手を挙げて挨拶し、琥珀くんもまた同じように片手を挙げて挨拶します。意外とこの二人、気が合うのかもしれません。


「手加減しませーん!!」


 自転車がバイクに変形し、そこからさらに琥珀くんを格納して、巨大なモンスターマシンに変形。ミサイルをこれでもかというほど、友香ちゃんに向けて放ちます。こがねちゃんや鉄男くんもやる気満々ではありますが、こっちも大概ですね。


 しかし、ミサイルは全て、友香ちゃんの念力によって空中で止められ、押し潰されて爆発します。


「むむ!」


「なかなかいい攻撃だった」


 こんなにあっさり防がれると思っていなかったので、琥珀くんは顔をしかめます。友香ちゃんも友香ちゃんで大概でした。


「紅蓮情激波!!」


 愛奈ちゃんが両手から闘気を、


「ゴールデンヒートブラスター!!」


 こがねちゃんが口から高熱のレーザーを、それぞれ発射して、相殺し合います。


「こがねちゃんの技、熱いね!」


「愛奈ちゃんのだって!」


 炎属性同士の熱い戦いが続いています。愛奈ちゃんのライフは85、こがねちゃんのライフは86で、こがねちゃんがわずかにリードしていました。


「アンブレイカブルアーツ、サウザンドスラッシュ!!」


「地獄蜂鳥!!」


 日長さんが放つ無数の斬撃を、勝希ちゃんは手刀で全て弾きます。


「闇黒刃!!」


「ふっ!」


 勝希ちゃんの闇黒刃を、日長さんはサンヒートブレードで簡単に受け止めます。


「ほう……私の闇黒刃を受けて、破壊されんとはな」


「このサンヒートブレードは僕の最高傑作の一つさ。そう簡単には、壊されないよ!」


 それから、日長さんは勝希ちゃんを押し返しました。


「そらっ!」


「むっ!?」


 直後に、勝希ちゃんの右足首を斬り付けます。勝希ちゃんのライフが、90になりました。


「油断してたかな? 足下がお留守だったよ」


(この私が反応出来なかっただと!?)


 不敵に笑う日長さん。勝希ちゃんは驚いています。油断は全くしていなかったのに、右足首を斬られてしまったのですから。


 それもそのはず。日長さんは攻撃する際、サンヒートブレードのスイッチを押していたのですから。サンヒートブレードは、ただ熱で切れ味を上げるだけの剣ではありません。様々なオプションが搭載されているのです。


 例えば、


「透明な剣を受けるのは初めてだったかな?」


 刀身を透明にしたり。


「貴様……!!」


 日長さんが目の前で、サンヒートブレードの刀身を消した事で、勝希ちゃんは理解しました。一瞬だけ透明にする事によって、あたかも日長さんが見えないほどの速度で剣を振ったように見せかけたのです。


「……自ら手の内を明かすとは、余裕のつもりか!?」


「君は今、こう思ってる。手の内さえわかってしまえば、もう奴の剣を喰らう事はないってね」


「!?」


 勝希ちゃんは、ずばり、心中の考えを言い当てられました。


「サンヒートブレードの数多ある機能の一つを知った程度で、もう僕に勝ったつもりかい? 知ってるとは思うけど、僕は君達みたいな超人じゃない。だから、小道具を使わせてもらうんだ。どんな超人が相手でも、確実に勝てるようにね。努力というのは、そういうものさ」


「……他にも機能があるという事か」


「もちろん。例えば……」


 日長さんは勝希ちゃんに、真正面から唐竹割りに斬り掛かります。今度は、透明になりません。


「そんな剣で!!」


 見える剣ならどうとでもなる。そう思った勝希ちゃんは、サンヒートブレードを真剣白刃取りで受け止めました。


 その瞬間に、日長さんは別のスイッチを押します。同時に、サンヒートブレードの刀身が高速で振動を始めました。


「っ!?」


 急な振動に驚いて、勝希ちゃんの手の力が、一瞬だけ緩みます。


「はっ!」


 その一瞬を狙って、日長さんはサンヒートブレードを押し込みました。


「ぐあっ!!」


 思わずのけぞる勝希ちゃん。痛みはありません。しかしその代わりに、ベルトのライフが83になります。


「貴様……」


「さぁて、次は何が飛び出すかな?」


 日長さんはサンヒートブレードを、弄ぶようにくるくると回しています。


(これで引っ掛かってくれればいいけどね)


 それから思いました。


 実は、サンヒートブレードの攻撃に使える機能は、発熱と透明化と振動の、三つしかありません。しかし、あらかじめいくつも機能があると伝えておく事により、相手を牽制する事が出来ます。


(……ブラフだな)


 ですが、勝希ちゃんは日長さんの意図を、既に読んでいます。


「この私を、甘く見過ぎだ!!」


 勝希ちゃんは闇黒刃を解除しました。しかし、両手に纏わせた暗黒闘気はそのままで、さらに増大させてから、腰溜めに構えます。


「バレちゃったか。だったら仕方ない……真っ向勝負だ!」


 勝希ちゃんの考えに気付いた日長さんは、スーツの右肩に付いているスイッチを押しました。すると、右肩からコードが一本伸びてきて、サンヒートブレードの柄に接続されたのです。


 実は、サンヒートブレードには、三つの機能による攻撃が通用しない相手への奥の手として、とある機能が搭載されています。サンヒートブレードの機能というよりは、サンヒートブレードとスーツの機能なのですが。


 アンブレイカブルファミリーが使うスーツは、強力なエネルギーを動力として使う事で、常人程度の能力しかない者でも、超人的な能力を発揮出来ます。そしてあのコードは、スーツのエネルギーを武器に送る為の端末です。


 スーツのエネルギーを直接供給されたサンヒートブレードは、リミッターを解除され、より強力な攻撃を行う事が出来ます。


「アンブレイカブルアーツ、ビッグスマッシュ!!」


 エネルギーを纏って光り輝くサンヒートブレードを振り上げ、日長さんは駆け出しました。


「魔黒情滅波!!」


 勝希ちゃんは前道流気功術の奥義、魔黒情滅波によって、日長さんの覚悟に応えます。


 暗黒闘気の奔流に、サンヒートブレードがぶつかりました。光の剣を握り締め、ありったけの力で暗闇の力を打ち破ろうとする日長さん。


「うおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 一歩、また一歩と、サンヒートブレードを押し込みながらゆっくり突き進み、あと少しで勝希ちゃんに届くという距離まで迫りました。


「……見事だ、サンストーンファザー。その剣の煌めき、しかとこの目に焼き付けたぞ!!」


 スーツと武器を活用するだけの、ただの一般人。その一般人が自分の暗黒闘気に、ここまで競り合った事。勝希ちゃんはそれに最大の賛辞を送り、魔黒情滅波の出力を最大まで解放しました。


「……ははは……強いね、勝希ちゃん」


 日長さんがリングアウトするのと、ベルトのライフが0になるのは、同時でした。


「お父さん!」


 鉄男くんが、日長さんが敗退した事に気付きます。


「……あとは僕に任せて。男の意地を、女の子達に見せつけるよ!!」


 鉄男くんはアイアンシールドを、勇子ちゃんが逃げる方向に出現させました。


「うわ!」


 慌てて反転しようとする勇子ちゃんでしたが、すぐ後ろにまたアイアンシールドが出現します。左は場外、右は鉄男くん。どこにも逃げ場はありません。


「これで僕の勝ちだ。悪いけど、落とさせてもらうよ。僕にも、男の意地があるからさ」


 鉄男くんは、特大のアイアンシールドを飛ばしてきました。退路を断っているアイアンシールドごと、勇子ちゃんを落とすつもりです。



 しかし次の瞬間、アイアンシールドが、全て砕かれました。



「……は!?」


 目を疑う鉄男くん。よく見てみると、勇子ちゃんはスーパーハリセンを持っていました。それも、二本。


「流石ですね、勇子。私の力に、かなり慣れてきたようです」


 ハリセンから、テアーラさんが賞賛しました。


 長らくこのスーパーハリセンでツッコミを繰り返す事で、勇子ちゃんとスーパーハリセンの同調率が上がってきていたのです。同調率が上がると、いろんなツッコミが出来るようになります。例えば、ハリセンを分身させて、一度に何度もツッコむとか。


「……いや、まだだ!」


 当然何が起きたかなどわかっていない鉄男くんですが、勇子ちゃんはアイアンシールドを砕いたというだけで、まだリングの縁にいます。場所的には、まだ鉄男くんが有利なのです。もっと強力な攻撃を放てば、勇子ちゃんを落とす事も可能なのです。


「僕も奥の手を切るよ! 必殺、デュアルアイアンシールド!!」


 盾に並ぶように、無数のアイアンシールドが飛んでいきます。次々と絶え間なくアイアンシールドを出現させる事により、一枚目を砕かれても、二枚目、三枚目、四枚目、五枚目とどんどん迫ってくるバリアで、相手を圧殺出来るのです。


 しかし、この技には一つ、弱点がありました。


「私にだって……」


 それは、相手の攻撃が規格外に強力だった場合、全ての盾を一撃で砕かれる可能性があるという事です。


「女の意地があるのよっ!!」


 両方のハリセンを交差させるように、ツッコミを放つ勇子ちゃん。そのツッコミは強力な衝撃波を発生させ、全てのアイアンシールドを破壊し、鉄男くんを吹き飛ばしました。


「うわあああああああ!! 男の意地がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 勇子ちゃんを場外送りにするつもりだった鉄男くんは、逆に自分が場外送りにされる結果となったのでした。


「撃って撃って撃ちまくるです!!」


 一方、琥珀くんの自転車はさらに巨大化と変化を続け、ミサイルや砲塔、銃口を大量に出現させて、実弾やエネルギー弾による弾幕を、これでもか、これでもかと放ち続けていました。ここまで来ると、もはや自転車じゃなくてロボットです。しかも、これがたった一人の人間に対して使われているというのですから、オーバーキルもいいところです。


 まぁ、相手はただの人間ではないのですが。


「あんまりやると、他の三人も巻き込みそうだから、そろそろ終わらせる」


 友香ちゃんは念力の壁で攻撃を防いだり、そらしたり、跳ね返したりと、やり過ごしていました。しかし友香ちゃんが危惧する通り、このままでは琥珀くんの超弾幕に、勇子ちゃんが巻き込まれそうです。乱戦に持ち込まれる前に決着をつけようと、友香ちゃんは琥珀くんに念力を掛けました。


「こんなの、効かないです!!」


 友香ちゃんは念力で、琥珀くんを場外に投げ飛ばそうとしましたが、自転車がバリアを展開し、念力を弾いてしまいました。


「こんな事出来るんだ……これはちょっときついかも」


 そう言いながら、友香ちゃんはさらに強力な念力を掛けます。


「まだまだですぅぅぅぅ!!」


 バリアの出力を上げて、念力に抵抗しようとする琥珀くん。防御に集中しているので弾幕は止まりましたが、攻防は続いています。


「……っ!」


 友香ちゃんも念力の強化に全神経を傾けているので、その場から一歩も動けません。


「チャンス!」


 その時、こがねちゃんが友香ちゃんの窮地に気付いて、レーザーを吐きました。


「だりゃっ!」


 しかし、愛奈ちゃんが割り込んできて、片手でレーザーをあらぬ方向へと弾き飛ばします。


「あたし意外に目移りするなんて、つれないじゃん」


「愛奈ちゃん……」


 愛奈ちゃんがいる限り、こがねちゃんは他の子に攻撃出来ません。


「愛奈……ごめん!」


 愛奈ちゃんの姿を見て、自分を奮い立たせた友香ちゃんは、念力をさらに強化します。


「絶対負けないですぅぅぅぅぅうううう!!!」


 琥珀くんもバリアの出力を上げて、抵抗します。


「それなら……!!」


 念力だけではバリアを割れないと思った友香ちゃんは、一度念力を切ります。


「あっ!」


 自転車に掛かっていた念力が突然消えて、自転車がバランスを崩します。


「フルパワーサイキックパンチ!!!」


 その隙を見計らって、友香ちゃんが念力を込めた拳を叩き込みました。一点に集中した念力の拳が直撃し、バリアはガラスが割れるように貫通されます。


「でも、まだです!!」


 まだバリアを抜かれただけ。すぐに友香ちゃんを攻撃すればいい。そう思って、琥珀くんは自転車から突き出している全ての砲塔を、友香ちゃんに向けました。


 しかし一斉掃射をしようとした次の瞬間、琥珀くんは自転車ごと、場外に瞬間移動していたのです。


「……えっ!? 何でですか!?」


 理由がわからず、狼狽する琥珀くん。


 と、琥珀くんは自分のライフベルトから、ずっと耳障りな音が聞こえている事に気付きます。


 もしかしてと、恐る恐る見てみると、琥珀くんのベルトのライフが、0になっていました。


 この音は、ライフが全て削られ、0になった時になる音です。そして、音が鳴ると同時に、選手はベルトによって場外に強制的に瞬間移動させられてしまうのです。


「私の本当の狙いは、あなた自身」


 ロボットと化した自転車のバリアは、琥珀くん自身に掛かる念力も防いでしまいます。しかし、ほんの少しでもバリアに穴を空ける事が出来れば、念力は通ります。


 琥珀くんが最後の力を振り絞った攻撃に移る刹那、友香ちゃんはそれより早く、同じように最後の力を振り絞った念力で、コックピット内の琥珀くんを握り潰し、ライフを0にしたのでした。痛みを一切感じないので、琥珀くんは気付くのに遅れたのです。


「いい勝負だった。こんなに強い相手と戦ったのは初めて」


「むぅ~!! 悔しいです!! すっごく悔しいです!!」


 敗北を喫した琥珀くんは、コックピットの中でパネルをばんばん叩いていました。


「……とうとう私一人になっちゃったか……」


 こがねちゃんは呟きます。


「……相手はすごく強いけど、私一人で大逆転しちゃうから!!」


 ものすごい大ピンチなのですが、こがねちゃんはポジティブに考える事にしました。


「さぁ、私も全力でやっちゃうよ!!」


 そして、他のみんながやったように、こがねちゃんもまた、自分の切り札を切ります。


 気合いを入れて咆哮を上げるこがねちゃんの全身から、黄金の炎が噴き出しました。


「これが、私の奥の手。ゴールドコロナファイヤー!!」


 ゴールドコロナファイヤーは、最大まで火力を高めた炎を身に纏って、自身の能力を高める、攻防一体の最終奥義です。こがねちゃんの炎は、力の解放の度合いによって、色が変わります。通常時は赤。全力は黄金です。


「じゃああたしも、全力で行くよ!! はあああああああああああ!!!」


 こがねちゃんの全力に応える為、愛奈ちゃんも咆哮と共に、闘気を最大まで解放しました。


「三人とも、手出ししないでね!」


 この戦いだけは、一対一で決めたい。その思いがあった愛奈ちゃんは、勇子ちゃん達に加勢しないよう言います。


「別に何もしないわよ」


「安心して決めていい」


「……勝手にしろ」


 勇子ちゃんは最初から手を出すつもりなどなく、友香ちゃんは大人しく下がり、勝希ちゃんは鼻を鳴らしました。


「そういうわけだから、邪魔は入らないよ」


「ありがとう愛奈ちゃん。じゃあ……始めようか!」


 先手を打ってこがねちゃんが駆け出し、殴り掛かります。それを、両手を交差させて防ぐ愛奈ちゃん。


「!」


 と、愛奈ちゃんは気付きます。こがねちゃんの拳を受けた瞬間に、愛奈ちゃんのベルトのライフが80まで減ったのです。


(ちゃんと防いだのに!?)


 このダメージは、炎の熱によるものです。こがねちゃんが身に纏う炎の温度が高すぎて、愛奈ちゃんの闘気のガードを越えてきたのです。


(これが、こがねちゃんの全力……!!)


 アンブレイカブルファミリーを名乗る者の全力。それを愛奈ちゃんは、その身を以て痛感しました。


 しかし、他のチームメイトが勝ったというのに、愛奈ちゃん一人だけ負けるわけにはいきません。そして何より、愛奈ちゃんは自分が宇宙最強になったという姿を、浩美先生に捧げたいのです。


 たったの一度でも、敗北の許されない戦い。その過酷さを、愛奈ちゃんは思い知っています。だから、この戦いには絶対に勝つ。そう決意しました。


「あたし、絶対負けないから!!」


 浩美先生の為に、必ず宇宙最強になる。その決意が、限界を超えて愛奈ちゃんの力を引き出します。


「私だって!!」


 こがねちゃんにも、アンブレイカブルファミリーのゴールドシスターとしての意地があります。譲れない意地を抱えて、ぶつかり合う二人。


「はああああああああああああああ!!!!」


「うああああああああああああああ!!!!」


 愛奈ちゃんが右拳で殴り掛かれば、こがねちゃんは左拳で防いで右拳で殴り返し、こがねちゃんが蹴りを繰り出せば、愛奈ちゃんはその足ごとこがねちゃんを蹴り飛ばします。


 凄まじい戦いが繰り広げられ、いつしか観客席を沈黙が包んでいました。


 誰もが固唾を飲んで戦いを見守る中、浩美先生だけがうつむいて、ひたすら祈っています。どうか愛奈ちゃんもこがねちゃんも、ひどい事にならないように。


「紅蓮情激波ーーーーーーー!!!!」


 決着をつける為、愛奈ちゃんは紅蓮情激波を放ちます。


「ゴールデンヒート、ギガハイパーブラスターーーーーーーー!!!!!」


 こがねちゃんもまた、両手からより強力な光線を放ちました。二つの力は激突し、そして消えます。


「うああああああああああ!!!」


 いや、まだです。愛奈ちゃんが接近し、闘気を宿した拳で、こがねちゃんに殴り掛かりました。


真紅螺旋撃(しんくらせんげき)!!!」


 もはや動く気力も残っていなかったこがねちゃんは、為す術もなく、回転する闘気を纏った拳を受けました。


「……すごかったよ、愛奈ちゃん」


 ライフベルトの数字が0になり、こがねちゃんは場外に転送されます。場外に送られたこがねちゃんは、そのまま倒れました。


「こがね!」


「こがねちゃん!」


「お姉ちゃん!」


 場外で待機していた鉄男くん達が、急いで駆け寄ります。こがねちゃんは、疲労で気絶していました。ライフベルトはダメージを肩代わりしますが、疲労の肩代わりはしないのです。


 こがねちゃんはすぐに医務室に搬送されていきました。


「勝者、エクストリームガールズ!! 白熱した勝負を演じて下さった少女達に、皆様盛大な拍手をお願いします!!」


 ようやく司会が仕事を再開し、観客席から大拍手が飛んできます。


「やれやれ、ようやく終わったか」


 勝希ちゃんは溜め息を吐きました。





 ◇◇◇◇






 戦いが終わって、ひとまず愛奈ちゃん達は浩美先生達と合流します。石原家の人々は、こがねちゃんの容態を看る為に医務室に向かっており、いませんでした。


「愛奈さん!!」


「浩美先生!!」


 愛奈ちゃんと浩美先生は抱き合います。この瞬間に、愛奈ちゃんが受けた疲労は完全回復しました。


「愛奈さん、すごかったです。次の試合も頑張って下さいね!」


「うん!」


「……あんたがうらやましいわ」


「なんで? いさちんも褒めてもらえばいいじゃん」


「そういう意味で言ったんじゃないの!」


 もちろん勇子ちゃんも、尚子さんからいっぱい褒めてもらいました。


 愛奈ちゃん達の姿を見ながら、浩美先生は思います。


 本当は、愛奈ちゃん達が戻ってきたら、この大会を棄権するよう言うつもりでした。しかし、愛奈ちゃんとこがねちゃんの、死力を尽くした戦いを見て、その考えは変わったのです。


(これは、あの子達が自分で選んだ事だもの。だったら、最後まで見届けてあげなくちゃダメね)


 小学生とはいえ、彼女達は高学年です。自分の進む道を自分で決めるのに、早過ぎる年齢という事はありません。彼女達にも、自分達の意思というものがあります。教師なら、その意思を尊重しなければなりません。


(みんな、頑張れ!)


 だから浩美先生は、これから先に待ち受ける、さらなる激戦を勝ち抜けるよう、心の中で愛奈ちゃん達を応援しました。


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