第三十一話 宇宙武闘祭!! 栄冠は誰のモノ?
「やったわ! 見ました!? ウチの勇子がやりましたよ!」
「はい! すごいです!」
迷宮内の状況は、会場に設置されたモニターから知る事が出来ます。尚子さんは梨花さんと手を取り合って、勇子ちゃんが先制を決めた事を喜びました。
「なるほど、今回はこんな感じの予選なんじゃな」
勇子ちゃんの先制が起爆剤になったかのように戦い始める選手達を見て、金剛さんは呟きました。
「金剛さん。先程出場経験があると仰られていましたが、もしかして優勝されたり……?」
恐る恐る訊ねる浩美先生。
「ええ。わしが優勝した時に参加させられた予選は、ポイントサバイバルという種目でしてな。ポイントが多いチームが本戦出場という内容でした」
金剛さんが出場した時とは、どうも予選の内容が違うようです。それもそのはず。宇宙武闘祭の予選は、その都度内容を変えるのですから。その事についてはこがねちゃん達に説明してあり、自分からは何もアドバイス出来ないと言ってあります。
「しかし、ただ相手を脱落させるなどという、単純な戦いではないはずじゃ。わしの予想が正しければ、恐らくこれから……」
金剛さんはこの予選について、ある予想を巡らせていました。そしてそれは、見事に的中する事になります。
◇◇◇◇
「何、これ……」
勇子ちゃんは目の前にあるものを見て呟きました。
今まで戦いを愛奈ちゃん達に任せて、様々な宇宙人を見てきましたが、今見ているものは違います。目の前には分かれ道があり、中央に立て札があるのです。立て札には、こう書いてありました。
『正しい道を選べば生き残る確率が上がり、違う道を選べば確率が下がる。以下の問題に答えよ。①壊れた探査レーダー、②二つの硬貨、価値が高いのはどちら? ①なら右へ、②ならば左へ進め』
「これ、なぞなぞよね?」
勇子ちゃんは立て札の内容が、なぞなぞである事に気付きます。どう見ても、普通に考える問題ではありません。
「こっち」
と、友香ちゃんが右の道へ、迷わず進みました。
「えっ!? ちょっと友香!?」
勇子ちゃんは慌てて追い掛けます。何が起こるかわからないのに、あまりにも迷う事なく進む為、勇子ちゃんは心配になっていました。愛奈ちゃんと勝希ちゃんも、二人に続きます。
そして、四人が全員右の道に入った瞬間、ベルトから電子音が聞こえて、数字が200になりました。
「ライフが増えた!」
「生き残る確率とは、やはりそういう意味か」
愛奈ちゃんと勝希ちゃんが、一番先に反応します。正解を答えたので、ライフが二倍になりました。ちなみに間違えた場合、ライフは半分になっています。
「これと同じようななぞなぞを、昔解いた事がある。壊れた探査レーダーは『見えん』だから三円。二つの硬貨は二円だから、価値が高いのは一番」
「いやそれ、地球の日本限定な問題じゃない!」
友香ちゃんの分析に、勇子ちゃんがツッコミを入れました。
「だからこそ意味がある。力が強いだけじゃ、宇宙最強の称号は名乗れない。力を自在に操る知力や知識が伴って、初めて意味がある。そして、私達は運良くこの問題が答えられる星に住んでいた。この予選、力や頭の良さだけじゃなくて、運も試されてる」
もし今の問題が、違う星の人間にしかわからない問題だったら、アウトでした。この予選、割と見た目以上にシビアです。
「ギミックがあれ一つとはとても思えん」
道を進む勝希ちゃん。と、勝希ちゃんが壁の横に設置されている、二台の監視カメラに気付きました。そして、三人の先頭へと躍り出ます。
刹那、左のカメラをからレーザーが発射されました。それとほぼ同じタイミングで暗黒闘気を放ち、レーザーを破りながら、カメラを一撃で破壊します。
「やはりな。先程はわかりやすい形で用意されていたが、こういうわかりにくいギミックも用意されているようだ」
「あっぶな! あたし今の、完全にただの監視カメラだと思ってたよ!」
「私も見分けが付かなかった。だが怪しいと思ってな、どちらから攻撃されても対応出来るように飛び出したのだ」
この予選、力や知識、運だけでなく、直感も試されています。流石、宇宙最強を決める大会といったところでしょうか。
「ん?」
勇子ちゃんが立ち止まります。今足元から、カチッ、という音が聞こえた気がしたのです。何か踏んだのかと思って、足を上げてみると――――、
――――地面が爆発しました。
「きゃああああああああ!!!」
悲鳴を上げて吹き飛ばされる勇子ちゃん。
「勇子!? 大丈夫!?」
壁に叩き付けられた勇子ちゃんに駆け寄って、友香ちゃんは助け起こします。
「い、今のは、何? 私の足、何ともなってないわよね……?」
「勇子は地雷を踏んだ。足は何ともなってない。でも……」
勇子ちゃんの足は無傷です。しかしその代わりに、ベルトのライフが50、減っていました。ベルトが、勇子ちゃんのダメージを肩代わりしてくれたのです。
「地雷まで仕掛けられているとはな……」
地雷の存在を警戒した勝希ちゃんは、周囲の地面を暗黒闘気で攻撃しましたが、どこを攻撃しても引っ掛かりません。どうやら、仕掛けられていたのはあの一発だけだったようです。
「ごめん。私がちゃんと注意してなかったから……」
「大丈夫だよいさちん! どんまいどんまい!」
「……戦い慣れていない貴様が、ここまでやれただけでも、良しとするべきか。まぁ最悪、私一人が残ればいい」
運悪く地雷に引っ掛かってしまった事を謝る勇子ちゃん。愛奈ちゃんは明るく許し、勝希ちゃんは不服そうな顔をしながら、とりあえず許しました。無理を言って参加してもらったので、あまり強く言えないのです。引っ掛かったのが愛奈ちゃんだったら、それはもうものすごく怒ったと思いますが。
「本当に、ごめん……」
「謝るのは、私の方。私の未来予知がしっかり働いていれば、あなたを守れた。勇子が傷付いたのは、私のせい」
友香ちゃんの未来予知の力は目覚めたばかりなので、まだ安定して使う事が出来ないのです。自分がもっと自分の力を使う事が出来ればと、友香ちゃんは悔やんでいました。
「……何をしている?」
と、勝希ちゃんは、愛奈ちゃんが何やらしきりに壁を叩いているのに気付きました。何をしているのだろうと、勇子ちゃんと友香ちゃんも、一緒になって見ています。
「お」
愛奈ちゃんがしばらく壁を叩いていると、壁の一部がへこみました。そして――――、
――――四方八方から槍が伸びて来ました。愛奈ちゃんが今押した壁は、トラップを作動させる為のスイッチだったのです。
「痛い!」
愛奈ちゃんは防御する事もなく、トラップを喰らってしまいました。愛奈ちゃんのライフが、70減ります。
「本当に何をしているのだ!?」
勝希ちゃんにとっては意味のわからない光景です。愛奈ちゃんの行動は、自分からトラップを作動させ、自分からトラップを喰らったようにしか見えませんでした。
「えへへ、わかったでしょ? こういう事もあるよ」
槍が戻ってから、愛奈ちゃんは笑いかけます。
勇子ちゃんは気付きました。愛奈ちゃんは愛奈ちゃんなりのやり方で、勇子ちゃんを慰めようとしてくれたのです。
あまりにも不器用な慰め方に、勇子ちゃんは苦笑して立ち上がります。
「もういいわ。最初から私は戦力外だし、あんた達だけが残ってくれればいい。それに、あんた達が勝てば、私も復活出来るんでしょ?」
「勇子……」
「だから、私に構わず、思いっきりやっちゃって。頼りにしてるわよ、友香!」
「……うん」
ウィンクする勇子ちゃんに、友香ちゃんは笑顔になります。
「うんうん! いさちん立ち直ったみたいだねっ! さあさあ、まだまだ予選は終わってないよ? 気を取り直して、レッツゴー!」
「……ふん」
愛奈ちゃんの言う通りです。まだまだ、勝負はどうなるかわかりません。四人組は予選突破を目指して、迷宮を進んでいきました。
◇◇◇◇
「ぎゃああああああ!!!」
こがねちゃんの口から、高熱のレーザーが放たれ、目の前の宇宙人を倒します。
「このっ!!」
「アイアンシールド!!」
「ぐへっ!!」
一人残った宇宙人が、こがねちゃんの背後から襲い掛かりましたが、横からバリアが飛んできて、壁に押しつけられました。このダメージが決め手となって、宇宙人は脱落します。
「結構倒したけど、あとどれぐらい倒せばいいのかな……」
ライフは全員1ポイントも減っていませんが、こがねちゃんは少し疲れています。このチームだけでも、もう二十チームは倒しましたが、まだ予選終了のアナウンスは流れません。どうやら、相当な数のチームがエントリーしているようです。
「心配ないさ。僕達は強いし、お父さんが造ってくれたこのスーツがある。予選突破は間違いなしだよ!」
鉄男くんは心配していません。今このチームは、彼らが地球でヒーロー活動をする時に使う、あのスーツを着ているからです。スーツから発される電磁波で、彼らがアンブレイカブルファミリーと認識される事はありません。
「ちょっとずるいけど、この大会には油断ならない相手が参加してるからね。あの子達が相手なら、全力でいかないと」
「です!」
別のチームを片付けて戻ってきた日長さんと琥珀くんが言います。
日長さんが言った油断ならない相手とは、もちろん愛奈ちゃんと勝希ちゃんの事です。この大会で、一番の障害と言っても過言ではありません。
「あっ!」
そんな話をしていた時の事でした。迷宮の壁の陰から、愛奈ちゃん達のチームが出てきたのです。
「……愛奈ちゃん達とは、本戦で会うものだと思っていたんだけど……」
「こうなっちゃったら、仕方ないよね……」
鉄男くんとこがねちゃんは、残念そうな顔をしながらも、愛奈ちゃん達に向き直ります。
「ど、どうするのよ!?」
「どうもこうもない。これが勝負の世界」
勇子ちゃんが友香ちゃんに耳打ちすると、友香ちゃんは無表情で返しました。出会ったら誰であろうと、戦って倒さなければならない。それが、この予選のルールです。
「仕方ないよ。そういうルールだもんね」
「面白い。遅かれ早かれ、貴様らとはかち合うと思っていたのだ」
愛奈ちゃんと勝希ちゃんは、もうすっかりやる気でした。愛奈ちゃん達も、本当ならこがねちゃん達とは本戦で戦うつもりでしたが、よく考えれば優勝出来るのは一組だけです。そう思えば、例え予選で戦う事になろうと、何の不都合もありません。どこで戦う事になろうと、結果的には一緒ですから。
「じゃ、やろうか!」
構える愛奈ちゃん。それに合わせるように、勝希ちゃんが、こがねちゃん達のチームが、構えます。勇子ちゃんは友香ちゃんの後ろに隠れ、友香ちゃんは片手を広げて勇子ちゃんを守る体勢を取りました。
一触即発。いつ激しい戦いが始まってもおかしくない空気。互いが互いの出方を伺い合う、ぴりびりした空気に、勇子ちゃんは今すぐ逃げ出したいという気持ちに駆られます。
その時、迷宮全体に、大きなホイッスルの音が響き渡りました。
危険な空気は一瞬で消え去り、八人は何事かと周囲を見回します。
『試合終了ーーーー!! たった今、本戦に出場するチーム八組が決定しました!! それでは、選手の皆さんに帰還して頂きましょう!!』
どうやら、今のホイッスルの音は試合終了の合図だったようです。ちょうどよく鳴ってくれたおかげで、二組の強豪チームは戦わずに済みました。
「……ふん。命拾いしたな、石原日長」
「おや、君にマークされちゃったみたいだね。怖いなぁ」
戦意を落としながらも残念そうに言う勝希ちゃん。対する日長さんは、口では怖いと言いながら、全然怖がっているように見えません。
「よかったぁ……こんなところで戦わなきゃいけないのかと思ったよ」
「あたしもよかった! だってこがねちゃんとは、もっとちゃんとしたところで戦いたいもん!」
愛奈ちゃんもこがねちゃんも、安堵しています。
「それじゃ、本戦で会おう!」
「ばいばいです!」
愛奈ちゃん達の目の前で、石原さんチームが消えます。間もなくして、愛奈ちゃん達のチームも消えて、迷路から全てのチームが帰還しました。
予選が終わった後、ゲートが消滅し、リングの上に八組のチームが立ちます。
「皆さんお疲れ様です! ではここで、宇宙最強の称号を勝ち取る資格を手にした八つのチームを、ご紹介致しましょう! まずは、前大会優勝の超強豪チーム、アルティメットフォース!!」
実況が紹介し、パワードスーツを着込んだ、四人の気品のあるチームがポーズを決めました。
「次は前大会の準優勝チーム! 今年は優勝なるか!? ザ・リザード!!」
次は、全員がトカゲの宇宙人です。
「今大会初出場、ワイルドシングズ!! ビューティフル・プラネッツ!! サイバネティックギャラクシー!! スラッシャーズ!!」
さらに四組の紹介です。どうやら、この四組は今回が初出場らしいですね。
「続いて、今大会の目玉チーム、アンブレイカブルファミリーだ!!」
石原さんチームも紹介されました。そして、いよいよ愛奈ちゃん達のチームの紹介です。
「最後は、今大会初出場にして目が離せないちびっ子チーム。エクストリームガールズのエントリーだ!!」
「え、エクストリームガールズ?」
勇子ちゃんは友香ちゃんを見ました。この大会は出場する際、チーム名を決めなければなりません。愛奈ちゃん達はいい名前が思い付かなかったので、友香ちゃんに任せたのでした。
「エクストリームは超越って意味。本当は愛奈の通り名にするのが一番いいけど、今回はチームだからガールズにした」
浩美先生の為なら、あらゆる全てを超越していく愛奈ちゃん。本来ならこの呼び名は、愛奈ちゃんが名乗るべきですが、チーム戦なら複数形にするべきだと考えた友香ちゃんによって変更されました。
「では、本戦開始は明日からになります。今日はしっかり休んで、明日また参加して下さいね!」
妙にお兄さんっぽい事を言う実況さん。確かに、明日に備えて休む事は必要ですが。
「浩美先生! あたしやったよ!」
「はい! お疲れ様です!」
笑顔で経過報告をする愛奈ちゃんに、浩美先生も笑顔になりました。最初は心配していましたが、怪我一つ負っていないところを見て、この大会は本当に安全なのだとわかっています。
「勇子ちゃんすごかったわね!」
「流石、あの三人といつも一緒にいるだけはあるよ」
「……どうも」
氷華さんと弓弩くんも、勇子ちゃんを労います。あんまり認めたくない事でしたが、あの三人とつるむ事で、勇子ちゃんもいろいろと鍛えられているのです。
「まずまずな手応えだ。イリーガルトーナメントのごろつき共とは、レベルが違うな」
「喜んでるみたいで何より」
勝希ちゃんは出場選手達の強さに満足していました。友香ちゃんは、何を考えているのかよくわかりません。まぁ、楽しむ事だけを考えているのでしょうが。
「日長君。すまんかったな」
「いえ。仕事のいい息抜きになりました」
「お母さん! 私達本戦出場決定だよ!」
「ライバルはみんな強そうだけど、絶対優勝するからね!」
「楽しみに待ってて下さーい!」
「あらあら、それじゃあ楽しみにしてようかしらね」
「みんな楽しんでくれたようでよかったわ」
石原家の人々も、満足のいく結果に喜んでいます。
「さて、それじゃあそろそろチェックインして、今日はもう休みましょうか」
「そうじゃな。愛奈達には、明日もある。早めに休んだ方がよかろう」
気が付くと、もう時刻は20時を回っていました。楽しいところでたくさん遊ぶと、時間が経つのがすごく早く感じます。慎太郎さんと亮二さんは相談し、今夜はもう休む事にしました。
「明日はいよいよ、宇宙最強の称号があたしのものに……そしたら浩美先生と……うふふ……」
「?」
「楽しみだな。今夜は眠れるか……ふふふ……」
一同は、宇宙最大のテーマパークでの夜を、思い思いに過ごしました。
◇◇◇◇
「おじいちゃん!」
「ん? 何じゃ?」
半助くんは半蔵さんに、突然話し掛けました。
「お盆ってする事なくて暇ッス! どっか連れてって欲しいッス!」
「頼むよじいさん!」
「小学生最後の夏休みだから、俺達も何か思い出が作りたいんです!」
江口ギャング団の残りのメンバーも一緒でした。
「思い出か……それならいい所に連れて行ってやるやるゾイ。来るゾイ」
思い出という言葉には思うところがあったのか、半蔵さんは江口ギャング団を連れて地下に行きます。
「な、何だ、こいつは!?」
地下には広大な格納庫があって、巨大なロケットがあったのです。個人が所有出来るものではないものを見て、江口くんが驚きました。
「本当はある目的を果たした後でバカンスに使うつもりで造っていたものじゃが、可愛い孫とその友達の頼みとあっては仕方ないゾイ。みんなで、宇宙旅行に行くゾイ!!」
というわけで、江口ギャング団、参戦決定。
◇◇◇◇
宇宙のどこか。
「ウチの尖兵は、上手く潜り込めたか?」
何だかすごく偉そうなおじさんが、二番目に偉そうな男性に訊きました。
「へい。おかしらの目論見通り、本戦出場選手になりましたよ」
「当然だな。ウチの可愛い子分どもが、そこらの雑魚に負けるはずがない。よし、予定通りだ! 全速前進!」
おじさんは自分の手下達に命じて、宇宙船を動かします。
「目標は宇宙最大テーマパーク、ビッグコズミックワンダーランドだ!!」
なんかよくわからん連中、参戦決定。




