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エクストリームガールズ!!  作者: 井村六郎
春期始動編
3/40

第三話 お姉ちゃんの正体!!

「だいぶ暖かくなってきたわね」


 朝。勇子ちゃんは今日も元気に登校です。四月も半ばになって、気温の高い日も多くなり、もう厚着はいりません。


「あ、勇子ちゃん!」


 と、そこにセーラー服を着た長い黒髪の女子高生が歩いてきました。


「氷華お姉ちゃん」


 勇子ちゃんは嬉しそうに名前を呼びます。

 彼女の名前は藤堂氷華。銀嶺高校に通っている女子高生で、勇子ちゃんとはご近所さんです。親しい間柄で、勇子ちゃんはお姉さんとして接しています。


「今から学校?」


「うん」


「毎日偉いね。勇子ちゃんは立派だよ」


 氷華さんは勇子ちゃんを褒めます。まぁこの年代からずる休みをする人はそんなにいませんが、勇子ちゃんは風邪も引かずいつも規則正しく学校に行っています。


「氷華お姉ちゃんも、毎日大変でしょ?」


 小学生と高校生では、勉強のレベルや生活環境も違います。特に氷華さんは一人暮らしです。偉いです。


「私はもう高校生だし。慣れだよ、慣れ」


 まぁ確かに、慣れれば大体の事は苦にはならなくなりますね。でも慣れるまでが大変なので、やっぱり氷華さんは偉いです。



 二人は途中まで一緒の道なので、一緒に歩きます。桜の木が咲き誇っていて、とても絵になりますね。


「もうすっかり春ね。暖かくて気持ちいいし、桜は綺麗だし」


 冬が終わってくれて、勇子は嬉しそうです。冬の寒さはたっぷり堪能しましたからね、寒いのはもういいです。


「……うん」


 でも、氷華さんは何だか嫌そう。勇子ちゃんが暖かくなってきたと言った途端に、いきなり顔が暗くなりました。まるで、寒さがなくなるのが嫌みたいです。


「氷華お姉ちゃんって暖かいの苦手だっけ?」


「うん。今ぐらいならまだ平気なんだけど、これからどんどん暖かくなっていくと思うとね……」


 氷華さんは暖かいのが嫌いです。でも今氷華さんが言った通り、まだまだこれからどんどん暖かくなっていきます。これぐらいで暑がっていたら、夏なんて耐えられません。これからはもう、夏が終わるまで暖かくなっていく一方ですからね。


「……今夜もやらなきゃ……」


「ん? 今何か言った?」


「んーん。何も言ってないよ」


 今氷華さんが何か呟いた気がしましたが、勇子ちゃんは聞き取れませんでした。


「それよりあそこ。友達が待ってるよ」


「えっ?」


 氷華さんに指摘されて前を見てみると、向こうで友香ちゃんが待っているのが見えました。


「いっけない! じゃあね、氷華お姉ちゃん!」


「うん。じゃあね」


 勇子ちゃんは氷華さんに別れを告げ、友香ちゃんと一緒に学校に行きました。


「……はぁ……危ない危ない。つい口に出ちゃったわ」


 氷華さんはEカップの大きな胸を撫で下ろし、学校に向かいます。


「でも、早く何とかしないと……」


 氷華さんは焦っていました。





 ◇◇◇





 その日の夜、氷華さんは空地にいました。


「急いでるのは確かだけど、なるべく早く切り上げないと、明日も学校があるからね。まったく、高校生はつらいわ……」


 氷華さん、何やらぼやいています。と思ったら、目を閉じて、意識を集中し始めました。

 それと同時に、周囲が冷気に包まれます。いえ、この冷気は氷華さんの身体から溢れているものです。

 冷気は段々と収まり、やがて消えました。しかし、数分後、また冷気が出てきてしまいます。



 実は、氷華さんは人間ではありません。雪女という妖怪です。

 数百年ほど前までは、妖怪達もありのままの姿で生きていました。ですが、人間の文明が発展するに従って、環境は破壊され、そこに様々な建物が出来上がり、今では妖怪が住める場所が大幅に減ってしまっているのです。

 滅亡を危惧した妖怪達が取った生存の道は、人間社会に紛れて暮らす事でした。氷華さんはその修行の為、お母さんから命令されてここにいるのです。

 雪女は元々、姿だけなら人間と変わらない妖怪なので、ただ人間と暮らすだけなら、多少衣服に気を配るだけで問題はありません。しかし、本格的に暮らすとなると、それだけでは駄目なのです。

 一番の問題は、ここが日本だという事。日本には四季があります。雪女は寒い場所を好み、暑さを苦手とする妖怪。日本がいつまでも冬ならよかったのですが、夏もあります。通常、妖怪は自分が苦手な季節が来たら、渡り鳥のように住みやすい場所へ移住するのですが、人間に合わせて生活する以上はそうもいきません。

 そんな妖怪は自分の妖力を制御しなければならないのです。妖力をうまく制御すれば、自分が苦手とする環境でも普段と同じように生活出来るようになります。


「また失敗……」


 氷華さんは、彼女の一家の中でも特に強い力の持ち主なのですが、あまりに強すぎる為、自分でもうまく制御出来ないのです。今までの夏は、その強大な力のおかげで、どうにか乗り越える事が出来たのですが、今年の夏はいい加減制御出来るようになりたいのです。


「いくら力があっても、つらいものはつらいのよ……」


 去年の自分を思い出し、氷華さんは青い顔をしました。言ってみれば、盾を作れるかどうかです。妖力の制御は、自身を周囲の環境から守る為の盾作り。力が強いおかげで、盾がなくても死ぬ事はありませんが、盾を作ってしのぐのと、暑い中に野晒しにされるのとでは大違いです。


「何かが足りないのよね……」


 それにしても氷華さん、独り言が多いですね。まぁ独り言というよりは、愚痴に近いですが。

 去年も、一昨年も、その前の年も、その前の前の年もそうでした。お母さんから教えられた通りにやれば出来るはずなのに、何か一手足りない。その一手が何なのかわからず、氷華さんは今日まで来ました。


「……とにかく練習するしかないわ」


 妖力を集中し、身体の中に留め、内側から膜を作る。氷華さんはひたすら、その工程を繰り返しています。学業にも専念しなければならないので、あまり練習の時間は取れません。それでも手順は把握していますし、練習の甲斐もあって、その三工程はごく自然に行えるようになりました。しかし、そこからさらに先の四工程目、膜の維持が持続しないのです。長くて数分が限界でした。



 それから何回か練習しましたが、結局持続時間は延びませんでした。もしかしたら延びたかもしれませんが、たぶん一秒とか二秒くらいです。


「仕方ない。また明日練習ね」


 とにかく一刻も早く制御を完璧に仕上げなければなりません。お母さんからは、自分が人間ではないという事を周囲に知られてはならないと言われています。もし知られたら、人間社会では生きていけません。知った人間がいたら、容赦なく消すようにも言われています。え? じゃあ何で見つかりやすい外で練習してるのかって? 制御に失敗して妖力が暴走したら、家の中にあるものが凍りまくって大変な事になるからです。一昨年それをやらかして、電化製品をいくつかダメにしました。

 時間もかなり遅いので、帰る事にします。


「……勇子ちゃんだけは消したくないなぁ……」


 氷華さんにとって一番危険な存在は、勇子ちゃんでした。親しくしている分、正体を知られる可能性が高いのです。また親しくしている分、勇子ちゃんを消さなければならなくなる事だけは、絶対に避けたい事でした。





 ◇◇◇





 笑特小学校。


「……はぁ~~……」


 愛奈ちゃんは特大の溜め息を吐きました。勇子ちゃんは嫌そうな顔をしながら言います。


「気持ちはわかるけど、そんな大きな溜め息吐かないでよ……」


「だってだってだって~! 出張だなんてそんなぁ~!」


 今日、浩美先生は出張でいません。毎日でも先生に会いたい愛奈ちゃんにとって、これほどつらい事はないでしょう。


「諦めなさい。先生だって、あんたばっかりに構ってるわけにはいかないのよ」


「ぶ~! いさちん冷たい!」


 勇子ちゃんの言う事は正しいのですが、それで割り切れないのが子供心というもの。口を尖らせて反論します。


「冷たくない」


「冷たい!」


「冷たくない!」


「冷たい!!」


「冷たくない!!」


「冷たい!!!」


「しつこいってんだよテメーは!!!」


「んぶ!!!」


 あまりにも愛奈ちゃんが引き下がらないので勇子ちゃんは激怒し、ハリセンで愛奈ちゃんの頭を叩いて床に顔面を叩きつけました。床と熱烈なキスをして、愛奈ちゃんは黙ります。


「そのハリセン、この前ワライショッピングで買ったやつ?」


 友香ちゃんがハリセンに気付きます。このハリセンはあの一件の後、『いさちんにピッタリだから』という理由で、愛奈ちゃんが勇子ちゃんにあげたものです。


「このハリセン、私が突っ込みたい時、いきなり私の手の中に出てくるのよ」


 勇子ちゃんは学校にまでハリセンを持ってはきません。当然家に置いてます。しかし、勇子ちゃんが突っ込みたいと思った時、何の前触れもなくいきなり勇子ちゃんの手の中に現れるのです。そしてツッコミをした後、また消えるのです。今も、もうハリセンは勇子ちゃんの手の中にありません。


「あのハリセンを使った時、勇子はすごい力を出してる。もしかしたら、ただのハリセンじゃないのかも」


 人外の力を持つ愛奈ちゃんすら、あっさりと沈めてしまう勇子ちゃんのツッコミ。そして、それだけの力を勇子ちゃんに与えるハリセン。もしかしなくても、ただのハリセンではありません。


「何でそんなものが売れてたのよ……」


「あたた……いさちんのツッコミはキツいなぁ……」


 勇子ちゃんが戦慄していると、愛奈ちゃんが復活しました。


「でもやっぱり浩美先生がいないと寂しいよ……」


「……まぁね……」


 浩美先生は短期間でクラス中の人気者です。先生がいないこのクラスは、どことなく雰囲気が暗いです。


「じゃあ先生の家に直接迎えに行けばいい。私が先生の家知ってるから」


「えっ!? 知ってたの!?」


「いつの間に……」


 友香ちゃんは愛奈ちゃんですら知らない間に、浩美先生の住所を調べて、下見までしていたようです。手が早いです。


「先生今夜には帰ってくるから、みんなで待ってればいい」


 先生がいつ帰ってくるかも調査済みです。それを聞いて、愛奈ちゃんは思いました。


「あたし住所とか聞いたりしたら、ストーカーだと思われると思ってやめてたけど、やっぱり先生の事が好きなら、隅々まで聞いておかないとね!」


「いや、友香だったから教えてくれたと思うけど……」


 先生に大して愛奈ちゃんほど強い思い入れのない友香ちゃんが聞いたから教えてくれたのだと、勇子ちゃんは思ってます。


「そんな事ない。先生は優しいし、愛奈が先生の事好きだって知ってるから、愛奈が聞いても教えてくれたはず」


 しかし、友香ちゃんがすかさずフォローします。空気の読める子です。


「だよね! だよね! 今度スリーサイズとか聞いちゃお!」


「いや、それはやめた方がいいと思う」


 さすがの友香ちゃんも、スリーサイズを聞こうとは思いません。


「口で教えるのが嫌だったら、身体で教えてくれればいいのよ! 今度二人きりになったら、先生を身体検査しちゃうの。おっぱいとかお尻とか、きっと触ると気持ちいいんだろうなぁ……先生は恥ずかしがると思うけど、その声を聞きながら触りまくって」


「いい加減にしろやこの変態が!!!」


「ぼんぶ!!!」


 暴走する愛奈ちゃんの頭に再びハリセンを喰らわせ、勇子ちゃんは黙らせます。


「調子にさえ乗らなかったらいい子なんだけど」


 友香ちゃんは引いていました。





 ◇◇◇





 その日の夜。


「すっかり遅くなっちゃった。愛奈さん、きっと寂しがってたろうなぁ……」


 出張を終えて帰ってきた浩美先生。まさにその通りです。もっとも、愛奈ちゃんに会えなくて寂しいと思っていたのは、浩美先生も同じ事でしたが。


「あれ?」


 と、浩美先生は女子高生がどこかに向かうのを見つけました。時刻はもう、八時を過ぎようとしています。


「こんな時間にどこに……注意しなくちゃ」


 相手は女子高生ですが、教師としてこんな遅い時間に子供が出歩いているのは見過ごせません。注意する事にしました。

 車を停めて、女子高生が消えていった方向を見る浩美先生。車両進入禁止の立て札があり、ここから先には車では行けません。仕方なくエンジン止め、車から降りて女子高生を追いかけます。



 追いかけた先で、浩美先生は言葉を失いました。もう四月も半ばを過ぎたというのに、そこには雪が吹雪いていたからです。

 雪は女子高生を中心に吹いていました。舞い散る桜と重なって、とても美しい光景です。

 同時に理解しました。あの女子高生は、普通の人間ではない。愛奈ちゃんや友香ちゃんと同じ、人外の力を持つ者だと。あれほど吹いていた雪が、突然ピタリとやんだからです。

 もうおわかりですが、女子高生は氷華さんです。今夜もまた、妖力を制御する練習をしていたのです。抑えていた妖力は、五分ほどすると、再び解放されてしまいました。


「ちょっと延びたけど、まだまだ全然……」


 いつも通り独り言を言う氷華さん。ですが、自分を見ていた浩美先生と目が合い、独り言が止まりました。それから、素早く身構えます。


「……見た?」


「えっ!?」


 氷華さんは浩美先生に、今自分がやっていた事を見たかどうかを問いました。


「あ、あの……」


 先程と打ってかわって、鋭い眼光で睨み付けてくる氷華さんに、浩美先生はしどろもどろの答えを返してしまいます。


「見たのね?」


 浩美先生の反応から、答えは明かされているも同然なのですが、氷華さんは再度問い掛けました。


「は、はい……」


 とうとう浩美先生は、氷華さんからの問い掛けに、頷いてしまいます。


「……そう」


 見られてしまった。絶対避けたい事態に遭遇してしまった。自分の不注意で、この事態を招いてしまった。自分自身に腹が立つ。激しく後悔する氷華さん。


「私はあなたが誰なのか知らないし、恨みもない。あなたは全然悪くないし、これは私のせい」


 ですが、これは一族の掟。破れば一族のみならず、妖怪という種族全体を危険に晒してしまいます。


「ごめんなさい」


 身勝手だという事はわかっています。ですが、それでも目撃者を生かしておくわけにはいきません。運が悪かったのです。


「あなたには死んでもらうわ」


 決意を込めて、氷華さんは浩美先生を睨み付けました。ここに来て、ようやく浩美先生は事態の重さに気付きました。見てはいけないものを見てしまった。見てしまった以上、相手は自分を殺さなければならない。

 その事に気付いた浩美先生は踵を返して逃げ出そうとします。ですが、もう手遅れでした。


「あっ!?」


 浩美先生の足首から下が凍りつき、地面に縫い付けられていたのです。


「んっ! くぅっ! んんぅぅっ!」


 浩美先生は身体をひねったり、両手で足を持って引っ張ったりしてみますが、びくともしません。氷華さんはゆっくり歩いてきますが、浩美先生はどんなにもがいても逃げられませんでした。


「出来るだけ苦しませないように終わらせるわ。だって悪いのは私だもの」


 氷華さんの手に、氷で出来た刀が握られていました。浩美先生はさらに暴れますが、やっぱり逃げられません。


「ごめんなさい。本当にごめんなさい!!」


 謝りながら刀を振り下ろす氷華さん。浩美先生はぎゅっと目を閉じます。


(愛奈さん!!)


 そして、心の中で愛奈ちゃんの名前を呼びました。



「先生!!!」



 その時、奇跡が起こりました。横からすごい速さで愛奈ちゃんが割り込み、飛び蹴りで刀を叩き折ったのです。


「くっ!」


 氷華さんは急いで下がります。愛奈ちゃんは氷華さんを見て身構え、浩美先生に笑顔で一瞥しました。


「先生大丈夫?」


「ま、愛奈さん!? どうしてここに!?」


「……何でかな? ただいきなり、先生が危ないって思ったの。思った時には、もうここに来てた」


 虫の知らせ、というやつでしょうか。それとも、愛奈ちゃんの浩美先生を想う気持ちが呼び起こした、奇跡かもしれません。

 とにかく、愛奈ちゃんは間に合いました。


「何が起きてるのかわからないけど、あなたが浩美先生にひどい事しようとしてたって事だけはわかるよ。絶対許さないんだから!」


 氷華さんが何者で、なぜ浩美先生を殺そうとしたのか、愛奈ちゃんは知りません。しかし、浩美先生に危害を加えようとした、という事さえわかっていれば、愛奈ちゃんが戦う理由としては充分でした。


「愛奈!! どうしたの……って氷華お姉ちゃん!?」


 そこへ、愛奈ちゃんを追いかけてきた勇子ちゃんと友香ちゃんもたどり着きます。氷華さんがいて、勇子ちゃんは驚いていました。


「いさちんこの人知ってるの?」


「うちの近所に住んでるお姉ちゃんよ。氷華お姉ちゃん、これ一体何が起きてるの? 何で浩美先生と一緒に……この氷は?」


 勇子ちゃんはいっぺんに問い掛けましたが、氷華さんは答えません。ですが、氷華さんはやがて溜め息を吐き、四人に言いました。


「こんなに殺さなきゃいけないなんて……しかも勇子ちゃんまで……今日はホントに厄日だわ。でも、ごめんね。私も後ろには引けないから」


 一番殺したくなかった勇子ちゃんまで殺さなければならなくなり、氷華さんはもうやけになっています。


「氷華お姉ちゃん!?」


「駄目。近付いたら危ない」


 友香ちゃんが、氷華さんに近付こうとする勇子ちゃんの手を引きました。


「友香の言う通りだよいさちん。こういう相手は、一回黙らせなきゃ」


「愛奈!?」


「大丈夫。あたしがうまくやるよ」


 どうやらここは、愛奈ちゃんに任せた方がよさそうです。愛奈ちゃんはさらに氷華さんの前に進み出ました。警戒する氷華さんの前に両手を向けます。

 と思ったら、その手を組んで、影絵の犬の形にしました。


「狼」


 いや、犬です。突然の奇行に、全員が沈黙します。黙りたくて黙っているのではありません。理解しようとした結果として黙っているのです。


「よっしゃ黙ったぁぁぁぁぁぁ!!!」


「ぶぎゅ!!!」


「「えええええ―――!!?」」


 愛奈ちゃんは飛び掛かり、氷華さんの顔面に膝蹴りを入れました。勇子ちゃんと浩美先生がびっくりしてます。いや、確かに黙らせるとは言いましたが。


「そんな事だろうと思った」


「いやあんた予想出来てたの!?」


 友香ちゃんの発言にまた驚く勇子ちゃん。さすが友香ちゃんですね。


「先制攻撃はうまくいったね。でも、本番はここからだよ」


 顔を押さえて膝を着く氷華に、愛奈ちゃんは両手の指をゴキゴキと鳴らしながら言いました。すごい絵面です。


「え!? あんた黙らせるって……」


「うん。黙らせるって言ったよ。でもその後ボコボコにしないなんて言ってないよね?」


 言ってませんけど、流れ的にそれはまずい気がします。


「いや言ってないけど!! えっ!? まだやるの!?」


「浩美先生にひどい事しようとしたんだから、それくらいされても文句は言えないし、あたしが言わせない。この人も返り討ちにされる事は、覚悟してるはずだよ」


 めちゃくちゃな事を言っている気がしますが、まぁ筋は通ってます。何せ愛奈ちゃん側は、氷華さんに殺されかかってますからね。


「……子供だからって甘く見てたわ。でもね、不意討ち一発決めたくらいで、調子に乗るんじゃない!!」


 氷華さんは折れた刀を愛奈ちゃんに投げつけました。刀は空中で砕け、破片が巨大化し、無数の氷柱となって愛奈ちゃんに襲い掛かりました。さらにだめ押しで、両手から吹雪を出します。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 愛奈ちゃんはその場で高速回転し、氷華さんの攻撃を全て弾き飛ばしました。


「このっ!」


 それなら動きを止めようと、愛奈ちゃんの両足を凍らせます。ですが、浩美先生には通じた攻撃も、愛奈ちゃんには通じません。氷を易々と破壊して、氷華さんに飛び掛かります。


「うりゃああああああ!!!」


「がぁっ!!」


 氷華さんの胸に拳を叩きつけ、吹き飛ばしました。


「ぐっ……まだまだぁぁ!!!」


 しかし、まだ氷華さんは倒れません。さすが妖怪。すごい耐久力です。氷華さんは周囲に吹雪を巻き起こし、愛奈ちゃん達を包み込みました。


「さ、寒いです!」


「や、やば……」


「目が……」


 吹雪はどんどん勢いと冷たさを増していき、浩美先生と勇子ちゃんは互いに抱き合い、友香ちゃんはうずくまっています。吹雪の外も、あちこち凍っていました。いえ、冷気が和来町全体を覆っています。


「負・け・る・かぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 しかし、愛奈ちゃんは負けず嫌いです。全身から気を放出し、吹雪を吹き飛ばしました。


「今度は暑いです!」


「ヤバいって!! 愛奈!! ストップストップ!!」


「寒くなったり暑くなったり忙しい……」


 しかも気は熱を持っており、浩美先生の足の氷が溶けました。周りの氷も溶けてます。和来町も元の気温に戻りました。


「あ、あなた、本当に人間なの!?」


 愛奈ちゃんの凄まじい力を目の当たりにして、氷華さんはへたり込みました。妖怪から人間かどうか疑われるとか、愛奈ちゃん大概ですね。


「あたしの愛の炎は、こんな寒さに負けないよっ!!」


 愛の炎なんて言葉、いつ習ったんですかね、小学六年生成り立て。ちなみに浩美先生は教えてませんよ。


「さぁ!! これで一気に決めて――!!」


「ま、待って愛奈!!」


 紅蓮情激波を放とうとする愛奈ちゃんを、勇子ちゃんが慌てて止めます。


「何するのいさちん!? この人は先生を――!!」


「わかってるわ!! でも、氷華お姉ちゃんは何の理由もなく、こんな事をする人じゃない。きっと何か理由があるのよ!! 私、氷華お姉ちゃんの力になりたいの!! だから……!!」


 氷華さんは、浩美先生を殺そうとしました。でも、氷華さんがそんな趣味の持ち主ではないという事を、勇子ちゃんはよく知っています。だから、その事情を聞きたいのです。


「……わかった。いさちんの言う事も大切だもん」


 愛奈ちゃんは気を抑え、勇子ちゃんに従いました。勇子ちゃんは氷華さんに近付きます。

 氷華さんは、何もしませんでした。愛奈ちゃんに力の差を見せつけられ、戦意を喪失しています。もし自分が何かしようとしても、愛奈ちゃんに即座に阻止されてしまうとわかっているんです。


「氷華お姉ちゃん。どうしてこんな事したの? 私達全員で絶対に力になるから、全部話して」


 勇子ちゃんの必死の訴えに心を折られた氷華さんは、自分の素性と、和来町に来た理由を全て話しました。


「そうだったんだ……」


「……あんまり驚いてないみたいだね?」


「そりゃ驚かないよ。愛奈はあんなだし、友香も超能力者だし」


「念力しか使えない脳筋だけどね! バノバ!!」


「一言余計」


 愛奈ちゃんは友香ちゃんに念力で、後頭部に石を高速でぶつけられました。懲りませんね。


「そ、そうなの!?」


 勇子ちゃんは氷華さんに、友香ちゃんが超能力者な事を教えてません。


「友香は自分の力を秘密にして欲しいなんて言ってないけど、氷華お姉ちゃんは秘密にして欲しいんだね?」


 勇子ちゃんが尋ねると、氷華さんは頷きました。


「じゃあ黙ってるよ」


「えっ?」


「黙ってるって言ったの。氷華お姉ちゃんが周りに知って欲しくない事なら、私は絶対に言わない」


「あたしも言わないよ。いさちんがそうするならね」


「私も」


「私もです。教師として、子供の秘密は守ります」


 四人は氷華さんの秘密を守る事にしました。誰にだって、絶対に知って欲しくない秘密の一つや二つはあります。それを知ってしまった時、相手を尊重して、その秘密を秘密のままに出来るかどうかが、人間としての器の違いに関わるのです。まぁ、秘密にしたい内容にもよりますけどね。悪い事なら周りに話して、止めなきゃいけませんし。


「……ありがとう」


 氷華さんは、みんなにお礼を言いました。


「それにしても、氷華お姉ちゃんって自分の力をうまく使えないのか―」


 愛奈ちゃんは意外に思っています。愛奈ちゃんはあれだけ強い力を持ちながら、完璧に制御出来ていますから。


「私よりずっと強くて、それを完全に制御出来る子がいるなんて思わなかったわ。一体どうやって操ってるの? 秘訣とかある?」


 氷華さんは気になりました。自分よりずっと幼い愛奈ちゃんに出来て、自分に出来ない道理はないはずと思ったからです。


「秘訣かぁ……あたしは先生の事が好きで、それで強くなりたいって思ったから……氷華お姉ちゃんも、好きな人の事考えてみたら?」


「好きな人……」


 愛奈ちゃんに言われて、氷華さんは考えます。勇子ちゃんは呆れました。


「あのねぇ。好きな人なんて、そんな簡単に出来るわけないじゃない」


「そうかなぁ?」


「あんたが特別なだけよ。氷華お姉ちゃん、こいつの言う事なんて参考にしなくていいから」


 ですが、氷華さんは真剣に考えています。


「実はね、一人だけいるの」


「ええっ!? マジで!?」


 どうやら、氷華さんには意中の相手がいたようです。


「私、その人の事を考えて頑張ってみるわ」


「うん! あたしも先生の事考えて頑張るね!」


 氷華さんの気持ちは、愛奈ちゃんにも影響を与えました。これ以上強くなってどうするんですかね。


(愛奈さん、また無茶な特訓とかしてるんじゃ……)


 浩美先生は少し心配になりました。





 ◇◇◇





 その後、浩美先生は車で愛奈ちゃん達を送っていきました。氷華さんと勇子ちゃんは、もう家です。今は愛奈ちゃんと友香ちゃんの二人が残り、先生と雑談してます。


「愛奈さん達、私が帰ってくるまで待ってたんですね」


「うん。何とかして先生に会いたかったから」


「私が家を教えてあげました」


「……仕事の都合とはいえ、申し訳ない事をしてしまいましたね」


「いいよ。それより、足はもう大丈夫なの?」


「はい。もうすっかり」


 氷華さんに凍っていた足を視てもらったので(愛奈ちゃんが氷華さんを羨ましそうに見てました)、凍傷などにはなっていません。車の運転も出来ますし、普通に歩けます。


「ここが要さんの家ですね」


「はい。ありがとうございました」


 友香ちゃんも送って、車内には愛奈ちゃんと二人きりです。ツッコミ不在で、何でも出来る危険な状態でしたが、愛奈ちゃんは何もしませんでした。浩美先生が大変な目に遭ったので、空気を読んだんです。

 そうこうしてる内に、愛奈ちゃんの家にも着きました。


「ここが愛奈さんの家ですね。大きなお屋敷です」


「うん。先生これであたしの家がわかったから、いつでも来れるね!」


「あ、あはは……」


 浩美先生苦笑い。


「あたしも先生の家わかったから、これから遊びに行くね! バイバイ!」


 愛奈ちゃんはそう言って、浩美先生の車から降り、家に帰っていきました。


(そういえば、愛奈さんに家の場所知られたんだった)


 これで浩美先生にとって、自宅は安全地帯ではなくなりました。これからもっともっと、愛奈さんのペースに巻き込まれてしまいます。

 浩美先生はその事に不安を覚えながらも、ちょっと楽しそうだなと思って、自宅に帰っていきました。

ぬう……ギャグが弱い……次回はもっとギャグを増やさなければ……。

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