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エクストリームガールズ!!  作者: 井村六郎
夏期激闘編
28/40

第二十八話 和来町の夏祭り

「時間が経つのがすごく早い気がするよ……宿題終わんないよ……」


 何かに一生懸命だと、そう感じますよね。


「まだ夏休みに入ってちょっとしか経ってないじゃない。何をそんなに焦ってるの?」


「だってお盆までに全部宿題終わらせて、浩美先生と旅行に行きたいんだもん!」


 梨花さんからツッコミが入りました。その事で急いでたんですね。とはいえ、まだ八月の頭です。夏休みはむしろここからが本番であり、焦るには早いです。


「気持ちはわかるがな、もっとどっしりと構えるもんじゃ。毎日少しずつやっていけば、必ず終わる。積み重ねが大切なんじゃ」


「おじいちゃん、また回覧板、回しておいて下さい」


「ん。では散歩がてら行ってこようかの」


 梨花さんにお願いされた亮二さんは、回覧板を持って散歩に行きました。


「……ん? 回覧板?」


 愛奈ちゃんが梨花さんの言葉に反応します。確かこの前回ってきた回覧板に、魅惑的なポスターが付いていて、家の廊下に飾っていた気がするのです。

 愛奈ちゃんは急いで起き上がると、廊下に確認しに行きました。


「やっぱり! 明日夏祭りがあるじゃん!」


 明日の夜六時から、和来町の町中で、夏祭りがあると、ポスターに書いてあります。


「早速浩美先生誘って行こっと!」


 いてもたってもいられなくなった愛奈ちゃんは、家を飛び出していきました。


「宿題は? まぁ心配ないと思うけど……」


 梨花さんはお掃除を再開しました。




 ◇◇◇◇




「というわけでさ、夏祭りに行こうよ!」


 辿り着いた場所は、今絶賛休校中の笑特小。しかし休校中といっても、完全に誰もいないというわけではなく、先生が登板で仕事をしています。今日はたまたま、浩美先生でした。


「あら、いいですね。明日はお休みですので、ぜひ参加させて頂きます」


「じゃあ明日の四時くらいに迎えに行くね!」


 浩美先生は仕事を中断して、愛奈ちゃんの提案を快諾します。


「あ、そうだ。浩美先生、浴衣持ってる?」


「……あ……」


 肝心な事を忘れていました。夏祭りだから、浴衣がいります。残念ながら、浩美先生は浴衣を持っていません。正確に言うと、あるにはあるのですが、夏祭りなど小学生の頃に数回参加したきりで、サイズが合わないのです。


「実を言うとね、あたしも浴衣持ってないの」


 愛奈ちゃんも浴衣は持っていませんでした。

 正直な話、彼女は今まで夏祭りに参加した事がありません。興味もありませんでした。今回は浩美先生の事を思い出したので、初参加しようと思ったのです。


「だからさ、友香に協力してもらおうと思うの」


 なるほど。友香ちゃんはお金持ちですから、浴衣だってたくさん持っているはずです。


「でも、私の分の浴衣があるでしょうか?」


 問題はそれです。用意していると言っても、それは友香ちゃんと栄子さんと石動さんの分だけで、それ以外には作っていないはずですから。


「何とかなるよ。服飾デザイナーだもん。というわけで、ちょっと友香の家に行ってくるね!」


 愛奈ちゃんは超スピードで、学校から出て行きました。


「すごい行動力ね……」


 修行のおかげで体力がついているのもありますが、愛奈ちゃんは浩美先生の事になると、無限大の力を発揮しますからね。





 ◇◇◇◇





 友香ちゃんの家。


「何するのよ!?」


 お家の前には、勇子ちゃんも来ていました。遊びに来たのではありません。愛奈ちゃんに誘拐されてきたのです。


「かくかくしかじか」


「ああ、そういう事。いやそれならそうと先に言いなさいよ!」


 ろくに事情も説明しなかったので、今説明します。


「別にいいけど……」


「やっぱり! いさちんなら絶対断らないって思ったの!」


 なんだかんだで、いつも来てくれますからね。勇子ちゃんはお人好しのいい子です。

 愛奈ちゃんは友香ちゃんのお家にお邪魔して、友香ちゃんにも同じように説明しました。


「浴衣ならいっぱいある。二人は私と身長が同じだから、私の分を使えばいい。浩美先生の分は――」


「あら愛奈ちゃんに勇子ちゃん。いらっしゃいざます」


 友香ちゃんが浴衣について話していると、今日はお仕事が休みの栄子さんが来ました。


「ちょうどいいざますね。愛奈ちゃんから浩美先生に届けて欲しいものがあるざます」


 そう言って、栄子さんはダンボールを一箱、持ってきました。ちょうどガムテープで梱包する前だったので、中身が見えます。


「あっ! 浴衣だ!」


 ダンボールの中に入っていたのは、浴衣でした。この前の怪盗事件で、浩美先生にお礼として作っていたものが、今日仕上がったのです。


「私からお届けするよりも、愛奈ちゃんに届けてもらった方が喜ばれると思うざます。お願い出来るざますか?」


「超タイムリーだよ友香ママ! ありがと!」


 これで、一番問題だった浩美先生の浴衣も解決しました。あとは、明日になるのを待つだけです。


「じゃあさ、今のうちにあたしといさちんが明日着る浴衣を選んじゃおうよ!」


「そうね。明日になって慌てて選ぶより、今日選んだ方がいいわ」


 というわけで、ついでに浴衣も選ぶ事になりました。浴衣を選んだ愛奈ちゃんは、栄子さんが浴衣を作ってくれた事を浩美先生に伝え、浴衣はサプライズの為、明日受け取る事にします。





 ◇◇◇◇





 翌日の四時。


「むっかえっに来ったよ♪」


「はい。それじゃあ行きましょうか」


 浩美先生を迎えに来た愛奈ちゃんは、昨日伝えた通り、まず友香ちゃんの家に行きます。


「着付けはうちのメイドさん達がやってくれるから、安心して」


 友香ちゃんが言うと、メイドさん達が一礼しました。要家専属のメイドさんが着付けてくれるなら、何の心配もありません。




 数分後。


「じゃじゃーん!」


 愛奈ちゃんは浴衣に着替えて出てきました。愛奈ちゃんの闘気のような、真っ赤なハデハデの浴衣です。


「どう……かしら……?」


 勇子ちゃんも出てきます。この子も浴衣を着るのは初めてなので、ちょっと緊張してますね。濃い紫の、渋い浴衣です。


「おっ。なんかいさちんお侍さんみたい!」


「……それ褒めてる?」


「もちろん褒めてるよっ!」


「二人とも、浴衣の感想はどう?」


 友香ちゃんも来ました。明るい黄色の浴衣です。ちょっと暗めの子ですが、浴衣のおかげで明るい子に見えます。


「……今気付いたけど、あんたも結構美人よね」


「勇子もかっこいい。愛奈は……まぁ予想通り」


「どういう意味!? いいのか悪いのかハッキリしてよ!」


「お待たせしました―」


 三人が浴衣姿を評価していると、遂に大本命、浩美先生が着付け終わって出てきました。

 浩美先生の浴衣は白地で、青と紫の朝顔が描かれている、とても可愛らしい浴衣でした。しかも浩美先生、髪をポニーテールにしてあります。


「浩美先生、可愛い! すごく似合ってる!」


「ありがとうございます。でもこの浴衣、ちょっと小さめに作ってありますね。胸元が……」


 浩美先生は恥ずかしそうに言いました。確かに、胸元が少し大きめに開いていて、浩美先生のFカップくらいはある大きな胸が、ばっちり見えています。これ以上隠そうとすると着崩れてしまうので、隠せないでいるのです。


「ひ、浩美先生……」


「……やばい」


 勇子ちゃんと友香ちゃんは、赤面しながら浩美先生の胸を凝視しています。


「は、恥ずかしいです……」


 浩美先生も赤面し、恥じらいながら両手で胸を隠しました。

 しかしなぜこんな事になったのでしょうか。プロである栄子さんが、サイズを間違えるわけがありません。つまり、この仕様はわざとです。愛奈ちゃんの為に、わざとこうしたのです。

 愛奈ちゃんは、物陰から栄子さんがこちらを見ている事に気付きました。


(友香ママ、超グッジョブ!)


 愛奈ちゃんは誰からも見えないよう、すごい笑顔で栄子さんにサムズアップします。


(ありがとざます!)


 栄子さんも物陰から、超いい笑顔でサムズアップしました。




 浴衣に着替えた一同は、夏祭りの会場を目指して歩いていました。

 今回は、愛奈ちゃん達の家族は来ていません。浩美先生がいると聞いているので、浩美先生に引率を任せている感じです。まぁ、お祭りに参加したくてたまらないという歳でもありませんしね。よほどのお祭り好きでないと参加はしませんよ。


「うう……何だかすごく見られてる気がします」


 浩美先生、周囲の視線が気になります。道行く人々は浩美先生とすれ違うたびに、浩美先生に視線が吸い寄せられていました。


「うんうん! こんなに可愛い浩美先生なんだもん、みんな見たくなるよね! ちょっとムカつくけど!」


 愛奈ちゃん、浩美先生を見られて嬉しい気持ちと、浩美先生を独占したい気持ちで板挟みになってます。


「もう……浩美先生はもうちょっと気を強く持てないんですか? 愛奈の真似をするわけじゃありませんけど、浩美先生は充分綺麗なんですから、むしろ見せてやるくらいの気持ちでいいと思いますよ」


 流石に何とかして欲しいと感じた勇子ちゃんが、浩美先生に言いました。


「そ、そんなの無理ですよ……」


「世の中には恥ずかしがると、余計に見たくなる人がいる。自慢する必要はないけど、ある程度は堂々とする事も必要だと思う」


 羞恥心がないというのもそれはそれで問題ですが、それを抜きにしても、やっぱり恥ずかしがりすぎだと、友香ちゃんは感じていたようです。

 まぁ世の中には、露出を隠そうとすると、隠す方がエロいと感じる人もいるわけですからね。作者がそうです。


「トラウマがあるんです。高校生の頃、嫌だって言ったのに、無理矢理ミスコンに参加させられた事がありまして……」


「ミスコン?」


「ミスコンテストの略。一番綺麗な女の人を決める大会」


 勇子ちゃんが訊ねると、友香ちゃんが答えました。どうやらミスコンでたくさんの人の前に、恥ずかしい格好で出場させられたせいで、こういう『着飾って衆目に自分を晒す事』に、苦手意識を持ってしまったようです。


「ひどいね! そんな事した人がいたんだ!? で、結果はどうなったの?」


「愛奈さん、私の話聞いてました?」


 ひどいと言いつつ、愛奈ちゃんは目を輝かせ、遠慮なく訊ねてきます。そりゃ彼女からすれば、ものすごく興味がある事でしょう。


「自慢じゃないんですけど、優勝しました……」


「やっぱり! 浩美先生なら優勝間違いなしだと思ったんだよね!」


 予想通りの結果が聞けて、愛奈ちゃんは大満足です。


「でも、私のクラスに、すごく気合いを入れて参加してた子がいて……その子は二位でした。何だか、あの子を差し置いて優勝したのが、申し訳なくて……」


「いいのいいの! 浩美先生と比べたら、どっちが上かなんて簡単にわかるはずなのに、それでも挑んだ身の程知らずの方が悪いんだよ!」


「あんたマジで容赦ないわね……」 


 いくら浩美先生が大好きとはいえ、ずげずげ言いまくる愛奈ちゃんに、勇子ちゃんはドン引きしています。


「そろそろ着く」


 友香ちゃんが指差しました。見ると、提灯や出店がたくさん並んでいる通り道が見えます。ここからが、夏祭り会場の入り口ですね。


「勇子ちゃん!」


 どうやら、氷華さんと弓弩くんも、今回の夏祭りに参加しに来たみたいです。


「みんな、可愛い浴衣♪」


「愛奈ちゃん、その後変わりはないかな?」


「おかげさまでバッチリ。前より調子がいいくらいだよ。なんか生まれ変わった気分!」


「あ、あはは……」


 弓弩くん、苦笑いです。実際生まれ変わったという表現は、比喩でも何でもないですからね。

 愛奈ちゃん達が入り口で話をしていると、彼女達のすぐそばにリムジンが停まりました。

 運転席のドアが開いて執事さんが降り、後部座席のドアを開けます。


「来ると思っていたぞ。高崎」


 降りてきたのは、黒い浴衣に身を包んだ勝希ちゃんでした。愛奈ちゃんが来る事を見越して、予定を合わせたのです。


「おおう……リムジンに浴衣とかすごい組合せだねぇ」


「私は普段着でいいと言ったのだが、浴衣を着ろと叔父上がうるさいのでな」


「勝希様。では」


「ああ。時間になったら迎えに来い」


「かしこまりました」


 執事さんはリムジンに乗り、一度帰宅します。


「これでいつものメンバーが揃いましたね」


 浩美先生は安心しました。やはりこのメンバーが揃っていないと、浩美先生としては味気ないのです。


「じゃあみんなで、お祭りを楽しもー!」


 愛奈ちゃんが拳を突き上げ、一同は夏祭りの会場へと入っていきました。





 ◇◇◇◇





 ところ変わって、半助くんの家。


「なぁ半助! お前何か面白い事思い付かねぇのかよ!?」


「そう言われても、そんな漠然とした注文じゃ何したらいいかわからないッスよ~」


 半助くんが、江口くんに両肩を掴まれて、ぐわんぐわん揺すられていました。


「ほら、何か大きな事を台無しにするとか、いろいろ思い付くだろう?」


「そんな事言われても……あ!」


 甚吉くんから促され、半助くんはあのポスターを確認します。


「今日夏祭りの当日ッスよ! しかももう始まってるッス!」


「マジか! 最高じゃねぇかよ!」


 江口くんは活き活きとしています。お祭りに飛び入り参加して、全てを台無しにしてやれば、江口ギャング団の鬱憤も晴れようというものです。


「しかしよ、どうやって台無しにするんだ?」


「……うーん……」


「おいおいカンベンしてくれよ! お前は江口ギャング団の頭脳担当だろ!? 何か考えるのはお前の得意分野じゃねぇかよ!!」


「そんな事言われても困るッス~!!」


 江口くんが、また半助くんの両肩を掴んでぐわんぐわん揺らします。


「そんな小僧どもに朗報ゾイ!」


 そこへ、半蔵さん……いえ、Dr.エクスカベーターが現れました。


「うわっ! Dr.エクスカベーター!」


(おじいちゃん……)


 半助くんは正体に気付いていますが、変装しているので江口くん達は気付いていません。


「今日の為に練っておいた特別な計画に、お前達を参加させてやるゾイ。わしに協力すれば、何もかも全部台無し間違いなしだゾイ!」


「マジかよ!? 全力であんたに協力するぜ!」


「悪の博士に協力出来るなんて感激です!」


「モチッス!」


(おじいちゃん、ありがとうッス!)


 三人はDr.エクスカベーターに心から感謝しました。





 ◇◇◇◇





「愛奈ちゃーん!」


「こがねちゃん!」


 夏祭り会場の中央。そこは、盆踊りの会場でもあります。そこには既に、石原家の人々が来ていました。


「いつから来てたの? その様子だと、かなり早く来てたみたいだけど」


「えへへー、実は30分前!」


 勇子ちゃんが訊くと、こがねちゃんが答えました。30分前といえば、愛奈ちゃん達が浴衣に着替え終えて出発するのと、同じ時間でしょうか。


「わしらの家の人間は、代々祭り好きの家系でな」


「私達全員、こういったお祭りに目がないんですよ」


 金剛さんとしろがねさんが言いました。よほどのお祭り好きは、意外と近くにいたようですね。


「お祭りが始まるまでまだ時間あって暇だし、あそこの射的屋にでも行かない?」


「あっ、いいねそれ!」


「僕も行きたいです!」


「私も」


「あたしもあたしも!」


 鉄男くんが言うと、こがねちゃんと琥珀くん、友香ちゃんと愛奈ちゃんが反応しました。


「浩美先生! 一緒に行こっ!」


「あっ、待って下さい!」


 愛奈ちゃんが浩美先生の腕を引っ張り、先立って駆け足で、射的屋に行きます。


「……私も行こう」


「暇つぶしにはなるわね。私も行こっと」


「子供達に大人一人じゃ心配なので、一緒に行ってきます」


「私も行きます」


「ん。頼んだぞ」


 愛奈ちゃんに張り合う為に勝希ちゃんが、暇つぶしに勇子ちゃんが、トラブルを避ける為に日長さんと銅子さんが、射的屋に行きます。


「浩美先生にいいところ見せちゃうんだから!」


「貴様には負けん」


 早速同時に挑戦する愛奈ちゃんと勝希ちゃん。お小遣いを使って、射的用の銃を貸してもらい、それぞれ狙います。

 結果は、二人とも外れでした。


「あれ!?」


「ば、馬鹿な……!!」


 一発も当てられず、景品を獲得出来なかったので、二人はショックを受けています。


「見事に大外れ」


「普段武器を使わないからかしら? 闘気を使った攻撃なら、簡単に当てられるのにねぇ……」


 友香ちゃんは意外そうな顔をしており、勇子ちゃんは原因を考えました。


「だからって、闘気や暗黒闘気でリベンジしようなんて思うんじゃないわよ?」


 今やろうとしていた事を言葉で制され、二人の動きが止まります。


「うわ~ん!! 浩美先生ぇ~!!」


「こんなはずはない……そうだ、これは夢だ……そうだ。でなければこのような……」


 浩美先生に泣きつく愛奈ちゃん。浩美先生は困り顔で、何と声を掛けていいやらわかりません。勝希ちゃんはショックを受けて、何かブツブツと呟いています。まぁ、ショックでしょうね。


「次は私と勇子」


「私はいいわ。見に来ただけだし」


「……じゃあ私一人で」


 次は友香ちゃんで、当てたのは一つだけでした。


「……もうちょっと当たると思ったのに……」


「あはは、やっぱり小学生に射的は難しいよね~」


「あ! お兄ちゃん私達の事馬鹿にした! じゃあ勝負しようよ!」


「いいとも! 中学生の威厳ってやつを見せてあげよう!」


「僕もやらせて下さーい!」


 今度は鉄男くん、こがねちゃん、琥珀くんの三兄妹の挑戦です。結果は、鉄男くんが一つ、こがねちゃんが二つ、琥珀くんがゼロでした。


「やったぁ! お兄ちゃんに勝った~!」


「……僕は遠距離攻撃が苦手なんだよ」


「難しいです……」


 鉄男くんは負け惜しみを言い、琥珀くんは残念そうです。


「こうなったら……父さん!」


「ええ? 僕もやるのかい?」


「頼むよ父さん! このままじゃ男の面目が丸つぶれだよ!」


 年上の貫禄を見せる戦いが、男の面子を守る戦いにすり替わっています。


「やるのはいいけど、僕もそんなに射的は得意じゃないんだ。どんな結果になっても恨まないでくれよ?」


 そう言って、日長さんは銃を借りました。ただし、二回分一度に払って、二丁拳銃です。


「えっ、そんなのアリ!?」


 驚くこがねちゃんの前で、日長さんは射的に挑戦します。一度に二発、同時に発射し、一丁では落とせないような大きなぬいぐるみを、次々と落としていきます。

 日長さんは、五個当てました。


「すごいや父さん! これで男の面目は保てたよ!」


「すごいです!」


「お父さんずるい! こんなのどう考えてもずるいよ!」


「ははは、ここは鉄男くんと琥珀くんの顔を立ててやってくれよ。男の子には意地ってものがあるからね」


 日長さんは異議を申し立てるこがねちゃんを、優しく嗜めました。


「すごいですね日長さん。あんな撃ち方で景品が取れる人、あんまりいないと思いますよ」


「いやいや、たまたまですって。今日はたまたま、調子がよかっただけですよ」


「でも、流石、私の自慢の旦那様だわ」


「そんな事はないよ銅子。可愛い息子の為に頑張ったから、いつもより力が出せたんだ」


 浩美先生と銅子さんは日長さんを褒めますが、日長さんは謙遜しています。


「私は可愛くないの?」


「可愛いに決まってるじゃないか。ただ今回は、息子に頼まれた事をやった。それだけだよ。それにこがねちゃんだって、鉄男くんと琥珀くんより多く景品を取ってるじゃないか。おあいこさ」


 この決して驕らず、常に相手を立てるところが、きっと日長さんが成功する秘訣でしょうね。


「あっちは楽しそうね」


「そうだね」


「竜胆くんも参加してくればよかったのに」


「僕が参加したら、お店のご主人が可哀想だからね」


 氷華さんと弓弩くんは、話し込んでいます。


「お、そろそろ始まるようだぞ」


「私が皆さんを呼んできましょう」


 金剛さんが、周囲の雰囲気の変化を感じ取ります。しろがねさんが、愛奈ちゃん達を呼びに行きました。


「うう……浩美先生にいいところを見せるつもりが……」


「悪夢だ……悪夢なんだこれは……」


「いい加減にしなさいよあんたらは!!」


「がはっ!!」


「ぶべっ!!」


 せっかくのお祭りなのに、陰気くさい空気を漂わせる愛奈ちゃんと勝希ちゃんに、勇子ちゃんがスーパーハリセンを叩き込んで喝を入れました。

 一方、やぐらの上に、立ち上がる人が二人いました。何とそれは、吉照さんと、言話通さんだったのです。吉校長先生は、今回の夏祭りの運営委員長も勤めていたのでした。


「お鼻がパーン!」


「皆さんこんばんは、吉照です」


 ラッパを吹いてから喋った吉校長先生の言葉を、通さんが通訳します。


「にゃんにゃんペンネンジュ~ワジュワ!」


「今夜は祭りです。堅苦しい挨拶は抜きにしましょう」


「レバレバ、デチューン!」


「ではこれより、大和来祭りを開催致します!」


 相変わらず何を言っているのか全くわかりませんが、とにかく夏祭り改め、大和来祭りのスタートです。


「愛奈さん」


 まだ落ち込んでいる愛奈ちゃんに、浩美先生が優しく話し掛けました。


「元気を出して下さい。お祭りはこれからですよ? さっきの失敗は忘れて、今は思いっきり楽しみましょう!」


「ひ、浩美先生……!!」


 愛奈ちゃんは浩美先生の言葉に感激しました。


「そうだよね! 今日はお祭りだもんね!」


 すっかり立ち直った愛奈ちゃん。やっぱり、愛奈ちゃんにとっての一番の良薬は、浩美先生ですね。



 その時でした。



 盆踊りのやぐらが、真下から吹き飛びました。



「な、何なの!?」


 驚く勇子ちゃん。破壊されたやぐらの下から、ドリルアームを生やした巨大なロボットが現れ、そのロボットの頂点が金属のやぐらに変形しました。


「ご機嫌よう和来町の諸君。お邪魔させてもらうゾイ!」


 そのやぐらの中から、Dr.エクスカベーターと江口ギャング団が出てきます。


「悪の科学者Dr.エクスカベーターと、江口ギャング団の奇跡のコラボレーションだぜ!!」


「そういうわけで、大和来祭りを邪魔しに来たゾイ! このハイパーエクスカベ――ションロボ フェスティバルバージョンで、徹底的に滅茶苦茶にしてやるから、お前ら覚悟するゾイ!」


 和来町の夏祭りとくれば、この男が邪魔しに来ないはずがありません。意気揚々と、全力で全てをぶち壊す宣言をするDr.エクスカベーター。

 しかし、彼は気付きます。これだけド派手な登場を果たしたというのに、お客さん達が全員無反応だという事に。


「……あれ? お前らどうしたゾイ?」


「俺達が大和来祭りを、徹底的に何もかもぶっ壊してやるって言ってんだ!! 怖がるとか何とか、もっといろいろ――」


「――魔黒情滅波!!!」


「「「「ぎゃあああああああああああああああ!!!!」」」」


 江口くんが全部言い終わる前に、勝希ちゃんがやぐらに暗黒闘気を撃ち込みました。


「ちょうどいい所にいい連中が出てきたな。憂さ晴らしに付き合ってもらうぞ!!」


 勝希ちゃん、さっきの射的の失敗で付いた心の傷が、まだ癒えていません。悪党と集団を相手に、憂さ晴らしをするようです。全身から暗黒闘気が噴き出しました。

 すると、周りの出店から、店主さんが武器を持って出てきました。さっきの射的屋さんも、両手にマシンガンを装備しています。お客さん達も、全員剣や槍、銃など、様々な武器を手に、すごく殺気立っていました。


「祭りだ祭りだ!! ワッショイワッショイ!!」


「皆さん、お祭りの邪魔者を追い出しましょう」


 照さんがみんなの気持ちを代弁し、それを通さんが通訳します。


『わああああああああああああああ!!!!!』


 それを皮切りに、みんなが一斉にロボットに飛び掛かり、攻撃をしかけました。


「ちょ、ちょっと何なの!?」


「この町の人々は、お祭りを邪魔する人に容赦しない。そして私も」


「友香ーーーー!?」


 驚く勇子ちゃんの前で、友香ちゃんも攻撃しに行きました。


「やれやれ……じゃ、僕も行こうかな!」


「私も!」


「アンブレイカブルファミリー、出動じゃ!!」


『おーーー!!』


 弓弩くんが、氷華さんが、いつの間にかスーツを着ていたアンブレイカブルファミリーが、次々突撃します。


「あたしもやるぞー!!」


「愛奈さん!?」


 最後に愛奈ちゃんが飛び込みました。


「……何ですか、これ」


 大暴れする皆さんを見て、慎太郎さんが当然の疑問を口にします。

 それに対して、梨花さんと亮二さんが、


「祭りでしょ」


「祭りじゃな」


 実に的確な答えを返しました。


「紅蓮情激波ーーーーー!!!」


「「「「ぎゃあああああああああああああああああああ!!!!」」」」


 血祭りと化した大和来祭り。最後は主人公の愛奈ちゃんが、紅蓮情激波でシメます。悪党連合軍は、これといった見せ場もないまま、ロボットと一緒に吹き飛んでいきました。


「浩美先生」


 全てを終わらせた愛奈ちゃんが、浩美先生のところまで戻ってきます。


「邪魔者は消したよ。さ、お祭りを楽しもう!」


「は、はい……」


 屈託のない笑みを浮かべる愛奈ちゃんに、浩美先生は戦々恐々としながら返事しました。





 ◇◇◇◇





 その後、愛奈ちゃん達は大和来祭りを楽しみました。


「打ち上げ花火、綺麗だったね!」


「はい!」


 お祭りの帰り道、愛奈ちゃんは浩美先生に言います。


「あたし、これからも浩美先生と一緒に、たくさん思い出、作りたいな」


「そうですね。いっぱい作りましょう!」


 いろいろありましたが、しっかり楽しめた浩美先生でした。




 一方その頃、誰も来ない丘まで飛ばされた悪党連合軍は、すっかり伸びていました。


「これがほんとの、あとの祭りッス……」


 ちゃんちゃん♪





夏祭りも血祭りも大好きだぜ!! あとの祭りはかんべんな!!

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