第二話 デパートバトル!? 強盗団をやっつけろ!!
「浩美せーんせっ♪」
「ひゃっ!?」
廊下を歩いていた時、浩美先生は後ろから愛奈ちゃんに抱きつかれて、少し驚きました。
「い、いきなり抱きつかないで下さい! びっくりしちゃいます!」
「だってびっくりさせようと思ってやってるんだもん」
愛奈ちゃんは武術が使えるからか、相手に全く気配を悟らせずに近付く事が出来ます。浩美先生の驚く姿が可愛くて、わざと気配を消して抱きつくのです。
「あっ! やっぱり浩美先生のところにいた!」
そこへ、愛奈ちゃんを捜しに、勇子ちゃんが来ました。
「こらっ!! 離れなさい!!」
「やだ!!」
「先生が困ってるでしょうが!!」
「困ってないもん!! びっくりしてるだけだもん!!」
勇子ちゃんは浩美先生から愛奈ちゃんを引き剥がそうとしますが、愛奈ちゃんの方が力が強いので、引き剥がせません。
「ああもう……友香!!」
「了解」
同じく愛奈ちゃんを捜しに来ていた友香ちゃんが、念力で愛奈ちゃんを引き剥がし、ずるずると引きずっていきます。さすがの愛奈ちゃんも、友香ちゃんの念力には敵わないようです。
ここで初めて明かしますが、友香ちゃんは前に廃ビルの倒壊に巻き込まれて、落ちてきた大量の鉄骨やコンクリートを、一度に全部念力で受け止めた事があります。だから相当強いですよ。
「離せ―!! 脳筋超能力者―!!」
身体で抵抗出来ないとわかった愛奈ちゃんは、口で抵抗しました。ですが、そのワードは禁句です。
怒った友香ちゃんは近くの教室のドアを念力で開け、さらに今誰も使っていない机を、同じく念力で浮かべて、愛奈ちゃんの頭に高速でぶつけました。
「デスク!!!」
愛奈ちゃんは頭に大きなたんこぶを作って気絶しました。
「すいません浩美先生。お騒がせしました」
「い、いえ……」
勇子ちゃんと友香ちゃんは、愛奈ちゃんをずるずると引きずったまま、教室に戻りました。
「なんで俺の机がここに!?」
机の持ち主が出てきました。
◇◇◇
今日は土曜日。学校はお休みです。
「あっ! おーい! いさち―ん! 友香―!」
今愛奈ちゃんは公園にいて、他の二人と待ち合わせしてました。二人が来たので、手を振って呼びます。
「ったく、何なのよ愛奈? たまの休みくらいゆっくりさせて欲しいんだけど?」
勇子ちゃんは文句を言っています。まぁ、いつも愛奈ちゃんと付き合ってたら疲れるでしょうしね。
「いいじゃん。どうせ暇なんでしょ?」
「その暇が欲しいって言ってるのよ……で、用件は?」
「今日は、デパートに行こうと思います。一人で行ってもつまらないので、いさちんと友香も呼びました」
「……お父さんとお母さんにお願いすればいいじゃない」
「それじゃ普通のお買い物だよ! 友達二人と行くから楽しいんじゃん!」
どうやら愛奈ちゃんは、どうしても二人と一緒にデパートに行きたいようです。
「勇子。こうなった愛奈は何を言っても聞かないから、潔く諦める。私もちょっと欲しい本があったし」
「おっ! さっすが友香! 話がわかる~!」
友香ちゃんに抱きつく愛奈ちゃん。なんだかんだで、愛奈ちゃんと友香ちゃんは仲良しです。
「……はあ……わかったわよ」
「やったー! ありがといさちん! お礼に好きなお菓子一つ、おごったげるからさ!」
「……その言葉、忘れるんじゃないわよ」
お菓子に釣られました。こういうところが、まだ子供ですね。
「ところで友香。今日あんたと会った時からちょっと気になってる事があるんだけど」
デパートに向かおうとした時、勇子ちゃんが友香ちゃんに訊きました。
「その服何なの?」
友香ちゃんは今、白い無地のTシャツを着ています。いえ、完全な白ではありません。真ん中に、『ぴょんぴょん祭』と書いてあります。
「自分で作った」
「作ったんだ……いや、それはまぁ、百歩譲ってわかるんだけど、そのよくわからない文は何なの?」
「今日の気分」
「どんな気分!? さっぱりわからないわよ!!」
勇子ちゃんはツッコミを入れました。どうやらあのぴょんぴょん祭というのは、今日の友香ちゃんの気分のようです。
……いやわからんわ。
「どんなと訊かれても、こんなとしか言い様がない。ただ私のお母さんは、この服を見てすごいって言ってくれた。嬉しかったから、この服作るの、趣味にしようかな……」
友香ちゃんのお母さんは服飾デザイナーをやっていて、服飾業界の新風と言われているくらい、有名な人なんです。そんなお母さんからすごいって言ってもらえたら、そりゃ嬉しいでしょうね。
「題名は、今日の気分シャツで」
「そのまんまじゃない!! っていうかこれからも作るつもりなの!?」
「当然。学校に着て行くのは恥ずかしいから、こういう休みの日ぐらいにしか着ないけど」
一応恥じらいはあるようです。こんな服、学校に着て行ったりしたら、絶対に変な目で見られますからね。
「二人とも何してるの? 早く行こうよ!」
勇子ちゃんと友香ちゃんが漫才をやっていると、愛奈ちゃんが呼びました。
「今行くわ」
二人は愛奈ちゃんを追いかけます。
「当作品では今日の気分シャツに使える言葉を募集してます。どしどし送って下さい。ただし使うかどうかは作者さんと、私の気分次第です。何せ、気分シャツなので」
「誰に言ってんのよ」
◇◇◇
ここは、愛奈ちゃん達が住んでいる、この和来町で一番大きなデパート、ワライショッピング。生鮮食品はもちろん、ファッション・服飾コーナーやオモチャ・ゲームコーナー、フードコートや映画館に銀行まで完備している、超大型デパートです。毎日たくさんお客さんが来るので、駐車するのも一苦労。
「はぁ……」
溜め息を吐きながら歩いている浩美先生は、運良く入り口に一番近い駐車場に停められたようです。
(私、どうしたらいいのかしら……)
浩美先生は現在、絶賛お悩み中でした。まぁ悩みの原因は、愛奈ちゃんの事なんですけどね。
自慢じゃありませんが、浩美先生はモテます。メチャクチャモテます。学生時代なんか、毎週一回は必ずコクられてました。
しかしそんな浩美先生も、同性の、それもあんな年下の子供にコクられた事はありませんでした。普通ならあり得ない事なので当然と言えば当然ですが。
さらに言うなら、愛奈ちゃんはこれから自分の教え子になる子です。これからどう接したらいいのか、真剣に悩んでいます。
(一応、無理はしないよう言ってあるけど……)
ですが出来た事といえば、修行のしすぎで身体を壊さないように言った事くらいです。私の為に強くなってくれるのは嬉しいけど、無理しないようにね。って言ったら、ものすごい喜びながら修行のメニューを減らしてくれました。
しかしそれ以上何も思い浮かばず、悩むのに疲れて、ワライショッピングに気晴らしに来てるんです。
(……悩むのはもうおしまい。今日くらいは愛奈さんの事を忘れて、思いっきり楽しんじゃおう!)
というわけで、浩美先生は今日一日を楽しもうと思いました。
「あっ! 浩美先生!」
思った矢先、愛奈ちゃん達が現れました。
「まっ、愛奈さん!? それに松下さんと要さんまで!?」
「えへへ~。奇遇だね、浩美先生! やっぱりあたし達って、運命の赤い糸で結ばれてるみたい!」
「あ、あはは……」
愛奈ちゃん達が来たのは、完全に偶然です。偶然ですったら偶然です。ですがまるで図ったようなタイミングで出てきたものですから、愛奈ちゃんの性格から考えて、ストーキングされてたんじゃないかと妙な勘繰りをしてしまいます。
「皆さんどうしてこちらに?」
考えすぎだと気を取り直して、浩美先生は三人に訊きました。
「お母さんに買い物お願いされちゃって、買いに来たんだけど……ほら見て! こんなにたくさん!」
愛奈ちゃんは梨花さんに渡されたメモを見せます。二枚のメモに買ってくるリストがびっしり書いてありました。
「こんなの一人じゃ持ちきれないから、この二人は荷物持ち!」
「はあ!? 聞いてないわよそんなの!!」
愛奈ちゃんの荷物持ち発言に、勇子ちゃんは怒って詰め寄ります。友香ちゃんも愛奈ちゃんを見ました。やっぱり、納得してないんでしょうね。
「いいじゃん。暇なんでしょ? お菓子おごったげるって約束したし」
「あんたにしてはサービスがいいと思ったらそういう事か!!」
普段の愛奈ちゃんは、お菓子をおごるなんて事、まずしません。なんかおかしいと思ってましたが、まぁ予感が当たりましたね。
「それなら、私もお手伝いしましょうか?」
「えっ? 先生が?」
浩美先生が荷物持ちの手伝いを申し出てきて、愛奈ちゃんは驚いてます。
「はい。ここには元々気分転換に来ただけで、実は何か買おうとか考えてなくて……」
商品を見て回るだけでも気分転換にはなりますからね。
「だから、この前助けてもらったお礼も兼ねて、お手伝いします!」
「えっ!? ええっ!?」
先生に荷物持ち手伝ってもらえるなんて夢みたいで、愛奈ちゃんは顔を赤くしながら戸惑っています。
「それにしても、ずいぶんをたくさんありますね……全員で固まって動くと効率が悪いので、二手に分かれて行きましょう」
「え?」
「私がこっちのメモに書いてあるものを買ってくるので、皆さんはこっちのメモに書いてあるものを買ってきます。じゃあ、出口で合流しましょう!」
「え……」
浩美先生は片方のメモを受け取り、もう片方のメモを愛奈ちゃんに渡して、買い物に行きました。先生が言っている事に間違いはなく、ご丁寧に買いに行くコーナー分けしてメモに書かれていた事もあって、『あたしは浩美先生と一緒に買い物して回りたい』と言い出す事が出来ず、愛奈ちゃんは先生の後ろ姿を見送る事しか出来ませんでした。
「……どんまい」
勇子ちゃんは愛奈ちゃんの肩に手を置きました。
「今日の気分シャツの事、突っ込んでもらえなかった……」
友香ちゃんは自分のシャツを見て、寂しそうに言いました。っていうか、ツッコミ待ちだったんですね。
◇◇◇
仕方なく、メモの通り買い物をしていく愛奈ちゃん達。
「どう愛奈? これで全部買えた?」
勇子ちゃんがカートを押しながら尋ねます。友香ちゃんは念力で手伝いをしながら勇子ちゃんの後ろをついていきます。
「うん、全部買えたよ。いさちんと友香へのおごりも含めてね」
愛奈ちゃんチームは、メモに書かれていたものを全て買えたようです。あとは、先生と合流するだけですね。
「……」
ふと、友香ちゃんが足を止めました。
「レジの方が騒がしい」
「……はあ? デパートって騒がしいものでしょ?」
友香ちゃんが妙な事を言ったので、勇子ちゃんが反論します。確かに、デパートというのは常に騒がしい場所ですが……。
「そういうのとは違う騒がしさ。気を付けてレジに行った方がいいかもしれない」
そう言われて、二人は黙りました。友香ちゃんは念力しか使えませんが、それは意図的に使える超能力の中では、という意味です。だからといって他の超能力が予期せぬ形で発動するかというとそうでもないのですが……ああもうめんどくさい。単刀直入に言いますが、友香ちゃんは時々感覚がものすごく鋭くなる事があるんです。
視力、聴力、嗅覚、触覚、危機感知力、第六感。そういった類いの感覚が、意図せずして鋭くなる事があって、友香ちゃんが気を付けた方がいいと思った時は、間違いなく悪い事が起こります。
やはり、彼女が超能力者だからでしょうか。もしかしたら本人が意識していないだけで、他にも使える超能力があるのかもしれません。とにかく三人は、警戒しながらレジに向かいました。
そして、悪い事は本当に起こっていました。
「さっさと金出せっつってんだろ!!」
「オラ!! 騒いでんじゃねぇ!!」
「一人でも逃げようとしたら殺すからな!!」
レジとその周りに、拳銃やマシンガン、ライフルで武装した、十数人ほどの集団がいて、店員さんやお客さん達を脅していたんです。みんなその場に座らされています。
「うわわっ! 強盗団だ!」
「愛奈! こっち!」
驚く愛奈ちゃんと、商品棚の陰から手招きする勇子ちゃん。友香も勇子ちゃん側にいます。愛奈ちゃんは慌てて商品棚の陰に隠れました。すぐに隠れたおかげで、強盗団には気付かれていないようです。
「どうしよう……すぐ警備員さんに連絡しなきゃ……」
「もう伝わってると思う。来たところでどうにか出来るとは思えないけど」
警備員さんに連絡する事をすぐに考えた勇子ちゃんは、なかなか頭が回ります。まぁ真っ昼間から堂々と強盗なんてやってるので、友香ちゃんが言うようにもう警備員側に伝わっていると思いますが。
しかし、ただの警備員にはどうにも出来ないでしょう。強盗をしに来たにしては、いやに重装備です。鎮圧には特殊部隊が必要になるレベルですね。
ですが、愛奈ちゃんはどうでもいい事を考えていました。
「あの人達、どうして女もののパンツ被ってるの?」
その頃、強盗団。
「あの……やっぱりこいつら引いてませんか?」
強盗の一人が、リーダーと思われる強盗に訊きました。
「仕方ないだろ! 金がなかったんだから!」
そうです。この強盗団、確実にお金を盗む為に、武器の用意ばかり考えていました。だから、強盗が終わった後の事を考えていなかったんです。気付いた時には、覆面を買う予算がなくなっていました。
しかし覆面がないと顔が割れてしまいますので、絶対に必要です。仕方なく強盗をする前にこのお店で覆面を盗もうとしたのですが、なぜか今日に限って覆面が売り切れており、非常に不本意ではありますが、ランジェリーショップコーナーで女性ものの下着を調達し、被っているのです。
「ならせめて男もののパンツにすればいいじゃないですか!」
「バカ! 何が悲しくて男のパンツなんか被らなきゃいけないんだよ!」
新品とはいえ、やっぱり抵抗がありますもんね。いや、女性下着でも充分問題ですが。
戻って愛奈ちゃんチーム。
「ほんとだ! 銃に気を取られて気付かなかったけど、あいつら変態じゃない!」
気付いた勇子ちゃん。ごもっともです。
「……あっ」
また何かに気付いた友香ちゃん。
「今度は何よ?」
「……一番レジに近い強盗を見て。人質取ってる」
「「えっ?」」
友香ちゃんに言われて、二人はレジに一番近いところにいる強盗を見ます。すると、本当に人質を取られていました。
「浩美先生!!」
しかもよく見ると、人質になっているのは浩美先生です。泣きそうな顔をしています。そりゃ黒いショーツを被った強盗に銃なんて突き付けられたら、泣きたくもなるでしょう。
勇子ちゃんは愛奈ちゃんが大きな声を出したので、慌てて愛奈ちゃんの口を塞いで引っ込みます。
「誰だ!? 見てこい!」
今度は気付かれてしまいました。強盗の一人が、こっちに向かってきます。
「こっちに来る」
「ちょっとどうすんのよ!」
友香ちゃんはまだ働いている鋭敏な感覚で、強盗が向かってくる事を教え、勇子ちゃんは小声で愛奈ちゃんを責めました。
「なんとかして先生を助けないと……」
自分だって危ないのに、浩美先生の事を考えている愛奈ちゃん。
「……よし。あたしが囮になるから、その間に二人は先生を助け出して」
「お、囮?」
「早速、今日買ったこれが役に立つね」
愛奈ちゃんは一つだけ、袋を持っています。その袋の中からあるものを取り出し、顔に着けて、強盗の前に飛び出しました。
「な、何だお前は!?」
強盗は驚いています。
それもそのはず。愛奈ちゃんは鼻メガネを着けていたからです。
その状態のまま、愛奈ちゃんは強盗に答えました。
「私は人形です」
しばし流れる沈黙。強盗も、お客さん達も、全員黙っています。いや、困惑して喋れないと言った方がいいでしょう。当たり前です。いきなり鼻メガネを着けた女の子が出てきて、私は人形ですなんて言われたら、みんなこうなります。意味がわかりません。わけがわかりません。
強盗が愛奈ちゃんの言葉の意味を、必死に理解しようとしていると、愛奈ちゃんが素早く強盗の腰に抱き着きました。
そして――、
「引っ掛かったなこのカカシがーーーー!!!」
「ドーーール!!!」
強盗にジャーマンスープレックスを喰らわせました。すごい威力ですね。強盗の頭が床に突き刺さりました。直立したまま、強盗が気絶します。
「全然引っ掛かってないわよ!!」
思わず飛び出してつっこむ勇子ちゃん。
「あ、あいつを止めろ!! 撃っても構わん!! あいつは危険だ!! 危険すぎる!!」
あらゆる意味で危険な愛奈ちゃんに、六人の強盗が向かってきます。
「勇子、こっち」
「あっ、しまった!」
勇子ちゃんは慌てて棚の陰に戻り、友香ちゃんと一緒に逃げます。勇子ちゃんのミスで、二人の存在に気付かれてしまいました。ここは一度、逃げるが勝ちです。
「逃げたぞ!!」
半分が愛奈ちゃんを、もう半分が勇子ちゃんと友香ちゃんを追いかけます。
「遅い!!」
愛奈ちゃんは強盗が撃ってくる前に、鼻メガネを外して先頭の強盗の顔面に投げつけました。
「レンズ!!」
一人、気絶しました。愛奈ちゃんは二人目と三人目も殴り倒します。
「パンツ!!」
「パンティ!!」
それから、残りの強盗に向かっていきました。
一方、勇子ちゃんと友香ちゃん。
「大人しくしろガキども!!」
強盗が三人、追ってきます。
「どうしよう!!」
「任せて」
勇子ちゃんは愛奈ちゃんのように強くありませんが、友香ちゃんがいるなら大丈夫です。
友香ちゃんは念力で、ハエ叩きを六本持ってきました。そしてそのハエ叩きで、強盗達の足を叩き始めました。それも、すねを。
「あだだだだだ!!」
「痛い!! 痛い!!」
「ぎゃあああああ!!」
強く叩くと転ばせる。弱く叩くとダメージがない。絶妙な力加減で叩かれ、強盗達は痛みに跳び跳ねています。
「ぴょんぴょん祭」
「えっ?」
友香ちゃんの言葉を聞いて、勇子ちゃんは気付きます。今日の気分シャツに書いてある、あのぴょんぴょん祭という文字。あれは、『誰かのすねを叩いて跳ね回らせたい』という気分だったのです。わかりづらっ!
友香の口元が、邪悪に笑っていました。黒いです。勇子ちゃんは震えています。
五秒後。
「飽きた」
「えっ」
強盗達をいじめる事に飽きた友香ちゃんは、すねを叩かせていたハエ叩きで強盗達の頭を殴り、あっさりと気絶させました。床に亀裂が入っているので、愛奈ちゃんクラスの力で叩かれましたね。
「愛奈を助けに行く」
「あ、うん……」
追っ手は全滅させたので、愛奈ちゃんのところまで戻ります。人質にされている浩美先生を助けないといけません。
「ま、待て……」
「きゃっ!」
その時でした。どうやら一人だけまだ気絶していなかったようで、勇子ちゃんの足を掴んだのです。
「きゃあああああ!! やだやだ!! 友香これ何とかして!!」
暴れる勇子ちゃん。ですが、虫の息といっても相手は大人です。小学生の勇子ちゃんの力では振りほどけません。
「勇子!! これ使って!!」
友香ちゃんは勇子ちゃんに、念力であるものを飛ばします。
「!?」
それは、ハリセンでした。ちなみにさっきの鼻メガネも、このハリセンも、買ってくるものリストには入っていない、愛奈ちゃんが個人的に欲しかったものです。何でそんなものが欲しいんですかね。
それはさておき、ハリセンなんか渡してどうしようというのでしょうか。
と思っていた時、勇子ちゃんの中に一つの衝動が生まれました。
このハリセンで強盗の頭を叩きたい。それもただ叩くのではなく、ツッコミを入れたいと。
そう思った時には、もう行動に移していました。
「この変態が―――!!!」
「返す言葉もございません!!!」
パンティ―を被るわ女の子の足を掴むわ、もう言い逃れのしようがない変態行為ですからね。
勇子ちゃんが頭に向けて放ったハリセンの一撃がとどめとなり、強盗は今度こそ気絶しました。気のせいでしょうか? 心なしか、床の亀裂が広がった気がします。
「ナイスツッコミ」
荒い息継ぎをしている勇子ちゃんを見て、友香ちゃんはサムズアップしました。
◇◇◇
さて、今回のメインイベントである、愛奈ちゃんvs強盗団のシーンに戻ります。
「だぁぁぁりゃぁぁぁぁぁ――!!!」
『ぎゃああああああああああああああああああああああ!!!!』
愛奈ちゃんが突撃しながら放った拳の連打で、多数の強盗が宙を舞い、床や商品棚、別のレジやテーブルに叩きつけられ、沈んでいきました。
「くそっ!! こいつ人間じゃねぇ!!」
「化け物が!!」
ごもっともです。愛奈ちゃんの人間離れした強さに恐れをなした二人の強盗が、持っていたマシンガンとライフルを乱射します。
それを見た愛奈ちゃんは、一度足を止めます。と思ったら愛奈ちゃんの両手が消えました。なおも撃ち続ける強盗二人。
やがて二人の銃は弾切れを起こしました。同時に、愛奈ちゃんの両手が再び現れます。そして愛奈ちゃんが、握っている両手を開くと、ぺちゃんこになった大量の銃弾が、カラカラカランと音を立てて、床に落ちました。はい、銃弾を全弾掴んで握り潰したんです。
「こんなの効かないよ!!」
あり得ませんから。愛奈ちゃんは呆気に取られる二人を、素早く沈めました。
「く、くそっ!! 動くな!! 動けばこいつを殺すぞ!!」
「きゃっ!」
「浩美先生!!」
強盗のリーダーは浩美先生を盾にしました。喉元にリボルバーを突き付けて、愛奈ちゃんを威嚇します。危機的な状況なのですが、リーダーが覆面代わりに黒のショーツを被っているのを見ると、どこかまぬけな状況に見えます。コントですかね?
「ま、愛奈さん……私に構わず、この人を……」
「だ、黙れ!!」
「愛奈さんは、本当に強くなりました。その強さを、私だけの為じゃなくて、たくさんの人の為に、使ってあげて下さい」
「黙れって言ってるだろ!!」
強盗退治を優先させようとする先生の喉元に、リーダーはさらに強く銃口を押し当て、黙らせようとします。
浩美先生に何を言われても、愛奈ちゃんは動けませんでした。せっかく好きな人を見つけたのに、こんな終わり方なんてしたくありません。
「あっ!?」
浩美先生を人質に取ったまま逃げようとしたリーダーでしたが、一歩後ろに下がった瞬間、リボルバーが勝手にリーダーの手を離れて、どこかに飛んでいってしまいました。
友香ちゃんです。友香ちゃんが物陰から念力を使い、リーダーの手からリボルバーを剥ぎ取ったのです。
「先生から離れろ!! このド変態が!!!」
「うげっ!!!」
「あっ!?」
リーダーの後ろに回り込んでいた勇子ちゃんが、頭をハリセンで殴りました。その拍子にリーダーが、浩美先生から手を離します。変態にドが付きました。言い逃れは出来ません。
リーダーが先生から離れた隙を突いて、愛奈ちゃんがリーダーを蹴り飛ばし、さらに先生から引き離します。
「くそ~!! こうなったらお前ら皆殺しに――!!」
リーダーはもう一挺銃を抜き、そう言い掛けて、やめました。やめさせられました。顔に怒気を浮かべ、髪を逆立たせる愛奈ちゃんの恐ろしい姿を見て、恐怖に竦み上がってしまったからです。
「高崎流気孔術奥義……!!!」
怒りを込めて、愛奈ちゃんは両手を腰溜めに構えます。
「う、うわあああああああああ!!!」
それを見て錯乱したリーダーは、銃を愛奈ちゃんの顔面目掛けて乱射します。
「紅蓮情激波――――!!!!」
「アガ―――!!!!」
しかし、そんなもので愛奈ちゃんの怒りは止まりません。紅蓮情激波は銃弾を消滅させ、リーダーを町外れまで吹き飛ばしました。
「ど、どうしてこんな事に……」
強盗なんてしたからでしょう。リーダーは答えがわかりきっている疑問を呟いてから、気絶しました。
◇◇◇
月曜日。
「浩美先生!! これ見て!!」
廊下で浩美先生を見つけた愛奈ちゃんは、新聞紙を持って浩美先生に見せました。
新聞の一面には、『お手柄小学生三人組!! 変態強盗団を退治!!』と見出しに大きく書かれ、感謝状を持って満面の笑みでピースしている愛奈ちゃん。恥ずかしそうにそっぽを向いている勇子ちゃん。無表情の友香ちゃん。それから、嬉しそうに笑っている浩美先生が写っている写真が掲載されています。
あの後駆けつけた警官隊に強盗団は逮捕され、人質にされていたお客さんと店員さんも解放されました。その後、テレビと新聞記者さんからインタビューを受け、市長さんから感謝状をもらったというわけです。
「わあ! すごいです!」
「あたし達お手柄だって!」
愛奈ちゃん達の大手柄を、浩美先生も喜んでいます。
「ねぇ浩美先生」
と、急に愛奈ちゃんが真面目な顔をしました。
「は、はい?」
「……あたしは浩美先生の事が大好きだから、何があっても絶対助ける。だから、もうあんな事言っちゃだめだよ?」
「……あっ……」
浩美先生は強盗団のリーダーに人質にされた時、自分に構わないよう言いました。でも、愛奈ちゃんにそれは出来ないのです。浩美先生の事が、大好きだから。
だから愛奈ちゃんは、何があっても自分を信じてくれるよう、浩美先生にお願いしました。
「はい。約束です!」
「うん! じゃあ、指切りしよ!」
愛奈ちゃんは浩美先生に小指を出し、浩美先生はそれに自分の小指を絡ませます。
「「指切りげんまんうそついたら針千本の―ます。指切った!」」
こうして二人は、指切りをしました。
「あっ! またいるし! 友香!」
「了解」
そこへ勇子ちゃん達が来ます。友香ちゃんは念力で愛奈ちゃんを連れていこうとしますが、愛奈ちゃんは浩美先生に抱きついて抵抗しました。
「やだ―!! 離せ―!! 脳筋エスパー!!」
また禁句です。怒った友香ちゃんはまた念力でドアを開けて机を持ってくると、先生に当たらないように愛奈ちゃんの頭にぶつけました。
「アラベスク!!!」
大きなたんこぶを作って気絶する愛奈ちゃん。
「先生失礼しました!」
勇子ちゃんと友香ちゃんが、愛奈ちゃんを引きずって教室に帰ります。
「……新聞、返し忘れちゃった」
浩美先生は、まだ愛奈ちゃんの新聞を持ったままです。後で返しに行こうと思い、再び一面を見る先生。それから、静かに微笑みました。
「また俺の机がこんな所に!?」
机の持ち主が出てきました。