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エクストリームガールズ!!  作者: 井村六郎
夏期激闘編
19/40

第十九話 水面下の計画

 愛奈ちゃん達が輪路さん達に遭遇する少し前、こことは違う死者達が送られる世界、冥界の城、冥魂城で、輪路さん達の宿敵、黒城殺徒と、その妻黄泉子は、報告を受けていました。


「どうしたんだいカルロス?」


「ずいぶん慌てているみたいだけど、何か面白い事でもあったの?」


 二人に報告していたのは、直属の幹部団、死怨衆の頭脳担当、カルロス・シュナイダーです。


「いやそれがですね、面白いリビドンを見つけたんで連れてきたんですよ」


 リビドンというのは、本来現世に干渉出来ない幽霊が、憎悪によって干渉する為の肉体を得た怨霊です。殺徒達はそのリビドンの中でも高位の存在、上級リビドンです。


「面白いリビドン?」


 死因や憎悪の形は様々で、それによってリビドンの姿や能力は変化します。大体の能力は見飽きている殺徒ですが、カルロスがわざわざ面白いと言ったので、それなりに興味を惹かれていました。


「はい。ほら、出てきな」


 カルロスがジャグリング用のボールを一つ、目の前に放り投げると、ボールが破裂して煙が上がり、中から眼鏡を掛けて、背中に二本の巨大なペンを背負っているリビドンが現れました。


「俺はこいつに、クリエイターリビドンって名前を付けました。今からこいつの能力をお見せします」


 カルロスが一度、両手を、パン、と合わせ、開くと、一冊のマンガが出現します。そのマンガを、クリエイターリビドンと名付けたリビドンに手渡しました。

 すると、クリエイターリビドンはページをパラパラとめくります。まるで、何かを吟味しているようでした。

 やがて、目的の何かを見つけたのか、あるページでめくるのをやめます。次に、クリエイターリビドンは右手に小さなペンを出現させました。そのペンで、ページのある部分を刺します。

 それは、そのマンガの主人公でした。

 すると、ペンで刺された主人公の絵が光り、ページから飛び出したのです。

 飛び出してきた光は、マンガの主人公となりました。それから、クリエイターリビドンは主人公を消します。


「これは……」


 黄泉子は驚きます。カルロスは説明しました。


「こいつは生前同人作家でしてね、ところが自分が描いたマンガが一冊も売れないもんだから、それを苦に自殺しちまったんですよ。自分を認めない世間が悪い! 認めてくれる世界に行く! っつって」


 冥界で憎悪と承認欲求を放っていた魂を見つけたカルロスは、興味本位からそれをリビドンに変えました。そして、マンガのキャラクターを自分の部下として実体化させられるという、その特異な能力に目を付け、カルロスはクリエイターリビドンを自分の部下にしたのです。


「実体化したキャラは、こいつに忠実な部下となり、俺達には一切の危害を加えません。この能力を使って、廻藤輪路より強いキャラを呼び出せば……」


「僕達は一切の被害を受ける事なく、廻藤輪路を殺せるというわけか。なるほど、確かに面白いね」


 カルロスがこのリビドンを連れてきた意図を読み取り、殺徒はほくそ笑みました。


「というわけで、早速廻藤輪路を倒せるキャラがいるマンガを探してきますね」


「ああ。君に任せるよ」


 カルロスはクリエイターリビドンを連れて、現世に行きました。



「さて、現世に来たはいいが、どのマンガのキャラが廻藤輪路を倒せるか、わかんねぇんだよなぁ……」


 二人は、書店のコミックコーナーに、霊体化した状態で潜入します。これで、人間側からは二人の姿が見えず、触れる事も出来ません。

 しかし、どのマンガのキャラを実体化させるか、悩んでいました。正直、カルロスは今のマンガの事情をあまり知りません。さっきのマンガも、書店で売っていたものを、適当に盗んできただけです。


「どうすっかなぁ~。俺ぶっちゃけそっち方面の専門知識ねーんだよなぁ~……ん? どうした?」


 カルロスが悩んでいると、クリエイターリビドンが、カルロスの肩を叩いて、一冊のマンガを指差しました。


「『エクストリームガールズ!!』? これがいいってか?」


 カルロスが訊ねると、クリエイターリビドンは頷きます。


「……じゃあちょっと中身を検査してみるか。お前の知識を疑うわけじゃねぇが、大事な任務だ。使えねー雑魚を呼び出したって意味ねぇからな」


 というわけで、カルロスが一巻を盗み、路地裏で中身を開けて確認します。

 そして、十分後。


「おお! いいじゃねぇか! この主人公の愛奈ってやつ、かなり強ぇぞ!」


 どうやら愛奈ちゃんの強さを、カルロスは気に入ったようです。


「でかした! よし、早速こいつを呼び出して、廻藤輪路を倒させろ!」


 クリエイターリビドンはカルロスからマンガを受け取り、ペンで愛奈ちゃんの絵を刺します。

 しかし、先程のマンガのように主人公が飛び出してきたりはせず、なぜかマンガが光っただけで、何も起きません。


「……何だ? キャラが出てこねぇぞ? まさかお前、自分より強いやつは呼び出せないとか、そんな事はねぇよな?」


 カルロスの問い掛けに、クリエイターリビドンはぶんぶんと首を横に振ります。

 と、クリエイターリビドンがどこかに向かって駆け出しました。辿り着いた先は、ヒーリングタイムです。

 このまま突撃するとまずいので、二人は一旦隠れ、カルロスは空中にボールを投げました。すると、ボールが破裂して、モニターが現れます。モニターには、ヒーリングタイムの中が映されていました。


「あ? あれはあのマンガのキャラ!?」


 カルロスは驚きます。本当ならカルロス達の前に現れるはずの愛奈ちゃん達が、ヒーリングタイムにいて、輪路さん達と普通に話しているのですから。というか、呼び出したキャラは愛奈ちゃんだけなので、愛奈ちゃん以外がいるのもおかしいです。そして、クリエイターリビドンの制御も受け付けませんでした。

 実は、クリエイターリビドンのキャラ召喚は、本当にマンガのキャラクターを召喚しているわけではありません。そのキャラクターの容姿と能力を完璧に再現した、分身を作るだけです。

 分身には自我がなく、それゆえにクリエイターリビドンの命令で操る事が出来ます。

 しかし、輪路さん達と話している愛奈ちゃん達には、明確に自我があります。


「まさか、本当にあのマンガのキャラを呼び出したってのか!?」


 信じ難い話です。とりあえずカルロスは、様子を見る事にしました。





 ◇◇◇◇





「それで、お前らどうやってこの世界に来たんだ?」


 輪路さんは愛奈ちゃん達に、この世界に来た方法を聞いていました。同じ方法を使えば、元の世界に帰れるかもしれないからです。

 実はこの世界には、別の世界に行く為の道具があります。ですがこの道具、非常に強力なので、悪用されるのを避ける為、厳重な封印が施されているのです。

 おまけに、制約もあります。今からならまだ間に合うかもしれませんが、間に合わなかった時の事を考えて、愛奈ちゃん達がどうやってこの世界に来たのか、輪路さんは聞いておきたかったのです。来た時と同じ事をすれば、帰れるかもしれませんから。


「さっき言った通りだよ? あたし達が一度に攻撃して、気付いたらここにいたの」


「たぶん、私達の力が激突したのが原因。他にも理由があるかもしれないけど」


 愛奈ちゃんと友香ちゃんは、自分達が把握しているだけの情報を伝えました。


「強い力が激突すると、異界を隔てる壁が壊れる事があると聞いた事はあるが、そういうケースはほとんど稀だ」


 翔さんはその話を聞いて、間違いなく他にも理由があると断定しました。

 別の次元に行く為の方法は、大抵別の方法ですし、愛奈ちゃん達の力は確かに強いですが、次元の壁を破れるほど強いとは思えません。

 ただ、この会話を聞いているカルロスだけは、理由がわかっていました。


(そうか! ちょうどこいつらの力がぶつかった時に、クリエイターリビドンの力が発動したのか!)


 分身を作るだけとはいえ、二次元、別の次元に干渉する力です。クリエイターリビドンの力が、ちょうど四人の力の激突に作用し、この世界に呼んでしまったに違いありません。『エクストリームガールズ!!』の世界が、マンガとしてでなく、実際の世界として存在していた事にも驚きましたが。


(これで奴らが本物だって事はわかったが、余計まずいぜ……)


 カルロスは危惧しています。何せ、こちらからの制御を受け付けないのです。もっと簡単に終わるはずの仕事が、かなり厄介な事になりました。何か手を考えなければなりません。


(何かあるはずだ。あいつらを利用して廻藤輪路を殺せる、すごくいい方法が……)


 カルロスは、手元のマンガを見ました。


(……あのガキどもについての情報は、こっちにある。じっくり調べ上げてから、また出直すか……)


 幸いにも、愛奈ちゃん達についての情報は、マンガを読めばわかります。

 愛奈ちゃん達をどうすれば輪路さんにぶつけられるか、新しい作戦を考える為、カルロス達は一度退散しました。


「翔。例の方位磁石の許可は……」


「もうしてある。次元の綻びが消えるまでに間に合うかは、正直わからんが……」


 時空方位磁針。異界に潜む魔物を討つ為に作られた、翔さん達討魔士の道具。さすが翔さん、もう使用許可の申請をしています。

 ただ、この道具は、次元に存在する綻びを見つけて、それをこじ開けて時空間を移動するというメカニズムです。

 そして次元の綻びは、時間が経つと消えてしまいます。それまでが、愛奈ちゃん達が元の世界に戻れる、タイムリミットです。


「まぁダメだったら、お前らが来た時と同じ方法を試してみようぜ。お前らの力に、俺と翔の力も加えたら、たぶんいけるだろ」


「輪路さんたら……」


 脳筋作戦です。美由紀さん、呆れてます。


「でも、もしもの時の備えをしておくのは、いい事ですよ」


「ああ。何せ、前例のない事だ」


 輪路さんの考え方に、ソルフィさんと翔さんは賛成しました。

 この世界がテレビ放送されている世界から来たなど、前代未聞です。どうやって来たのかもはっきりしておらず、情報が少なすぎる今、一つでも切れるカードを用意しておく事が、最善手と言えるでしょう。


「ねぇねぇ! せっかくレイジンの世界に来たんだからさ! いろんなもの見て回りたいよ!」


 今自分達がどういう状況に置かれているのか、わかっているのかいないのか、愛奈ちゃんは無邪気に言いました。


「お前なぁ……帰れなくなるかもしれねぇっていう瀬戸際に、のんびり観光なんかしてる場合か?」


 輪路さん、呆れ果ててます。


「だって、こんなの滅多に出来ない事だもん。それにあたし、先生がこっちにいるなら、別に帰れなくてもいいしね」


「ええっ!? それはさすがに困ります!!」


「やだなぁ、冗談だよ先生」


 愛奈ちゃんの言葉に激しく動揺した浩美先生でしたが、冗談だとわかって胸をなで下ろしました。いや、冗談にしては質が悪すぎますが。


「なんか相手してると疲れるやつだな……」


「やっぱり、輪路さんもそう思います?」


「ああ……お前いつもあれの相手してんの?」


「……はい……」


「……大変だな」


 輪路さん達の場合は今だけですが、勇子ちゃんは帰ってからも愛奈ちゃんの相手をしなければなりません。輪路さんは勇子ちゃんの境遇に同情しました。


「それで、私達はこれからどうすればいい?」


 勝希ちゃんは輪路さん達に訊きました。今のところ、勝希ちゃん達は協会の準備待ちですが、何もやる事がありません。下手に行動を起こすわけにもいかず、手持ち無沙汰です。


「俺は一度協会に戻って、様子を見てくる。廻藤、お前はその子達の相手をしてやれ」


「あ? おい!」


 翔さんは時空方位磁針の受け取りも兼ねて、協会に戻ってしまいました。


「仕方ないですし、愛奈ちゃんが言っていたように、観光、させてあげませんか? 私も行きますから」


「……ま、他にやる事もねぇし、そうするか」


 というわけで、美由紀さんの提案で、愛奈ちゃん達は観光をする事になりました。


「やったぁ!! かんこーかんこー!!」


 愛奈ちゃん、大喜びです。


「ちゃっと愛奈! 恥ずかしいからあんまり騒がないでよ……」


 勇子ちゃんは恥ずかしそうですが、


「いいじゃん。いさちんだって、憧れの輪路さんと一緒にあちこち歩き回れるんだよ?」


 愛奈ちゃんに言われて、顔を赤くしました。本当は、勇子ちゃんだって飛び上がりたいくらい嬉しいのです。


「観光っつっても、恐らくお前らの世界と俺らの世界は、そこまであるものが変わらねぇだろうから、そこんところは覚悟しとけよ?」


 輪路さんの言うあるものとは、一般人の生活必需品という意味です。まぁ、あっちもこっちも異能者がいるんで、似たり寄ったりなんですけどね。


「はーい!」


 愛奈ちゃんは快く、手を上げながら返事しました。


「店長。そういうわけなんで、私ちょっと行ってきますね」


「はいはい。気を付けて行ってきなさいね」


「お店は私がいるから、大丈夫ですよ」


「ありがとうございます」


 佐久間さんとソルフィさんに言ってから、美由紀さんは奥に引っ込み、私服に着替えて出てきます。


「んじゃ、行くか」


「わーい!」


「やれやれ……」


 外出する輪路さんと、大喜びの愛奈ちゃん。そんな愛奈ちゃんにうんざりしながらもついて行く勝希ちゃん達。無言でついて行く友香ちゃん。興奮しすぎて逆に何も言えない勇子ちゃん。


「すいません。私の生徒が御迷惑お掛けして」


「いえ。こんな事、私も滅多に出来ない体験ですし」


 最後に浩美先生と美由紀さんが出て行きました。


「あの子達も大変ねぇ」


「そうですねぇ」


 佐久間さんとソルフィさんは、互いに顔を見合わせました。




 ◇◇◇◇




「ん~」


 カルロスは、『エクストリームガールズ!!』を熟読しています。愛奈ちゃん達を操る為に、何か付け入る隙がないかどうか、探しているのです。ちなみに、さっき行った書店からコミック全巻盗んできてます。


「おっ!?」


 と、カルロスは、ある巻を見て、声を上げました。


「おおおおおおおおおおおおお!?」


 そこに書いてある内容を、さらに深く読み込んでいきます。


「ケケケケケケケケ! こいつは使えるぜ!」


 不気味に笑ってから、カルロスはコミックを閉じました。


「行くぜクリエイターリビドン!! あいつらを操る方法が見つかった!!」


 そして、クリエイターリビドンに、出撃を告げます。作戦の練り上げは終わりました。次は、実行に移す時です。


「俺に協力してもらうぜ。前道勝希!!」


 ターゲットは、勝希ちゃんでした。

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