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エクストリームガールズ!!  作者: 井村六郎
夏期激闘編
17/40

第十七話 愛奈と勝希と浩美先生

 前回の騒動から三日後、勝希ちゃんが転校してきました。ですが、愛奈ちゃんはあまり嬉しくなさそうで、露骨に勝希ちゃんを警戒しています。


「そう警戒するな。もうあんな真似はせん」


「ほんと~? なんかすっごい怪しいんだけどな~?」


「安心しろ。少なくとも今は、貴様に挑んでも勝てんとわかっているからな」


 結局のところ、勝希ちゃんは愛奈ちゃんに勝つ事を諦めていません。いつかまた、勝負を挑んでくるでしょう。

 しかし、それは今ではありません。


「……じゃあ信じてあげる。済んだ事は、さっさと水に流さないとね。あたしも、ちょっとおいしい経験が出来たし」


「……本当になぜ私はこんな相手に負けたのだろうか」


(そう思ってるのはあんただけじゃないわよ)


 勝希ちゃんの呟きに、勇子ちゃんは心の中で同意しました。


「勝希。もうすぐ一学期が終わるけど、勉強は大丈夫?」


 全く警戒心を持たずに話し掛ける友香ちゃん。彼女はとっくの昔に、勝希ちゃんを許しているようです。まぁ、浩美先生にはさらっただけで一切危害を加えていませんし、トーナメントの結果がどうなろうと返すつもりでいましたしね。


「当然だ。この私が、気孔術しか能のない馬鹿に見えるか?」


「見えない。でも今日いきなりテストがあるから、大丈夫かなって」


 今日は国語と算数と理科のテストがあります。勝希ちゃんはずっと修行をしていたそうなので、勉強が疎かになっていないか、友香ちゃんは心配なのです。


「友香って、時々そういう優しいところ見せるよね」


 愛奈ちゃんは言いました。


「私は元々冷たい性格じゃない」


「じゃあ怒りっぽい性格? 念力しか使えない脳筋エスパーだからごるほぁっ!!」


 愛奈ちゃんは空中で一回転させられた後、後ろの壁に頭から突き刺さりました。


「そうでもない。あなたがわざと怒らせてるだけ」


「その手の事で友香をいじるのは禁句だってわかってるくせに、学習能力があるんだかないんだか、わかんないやつね」


「……本当になぜ私は負けたのだろうか……」


 怒りで両目の端を吊り上げる友香ちゃんを見て、勇子ちゃんと勝希ちゃんは呆れていました。まぁ、全部愛奈ちゃんの自業自得ですね。





 ◇◇◇◇





 時間は飛んで、帰りの会の時間。

 前回愛奈ちゃん達がやったテストは、中間テストにあたるテスト。今回のテストは、小テストにあたるテスト。だから、放課後には答案用紙が返ってきます。


「うわ!! 何これ!?」


 勝希ちゃんの答案用紙が返ってくるなり、横からひったくった愛奈ちゃんは、点数を見て驚きました。


「三教科とも、全部百点満点!!」


 勝希ちゃんの答案用紙は、満点花丸だったのです。


「修行といっても、気孔術に限った話ではない。私はあらゆる分野で貴様に勝つ為に、修行したのだ。勉学でもな」


 一体いつ寝てるんですかね。


「うう……」


 愛奈ちゃんは自分の答案用紙に目を落としました。浩美先生が担当である国語こそ百点満点ですが、算数は八十点、理科は八十四点です。


「どうやらこちらでは、私の勝ちらしい」


 勝希ちゃんはニヤリと笑いました。


「前道さん、満点おめでとうございます。みんなも頑張って下さいね」


 三教科百点は勝希ちゃんだけだったので、浩美先生は褒めました。


「勝希だ」


「……え?」


「私の事は、勝希と呼べ」


 と、突然勝希ちゃんが、浩美先生に呼び方を訂正するよう求めました。それから勝希ちゃんは、視線を愛奈ちゃんに向けます。


(……ああ……)


 その一連の行動で、浩美先生は勝希ちゃんの目的を理解しました。

 要するに、対抗意識です。このクラスで、浩美先生が名前で呼んでいる相手は、愛奈ちゃんだけでした。

 別に勝希ちゃんは、浩美先生の事が好きとかそういうわけではありません。というか、どうでもいいとさえ思っています。

 しかし、愛奈ちゃんだけ特別扱いされているのだけは、許せませんでした。浩美先生は愛奈ちゃんにお願いされたから名前呼びをしているだけで、他の生徒は何とも思っていません。

 ですが、愛奈ちゃんに対抗意識を燃やしている勝希ちゃんとしては、大問題でした。だから浩美先生に名前で呼ばせる事で、同じ土俵に上がろうとしているのです。


(怖そうな子だと思ってたけど、結構可愛いところもあるんだなぁ……)


 そんな意地っ張りな勝希ちゃんを、浩美先生は可愛いと思いました。大人びてはいますが、まだ子供なので、所々にそれらしさが見え隠れしています。


「わかりました。じゃあ、勝希さんって呼びますね」


「ん。それでいい」


 浩美先生から名前で呼ばれて満足した勝希ちゃんは、愛奈ちゃんを見て、ふん、と鼻を鳴らしました。


「む~!」


 さすがに愛奈ちゃんも、勝希ちゃんの意図がわかったようで、ほっぺを膨らましています。

 やきもちを妬いている愛奈ちゃんを見て、浩美先生は苦笑していました。


「勝希って、結構子供っぽかったのね」


「あの子も何だかんだで、まだ小学六年生」


 勇子ちゃんと友香ちゃんは、ひそひそ話をしていました。





 ◇◇◇◇





「はっはっはっはっは!! そうかそうか!! そりゃまた一本取られたのう!!」


 帰宅してから、愛奈ちゃんは勝希ちゃんの事を家族に話し、それを聞いた亮二さんは大笑いしていました。


「笑い事じゃないよおじいちゃん!! 浩美先生は、あたしの好きな人なのに……」


「こらこら。浩美先生はあんた一人だけの所有物じゃないでしょ? クラスみんなの先生なんだから」


「浩美先生も、愛奈一人に構うわけにはいかないさ」


 浩美先生を独り占めしようとする愛奈ちゃんを、梨花さんと慎太郎さんが諌めます。


「う~……でも……」


 二人が言いたい事はわかります。ですが、勝希ちゃんに浩美先生を取られたくないという気持ちが強いのです。あの子にそんな気はないんですけどね。


「……まったく、仕方ないやつじゃのうお前は。だったらもっともっと努力して、いいところを見せればいいじゃろうが」


「いいところって?」


「そ、それは……」


 亮二さんは言葉に詰まりました。

 そこで、慎太郎さんは思い付きます。


「そういえば、今日イリーガルトーナメントの賞金が届いたぞ。あれで何か買ってあげたらどうだ?」


「ダメダメ。あれは浩美先生との結婚式に使うんだから」


 愛奈ちゃんに却下されました。いや、いくらギャグ小説とはいえ、同性婚は許可してないんですが……。


「そういえばお前、もうすぐ社会科見学あるだろ? それはどうだ?」


「……そうか! 社会科見学なら、浩美先生にいっぱいいいところ見せられるじゃん! なーんだ! 心配して損しちゃった!」


 次の慎太郎さんの提案で、解決しました。


「この子は本当に……」


「まぁ、このポジティブさが一番いいところなんだけどね……」


 梨花さんは呆れ、慎太郎さんは苦笑しました。そのポジティブさが別のところに向いてくれれば、もっといいんですけどね。仕方ないです。愛奈ちゃんはまだ子供ですから。

 高崎一家は、愛奈ちゃんのその気持ちを、子供の考える事だと思う事にしました。





 ◇◇◇◇





 いきなりですが、愛奈ちゃん達は六年生は科学工場に来ていました。理由は、今日が社会科見学の日だからです。

 ここは、ニッポンケミカルという株式会社のる科学工場で、なんと平和商事とも契約を結んでいます。


「じゃあ皆さん。はぐれないように、しっかりついてきて下さいね」


『は―い!』


 引率者はお馴染み浩美先生。生徒達は返事をし、浩美先生についていきます。


(頑張るぞ!)


 意気込む愛奈ちゃん。彼女は本当に、いつでも浩美先生に夢中です。


「あれ? 薬品が足りない……」


「ん?」


 その途中、愛奈ちゃん達は保管庫の前を通りすがり、最後尾にいた勝希ちゃんが、中で点検している二人の研究員の話を聞いて、立ち止まりました。


「足りないって? またか?」


「ああ。この前はBの棚だったんだが、今日はDの棚の試験管が二本足りない」


「おいおい……その前も確か薬が足りなかっただろ? もう三週間毎日連続だぞ。どういう事だよ?」


「困るよなぁ……一体誰が使ってるんだか。使ったらちゃんと報告してくれないと」


 二人の会話は、最近この工場から、部品や薬品が消えるという現象が起きているというものでした。


「……」


「勝希? どうしたの?」


 そこへ、追い付いてこない勝希ちゃんを不思議に思った友香ちゃんが、呼びに来ました。


「……いや、何でもない」


 何にしても、自分にはどうしようもない事だし、そもそも関係ない。管理がずさんなこの工場の責任者の問題だと、勝希ちゃんは割り切る事にします。

 勝希は愛奈ちゃん達を追い掛けました。





 ◇◇◇◇





「この工場では、いろんな薬を作っています。風邪薬や蛍光塗料、殺虫剤や防腐剤、他にもたくさん作ってるんです」


 追い付いてみると、今回社会科見学の指導を担当する研究員が、この工場で作っているものについて説明をしていました。


「この工場で作っている中で一番すごい薬って何ですか?」


「そうですね……例えば……」


 浩美先生から質問されて、研究員は後ろのテーブルに用意してあった瓶の一つを手に取ります。


「これが、我が社の自信作です」


「……ゲッ……」


 その商品を見て、愛奈ちゃんは苦い顔をしました。口にこそ出していませんが、勇子ちゃんも嫌悪感を露にしています。


「『元気億倍!! パワードEX』。我が社が開発した中で一番強力なドリンク剤で、これを飲めばどんなに疲れていても、あっという間に元通り。元気一杯になります」


「そ、それはすごいですね……」


(はい。知ってます)


 浩美先生は説明を聞いて、青い顔をしていました。説明されるまでもなく、浩美先生、愛奈ちゃん、勇子ちゃん、友香ちゃんの四人は、あの薬の力を知っています。


「どうした? 顔が青いぞ」


「……前にちょっとね……」


 訊いてきた勝希ちゃんに、愛奈ちゃんは苦い顔をしたまま返します。前に一度、大変な目に遭いました。


「はいは―い! 僕それ飲んでみたいで―す!」


「ふふふ。もうちょっと大人になってからね」


 試飲したいと挙手した男子生徒に、研究員は優しく拒否しました。いや、マジでやめた方がいいです。


「他にもいろいろご紹介したいですが、あんまりたくさん話すと時間がなくなっちゃうので、この辺で終わりです。では、これから薬を作っている場所にご案内するので、ついてきて下さい」


 そう言って、研究員は浩美先生と生徒達を、製薬場に案内しました。


「……」


 と、今度は友香ちゃんが立ち止まりました。


「どうしたの友香?」


 勇子ちゃんが尋ねると、友香ちゃんは答えます。


「……江口ギャング団がいない」


「「……は?」」


 これには愛奈ちゃんも反応しました。それから、勇子ちゃんは頭を抱えます。


「うかつだった! こんな悪事を働くのにもってこいの場所で、あいつらが大人しくしてるわけないじゃない!」


 江口ギャング団が珍しく静かにしていると思って違和感を感じていましたが、静かにしているのではなく、ここにいなかったのでした。


「江口ギャング団というのはあの三人の事か? そこまで厄介な連中には思えなかったが」


「めちゃくちゃ厄介よ! 早く見つけてとっちめてやらないと、絶対ろくな事にならないわ!」


 勝希ちゃんは、簡単に自分の口車に乗った為、江口ギャング団を大した脅威とは認定していませんでしたが、勇子ちゃんにとっては大違いです。


「あいつらの事だから、たぶん関係者以外立入禁止とか、そういうところに入り込んでると思うよ」


 とはいえ、早速愛奈ちゃんに行動パターンを把握されていました。こういう時一番最初に思い付く悪い事って、だいたいは、入ってはいけないと言われている場所に入る事、ですからね。


「まだそこまで遠くには行ってないはずだから、探しましょう!」


 勇子ちゃんの提案に、全員が同意しました。ここは科学工場です。もし研究中の薬を下手にいじくって、工場が爆発、なんて事になったら大変ですからね。





 ◇◇◇◇




 一方その頃、江口ギャング団は、


「うっひっひっひ! うまくいったぜ!」


「誰も俺達がいなくなった事に気付きませんでしたね!」


「作戦大成功ッス!」


 絶賛悪巧み中でした。彼らは先程、研究員が開発した薬品について説明している最中に、こっそり抜け出したのです。


「で、これから何をするんスか?」


「当然、立入禁止の部屋に入るぜ」


 完全に愛奈ちゃんの予測通りの行動です。まぁ人間って、入るなとかやるなとか、何かを禁止されると、つい真逆の事をやりたくなっちゃいますからね。それが子供ならなおさらです。


「あ、リーダー、あそこなんかいいんじゃないですか?」


 と、早速甚吉くんが、許可がない人以外立入禁止と書かれている部屋を見付けました。


「ん~ん、いいな。絶対に入って欲しくないって匂いがプンプンするぜ!」


 匂いでわかるものなんですかね。

 まぁ匂い云々は抜きにしても、この部屋の禁止書きは異常でした。

 許可がない人以外立入禁止。これはつまり、この工場で働いている関係者でも、許可がない限り入ってはいけないという事です。とても重要な部屋だという事が見て取れました。


「こりゃあすごいものが入ってるに違いないぜ!」


「俺達はそれを……」


「めちゃくちゃにしちゃうんスね!」


 結成以来最大の悪事に手を染めようとする江口ギャング団。


「じゃあ今から開けるッス」


 そう言った半助くんは、何かの装置を取り出して、ドアの鍵穴に取り付けました。半助くんが作った、全自動ピッキング装置です。取り付けるだけで、あらゆるドアの鍵穴に合わせて、ピッキングを行ってくれるのです。


「開いたッス」


 一分ほどで、鍵は開きました。


「ふふふ……それじゃあ、ご開帳!」


 子供って、どこで知ったのかわからない言葉をよく使いますよね。江口くんがドアを開けます。



 開けた瞬間に、江口ギャング団は絶句しました。



 その部屋の中は、両側にびっしりと大量の試験管が保管してあって、奥で白髪の老人が実験をしていたのです。



「くっくっく! これにこの薬を混ぜれば、いよいよ肉体強化薬の完成だ! 工場長め……この私をクビにした事を後悔させてやる! ここを辞めさせられて、はや一年。作業員に変装し、こっそりこの部屋を私以外に入れないように改造して、こいつを作り続け、ようやく復讐が叶う。これほど嬉しい事があるだろうか!」


 勝手に独り言で自分の計画を話ながら、実験を続けている老人の姿は、絶句するよりほかありません。


「よし、完成だ! むっ!? 何だ貴様らッ!?」


 薬を完成させた老人が、江口ギャング団の存在に気付きます。江口ギャング団は老人の熱中ぶりに呆れていて、逃げるのが遅れてしまいました。


「許可がない限り立入禁止と書いてあったはずだぞッ! いや、そもそも鍵が掛けてあったはずだ! どうやって入った!?」


「や、ヤバいですよリーダー!!」


「明らかにマッドなサイエンティストに見つかっちゃったッスよ!?」


「落ち着けお前ら!! こういう時はな、右手にカタカナの『バ』を書いて、左手にカタカナの『カ』を書けば落ち着くんだよ!!」


 二人を落ち着かせようとする江口くん。いや、そんなおまじない聞いた事ありませんけど。

 そしてそれを律儀に実行する二人。案の定、全く落ち着きませんでした。


「あっ! いた!」


 そこへ、江口ギャング団を発見した愛奈ちゃん達が、追い付いてきました。


「あんた達ここで何をしてるのよ!?」


「いいところに来てくれたッス!」


「あいつを何とかしてくれ!」


「あっ! お前ら!」


 勇子ちゃんが問い質すと、半助くんと甚吉くんは早速愛奈ちゃん達に助けを求めました。


「また何か増えおったな……仕方あるまい! 今から工場長に復讐してやる!」


 言うが早いか、老人は薬を飲み干しました。

 その直後、老人の身体に異変が生じます。白髪が黒髪になり、肌のシワが消え、どんどん若返っているのです。

 まだ変化は終わりません。若者の艶と張りを取り戻した肌が、深い緑色に変色し、さらに全身の筋肉が大きく肥大化しました。


「はははは!! 実験は大成功だ!! 私をクビにした工場長に復讐してやるぞ!!」


「な、何だかよくわかんないけど、あたしが何をどうしたらいいかはよ―くわかった!」


 愛奈ちゃんは自分がやるべき事を察します。とにかく、この怪人を倒す事です。


「行くわよ!」


「待て高崎」


 意気揚々と突撃しようとした愛奈ちゃんを、勝希ちゃんが制しました。


「何で止めるの!?」


「馬鹿が。周りをよく見ろ」


「えっ?」


 言われて、周囲を見てみる愛奈ちゃん。

 もう気付いているでしょうが、保管してあった薬品がなくなっていたのは、あの怪人が少しずつ盗んでいたからです。

 そして、この部屋には盗まれた薬品がまだ残っています。そうでなくても、ここは科学工場。このまま愛奈ちゃんが暴れたら、衝撃でいろんな薬がいろんな薬に混ざって工場が建物ごとドカーン!! なんていうのは充分にあり得る話なのです。


「場所を移した方がいい」


「それなら私がやる」


 勝希ちゃんから提案されて、友香ちゃんが動きました。


「うおっ!?」


 念力で怪人を拘束し、こちらに引っ張ります。本当は壁ごと吹き飛ばせば早いのですが、この工場のどこにどんな薬品があって、どう化学反応を起こすかわからないので、やはり危険です。

 というわけで面倒ですが、このまま外まで引っ張っていきます。


「……はぁっ!!」


 しかし、友香ちゃんがこちらまで怪人を引き寄せた瞬間に、愛奈ちゃんが怪人を蹴り飛ばし、部屋の奥の壁に叩きつけました。


「ちょっと愛奈!? あんた何やってんの!? ここで戦ったら危ないって言われたでしょ!?」


「うるさい!!」


 愛奈ちゃんは勇子ちゃんの制止を振り切り、怪人に殴り掛かります。胸板に拳を叩き込まれた怪人は、壁を突き破って吹き飛んでいきました。愛奈ちゃんはそれを追い掛けます。


「何をやっているんだあいつは!?」


「ちょっと愛奈!!」


 愛奈ちゃんの行動の意図が理解出来ず、勝希ちゃん、勇子ちゃん、友香ちゃんの三人は、愛奈ちゃんを追い掛けていきました。


「リーダー!!」


「どうするッスか!?」


「……ああ~クソッ!! 俺達も追い掛けるぞ!!」


 完全においてけぼりを食らっていた江口ギャング団も、愛奈ちゃんを追い掛けます。





 ◇◇◇◇




「それではここで、お昼御飯の時間にします。皆さん、研究員の皆さんのお邪魔にならないように、気を付けて食べて下さい」


『は~い!』


 一方、社会科見学はさらに進み、昼食のお弁当タイムが始まっていました。

 こがねちゃんは、どこで食べようか迷っています。


「やあ、こがねちゃん」


「あっ、お父さん!」


 すると、日長さんに出会いました。


「どうしたんだいこんな所で?」


「もうお父さんったら、今日私、社会科見学でここに来るって言ってたじゃない」


「えっ……ああ、そういえばそうだったね。ごめんごめん」


「もう……お父さんこそ、今日どうしたの?」


「契約先の査察に行くよう社長に言われてね、たまたま僕が査察役に選ばれたってわけさ」


 今日急遽決まった事なので、こがねちゃんは知りません。


「そうなんだ?」


「ああ。これは社外秘だから、本当は教えちゃいけないんだけど……」


 日長さんは声を潜めて、こがねちゃんに耳打ちしました。


「何でも最近、この工場の薬の消費が異常に早いらしい。盗まれてるかもしれないから、僕に調査して欲しいって頼まれたんだ」


 日長さんは、自分がサンストーンファザーだと知られない程度に、アンブレイカブルファミリーとしての活動を会社でも日頃からしています。

 前にちょっとした事件を解決した事があったので、社長から信頼されているのです。


「そっかぁ、大変だね。何かあったら、私にも教えてよ? すぐ協力するからね!」


「嬉しい申し出だけど、僕は今日仕事で来てるんだ。自分に任された仕事は、自分の手でやり遂げる。それが、デキる男の秘訣さ」


 日長さんはウインクすると、査察に戻りました。


「かっこいい! 私も将来、お父さんみたいなデキる女になりたいなぁ!」


 こがねちゃんの憧れの人は、日長さんです。娘に人生の目標にしてもらえるとか、お父さん冥利に尽きますね。


「……あれ?」


 一方浩美先生は、愛奈ちゃん達の姿が見えない事に気付きました。


「愛奈さん?」


 愛奈ちゃんを探す浩美先生。


「ぐああああああああああああ!!」


 その時、目の前の壁を突き破って、怪人が飛び出してきました。正確には、愛奈ちゃんに殴り飛ばされてきたんですが。


「きゃああああああああああああ!!」


 予期せぬ事態が突然起きて、浩美先生は悲鳴を上げます。

 その悲鳴で浩美先生の存在に気付いた怪人は、浩美先生に飛び掛かり、後ろに回り込んで首を締め上げました。


「浩美先生!!」


「動くな!! 一歩でも近付いたらこの女を締め殺すぞ!!」


 追い掛けてきた愛奈ちゃん達に、怪人は浩美先生の姿を見せつけます。


「無駄」


 しかし、愛奈ちゃん達には友香ちゃんがいます。すぐに先程と同じように、念力で動きを封じました。


「浩美先生から離れろ!!」


「ぐあ!!」


 次に、愛奈ちゃんが怪人の顔面を殴り飛ばし、浩美先生から引き離します。


「くそ~!! こうなったら滅茶苦茶に暴れて、この工場を吹き飛ばしてやる!!」


「おっと、そこまでだよ」


「うっ!?」


 怪人はヤケになって暴れようとしましたが、突然飛んできた小さな注射器が首に刺さり、気絶してしまいました。


「ゾウ用の超強力麻酔銃だ。ただの人間には見えないけど、それでも簡単には目を覚まさないだろうね」


「日長さん!?」


 浩美先生は日長さんが来ていた事に驚きます。


「この工場から薬が消えていた事件、その理由が今ようやくわかったよ」


 日長さんは、意識を失っている怪人に向けて言いました。





 ◇◇◇◇





 その後、日長さんが至急肉体強化薬の解毒剤を作り、それを投与された怪人は元の老人に戻って、駆け付けた警察に逮捕されました。

 何でもあの老人は、新しい薬の開発を申請し、それがあまりに危険な薬だった為却下されたのですが、諦めず無理矢理、極秘に作っていたそうです。そこを偶然発見され、解雇されてしまい、その復讐をしようとしていたのですが、自業自得ですね。


「あんた、どういうつもり?」


 それはさておき、愛奈ちゃんは勇子ちゃん達から責められていました。

 理由は、勝希ちゃんの作戦を聞かなかった事です。独断専行した結果、余計な被害を出した挙げ句、浩美先生まで危険にさらしたのです。


「……こんな事になるなんて思わなかった。あたしはただ、浩美先生にいいところを見せたくて……本当にごめんなさい、浩美先生。勝希ちゃんも……」


 これにはさすがの愛奈ちゃんも猛省し、二人に謝りました。


「あたしが頑張らないと、勝希ちゃんに浩美先生を取られると思ったの。勝希ちゃんはあたしより、ずっと頭がいいし、強いだけのあたしなんて、嫌われちゃうかもしれないって……」


「……馬鹿か貴様は。私にそんな気などないと知っているだろうに」


「はははは。わかるよ、愛奈ちゃん」


 勝希は呆れていましたが、日長さんだけは、笑って愛奈ちゃんに言いました。


「僕だって君ぐらいの歳の頃は、独占欲の塊だった」


「えっ!? そうだったの!?」


 今の人柄からは考えられない姿に、こがねちゃんは驚いています。


「そうだよ。家族からの評価が欲しい、友達に褒めて欲しい、先生にもっと自分を見て欲しい、自分だけを見て欲しいって、そんな事ばかり考えていた。でも子供っていうのは、それが普通なんだ」


 愛奈ちゃんのような歳頃の子供は、まだ自分の欲望を上手くコントロール出来ません。だから、欲望を優先して失敗してしまう事も、しばしばです。


「焦らずに、これから勉強していけばいい。まだまだ若いんだから、失敗するのは当たり前だよ。じゃあ僕は事後処理があるから、これでね」


 愛奈ちゃんを慰めた日長さんは、去っていきました。


「愛奈さん。私はみんなの先生なので、愛奈さんの事ばかり優先する事は出来ません」


 浩美先生は愛奈ちゃんに、お母さんに言われたのと同じ事を言います。


「でも、私の事を好きって思って下さる気持ちは、ちゃんと伝わってますよ。だから私は、愛奈さんの事を嫌いにだけは、絶対になりません」


 ですが、最後の言葉で、愛奈ちゃんは目が覚めました。浩美先生は、イリーガルトーナメントの一件で、愛奈ちゃんが自分の事をどれだけ好きか、よく知っています。自分の為に、どれだけ必死になって戦ってくれたのかも、

 浩美先生は、生徒からもらった気持ちを踏みにじる事を、絶対にしないのです。


「浩美先生……ありがとう」


 愛奈ちゃんの中のモヤモヤが、ようやく消えました。


「……なんか、俺ら空気だな」


「そんな事ない。愛奈の気持ちの整理がついたのは、あなた達がきっかけを作ってくれたおかげ。悪いやつの企みも、手遅れになる前に防げた。偉い偉い」


「……うーん……」


「褒められてる気がしないッス」


 友香ちゃんは江口ギャング団の頭を、ポンポンと一人ずつ叩いていました。


「じゃあこれからも、遠慮なく浩美先生にセクハラ出来るね!!」


「えっ!? それはちょっと……」


「いい加減にしろ!!」


「べんばっ!!」


 愛奈ちゃんは勇子ちゃんにハリセンで頭を叩かれました。

次回は、私の事を知っている人が、ちょっと喜ぶかもしれません。

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