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エクストリームガールズ!!  作者: 井村六郎
春期始動編
16/40

第十六話 愛と憎悪の果て!! イリーガルトーナメント、閉幕

前回までのあらすじ


圧倒的すぎる勝希の前に、遂にリングに沈んだ愛奈。

しかし、浩美先生から声援を受けた事で、さらなる力を得て復活する。

愛奈の反撃が、幕を開けた。

「貴様……一体どこまで私を馬鹿にするつもりだ!!」


 いつまでもしつこく抵抗する愛奈ちゃんに、勝希は大激怒です。

 全身から暗黒闘気を放出する勝希。その勢いも量も、今までの比ではありません。遂に勝希が、全力になったのです。


「がぁっ!!」


 暗黒闘気弾を飛ばす勝希。それに合わせて、愛奈ちゃんも闘気弾を飛ばします。

 今までは全く抗えなかった勝希の暗黒闘気。しかし、今度は愛奈ちゃんの闘気が、一方的に暗黒闘気を消し去り、勝希に直撃しました。


「うぐぁっ!!」


 全力を出したというのに、通用しない。勝希はこれだけの力を隠し持っていた愛奈ちゃんに、驚いています。


「貴様ァァァァァ!!!」


 今度は殴り掛かります。一発だけでなく、何度も、何度も。

 愛奈ちゃんはそれらをかわしますが、一発だけ勝希の拳が愛奈ちゃんの顔面を捉えました。


「もう効かないよ。あんたの攻撃は」


 しかし、ほんの少し口の端から血を流させるのが限界で、愛奈ちゃんに殴り飛ばされます。


「ちぃっ!」


 殴られた勢いを利用して、一度空中に逃げる勝希。屈辱的でしたが、愛奈ちゃんの攻撃をそう何発も喰らえません。仕方ない逃走です。


「このトーナメントはさ、あんたが仕掛けてきたんでしょ?」


 愛奈ちゃんは空を飛べないだから、空中は絶対の安全圏。そう思っていました。


「何逃げてんの?」


 なのに愛奈ちゃんは、気付けば勝希の目の前にいたのです。


「!?」


 勝希は最初、愛奈ちゃんがここまでジャンプしてきたものだと思っていました。なので、さらに上まで飛びます。これなら、愛奈ちゃんは空中で身動きが取れません。後は、暗黒闘気で狙い撃ちすればいいです。


「逃げんなって言ってんだけど」


 また愛奈ちゃんが目の前に来ました。間違いありません。愛奈ちゃんは、飛んでいます。


「馬鹿な!?」


「それはあんたでしょ!!」


 愛奈ちゃんは両手を組み、拳を勝希の脳天目掛けて打ち下ろしました。


「がぁっ!!」


 地面に叩きつけられる勝希。愛奈ちゃんは急降下し、着地して勝希を蹴り飛ばしました。

 勝希が空を飛んでいたのは、暗黒闘気を身体に留めたまま、ジェット噴射の要領で操作するという、単純なものです。しかし、それが出来るようになるにはかなり時間がかかりました。それを愛奈ちゃんは、この短期間で会得したのです。


(どうなっている!? あの女の声援が聞こえてから別人のように……!!)


 立ち上がりながら、勝希はなぜ愛奈ちゃんがいきなり強くなったのか考えます。

 浩美先生の応援によって、愛奈ちゃんは折れ掛けていた心を立て直し、さらに力を増した。勝希から見れば、あり得ない事です。たったそれだけの事で、愛奈ちゃんはあれほど歴然と離れていた力の差を覆したのですから。


「なぜだ!? あの女の為か!? なぜそこまで戦える!?」


「決まってるでしょ? 浩美先生の事が好きだからだよ」


「す、好きだと!?」


 勝希は目を見開きました。好きだという気持ち。愛。そんなものの為に、三年も掛けて手に入れた憎悪の力が、無駄にされそうになっている。認めたくないし、許せない事です。


「貴様……私を馬鹿にしているのか!?」


「馬鹿になんかしてない。あんたがあたしを憎んでるのと同じように、あたしは浩美先生の事を、大真面目で好きなの」


 そう告げる愛奈ちゃんの目は、まっすぐで澄んでいて、嘘偽りのない、本気の目でした。


「……なぜそこまで、あの女の事を愛せる?」


 勝希は、愛奈ちゃんが本気なのはわかりました。ですが、そこまで好きになった理由がわかりません。


「あたしね、前に母さんに訊いた事があるの」


 愛奈ちゃんは、去年の十二月に、梨花さんから聞いた事を話しました。





 ◇◇◇





『今日は待ちに待ったクリスマスイブ!! どこもかしこも、カップルでいっぱいです!!』


 愛奈ちゃんはテレビで、ニュースを見ていました。

 ニュースは今、クリスマス特集をやっており、インタビュアーが雪降る中、行き交うカップル達にインタビューして回っています。


「カップルか……」


 愛奈ちゃんはテレビを見て呟きます。それから、ふと、ある事を思いました。一緒にテレビを見ていた梨花さんに、それを訊きます。


「ねぇお母さん」


「ん~?」


「お母さんってさ、どうしてお父さんと結婚したの?」


「……なに急に?」


「いや、結婚するならさ、かっこいい人とか、お金持ちの人とか、そういう人と結婚したいって、思ったりしない? お父さんってそんな感じしないんだもん。何で結婚したの?」


「あ、あんた……意外と黒いわね……」


 子供って、まだ言っていい事と悪い事の区別がわかりきっていませんからね、こんな事を訊いてきたとしても仕方ないです。


「ね、何で?」


「……そりゃ私だって、玉の輿になりたいとか、イケメンがいいなとか、そう思った事の一度や二度はあるよ。っていうか、あの頃はそれが目的で男探してたし」


 梨花さんもズバズバ言いますね。


「お父さんに会ったのは、ちょうど合コンに行った帰りだったな……」


 小学生相手にそんな話しちゃまずいのでは?

 まあとにかく、それは梨花さんが今よりも少しだけ若く、かなり荒れていた時の話です。

 いい男を探して合コンに参加し、同席した男性達がタイプでなく、やけ酒を飲んで帰る途中でした。


「あーもぉ―! 何でいないのよー!? 私に釣り合う男がさ―!!」


 酔った勢いで地面に倒れ、周りの人の迷惑を省みず、じたばたと暴れています。


「ちょっと! 何してるんですか!?」


 そんな時、一人のサラリーマンが通りがかりました。これが、後の梨花さんの夫であり、愛奈ちゃんのお父さん、慎太郎さんとの出会いです。

 その後、梨花さんは慎太郎さんの家に連れられ、介抱されました。

 で、梨花さんはそのまま慎太郎さんと結婚したのです。この家は道場こそあるものの、そこまで裕福ではなく、慎太郎さんもあまり冴えている男ではありません。

 梨花さんからすれば、望みと全くかけ離れている相手ですが、そんな事は問題ではありませんでした。一目惚れです。


「世の中にはね、目標を持って達成しようとすると、逆に達成出来ない物事があるの。結婚相手を探すのなんかも、その一つね」


 梨花さんの体験はそうです。現実、自分が願った相手と結婚出来た人が、どれだけいるかわかりません。


「だからね、こういう時は、直感」


 というわけで、恋愛についてのアドバイスを、梨花さんはしました。


「直感?」


「そう。自分の直感を信じるの。そうすれば、自分はこの人を好きになる為に生まれてきたんだって思える人に、必ず会えるから」


 確かに、玉の輿と言えるほど裕福ではありませんし、慎太郎さんもイケメンとは言い難いです。しかしそれでも、梨花さんは幸せです。慎太郎さんと結婚して、本当によかったと思っています。


「ま、今のあんたにはまだわからないかもね。大人になったら、必ずわかるよ」


「……大人になったら……」





 ◇◇◇





 愛奈ちゃんは梨花さんからされたあの話を、ちゃんと覚えていたのです。


「浩美先生に初めて会った時、お母さんが言ってた事の意味が、やっとわかったの。あたしは、この人を好きになる為に、生まれてきたんだって!」


「愛奈さん……」


 それは、愛の告白。あまりに歳の差が離れすぎてはいますが、浩美先生は愛奈ちゃんが抱く、自分への愛の強さを、しっかりと感じていました。


「それからもう一つ。お母さんはね、好きになった人をとことん愛せるようにって意味を込めて、あたしに愛奈って名前を付けてくれたの。だから、あたしはとことん愛すよ。浩美先生の事」


 初めて慎太郎さんに会った時の感動を、梨花さんは忘れられませんでした。人を好きになる事、愛する事の素晴らしさは、お金や容姿で決まるものではないとわかったからです。

 だから愛奈ちゃんにも同じ気持ちを知って欲しくて、それから、人を掛け値なく愛する事の大切さを知って欲しくて、愛奈という名前を付けたのです。


「あの子ったら……」


「……参ったな」


 そんな昔の話を持ち出されて、梨花さんと慎太郎さんは照れくさそうです。


「下らん」


 しかし、勝希はそう吐き捨てました。


「何が好き、だ。何が愛するだ!! そんなものが、憎しみの力に勝てるものか!!」


 続いて、再び愛奈ちゃんに殴り掛かり、その拳を止められます。


「認めんぞ!! 貴様などに、この私の憎悪を、否定など絶対にさせん!! 貴様の愛など、認めるものか!!!」


 そこから殴り合い、蹴り合いが始まります。しかし、今度は先程より愛奈ちゃんが優勢です。勝希が攻撃すれば、愛奈ちゃんはその倍の威力、速度、数の攻撃で反撃します。

 気付けば、二人はリングの端に、向かい合うように立っていました。


(なんという事だ……私がここまで、押されるなど……!!)


 このまま戦っても勝てないとわかった勝希は、愛奈ちゃんに勝つ方法を考えます。


(こうなったら、全力の暗黒闘気を叩き込んで、私の憎悪の強さを思い知らせてやる!!)


「うおおおおおおおあああああああああああああああああああああああああ!!!」


 決意した勝希は、全身から、今までで一番強い勢いの暗黒闘気を噴出させました。


「何という量の暗黒闘気じゃ……」


「どうやら、これで終わらせるつもりらしいですね」


 金剛さんとしろがねさんは、勝希が解放した暗黒闘気の量から、勝希が最後の勝負に出た事を察します。


「あたしの事が憎いなら、いくら憎んでもいいよ。でもね……」


 対する愛奈ちゃんも、同じくらい強烈な闘気を噴出させました。


「あんたが浩美先生にやった事は、絶対に許さない!!」


「ほざくな!! これで終わりだ!!」


 勝希は吼え、両手を腰溜めに構えます。愛奈ちゃんも全く同じタイミングで同じ構えを取り、同時に二人の力が高まりました。


「前道流気孔術……」


「高崎流気孔術……」


「「奥義!!」」


「魔黒情滅!!!」


「紅蓮情激!!!」


 そして、


「「波ーーーーーーーーーー!!!!」」


 二人は全ての力を、闘気に変えて同時に解き放ちました。

 赤と黒の閃光が、今再び激突します。互いの力は拮抗したまま、全く動きません。


(高崎愛奈!! 貴様が憎い!! 憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い!! 憎いぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!)


 しかし、闘気は心の力。従って勝希の暗黒闘気は、愛奈ちゃんを憎めば憎むほど、その力を増していきます。

 暗黒闘気の方が、少しずつ闘気を押し始めていました。今度は愛奈ちゃんの方が、勝希に押し負けているのです。


(浩美先生)


 こんな危機的な状況で、愛奈ちゃんが考えていたのは、浩美先生の事でした。

 浩美先生が自分を応援してくれている。勝って欲しいと思っている。そう思うと、どんどん力が湧いてきました。押されていたのが止まり、最初の地点まで押し返したのです。


「愛奈さん!! 頑張って!!」


「浩美先生!!」


 そこへ浩美先生から、再びの声援。これはもう、勝つしかありません。


「はああああああああああああああああああ!!!」


 さらに力を増した愛奈ちゃんは、闘気を一気に押し込みました。


「……馬鹿な……」


 勝希は小さく呟き、闘気に飲まれました。

 闘気が消えた後、勝希は立っていましたが、もう戦う力は残っていません。全力を尽くした戦いに敗れた勝希は、その場に倒れました。


「「やったぁぁぁ~!!」」


「やったよ、お兄ちゃん!」


「ああ! 愛奈ちゃんの勝ちだ!」


「愛奈お姉ちゃんすごいです~!」


 勇子ちゃんと氷華さんは、愛奈ちゃんの勝利を喜びます。鉄男くん達三兄弟も、自分達の事のように喜んでいました。


「愛ゆえに、か……昔を思い出すのぉ……」


「はい」


 金剛さんとしろがねさんは、愛奈ちゃんの戦いを見て、昔の自分達を思い出していました。

 それは、金剛さんがここに出入りしていた時の事です。いつものように、イリーガルトーナメントで腕試しをしていた時でした。偶然、一人の女性と対戦しました。

 この女性は特殊能力を持っており、金剛さんはどうにか勝つ事に成功します。

 遠野との戦いの時のように、イリーガルトーナメントは非合法な実験にも使われる大会。この女性もまた、軍の実験によって誕生した超能力者で、その実力を試す為の実験として出場させられていました。

 その事を知った金剛さんは、政府を恫喝して研究をやめさせ、行き場がなくなった女性を嫁として迎えたのです。

 この女性が、金剛さんの奥さんの、しろがねさんなのです。

 実のところ、金剛さんもしろがねさんに一目惚れしていました。彼女の為に戦いたいと願い、見事勝利したのです。


「さすが、わしの孫じゃな!」


「まさに、決勝戦に相応しい戦いでした!」


 亮二さんは満足そうに頷き、弓弩くんは興奮ぎみに言いました。


「……負けた……この私が……」


 勝希は、自分が負けたショックに打ち震えています。


「無駄だったというのか? 私の積み重ねてきたものは、全て……」


 その時でした。


「もういいだろう? 勝希」


 勝希に話し掛ける人がいました。

 全員が見ると、入場口の所に、老人が立っています。勝希の祖父の、前道真です。


「お、叔父上……!!」


「お前の憎しみよりも、あの子の先生を想う気持ちの方が遥かに強い」


「何を仰るのですか!? 私の血筋より、奴の血筋の方が上だと!?」


「お前は家の事を思ってあの子を越えようとしたのだろうが、その為に暗黒闘気を身に付けて欲しくなどなかった。亮二との力の優劣など、私にとってはどうでも良い。それより、あの子のような、他者を守る為に必死になる心こそを、身に付けて欲しかった」


(他者っていうか、浩美先生だけだと思うけど)


 勇子ちゃんはそう思いましたが、口は挟みませんでした。


「お前は自分の事しか考えていない。他者を守る事の意義、その素晴らしさに気付かない限り、お前があの子に勝つ事は永遠にないと言えるな」


「そ、そんな……」


 勝希はさらなるショックを受けています。愛奈ちゃんを倒そうと築き上げてきたものが、実は間違いだったのですから。


「……守るべきもの……」


 真さんから指摘されて、勝希は初めて気付きました。自分が守るものが、前道家の家名しかないのです。愛奈ちゃんのように、身内以外の人間を、本気で守ろうと思った事がありません。


「私には、何もない……私は……!!」


「勝希ちゃん!」


 うろたえる勝希を、すぐ近くまで来ていた愛奈ちゃんが呼びました。


「あんたにもいつか、きっと見つかるよ。自分が心から好きになれる人が」


 そして、勝希を慰めました。

 勝希は戸惑っています。あれだけひどく痛め付けたというのに、愛奈ちゃんから掛けられた言葉は、慰めだったのです。

 愛奈ちゃんは、勝希に右手を差し出しました。勝希は戸惑いながらも、おずおずと自分の右手を出します。手を取り合う二人。愛奈ちゃんは勝希を立たせました。


「おりゃああああああ!!!」


「ぶばっ!!」


 そして、勝希の顔面を殴り飛ばしました。


「ええええええええ!!?」


 意味のわからない行動に、勇子ちゃんは驚きます。


「え? え? あ?」


 一番困惑しているのは勝希です。これは仲直りの流れなのに、殴られたのですから。


「まぁそれはそれとして、あたしはまだあんたが浩美先生にした事を許してないよ」


 なんと、あれだけの一撃を叩き込んだというのに、愛奈ちゃんはまだ怒っていました。


「ひ、ひどくないか?」


「ひどくない!!」


「ごぶっ!!」


 勝希の顔を容赦なく蹴り飛ばす愛奈ちゃん。そこからまた、愛奈ちゃんからの一方的な蹂躙が始まりました。


「さすが愛奈。いつもの調子に戻った」


「いやいや!! おかしいでしょ!!」


 感心している友香ちゃんと、納得出来ない勇子ちゃん。ですが、高崎愛奈とは本来こういう少女なのです。勝ちが確定したので、気が緩んだのでしょう。


「……思っていたより雄々しい子だゾイ……」


 しかし、その有り様は、あの半蔵さんがドン引きするほどのものでした。


「はっはっはっは!! これでいい!! これでいいんだよお前は!!」


「それでこそ、俺達江口ギャング団の敵だ!!」


「やっぱり高崎ちゃんはこうじゃなくちゃッス!!」


 とはいえ、また愛奈ちゃんと競う日々が戻ってくると思うと、江口ギャング団は安心です。


「紅蓮情激波ーっ!!」


「ぐぎゃああああああああああ!!」


「お義父さん、そろそろ止めないとまずいんじゃ……」


「ギャグ小説だから死にはしないけど、このままだと勝希ちゃんにトラウマが残っちゃうわ」


「う、うむ。あの子に灸を据えてやるのはこれぐらいにして、助けてやらんとな」


 日長さんと銅子さんに促され、金剛さんは勝希を助ける事にしました。


「追い討ちィィィィィ――ッ!!!」


「ごぶぁぁぁぁ!!!」


 愛奈ちゃんは紅蓮情激波で吹き飛ばした勝希の胸板に、飛び膝蹴りを叩き込んでいます。


「愛奈さん駄目!! それ以上は!!」


 浩美先生もリングに駆け寄ります。


「い、いい加減にしろあんたはァァァァァァァ!!!」


 勇子ちゃんは叫びました。



 その後愛奈ちゃんは、石原家の人々と亮二さん、真さんの同時攻撃と、浩美先生の制止の声で動きが止まったところで、勇子のハリセンを脳天に受け、ようやく気絶しました。激闘の余韻を全力で台無しにしていくスタイル。


 石原家の人々は、琥珀くんが能力で飛行機に変化した自転車に乗って、帰っていきました。


 江口ギャング団は来た時と同じように、チケットを使って帰ります。あのチケットには家に帰る効果もあるのです。


 勝希は、愛奈ちゃんが起きない内にと、真さんが連れて帰りました。ちなみに今回のトーナメント、優勝者は愛奈ちゃんですが、関係者が全員逃げ出してしまった為、残念ながら賞金はもらえません。その代わり、慰謝料として賞金と同じ金額が、愛奈ちゃんの家に贈られる事になりました。


 愛奈ちゃん達は、浩美先生を連れて新幹線で帰りました。今回の戦いに勝ったご褒美として、愛奈ちゃんは浩美先生の隣の席に座らせてもらったそうです。





 ◇◇◇





 そして、三日後の朝の笑特小。


「もうあれから三日かぁ……あんな事があったのが、昨日の事みたいね」


 勇子ちゃんは時間の経過の早さを感じています。


「でも、もうあたしと浩美先生のラブラブな生活を脅かすものはないよ。頑張ったかいがあったなぁ!」


 愛奈ちゃんは浩美先生を取り戻せて、心から喜んでいました。

 そこへ、浩美先生がやってきて、朝礼が始まります。


「……浩美先生の様子がおかしい」


 友香ちゃんは、浩美先生の様子がいつもと違う事に気付きます。何だか、苦笑しているような感じです。


「今日はこのクラスに、転校生が来ます。前にもこの学校にいた子なので、覚えている人もいるかもしれません。では、入ってきて下さい」


 浩美先生に言われて、外から転校生が入り、黒板に名前を書きました。


「前道勝希だ。よろしく頼む」


 なんと、転校生は勝希でした。

 愛奈ちゃんに負けたあの後、どうしても愛奈ちゃんの事を忘れられなかった勝希は、真さんの計らいで、笑特小に転校生させてもらえる事になったのです。

 愛奈ちゃんも、勇子ちゃんも、友香ちゃんも、江口ギャング団も、目を見開いて驚いています。


「特に、約一名はな」


 勝希ちゃんは愛奈ちゃんと目を合わせ、にやりと笑いました。

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