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エクストリームガールズ!!  作者: 井村六郎
春期始動編
15/40

第十五話 桁外れの強さ!! 恐怖の暗黒闘気

前回までのあらすじ


強い決意を秘めて、決勝戦に臨む愛奈。

隠していた力を発揮して、勝希と互角以上に渡り合う愛奈だったが、勝希もまた、隠していた己の真の力、暗黒闘気を解き放つのだった。

 暗黒闘気の弾。それは勝希からすれば、軽いジャブのような一撃でした。

 愛奈ちゃんの闘気と、自分の暗黒闘気。どちらが強いか確かめる為に放ったそれを受けて、たった一発で愛奈ちゃんは、無様にもリングの上に這いつくばっています。


(あの日も貴様はそうだった)


 その姿を見ながら、勝希は愛奈ちゃんと試合をした日の事を、思い出していました。


『あたし愛奈! これからよろしくね!』


 愛奈ちゃんは亮二さんのお友達の孫が訪ねてきてくれたので、きっと仲良くなれると思い、手を差し出しました。

 しかし、勝希の目的は、愛奈ちゃんと友達になる事ではありません。だから、その手を払いのけました。


『痛っ!! な、何すんの!?』


『私がここに来たのは、私の方が貴様より上だと証明する為だ。馴れ合いなど必要ない』


『……何言ってんのかよくわかんないけど、すっごく頭にきた』


『では私を倒せばいい。貴様など、弱すぎて相手にならんと思うがな』


『そんな事、やってみなきゃわかんないじゃん!!』


 勝希は挑発出来るだけ挑発し、愛奈ちゃんはそれを買い、二人は試合を始めます。

 勝希の宣言通り、愛奈ちゃんとの力の差は開きすぎていて、全く太刀打ち出来ません。勝希の攻撃を受けて、床に這いつくばっています。


『こんなものか、高崎愛奈。もう少し、楽しませてくれるものと思っていたがな』


『……うあああああああああああああああああ!!!』


 その時、愛奈ちゃんは起き上がって殴り掛かり、勝希はそれに合わせて拳を繰り出しました。

 しかし、遥かに力の劣るはずの愛奈ちゃんの拳が、勝希の拳を弾き返しました。


『何!?』


 驚く勝希のみぞおちに、愛奈ちゃんは拳を叩き込んで怯ませ、腕を掴み投げ飛ばします。背中を強く打ち付けた勝希は、気絶してしまいました。


『この私が……あんな雑魚相手に……意識を失っただと!?』


 意識を取り戻した時、勝希は愛奈ちゃんとの戦いに負けた事に、うち震えました。

 確かに自分の方が優勢だったはずなのに、驚異の爆発力で、一瞬で逆転された。その事が許せなかったのです。


『私の栄光の人生に、よくも敗北の土を付けたな!! 許さん!! 必ず復讐してやるぞ!! 高崎愛奈!!』


 そして、これから送るはずだった笑特小での生活を犠牲にし、修行の日々を始めたのです。


(今、復讐を果たす時は、ようやく訪れた!!)


「さあ早く立て!! いつまで私を待たせるつもりだ!!」


 勝希はまだ立ち上がれないでいる愛奈ちゃんを急かします。


「せっかちだなぁ……」


 愛奈ちゃんは、どうにか立ち上がりました。


「馬鹿を言うな。私はもう、三年も待ってやったのだ。今度は貴様が、誓いを果たせ」


「誓った覚えなんてないんだってば!!」


 愛奈ちゃんは勝希目掛けて、両手から先程よりも大きな闘気弾を飛ばしました。


「ふん!!」


 勝希は片手に暗黒闘気を纏わせ、闘気弾を叩き潰します。それから、もう片方の手で暗黒闘気弾を飛ばしました。


「くぅっ!」


 暗黒闘気の攻撃力は、今さっき知りました。まともに喰らうわけにはいきません。愛奈ちゃんはかわします。

 それを見た勝希は、逃げた方向に暗黒闘気弾を放ちました。またかわします。今度は連射する勝希。仕方なく、愛奈ちゃんはリングを走り回って逃げます。


「逃げ足だけは速いな。だが……」


 焦れた勝希は、一旦暗黒闘気の連射を止めます。


「前道流気孔術、絶影呼法」


 と思った瞬間、勝希の姿が消え、また現れました。愛奈ちゃんの目の前に。


「!!」


 愛奈ちゃんが全く反応出来ない速度です。

 高崎流気孔術に特殊な呼吸法があるように、前道流気孔術にも特殊な呼吸法があります。

 今勝希が使ったのは、絶影呼法。愛奈ちゃんの牙鎧呼法とは対照的に、使用者のスピードを強化する呼吸法です。


「前道流気孔術奥義――」


「ッ!! 牙鎧呼法!!」


 今から勝希が繰り出す技は、絶対にかわせない。そう悟った愛奈ちゃんは、全力で練り上げた闘気で牙鎧呼法を使い、両腕を交差させて、防御の体勢を取りました。


「地獄蜂鳥!!!」


 その判断は正しいものでした。次の瞬間、勝希は目にも止まらぬ、まさしく影を絶つ速度で、手刀の連撃を繰り出したのです。

 地獄蜂鳥は絶影呼法と組み合わせて使われる技で、高速の貫手を、連続で叩き込む技。ただでさえ速い勝希の突きは、絶影呼法と合わさる事で、超々音速の壁さえ、容易く破ります。

 加えて、勝希の手は暗黒闘気で強化されている為、この状態の地獄蜂鳥は、鋼鉄の塊すら一瞬で穴だらけにしてしまいます。


「ぐ……く……!!」


 愛奈ちゃんの両腕から、ガガガガガガガガッ!! と、あり得ない音が聞こえます。少しでも防御を解けば、その瞬間に終わってしまうので、愛奈ちゃんは打開策を必死で考えました。


「防戦一方じゃない!!」


 勇子ちゃんは焦ります。今は何とか持ちこたえていますが、勝希がもう少し暗黒闘気の出力を上げたら、すぐに防御を破られてしまうでしょう。


「あっ! もう始まってる! 今ちょうど決勝戦みたいよ!」


「だからもうちょっと早く行こうって言ったじゃないか!」


 勇子ちゃん達が戦いを見守っていると、聞き覚えのある喧騒が聞こえてきました。

 見ると、そこにいたのは、石原家の人々でした。今喋ったのは、こがねちゃんと鉄男くんです。


「こがねさんに鉄男さん!? どうしてここに!?」


 驚く勇子ちゃん。その疑問には、金剛さんが答えました。


「ほっほっほ。わしは昔をここを出入りしとっての、顔パスじゃよ。顔パス」


 亮二さんと同じく、金剛さんも昔ここで修行していたのです。


「師匠。お久し振りです」


「ん。久しいの、亮二」


 亮二さんと金剛さん。久し振りの、師弟の再会です。こがねちゃんと鉄男くんが、さらに続けます。


「愛奈ちゃんが大変だって話したらね、おじいちゃんが連れてきてくれたの!」


「でも来たのは今日だよ。おじいちゃんったら、愛奈ちゃんは必ず決勝戦まで勝ち上がる。それ以外の試合は見る価値がないから、決勝戦の日に行けばいい、なんて言ったんだ」


「その通りの事じゃろうが。お前達、友達が参加する以外の勝負が見たいか?」


 金剛さんにそう言われると、こがねちゃんも鉄男くんも、何も言い返せませんでした。


「まぁまぁ。お話はこれくらいにして、今は観戦に集中しましょう」


「なかなか、手に汗握るいい勝負だねぇ」


 銅子さんと日長さんに言われて、一同はリングに視線を戻します。


「でも、このままだと愛奈は負ける」


 友香ちゃんが戦況を報告しました。


「地獄蜂鳥か。あの技を見るのも、ずいぶんと久し振りじゃ」


 金剛さんは勝希が繰り出している技を見て、懐かしんでいます。自分のもう一人の弟子の姿を思い出したからです。


「確かに、このままだと愛奈ちゃんは負けますね。ですが、あの技には弱点があります。それに気付けば、結構あっさり突破出来ますよ」


 しろがねさんが言いました。

 愛奈ちゃんが牙鎧呼法を維持するのも、限界があります。このままだと、愛奈ちゃんの腕は穴だらけにされてしまうでしょう。

 しかし地獄蜂鳥には、ある弱点があるのです。

 愛奈ちゃんはそれに気付きました。


「!!」


 素早く身を屈め、勝希に足払いを掛けたのです。勝希は仰向けに倒れました。

 地獄蜂鳥は立ち技。それゆえに、下からの攻撃に弱い。つまり、足払いを掛けられると、簡単に破られてしまうのです。

 しかし、勝希もこの弱点には気付いており、対策を考案していました。それも、勝希にしか出来ない方法で。


「なっ!?」


 愛奈ちゃんは驚きます。勝希は倒れていませんでした。倒れる寸前で、宙に浮いているのです。

 勝希はそのまま、回転しながら愛奈ちゃんから離れました。地に足は着いておらず、浮いたままです。


「あ、あんた、飛べるの!?」


「貴様は飛べないのか?」


「飛べないよっ!! そんなのずるい!!」


「ならこの場で飛べるようになってみせろ!!」


 勝希は挑発しながら、また暗黒闘気弾を連射し始めました。


「な、何だあれは!? あの子はあんな事が出来るのか!?」


「まさか飛べるなんて……」


 弓弩くんと氷華さんも驚きます。飛べるという事は、負ける条件であるリングアウトが、実質なくなったようなものです。


「感情を闘気に変える技術。あるいは生命力を闘気に変える技術を身に付ければ、飛べるようになるが、今の愛奈ちゃんにはちょっと難しいじゃろうな……」


 金剛さんは、この戦いで愛奈ちゃんが飛べるようになる可能性を計算していました。

 感情を闘気に変える技術は、金剛さんも身に付けています。にも関わらず亮二さんにそれを教えなかった理由は、単純に才能に問題があるからです。

 生まれつきそういう技術を使える可能性がある者にしか、そういう事は出来ません。絵心や詩心と同じです。

 愛奈ちゃんは闘気を使う技術を身に付けたので、飛べるようになるはずですが、金剛さんもそれが出来るようになるには、半年以上掛かりました。


「うわわわわ!!」


 飛べない愛奈ちゃんは、狭いリングの中を逃げ回っています。


「追い詰めてやれば進化出来るかと思ったが、やはり貴様の実力は、その程度しかないらしいな」


 勝希は自分と愛奈ちゃんの力の差を感じ、運営委員の人達を見ました。


「おい! 今からリングアウトを敗北条件から外せ!」


 なんと、まさかのルール変更の要求です。驚くべき要求に、運営委員達は顔を見合わせました。


「さっさとしろ! さもなくば……」


 なかなかルールを変更しない運営委員にしびれを切らした勝希は、客席に向かって暗黒闘気弾を一発、飛ばしました。

 客席は異能者の攻撃にも耐えられる、超強化ガラスによって守られています。その超強化ガラスに、わずかですが、亀裂が入りました。


「次はどうなるか、説明する必要はあるまい!?」


 これ以上時間を掛けるようなら、客席を消し飛ばす。勝希はそう警告します。


「う、うわあああああああ!!!」


 と、運営委員の一人が逃げ出しました。それに弾かれたようにもう一人が、さらにもう一人がと逃げ出します。


「逃げろぉーーっ!!」


「あいつは狂ってるぞ―っ!!」


「殺される!! 殺される!!」


「冗談じゃない!! こんな娯楽に、こっちの命まで懸けられるか!!」


 それは客席にまで伝播し、もう会場は大パニックです。


「な、なんと、ルール改変の為に観客を狙った!! これは前代未聞!! 私も逃げさせて頂きます!!」


 黒蔵まで逃げ出す始末です。

 やがて、勇子ちゃん達を除き、会場には観客が一人もいなくなってしまいました。


「どいつもこいつも、落伍者が!! 運営委員が逃げてしまっては仕方がない。ここから先は、私が全てを取り仕切ろう。今よりリングアウトを敗北条件から外す!! 相手を戦闘不能にした方を勝者とする、デスマッチの始まりだ!!」


 逃げた全ての人間に悪態を吐き、勝希はこの会場の支配者となりました。その姿は、まさに傍若無人の王そのものです。


「ふーん。リングアウトを外してくれるんだ?」


「私と貴様の因縁の決着が、場外負けなどという締まらん終わりを迎えるのは、貴様とて望んではいまい?」


「ぶっちゃけどうでもいいよ。あんたを思いっきりぶっ倒せるならね!!」


 リングアウトを気にせず戦えるようになった愛奈ちゃんは、早速リングから飛び出し、猛スピードで走り、壁を、超強化ガラスを駆け上がって、勝希に飛び掛かり、殴りつけて地面に叩きつけました。

 しかし、これでも勝希にダメージはなく、勝希は倒れた状態から、暗黒闘気弾で愛奈ちゃんを狙い撃ちにします。

 空中の愛奈ちゃんは避けられず、天井に叩きつけられ、落下。落ちてきたところを、勝希は蹴り飛ばしました。


「オイオイオイどうなってんだこりゃ!?」


「お客さん滅茶苦茶少ないですね……」


 そこに、ようやく江口ギャング団プラスαが到着します。


「あんた達どうしてここに!?」


「愛奈ちゃんが心配になったから、おじいちゃんにお願いして応援に来たッス。それより一体何があったッスか?」


 それについては、琥珀くんが説明しました。


「かくかくしかじかです」


「かくかくうまうまッスか。マジとんでもないッスね勝希ちゃん。愛奈ちゃん以上に過激な子ッス」


 それでわかるんですね……。


「……状況は芳しくなさそうゾイ」


 半蔵さんは戦況を一目で察しました。明らかに愛奈ちゃんが劣勢で、負けかけています。


「つらそうだな。もっと戦いを楽しんだらどうだ?」


 勝希は倒れている愛奈ちゃんに近付いて、呆れていました。


「あたしは、戦いを楽しいなんて思った事、一度もないよ」


 そう言いながら、愛奈ちゃんは勝希に殴り掛かります。が、勝希には片手で止められました。


「そうか。私は、楽しいぞ」


「がっ!」


 そのまま、みぞおちに膝蹴りを入れて、再び愛奈ちゃんを這いつくばらせます。


「貴様を追い詰めているというこの実感!!」


「ああっ!!」


 さらに、倒れている愛奈ちゃんを踏みつけます。


「愉しい!! 愉しいぞ実に!! 私はこの瞬間の為に、貴様に負けたという屈辱を、三年も抱え続けてきたのだ!!」


 何度も何度も、何度も踏みつけ、蹴り飛ばします。


「……ほんとムカつくなぁ……」


 大ダメージを受けましたが、立てないほどではありません。


「あたしはあんたの、そういうところが」


 立たなければ、勝希に勝てず、浩美先生を取り返せません。


「嫌いだって言ってんの!!」


 両手を腰溜めに構え、闘気を集めます。それを見て、勝希も同じように両手を構えます。


「高崎流気孔術奥義!!」


「前道流気孔術奥義」


 闘気と暗黒闘気が、最大まで高まり、そして――、


「紅蓮情激波ーーーーっ!!!」


「魔黒情滅波!!!」


 二人はそれを解き放ちました。

 ぶつかり合い、せめぎ合う、真紅と漆黒の力の奔流。二つの力が、互いを消し去ろうと荒れ狂います。

 しかし、終わりの時が来ました。


「終わりだ!! 高崎愛奈!!」


 勝希の力が上回り、愛奈ちゃんの闘気を食い破ったのです。暗黒闘気に呑まれた愛奈ちゃんは、暗黒闘気が消え去った後、崩れ落ちました。


「うそ……愛奈が……負けた……」


 勇子ちゃんは信じられない光景を目撃し、震えています。


「……信じない。信じないわよ、そんなの!!」


 愛奈ちゃんの敗北をどうしても受け入れられない勇子ちゃんは、客席から乗り出し、愛奈ちゃんに向かって叫びました。


「愛奈――っ!!! このバカ愛奈!!! あんたなにそんなのに負けてんのよ!!! 浩美先生を取り返すんじゃなかったの!!? 早く立って、そいつをぶっ倒しなさいよ―――っ!!!」


(……いさちん……?)


 勇子ちゃんの声援は、愛奈ちゃんに届いています。


「頑張れ愛奈!!」


「愛奈!! 頑張って!!」


「お前の力はその程度ではない!! 勝てるぞ!! 愛奈!!」


 続いて、甚太郎さん、梨花さん、亮二さんが応援します。


「愛奈!!」


「愛奈ちゃん!! 頑張るんだ!!」


「愛奈ちゃ――ん!!」


 友香ちゃん、弓弩くん、氷華さんも、応援します。


「おい高崎!! お前何俺ら以外のやつに負けてんだよ!!」


「お前を倒すのは、俺達江口ギャング団だ!!」


「だから早く立つッス!! 僕達以外に、負けないで欲しいッスよ~!!」


 江口ギャング団までもが、愛奈ちゃんを応援しました。


「「愛奈ちゃん!!」」


「頑張って下さ~い!!」


 こがねちゃん、鉄男くん、琥珀くんも応援します。それ以外の石原家の人々と半蔵さんは、黙って愛奈ちゃんの姿を注視していました。


(みんな、まだあたしの事、応援してくれるんだ……でも、もう無理だよ……こんなの……勝てるわけないよ……)


 しかし、愛奈ちゃんは立ち上がりません。全力の紅蓮情激波も破られ、打つ手はなくなり、これ以上どうすれば勝希を倒せるのかわからないからです。


「まだ貴様が勝つと信じているらしいな。おめでたい連中だ。もう既に、貴様の心は折れているというのに」


 勝希は愛奈ちゃんを応援する人達を、嘲笑っています。


「愛奈さん……」


 浩美先生も、愛奈ちゃんが勝つのは無理だと悟っていました。自分の事はどうでもいい。だからこれ以上、傷付く為に立ち上がらないで欲しいと、そう思っています。


「……」


 浩美先生が、もういいと言い掛けたその時、執事が檻の鍵を開けました。


「執事さん……」


「彼女が待っているのは、他ならないあなたからの応援です。全ての責任は私が負いますから、応援してあげて下さい」


 執事の言葉を聞いて、浩美先生は気付きます。


(そうよ。愛奈さんは私を助ける為に、こんな危険な場所まで来てくれたのよ!)


 なら、自分が応援しなくてどうするのか。そう思った浩美先生は檻から飛び出し、両手を口に添えて、叫びました。


「愛奈さぁぁぁぁぁぁぁぁん!!! 頑張れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 今まで応援した人の中で、一番大きな声援。大好きな人の声が、愛奈ちゃんの耳に届かないはずがありませんでした。


「浩美……先生……」


(そうだ。あたしは、浩美先生を助けに来たんだ!!)


 諦め掛けていたその心に希望が戻りました。疲れは吹き飛び、痛みは消え、全身に力がみなぎり、闘気が溢れます。

 愛奈ちゃんは今再び、立ち上がりました。


「やったぁぁぁぁぁぁ!!」


 勇子ちゃんは友香ちゃんに抱きついて喜びます。他のみんなも、歓声を上げました。石原家の大人組も、半蔵さんも、執事も、満足そうに頷いています。


「ふん。まだ立ち上がるのか」


 ただ一人、勝希だけは不満げな声を漏らしました。

 圧倒的な力の差を見せつけ、徹底的に痛めつけた。これだけやれば、もう立ち上がってはこれない。完全に勝利した。

 そう思っていたのに、愛奈ちゃんは立ち上がってきた。勝希は、それが許せませんでした。


「いい加減に敗北を認めろ!! このくたばり損ないが!!!」


 右手に暗黒闘気を込めて、勝希は駆け出します。この黒い右拳を顔面に叩き込んで、今度こそ高崎愛奈を、敗北の泥沼に沈める。あの日、自分が受けた屈辱のように。



 しかし、愛奈ちゃんはその拳を、左手で止めました。



「何!?」


 勝希の拳は、愛奈ちゃんに止められた位置から、一ミリも動きません。


「はぁっ!!」


 愛奈ちゃんは、勝希がやったように、右手に闘気を込め、勝希の顔面を殴り飛ばしました。


「き、貴様……一体どこにこんな力が!!?」


 一瞬意識を刈り取られ掛けました。今まで愛奈ちゃんはここまで強力な一撃を放てなかったはずなのに、勝希は信じられずに愛奈ちゃんを見ています。


「あたしは、絶対に負けない!!」


 愛奈ちゃんは、これまで以上に力強い瞳で勝希を見据え、言い放ちました。

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