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エクストリームガールズ!!  作者: 井村六郎
春期始動編
11/40

第十一話 急な雨をやり過ごす方法

 笑特小。


「あめあめ ふれふれ かあさんが 蛇の目でおむかえ うれしいな」


 愛奈ちゃんが教室の窓に両手を掛け、雨が降る曇天の空を見上げながら、歌っていました。


「ぴっちぴっち じゃぶじゃぶ らんらんらん」


 鈴の音が鳴るような、愛らしく綺麗な歌声です。


「……でも今は降ってほしくなかったかな~」


 唐突に歌うのをやめて、愛奈ちゃんはぼやきました。




 今の時間帯は放課後。授業は全て終わり、あとは帰るだけなのですが、


「も~!! 何で雨なんか降るの~!? 天気予報見てきたけど、今日雨が降るなんて言ってなかったよね~!?」


 急な大雨のせいで、傘を持ってきていなかった愛奈ちゃん達は帰れずにいたのです。

 まぁ、今愛奈ちゃんが言っていた通り、今日雨が降るという情報はなく、全ての生徒が傘を持ってきていなかったので、放課後なのにかなり賑やかですが。


「梅雨までまだ早いよ~!!」


「梅雨でなければ雨が降らないなんて常識はない」


「そうよ。たぶん通り雨みたいなものだろうし、気長に止むのを待ちましょ」


 友香ちゃんと勇子ちゃんからツッコミが入りました。


「紅蓮情激波で雨雲を吹き飛ばしてやろうかな……」


「やめた方がいい。ここしばらく降ってなかったし、週間予報にも今週降る予報がなかったから、そんな事したら植物が可哀想」


「じゃあ友香が念力で、あたし達の頭の上にバリアみたいなの作ってよ」


「めんどいから拒否」


 愛奈ちゃんの考えは、友香ちゃんにことごとく却下されていきます。


「むぅ~!! 雨なんて嫌い!! 暇で暇でしょうがないもん!! ここが家なら修行出来るけど、学校だからそれも出来ないし!!」


 愛奈ちゃんの場合下手に身体を動かすと、学校が大変な事になりますからね。


「あっ! そうだ! 浩美先生で暇潰ししよう!!」


「ダメに決まってんでしょ」


 新しい考えは勇子ちゃんに即却下されました。




 ちなみにその頃、


「ッ!?」


 職員室で仕事をしていた浩美先生は、背筋がゾクゥッ!! ってなってました。




「そんなに暇なら、私がいい暇潰しを教えてあげる。ついてきて」


 友香ちゃんはそう言うと、席を立って歩き始めました。愛奈ちゃんと勇子ちゃんは、それについていきます。勇子ちゃんもなんだかんだで、雨が止むまでは暇なのです。





 ◇◇◇





「ちょっと友香。ここ図書室じゃない」


 友香ちゃんが連れてきたのは、図書室でした。ここで本を読んで時間を潰すという事でしょうか? 愛奈ちゃんは身体を動かしたいので、嫌そうな顔をしました。


「ここで待ってて」


 しかし、そうではないようです。友香ちゃんは二人を図書室の外に待たせ、一人中に入っていきました。


「何か借りてくるつもりかしら?」


「たぶんそうだよ」


 勇子ちゃんは愛奈ちゃんに訊きました。

 数分後、


「お待たせ。まだ借りられてなくてよかった」


 友香ちゃんが一冊の本を持って出てきました。


「……愛奈は?」


「えっ? あっ!」


 友香ちゃんから指摘を受けて、勇子ちゃんは気付きました。

 いつの間にか、愛奈ちゃんがいなくなっていたのです。




「ねぇ~浩美先生~」


「は、はい……」


 一方愛奈ちゃんは、仕事している浩美先生の頭に顎を乗せていました。


「あたし暇で暇でさぁ~」


「ま、愛奈さん? 私、仕事してるんですけど……あっ……!」


 胸を揉まれて、浩美先生の口から艶っぽい声が出ます。


「いいじゃんいいじゃん。あんまり仕事ばっかりしてると、身体に毒だよ? ここらで休憩しない?」


 愛奈ちゃんは、胸を愛撫する手を止めません。


「あ、あの、あのっ、ああっ!」


 断りたいのに断れなくて、だんだんと変な気分になってきた浩美先生。

 周りの先生は、赤面したり、気付かないふりをしたり、凝視したりしていますが、誰も止めようとしません。やっぱりこういうのが好きなんですね。


「こ、こんな、駄目!」


「何が駄目なの? こんなに可愛いのに」


「んっ、んんっ……!!」


 必死に耐えようとする浩美先生。愛奈ちゃんの責めはどんどん激しくなります。



 この空気を終わらせたのは、



「やめろっつったのに何してんだテメー!!」


「ぼべはぁ!!!」


 勇子ちゃんのツッコミでした。


「さっさと行く」


「すいませんでした!! 本当にすいませんでした!!」


 友香ちゃんが愛奈ちゃんの襟首を掴んで引きずり、勇子ちゃんが謝りながら、職員室から出ていきます。


「……助かった……」


 どうにか自分の貞操が守られ、浩美先生は胸を撫で下ろしました。


(でも……ちょっと惜しかったな……)


 そう思っている自分がいる事に気付きました。





 ◇◇◇





「ったくあんたはもう!!」


「ごめんっていさちん。ほんの出来心なんだってばぁ~」


 愛奈ちゃんは勇子ちゃんから叱られています。ともあれ、愛奈ちゃんを連れ戻す事には成功しました。


「それで、あんた何借りてきたの?」


 これでようやく、友香ちゃんが何をしたいのか聞き出せると思った勇子ちゃんは、まず友香ちゃんが借りてきた本について訊きます。


「これ」


 友香ちゃんは表紙を見せます。表紙には、『超こわい!! 新・オカルト大全集』と書いてありました。


「先週新しく学校図書に入ってきた」


「あ―、怖い話系の本かぁ。こういう本ならあたしも好きだよ」


 笑特小では、不定期で新しい学校図書が入ってきます。世界の名作や小説などは苦手な愛奈ちゃんですが、この手のジャンルは大好きです。愛奈ちゃんだけでなく、学校全体で人気の本なので、友香ちゃんが借りれたのは運がよかったですね。


「で、その本がどうかしたの?」


「まさかそれを私達三人で読むわけじゃないわよね?」


「このページを見て」


 友香ちゃんは本をめくり、あるページを二人に見せました。二人は見出しを読み上げます。


「「『新発見!! 異能者を使ったこっくりさん!!』?」」


「そう。これをやってみたいと思う」


 こっくりさんの事は、二人も知っています。幽霊を呼び出して、いろんな質問をする遊びです。ただ、何か危険な事が起きる可能性もあるので、あまり推奨はされていない遊びですが。


「このこっくりさんは、普通とは違う。異能者を使って呼び出すらしい。どう違うのか試してみたい」


 この本によると、こっくりさんの儀式に異能者を使えば、確実に、しかも強力な幽霊を呼び出せるとの事です。


「友香ってそういうの好きだねぇ。でも面白そう!」


「ちょっと……この儀式、一緒にやる異能者の数が多ければ多いほど、強いこっくりさんが呼び出せるって書いてあるけど、あんた達より強いのが出てきたらどうするの?」


 勇子ちゃんは不安そうです。ここに書いてある事が、本当に真実かどうかはわかりませんが、こっくりさんについてはあまりいい噂を聞きません。

 無事にこっくりさんを送り帰したという話もあれば、破ってはいけないタブーを守ったのに、こっくりさんに取り憑かれて入院したり、死んだという話もあります。この本にも、やるなら自己責任で。何が起きても出版社は責任を取れない、と書いてありました。


「え~? あははっ! ないない! あたし達より強いこっくりさんなんて絶対ない!」


「危なくなったらすぐ終わらせる方法も書いてあるから大丈夫。それに、勇子は私が守るから」


「……まぁあんた達が一緒なら、大丈夫か。私も暇だし、やってみようかしら」


「そうこなくちゃ!」


 確かに、今までどんなトラブルも乗り越えてきたこの二人がいるなら、大丈夫そうです。

 というわけで、三人はこっくりさんをやる事になりました。





 ◇◇◇





 三人は空いている教室を見つけて、そこでこっくりさんの準備をしました。

 準備に必要なものは、こっくりさんがこちらの質問に受け答えする為の、文字や数字が書いてある紙と、十円玉。普通のこっくりさんと変わりません。

 ただ、やり方が少し違います。このこっくりさんは、十円玉に触りません。本によれば、異能者が五円玉に触っていると、異能者の力が宿ってしまい、こっくりさんが宿れなくなってしまうからだそうです。

 だから紙を置いている台を囲んで、見るだけです。見やすくする為、台は少し低めにしました。


「……じゃあ、やる」


 友香ちゃんの合図で、残りの二人が頷きます。


「「「こっくりさんこっくりさん。どうぞおいで下さい。おいでになられましたら、『はい』の方にお進み下さい」」」


 そう言いながら、愛奈ちゃんと友香ちゃんは力を解放します。こうする事で、力に惹かれたこっくりさんがやってくるそうです。

 この場合、現れるこっくりさんは、必ず強いこっくりさんだと、本に書いてありました。


(こっくりさんの強弱なんてわかんないけど、たぶんこの二人にはわかるんでしょうね……)


 勇子ちゃんはこっくりさんが現れるのを待ちながら、愛奈ちゃんと友香ちゃんを見ました。




 一分後。


「……来ないわね」


 勇子ちゃん達はずっと待っていますが、台の上の十円玉が動く気配はありません。


「おかしい……手順は間違ってないはず……人数が足りなかった? でも異能者が一人いれば、この儀式は可能だって……」


 友香ちゃんは考えます。人数の事を考えてこがねちゃんと琥珀くんを誘おうとしたのですが、二人は家から迎えが来て、帰った後でした。


「やっぱり嘘だったんじゃないの? ほら、こういう本に書かれてる事って、大体嘘だし」


 愛奈ちゃんは最初から信じていないみたいに言いました。愛奈ちゃんはこういう話は好きですが、信じるかどうかはまた別問題です。オカルトな儀式を実際に試したのは、これが最初でしたし。


「……そうかもしれない。私も今までいろいろ試してきたけど、全部嘘だった」


「試したんだ……」


 勇子ちゃん、ちょっと引きました。

 ともあれ、何も起きないなら何も起きないで、それは別にいいです。


「何か起きたら逆に怖いし」


 勇子ちゃんの言う通りです。



 その時でした。



「「!!」」


 愛奈ちゃんと友香ちゃんが何かに反応し、台の方を見たのです。


「え、何……?」


 勇子ちゃんもつられて、台の方を見ました。

 ゆっくり、ゆっくりと、台の上の十円玉が動いていたのです。十円玉はそのまま、紙に書いてある『はい』のところで止まりました。


「……えっ、ちょっ、マジで? 友香、あんた念力で動かしたりしてないわよね?」


「してない」


 勇子ちゃんはすぐ確認しますが、友香ちゃんは即答します。


「友香が言ってる事は本当だよ。その十円玉に、何か乗り移ってる」


「……ええ~……」


 愛奈ちゃんの言葉に、勇子ちゃんはドン引きです。だって、本当にこっくりさんが来てしまったのですから。


「ど、どうするの? 私、どうしたらいいかわからないんだけど」


 次に困惑しました。本当に来ると思っていなかったので、準備をしていなかったのです。今も、頭の中の整理が追いついていません。


「せっかく来てもらったんだから、何か質問してみようよ。このまま帰ってもらっちゃ気の毒だし」


「愛奈の言う通り。私が先に質問するから、二人は自分の質問を考えてて」


 怪奇現象が目の前で起きているというのに、愛奈ちゃんと友香ちゃんは平常運転でした。いえ、友香ちゃんは興奮しています。いつもより口数が多いです。


「こっくりさんが好きな食べ物は何ですか?」


(一体何を聞いているんだろう)


 勇子ちゃんはそう思いながら、質問を考えます。

 一方で、また十円玉が動いていました。


『あぶらあげ』


 こっくりさんはこのように答えました。


「油揚げが好きなんですか?」


 友香ちゃんが訊くと、今度は『はい』に移動します。


「おお~! こっくりさんの正体は、狐の幽霊だって聞いた事があるから、これはもう本当にこっくりさんで間違いないねっ!」


 愛奈ちゃん、興奮してます。


「勇子、質問は思い付いた? ないならまだ質問するけど」


「え……ああ、うん。平気よ、考えたわ」


「わかった。こっくりさんこっくりさん。鳥井の位置にお戻り下さい」


 友香ちゃんがそう言うと、十円玉が鳥井の位置に戻りました。

 それを待ってから、今度は勇子ちゃんが質問します。


「今降ってる雨は、あとどれくらいでやみますか?」


「あ、そっか。元々雨がやむまでの暇潰しでやってるんだもんね」


「余計な事言うんじゃないの!!」


 愛奈ちゃんの言葉に、勇子ちゃんはこっくりさんが怒らないかとヒヤヒヤしています。

 が、こっくりさんは特に気分を害した様子もなく、淀みない動きで、十円玉が答えを示しました。


『ななふんご』


「す、すごく正確ね……」


「よかったねいさちん!」


「あ、う、うん……」


 どうやら、あと七分で雨はやむそうです。


「私はこれでいいから、次、愛奈に回すわね」


「うん、いいよ」


「……こっくりさんこっくりさん。鳥井の位置にお戻り下さい」


 勇子ちゃんから言われて、十円玉が鳥井の位置まで戻りました。

 さて、次はいよいよ、問題の愛奈ちゃんの番です。


(どんな質問するつもりかしら?)


(まともな質問じゃないのは確実)


 勇子ちゃんと友香ちゃんは、同じ心配をしていました。


(きっと愛奈の事だから、浩美先生のスリーサイズとか、浩美先生関連で変な質問をするに違いないわ)


 勇子ちゃんは、ほぼ間違いないと言える予想を立てています。



 そして、愛奈ちゃんはこっくりさんに質問しました。



「あなたが落としたのは、この金の斧ですか?」


「予想の遥か上を行っちゃったよ!! 絶対変な質問するって思ってたけどそんな質問するなんて思わなかったよ!!」


 突然女神っぽいコスチュームを着て、金の斧を持って質問した愛奈ちゃんに、勇子ちゃんはここぞとばかりにツッコミを入れます。というか、誰も予想なんて出来ません。出来たとしたら、それはよほど運がいいか、未来予知の類いが出来る人です。


「っていうか何なのそのかっこと斧は!?」


「暇潰しに作ったの」


「マジかよ!!」


「ちなみに斧は張りぼてね」


 着替える姿も、これらをどこに持っていたのかも、全くわかりませんでした。

 一方、十円玉は『いいえ』に動いていました。


「いやそりゃそうだよ!! こっくりさんもこんな質問に律儀に答えなくていいから!!」


「ではあなたが落としたのは、この銀の斧ですか?」


「だからその質問やめろ!!」


 銀の斧を持って質問する愛奈ちゃん。十円玉は一度鳥井の位置に戻った後、また『いいえ』に移動しました。


「わかってたよ!! だから答えなくていいって!!」


「ではあなたが落としたのはこの鉄の斧ですか?」


「どうせ『はい』って答えるよ!! あんたのボケに付き合ってくれてるんだから!!」


 元ネタの昔話の通りなら、この質問に対してこっくりさんは『はい』と答えるはずです。勇子ちゃんはそう思って、十円玉を見ました。



『いいえ』



「……?」


 十円玉は、『いいえ』の位置にあります。勇子ちゃんは両手で目をこすり、もう一度台を見ました



『いいえ』



「!? !? !?」


 間違いありません。こっくりさんは『いいえ』と答えています。

 まだ異変は終わっていませんでした。間もなくして再び十円玉が動き出し、こう答えたのです。


『どう』


「……銅の斧って事?」


『はい』


「ねぇちょっと愛奈!! こっくりさんがボケに走ってきたんだけど!?」


 銅だけにどうしていいかわからず、この事態を招いた愛奈ちゃんを、勇子ちゃんは責めます。



 すると、



「すごいねこっくりさん! あたしが銅の斧持ってるってわかったんだ!」


 愛奈ちゃんが服の胸元から銅の斧を取り出しました。


「持ってたんかい!! しかもそこにしまってたのか!!」


「ちなみにこの銅の斧は本物だよ。この前友香と校庭で宝探しごっこして、友香に地面を念力で掘ってもらったら出てきたの」


「あんたら人が知らないところで何してんのよ!!!」


 友香ちゃんは無言で、誇らしげな顔をしてます。


「さて、正直者のこっくりさんには、この銅の斧を差し上げましょう」


「正直者って何よ……っていうかどうやって渡すの?」


「それはもちろん……」


 愛奈ちゃんは台に向き直ると、


「死にさらせぇぇぇ―――!!!!」


 銅の斧を全力で投げつけました。


「ええええええええええええええええええ!!?」


 紙は台ごと真っ二つです。こっくりさんの最中にこんな事をしたのは、世界中を探しても恐らく愛奈ちゃんだけです。神をも恐れぬ不敬を何の躊躇いもなく実行した愛奈ちゃんに、勇子ちゃんは驚きました。友香ちゃんも、目を見開いています。


「あ、あんた何してんのよ!?」


「いや、こんな不気味な現象が起きてたら普通はこうするでしょ」


「しないわよ普通は!! っていうかあんたさっきまでノリノリだったじゃない!! 突然どうしたのよ!?」


「正気に戻ったんだよ」


「狂気にしか見えないわよ!!!」


 ひたすらボケ続ける愛奈ちゃんと、それにひたすらツッコミ続ける勇子ちゃん。あと、愛奈ちゃんは斧を投げた直後に着替えました。早いです。全く見えませんでした。


「な……」


 と、何か声が聞こえて、二人は漫才をやめました。


「ん? 友香、何か言った?」


「違う。十円玉から」


 友香ちゃんが指差すと、十円玉だけが真っ二つにならずに転がっています。


「な……な……」


 声はそこからしていました。



 そして、



「何するんじゃおのれはぁぁ――!!!」



 十円玉から着物を着た女性が飛び出し、愛奈ちゃんの顔面を殴り飛ばしました。


「ぼべはぁぁぁぁ!!!」


「なんか出た―――!!!」


 愛奈ちゃんは吹き飛んで後ろの壁に激突しました。


「強い力の持ち主がわらわを呼んでいると思って来てみたら、何じゃこの扱いは!? 呼び出しておいて殺しにかかるやつがあるか!!」


 女性はすごく怒っています。頭から狐の耳を、お尻から六本の尻尾を生やしている、普通ではない女性です。


「ま、まさか、これがこっくりさんなの!?」


「私も驚いてる。もっと狐っぽいって思ってたけど、萌え属性たっぷり」


 現れ方からして間違いありませんが、まさかこんな可愛らしいのが出てくるとは思わず、勇子ちゃんと友香ちゃんはどうしたらいいかわかりません。


「今の音は何ですか!?」


 そこに、音の正体を浩美先生が確かめに来ました。





 ◇◇◇





「本当にすいませんでした!!」


「もう二度とこんな事はさせませんから!!」


 事情を聞いた浩美先生と勇子ちゃんは、こっくりさんに謝っていました。


「……まぁ良い。今回は許してやる。それと、わらわの名は『りん』じゃ」


 こっくりさんは名乗ると、愛奈ちゃんを許しました。


「でも、よく愛奈のボケに付き合ってくれましたね」


「いや、ボケではない。わらわは本当に銅の斧を落としたんじゃ」


「マジかよ!! 奇跡だな!!」


 勇子ちゃん、口調が汚いです。

 りんさんは六百年ほど前、海外から渡ってきた妖怪と友達になり、その妖怪が海外に帰る時、銅の斧を受け取りました。

 ところが、それから二百年後に洪水が起き、斧が流されてしまったのです。

 りんさんはずっと斧を探していたのですが見つからず、愛奈ちゃんが見つけたのでした。


「これに免じてお前達を許してやる。というか、お前達わらわを見てずいぶんと平気そうじゃな?」


 りんさんは斧を手に取りながら、浩美先生に尋ねます。


「はあ……私の周りでいろんな事が起こりすぎて、感覚が麻痺してしまったというか……」


「右に同じ」


「私もです」


「あたしも!」


「……まぁ良いわ。では、わらわはもう帰るでな。別にまた呼んでも構わんが、今度は殺しにかかるでないぞ」


 しっかりと注意してから、りんさんは消えました。


「……あの台はお母さんに頼んで弁償する」


「え、そこですか?」


 友香ちゃんは唐突に浩美先生に言いました。





 ◇◇◇





「……あ」


 壊れたこっくりさんセットを片付け終えてから、愛奈ちゃんは窓の外を見ました。

 外は綺麗な晴れ模様。よく考えたら、りんさんが七分後にやむと答えてから、とっくに七分経っています。


「これでようやく帰れるね!」


「まったく……次からはもっと静かに待ちたいわ」


 もうこっくりさんはこりごりです。友香ちゃんはちょっと残念そうな顔をしてましたが。


「それじゃあ浩美先生! また明日!」


「はい! さようなら!」


 三人は浩美先生に別れを告げて、下校します。


「でももうすぐ梅雨になる」


「うう……そう考えると憂鬱だぁ……」


 友香ちゃんからそう言われて、愛奈ちゃんは溜め息を吐きました。

ちょっと早いですが、カオスな怪談でした。

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