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トランスレイター  作者: シロノコ
第1章 転生編
2/2

2 転移

 ここは明らかに現実世界そのものだ。しかし俺のリュックの中には異世界で入手した物が入っている。あぁそうか、つまりこれはいわゆる「お持ち帰りぃ~」をしてしまったのだ。

 仕組みはさっぱり分からない。ただ俺は現実世界の物を異世界に持ち込むことが可能であり、逆に異世界の物を現実世界に持ち込むことも可能なのだ。


「—————俺の特殊能力(スキル)しょぼっ!」


 などと言いつつ、俺は醤油味のカップ麺を頂く。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 考えたのだが、異世界より現実の方が居心地よくね?

 金も食料も家もある。働いてもまともに食っていけないあんな世界よりは全然マシだ。よし、俺やっぱこっちの世界で暮らす。


————そしてヒキニート歴3年目を迎えようとしている武綾勇翔のクソ生活があっけなく再開された。


 とはいうものの、することが相変わらず何もない。


「ネトゲでもして時間を潰すか」


 命よりも大切にしているPCを開き、ログインボタンをクリックする。黒の魔剣士、いざ参る! あっ、黒の魔剣士っつーのは俺のユーザー名だ。SNSでも同様の名前で登録している。


 シュパーンという音と共に光をまとってアバターが画面に表示される。


「さてやってきました。俺の第3の世界!」


 きっと現実世界が1つ目、昨日飛ばされた異世界が2つ目ということだろう。彼にとってはどこが本当の世界なのやら。

 彼のログインと同時にメッセージアイコンが一斉に飛び出す。


「あっ、黒剣くろけんさんがログインしてきた!」

「まじで!黒剣じゃん!」

「やべ、フレンド申請しないと!」


 あぁ、1つだけ言いそびれていた。俺は“ネットの世界じゃ”大大大有名人かつ、お友達多数なのだ!ホント俺の居場所はここっ!って感じだよな。


 まあ3年間家に引きこもってネットの世界に浸ってればこうなるか。などと考えつつ、イベントクエストのパーティを募集するため、募集ボタンを押す。1秒も経過する前にパーティが揃う。


「やった!黒剣さんのパーティに入れた!」

「やべスクショ撮らないと」


 などのコメントを見つつ、ポインターをボタンに合わせる。さて、開始しますかな。







-クエスト達成-


 いやぁ今日も報酬ゲットゲット。この金がリアルマネーだったらどれだけ嬉しいかなどと考えながら、パーティを解散する。


「黒剣さん、ありがとうございました!」

「フレンド申請したので良ければ!」

「またお会いできる日を楽しみにしております!」


 コメントを一通り拝読し、ログアウトボタンをクリック。

 さて次はSNSかな。


 そう言って開いたものの、やけに動きが鈍い。何故だろうと考えていたが、原因はすぐに判明する。通知の数がMAXにまで達しているからだ。


「黒剣さん、昨日浮上してなかったですけど何かあったんですか?」

「生きてますか!返事してください!」

「具合でも崩されましたか?」

「事故でもありました?」


 昨日1日異世界に飛んで浮上しなかっただけでこの状態だ。やれやれと思いながら呟く。


「俺生きてるぞ」


 送信と同時にいいね!のカウンタがまわっていく。1分で100ほどいっただろうか。生存確認が済んだところで、俺は布団へ向かう。


 画面ばっか見てれば疲れるっつーの。


 そして再び眠りにつく。






 3時間くらい寝てただろうか。かなり睡眠がとれた所で、今日の買い出しに行こうと思い、立ち上がったが…。


 「おい、なんでだよ…」


 「なんでまた…」


 そこは昨日訪れた異世界である。それも昨日寒さに凍えながら過ごした原っぱ。昨日ほどの驚きはないが、それでもまた元の場所に戻されたことによる驚きが隠せない。


 「気分が乗らないが、ここにいても変わらないし町に行ってみるか」


 そして名前も知らない昨日訪れた町にたどり着く。最初に向かったのは昨日ある意味お世話になった建設場だ。


 「ちーっす、勇翔でーす」


 軽い挨拶をすると、その場にいた男たちから嫌な目を向けられる。昨日俺に怒鳴ってきた胴体のデカい男が近づいてくる。


 「おい、テメエ!なに遅刻してきてんだ!」


 うわぁ、僕怒られた。しかも状況把握できてないんだけど。


 「今何時だと思ってんだ!もうすぐ今日の勤めも終わるぞ!」


 いやぁ、こっちの世界飛ばされたら昼だったんだし、仕方ないじゃないですか先輩。てかこっちの世界時計無いのかよ!


 「今日の給料は出ないだろうな。それどころかこの職を続けられるかも分かんねぇぞ」


 「そんなっ!俺そしたら飢え死にだぞ!」


 「知ったこっちゃねぇ。自分で何とかするんだな」


 こっちの世界じゃ俺やっていけない、と改めて実感する。けれど何も食わないのはまずいので、ここのリーダーと思われる男に頭を下げ、なんとかクビは逃れられた。


 「そして今に至る」


 時刻は分からないが、真夜中であることには間違いない。いわゆる居残り当番ならぬ、居残り仕事だ。勿論残業などではない。昼に働くはずだった時間と同じ分、今汗を流して働いている。




 そして日が昇り新しい1日が始まった。つまり仕事もリセットされ、また今日も働かないといけない。一睡もとっていない勇翔だが、今日の分の仕事を始める。


 「俺、働いても働かなくても死ぬんじゃね…」


 意識が朦朧としていたが、なんとか仕事を続ける。



 「今日もお疲れさーん」

 「また明日な」


 夕方になり、男たちが帰宅し始める。勇翔は給料の入った袋貰い、町を彷徨う。しかし、その足は睡魔でおぼつかない。


 「あっ、ダメダタオレル」


 足が止まり、今まさしく倒れようとしている時、前方から1人の女性が駆け付ける。


 「あなたっ、大丈夫?!」


 うわっ、このタイミングで女神降臨かよ…。でも俺の意識はもう持たなそうだ…。


 「ねぇ、しっかりしてよ!ねぇ!」


 段々言葉が聞き取れなくなる。


 あっ、もうだめだ……。





 物凄く長い眠りから目を覚ますと、そこは自分の布団の中だった。つまりあれか、寝ると異世界転移するやつ。なんとも分かりやすいんだ。


 時計を見て気付いたが、片方の世界で自分が起きている間、もう片方の世界の自分は寝ているということになる。これは少し考えないと面倒なことになりそうだな。


 あとは物を運ぶ俺の唯一の能力だ。昨日は何も考えずに寝たので何も所持していなかったが、次からは考えて物を運ぶことが出来る。


「これは、面白くなってきたぞ」


 と、少し笑みを浮かべ、現実世界での1日がまたスタートする。

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