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2、天使の色

ピタピタピタピタ・・・・。

おでこに当る可愛い感触に、クスリと笑いがもれた。

目をあけると。


「おはよう、ユウ。」


ユウが嬉しそうに、私を見ていた。

おでこに当っていたのは、ユウの小さな指。

ぎゅっ、と握る。

たった、これだけのぬくもりだけど。

安心できるぬくもり。


んーーー、っと布団の中で伸びをすると、ユウが私の手を引っ張った。


「お腹すいたの?ちょっと待って、昨日時間がなくて食べるもの何も買っていないから、コンビニに行こう?」


私はそう言って、パイプベッドから降りて、バスルームへ足を向けた。




ここは『キャバクラチェリー』の社員寮。

8畳の1ルームだけど、キッチンとバストイレがきちんとあって、最低限だけど家具も備え付けだった。

だから、私たちみたいに突然でも何も困ることがなく、本当に助かった。


ユウはまだ小さいから、シングルベッドでも一緒に眠れるし。

まあ、お給料が入ったら、ダブルのお布団を買ってもいいかな。

何か、この街へきて、ホッとした。

やっぱり、思い切って生活を変えて良かった。

この街で、ユウとのんびり暮らそう。


そうすれば、ユウも。

また、話せるようになるかもしれない・・・。




コンビニへ行って、パンでも買おうと思ったけれど。

その手前にあったパン屋の匂いにつられて、ついユウの手を握り入ってしまった。


はっきり言って、すごく本格的なお洒落なパン屋だった。

パン屋というより、ベーカリー?

見ただけで、美味しそうと思えるパンの数々。

私はさっそくトレーを持って、ユウにどれにする?と、問いかけた。

ユウは、どれもおいしそうで迷っているようだった。


そんな仕草も表情も久しぶりで。

半年前からずっとユウは、言葉と一緒に表情も失っていた。

こういう事が本当に嬉しい。


迷っているユウに、いっぱい迷って決めていいよと言い、私は自分が食べたいパンを選び出した。


本格的な割に、値段がリーズナブルで驚いた。

やっぱり、いい街かも。

なんて、思っていたら。


「あ、あぁ、そ、それっ、けっこう、か、辛いぞっ?辛いの好きかっ?好きじゃなかったら、こ、こ、こっちがお勧めだぞっ!う、うめぇからっ、ちょ、ちょっと食ってみな?」


なんて、大きな声でユウに話しかけている男の人が出現した。


「ユウ?」


いきなりすごい勢いで話しかけられて、ユウが驚いているんじゃないかと心配になり、名前を呼んだのだけれど。


「あ、この子の、ね、ねーちゃんか!?この子、ユウっていうんか?ユ、ユウは、辛いもんだ、大丈夫かっ!?」


男の人が振り向いて、いきなり私に話しかけてきた。

って、この人・・・・!

私は目の前の男の人に驚いた。

こんな人・・・見たことない・・・。

そう思っていたら。


「おいっ、ノリオっ!何で会計する前に、勝手にパン食ってんだ!?」


店の奥から、大柄で赤毛に緑色の瞳の白い服に白いエプロン、白い帽子のオジサンが、綺麗な日本語で文句を言ってきた。

って、ええっ!?勝手にこの男の人、売り物のパンを手で持って、ちぎって口へ入れている!?

えええっ、ユウにも食べさせてる!?


「あ、す、すみませんっ、買います!買いますからっ!!」


慌てて私がそう言うのだけれど、パンを食べてる男の人は大丈夫大丈夫と言って。


「コージさん!パ、パンのあ、味見のやつ、くらいおいておかないとっ。この子たち、この街来たばっかで、この子、わ、わかんないからっ、この辛いパ、パン買うところだったんだぞっ!?」


いや、それは店側のやり方で、仕方がないと思うんだけど・・・。

それよりも、何で私達がこの街に来たばかりってわかったんだろう?

でも、この店の人もパンを食べている男の人の話を聞いてあっさり納得したようで。


「あー、そっかー、そりゃぁ悪かったなぁ・・・ここらみんな知り合いばっかだから、そんなことまで気がつかなかったなぁ。坊主、辛いパンあっから、気をつけろ?」


びっくり・・・まさか、こんな展開になるなんて。

都会ではありえない。


とそこへ。

どやどやと大人数のお客さんが次々と入ってきた。

早めに、買ってしまおう。


ちらりと、男の人を見ると、さっきのちぎったパンを皆に食べてみてーと言って勧め、試食させている。

その上、そのパンを皆に買うように勧め・・・うそ、皆トレーに乗せた・・・。

すごい、販売力。


会計をしてもらいながら、その様子を驚愕の表情で見ていると。


「あー、ノリオにはかなわねぇや。結局、あいつが来ると助かるんだよなー。って、坊主のおかげか?よし、おじちゃん、これ坊主にサービスな?後で食べろ?」


そう言って、パンの袋にお魚クッキーを1袋入れてくれた。





何か、不思議な店だった。

見た目は丸っきりの西洋人なのに、完全な日本語を話す気のいいパン屋さん。

店を出る時、まだあの男の人はパンを皆に勧めていた。

って、さっきのパンはもうなくて、違うパンを勧めだして・・・皆、またそれをトレーにのせている・・・。

決して無理やりじゃないのに、皆勧められるまま買うようだ。

何か、ドンドンお客さんも店に入って来ているし・・・。


魔法みたい・・・。


ううん、あの男の人だからかもしれない。

だって、あの男の人の持つ色って・・・とてもきれいな色だったから。


たとえて言えば・・・穢れを知らない、天使みたいな色が見えた――



天使の色をもつ人がいる街・・・きっと、私たちはここで幸せになれるよね?





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