雪との別行動
未軌が雪と別れナオ草を探索してから2時間ほど経ち段々と日が降り始めた頃、未軌は既に目標の20本は越え35本のナオ草を採取していた。
(そろそろ日も暮れる。集合場所の入り口に戻るか)
未軌は目の前にある2本のナオ草を採り入り口に向かおうとした。
ガサガサッ
未軌は後ろで音がしたと共に振り向き構えた。
音がした場所を見ると3体のモンスターがいた。
「ギ、ギギィッ!」
「ゴブリンか」
未軌は慌てることなく出てきたゴブリンを警戒する。
ゴブリンは駆け出しの冒険者が一番初めに戦うと言われるモンスターだ。
それはゴブリン自体が子供ほどの背丈しかなく、力も余り強くないからだ。
しかし、以外にゴブリンによる被害は大きく、その一番の理由としては個体数がとても多いというものだ。
ゴブリンの繁殖力は高く常に3体以上で行動しており、連携が取れなくとも駆け出しの冒険者には同時に攻撃され、それを避けきるのは難しく被害が出てしまう。
その為ギルドでは駆け出しの冒険者にパーティーを組むことが推奨されている。
未軌が目の前のゴブリンを警戒していると1体が未軌に真っ直ぐ走り出し、あとの2体もそれに続いて走り出した。
未軌は構えを解きゴブリンが近くまで来るのを待つ。
ゴブリンは武器を大きく振りかぶると力任せに振り下ろした。
未軌は身体を反らすことで避けるとゴブリンの頭に手を乗っけた。
途端にゴブリンは全身から力が抜けたように崩れ落ち、残りのゴブリンも攻撃を避けながら未軌が触れると崩れ落ちた。
「やはりステータス自体は触れないと奪えないか」
未軌はそれだけ言うと何事もなかったようにゴブリン達に背中を向け入り口へ向かった。
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未軌が入り口に着く頃には日が暮れ、辺りは暗くなり始めていた。
入り口には既に雪が居り、ナオ草の採取わ、完了していた。
ナオ草は合計78本になり上々の結果だった。
「未軌さん。モンスターには遭遇しなかった?」
「あぁ、ゴブリン3体に遭ったな」
「そう。やっぱりここのモンスターは弱いものばかり。」
「何かあったのか?」
「いえ。私達が飛ばされて来た最初の森のモンスターはここのモンスター程弱くなかった。だから違和感みたいなものを感じて」
「確かにそうだな。因みにここのモンスターのレベルは見たか?」
「ええ。大体がLV6程ね。」
「道理で弱いわけだ。まぁここは駆け出しの冒険者が来る様な所だ、定期的にモンスターを掃討してレベルの高い個体を出さない様にしているんだろう」
「そうね。」
「それよりもう日が暮れた。早く街に戻ろう」
未軌はそう言い街へ向かい、雪も未軌について行く。
帰り道では特に何もなく、無事街に戻れた。
未軌は真っ直ぐギルドへ向かいナオ草の依頼を終えようとした。
未軌がギルドに着き、扉を開けるとすぐに声が掛かった。
「君!」
それは先程未軌に絡んだガウルと未軌を止めたマント・・・レニィだった。
未軌は目を向けることなくカウンターへ向かう。
「無視するな!」
レニィは未軌の肩を掴もうとするが、それは叶わなかった。
「あれ?」
「ほらっ」
未軌が振り向きレニィに何かを投げた。
「えっ?う、うわ!わた、僕の腕が!ってあれ?」
レニィは腕をキャッチしたと思ったらいつのまにか腕は戻っており、また騒ぐ。
未軌はその内にカウンターに着いた。
「ナオ草の依頼だ」
「畏まりました」
受付嬢は未軌から受け取ったナオ草を数える。
「き、君!」
そしてまたレニィが未軌のところへ来る。
「はぁ、何だ」
「さっき僕に何をした!」
「煩い。黙りなさい。」
未軌が答えるよりも先に雪が未軌の前に出た。
「貴女はさっきから未軌さんの迷惑になっているのが分からないのですか?それに未軌さんは初めに声を落とせと言いました。それに貴女は未軌さんに嘘をつきました。タダでさえ顔を隠しているのにそんな怪しい人間と話すと思いますか?スニー・イナ・レニィお嬢さん?」
「・・・」
レニィは唖然とし眼光を鋭くする。
「何処でそれを」
「さあ?」
瞬間、レニィは雪に鋭く突きを放つ。
雪もそれを避けながら手刀を放つ。
しかし、2人の手は放ちきる前に床に着いた。
2人は両手を床に着き跪いていた。
その顔は絶望の一色で染まっており震えていた。
「お前ら2人とも黙れ」
直ぐに2人の顔は元に戻ったが震えている。
雪は自分に何が起こったのかが分かったが、レニィは今の絶望と何故いきなり絶望した理由が分からず困惑していた。
2人は未軌がカウンターで依頼を済ますまで一歩も動かずにいた。
「雪、行くぞ」
「はい。」
「ま、待って」
レニィは押し出す様に声を出したが、その声は最初の様な張りは無く弱々しいものだった。
未軌は相手にすること無くギルドを出て行った。
未軌は東門からギルドの間にあった宿、「憩」に泊まることにした。
憩まての道中未軌は静かに歩いていたが後ろにいた雪は俯いたままだった。
憩の戸を開けると元気の良い声が聞こえた。
「いらっしゃい!お泊りかい?」
未軌達を迎えたのは茶髪で腰まで三つ編みが垂れた少女だった。
少女は活発そうな雰囲気に似合わず足首まである長いワンピースを着ていた。
「泊りだ。2人部屋を3泊頼む」
「頼まれた!それとお客さん、彼女さんを泣かしちゃいけないぜ?」
「そういう関係じゃない」
「それでも女の子を」
「いいから部屋を案内してくれ」
「ちぇ、つまんないの。3泊で4,500Gだよ。飯は一食500Gだから是非食って行ってくれよな」
未軌は少女に5,500Gを渡す。
「夕食2人分だ」
「おう!部屋は2階でカギはこれだ、夕食は出来たら持って行くから部屋にいてくれよ?」
未軌は頷き少女からカギを受け取ると階段を上っていく。
部屋は2階の一番奥にあり、扉は意外と丈夫そうだった。
扉を開けると部屋の中央に机と椅子があり、部屋の両角にひとつずつベッドがあった。
未軌はブレザを脱ぎ椅子にかけるとベッドに腰を下ろした。
しかし雪は扉の前にたったままだ。
「おい」
「はい。」
「面倒を起こすなと言ったはずだ」
「はい。」
「さっき絶望した時何が見えた」
「み、未軌さんが私に背を向けてい無くなることです。」
「・・・嘘は無いな。なら何故相手を挑発した」
「それは!あの女が未軌さんの迷惑になると思って。」
「確かに迷惑だったが、さっきお前が挑発した時の奴の目を見たか?」
「・・・はい。」
「お前を殺す気だったぞ?俺はこの街であまり目立ちたく無い」
「はい。」
「暫く別行動にする」
「えっ!でも!い、嫌だ!」
「ダメだ。別にここでお別れってわけじゃ無い。そうだな、この宿に泊まっている3日間は宿以外では別行動だ」
「そんな・・・。」
雪は膝から崩れていき跪く。
コンコンッ
「夕食を持ってきたよー!」
扉の向こうからさっきの少女の声が聞こえた。
未軌が立とうとする前に雪が静かに立ち扉を開けた。
「はい、これ二人分ね。ばいばーい」
少女は元気良く去っていく。
雪は少女から受け取った夕食を机に置いた。
2人は席に着くと静かに食べ始めた。
「未軌さん・・・」
「何だ」
「私。3日間ちゃんと別行動します。」
「あぁ」
「私、どんな罰でも受けます。」
「俺はお前に罰を与える立場じゃ無い」
「それでもです。だから。捨てるなんて言わ無いで。」
「・・・分かった」
未軌は直接雪の顔を見てい無いが泣いているのは分かった。
そして自分がまだ、心に罪悪感や後味の悪さを感じることを知った。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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