依頼と雪の思い
掲示板には幾つかの依頼書がランク毎に貼ってあり、未軌はEランクの依頼書を見るが、どれも掃除や配達などでステータス強化につながるものは無かった。
未軌はステータス強化より今日泊まる場所を確保する為にこの街では資金集めを中心にする事にし、報酬の高い依頼を探した。
目に付いた依頼は2つ。
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・チグちゃん(犬)の捜索
期限ーなし
報酬ー5,0000G
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この依頼は貴族からの物で、報酬は他の依頼に比べて結構高い。
これを受けている者がいないという事は恐らく張り出されたばかりなのだろう。
もう一つの依頼は
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・ナオ草の採取
期限ーなし
報酬ー200G×本数
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という物で、やればやるだけ報酬が増えるという依頼だ。
「悩んでいるの?」
「まあな」
「どちらも受ければ解決できる。」
「・・・確かに。期限もないしそうするか」
未軌は2枚の依頼書を掲示板から取るとカウンターへ持っていく。
さっきのカウンターの受付嬢は怯えているようなので他のカウンターにした。
「こんにちは!依頼の受付ですね!」
「あぁ」
カウンターに居たのはピンク色の髪が違和感無く似合う元気な少女だった。
「依頼は2つ同時に受けられるか?」
「はい、最大3つまでとなっていますので大丈夫です!」
「ならコレとコレを頼む」
「かしこまりました!ギルドカードを提示して下さい」
未軌がカウンターにギルドカードを置くとカウンターの中で何かしらの手続きを行い帰ってきた。
「それでは頑張って下さい!」
未軌は最後まで元気だった少女に少しの疲れを感じギルドを出て行った。
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未軌は取り敢えずは宿代を集めるためナオ草の採取し、明日にペットの捜索をする計画を立てた。
依頼書には街の東門から出て真っ直ぐに行った林に生息している、と書いてあったので林をめざし街を歩く。
大通りは人が多く、人と当たりそうにもなる。
未軌は一人一人当たらないように歩き雪もそれに続いていた。
ドンッ
「あぁ?!」
未軌が後ろを振り向くと服を着崩した男が2人、雪を睨んでいた。
(はぁ、この街はそんなに治安が悪いのか・・・)
雪は本日2度目となる絡みを受けていた。
「オメェなにぶつかってんだよ!服が破けちまったじゃねぇか!」
男は元々破けていた箇所を指差し雪に怒鳴る。
「大変ですね。」
「なに他人事みたいに言ってんだ?オメェの所為で破れたんだよ!」
「いえ。その布は最初から破れていましたよ?」
雪は臆すること無く言う。
男は徐々に頭に血が上り手が震えている。
「やめろ」
「なんだテメェ!」
「彼女は俺の連れだ、お前が黙って引くなら此方は手を出さない。雪も挑発するな」
「すみません。」
「テ・・・テメェッ!」
男は道の真ん中であることを気に留めず大振りで未軌に殴りかかる。
未軌は最初から殴ってくると思っていたので上手く躱し背中を脚で押し、男を路地へ倒す。
「クソォ、なめやがって!」
再び男のパンチを上手く躱すとその顎に拳を当てる。
男は糸が切れた人形の様に意識を失い倒れる。
「テメェ、よくも相棒を!」
もう1人が懐からナイフを取り出すと素早く未軌がナイフを奪う。
「テメェらコレでやつざ、って俺のナイフがっ!」
いつの間にか未軌に奪われたナイフを見て男が驚く。
未軌はナイフを地面に刺し男に言う。
「その男を連れて失せろ」
「く、クソォ!行くぞ相棒!」
男は倒れたもう1人の男を連れて未軌の前から去って行った。
「雪、面倒を起こすなら俺とは別れてもらう」
「っ!?ごめんなさい!もうやらないわ。だから別れるのはやめて。」
雪は縋る様に未軌に言う。
「あ、あぁ」
未軌は突然の雪の態度に驚き、狼狽える。
雪は何時もの無表情では無く今にも泣きそうな顔をしていた。
未軌が狼狽えたのも一瞬で直ぐに目的の門へと向かった。
雪も直ぐに未軌のあとに続いた。
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東門は人通りが多い分門自体が大きく意外と早く外に出られた。
外の道も横幅が広く歩いている人と馬車に乗っている人に別れていた。
未軌達は東門から出てまっすぐ進み林を目指していた。
周りには討伐か採取か他の冒険者も何組か歩いていて迷うことはなかった。
「雪、ナオ草は知ってるか?」
「朝食の準備の時に見たことあるわ。」
「見つけたら教えてくれ、形を確認したら別々に探す」
「・・・分かった。」
林に近付き周りからは商人は消えちらほらと冒険者が見えるだけだ。
未軌達は早速ナオ草の探索を始めた。
ナオ草は案外早く見つかり、未軌は形や臭いを確かめていた。
「ノルマは20本づつだ。ここには4本ある、残りはお互い18本づつだ」
「分かった。集合場所は?」
「この林の入り口にする、集まらなくても夕方には集合だ。それと緊急事態が起きたら迷わず逃げろ」
「分かった。」
話し終わると2人は別れ、ナオ草の探索をそれぞれ開始した。
side雪
未軌さんはまだ私に心を開いてくれない。
昨日の夜未軌さんが戻ってきた時は私の願いが叶ったんだと思いました。
戻ってきた未軌さんはもう私の知っている未軌さんでは無かった。
いつもの優しい雰囲気を出していたのに彼処に立っていた未軌さんからは刺々しく何も受け付けない空気しか流れていなかった。
多分未軌さんはあんな女でも心の支えにしてたんだと思います。
あの女は学校でも軽い女だと有名でした。
未軌さんは全く信じず、むしろ私に苦手意識を持っている様でしたがそれでもあの女に遊ばれている未軌さんを見るのは耐えられませんでした。
未軌さんは唯一私の日常に花をくれた人。
私と未軌さんは中学が一緒で中学校では私も虐められていた。
キッカケは簡単なもので女子に人気の男子に告白されてそれを断った事だった。
最初は陰口や仲間外れからだったけど段々とエスカレートしていき、暴力や物を壊されるなど過激になっていきました。
そして女子トイレで暴力を振るわれるのが日常化しようとしたある日、虐めを行っている女子のグループが私をトイレに入れようとする時、偶々同じクラスだった未軌さんが通りかかりました。
未軌さんは一瞬止まると清掃用のバケツに入っていた水を女子のグループにかけた。
女子達は悲鳴を上げると逃げて行き、彼は反射的にやったのか、’やってしまった’という顔をして急いで何処かへ走って行った。
その次の日から虐めの対象は未軌さんになった。
しかも内容は私より酷く、男子女子どちらにも虐めを受けていた。
それでも彼はあの女の前では笑顔でいて、楽しそうだった。
私の家の隣には大きな道場があった。
いつも気合が煩いな、と思っていたのにある日それが楽しみなった。
未軌さんが、学校を休んだ日にプリントを届ける人が1人も名乗り上げず私が行く事にしました。
私は一度家に戻ってから未軌さんはの家に行こうと思い帰りました。
準備を終え外に出ると丁度道場の人たちが帰宅する時間で門から人が出てきました。
私はその中に未軌さんを見つけました。
彼は静かに帰宅していて、その雰囲気はいつもと違って素人の私でも分かるほど静かで鋭いものでした。
私は話しかけるタイミングを逃しソワソワしていると彼から話しかけてくれました。
「どうしたの?」
「こ、これ!」
私はプリントだけを渡すと家に逃げてしまいました。
翌日、いつもと変わらずつまらない学校でしたが、家に帰ってから自分の部屋で聞こえる道場の気合の声を聞いていると、彼を思い出せ楽しく幸せになりました。
その日以降、道場の気合から未軌さんの声を聞き分けるのが日課になりその時だけが私の幸せな時でした。
でも彼は変わった、いえ、変えられました。
私はどんな彼でも受け入れますが、彼にあそこまで人を変えるほどの苦しみを与えた人達を私は絶対に許さない。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回、視点変更でside雪というものを使いましたが読みにくいなどかあれば変更させてもらいます。
そのほかにここを直した方がいいというものがあればコメントなどで指摘して貰えると助かります。