力と小川 雪
周りは暗く落ちているのかも、止まっているのかもわから無い。
穴に落とされてからどれ位だったのかもわから無い。
耳を澄ませても何も聞こえず、手を伸ばしても何も掴め無い。
(もしかして僕はもう死んでるのかな。それもそうかもしれ無い、覗いても底が見えない位だし)
未軌は穴に落とされるまでのことを思い出していた。
(若葉はもう僕の知っている若葉じゃ無かった。昨日の夜見たのは小川さんだったのかな・・・。
なんで僕は虐められてたんだろう。
なんで僕の周りの人は僕から離れていくんだろう。
なんで僕は嫌われてるんだろう。
なんで僕は・・・
なんで・・・
・・・)
いくら考えても未軌が感じるのは闇と静寂のみ・・・ではなかった。
『それはお前が弱いからだ』
(え?)
『お前が何かを奪われ蔑まれるのはお前が弱いからだ』
(僕が・・・弱い・・から?)
『そうだ』
突然聞こえた声は初めて聞く声だった。
しかし、それは自分の声より親しく感じ、すんなりと心に入ってくる。
『弱い者は何時も蔑まれ、奪われ、そして絶望する』
(でも、僕には味方がいた)
『本当にそれは味方だったか?』
(・・・)
『ただお前を哀れな目で見て中途半端に味方して自己満足に浸っていただけじゃないのか?』
(でも小川さんは!)
『お前は自分の見たものを信じたくないだけだ』
(・・・じゃあどうすればいいの?)
『答えを教えてもいいが、お前はそれでいいのか?』
(だって・・僕は・・)
『ならヒントだ』
(・・・ヒント?)
『あぁ、お前はこれまで周りの環境や、友達、他にも色んなものを与えられてきた。
このヒントもそうだ。
ならこれからはどうすればいい?』
(僕は与えられてきた・・・。
この肉体は?道場の師範からだ。
考え方は?母さんや父さんの優しさや強さを尊敬している所からだ。
周りの友達は?若葉の紹介ばかりだ。
環境は?その友達によるものだ。
・・・僕は与えられてばかり)
(ならどうするれば?
違う!また僕は人から与えられようとしている。
自分で答えを掴むんだ。
自分で考えて、掴んで、奪ッテ!)
未軌に語りかけていた声はいつの間にかに消えていて、また静寂が訪れていた。
しかし、さっきと異なる点があった。
それは未軌の手が何かを掴んでいることだ。
《スキル『奪って笑う』ヲ取得シマシタ。》
未軌は手に掴んだ物を引き寄せる。
手には黒い球があり、それはゆっくり未軌の手に浸透していく。
未軌はそれを受け入れた。
・
・
・
気付くと私は穴の前にいた。
私は水本君が心配でこっそりと後を付いて行った。
佐々木さんと水本君が穴の前で何かを話していて、佐々木さん・・・佐々木の背後からこっそりと須藤が近づいているのが見え、水本君の危険を感じた時には遅かった。
私が水本君に声を掛けようとした瞬間、佐々木が水本君を押し、穴へ落とした。
何が起きたのか理解でき無い。
あの穴が『底無しの穴』だって事は知っている。
そこに落ちた水本君は・・・つまり・・・。
目の前が真っ暗になった。
何も考えられ無い。
水本君が居ない。
私の初めての友達と呼べる友達で、初恋の人。
色が無かった世界に色をつけてくれた人。
地獄としか思え無かった時間に花をつけてくれた人。
その人が・・・水本君が・・・未軌が・・・。
心の中に黒い感情が流れてくるのを感じる。
すんなり受け入れれば簡単にあの2人を殺せるだろうけど、そんなんじゃ私の、未軌さんの無念は晴らせない。
でもあの2人は許さない。
絶対に許さない。
・
・
・
俺はいつの間にかに穴の目の前にいた。
辺りは暗く獣の鳴き声が聞こえる。
(穴に落ちる前の自分が馬鹿みたいだ。ん?)
未軌は穴を挟んで反対側に人影を見つける。
それが誰かは既に気付いていた、しかしここに居る理由が分からない。
「水本・・・君?」
その人物は未軌を見て目を見開く。
「小川か・・・」
「本当に水本君なの?」
未軌は無言で雪に背を向け歩き出す。
「待って!」
雪が未軌を追い走り出す。
未軌は気にせず歩く。
雪と未軌の距離が10mに迫った途端に雪の右腕が肩から無くなる。
その断面からの出血は無く、最初から無かったかのように消えた。
雪は一瞬驚くが気にせず走る。
「なっ!」
流石の未軌も腕を『奪った』にも関わらず走り続ける雪に驚く。
雪は右腕に続き左足も付け根から無くなる。
雪は足を失いバランスを崩し転ぶ。
未軌はあしもとで自分を見上げる雪を見る。
「水本君。何で?」
「・・・」
未軌は雪を一瞥すると再び歩き始める。
「未軌!」
「・・・なんだ」
「どうやって出てきたの?」
「教える義理はない」
「どこに行くの?」
「教える義理はない」
「・・・私も連れて行って!」
「本気で言ってるのか?」
「もちろんよ。」
「お前は俺を裏切った者の1人だ、連れて行くわけないだろ」
「私。未軌を裏切った事なんて無い!」
「・・・なら今から質問してく」
未軌は雪の頭に手をかざすと何かを掴んだ。
「今、お前から『俺に対する嘘』を奪った。その上で質問していく。」
「わかった」
「お前は俺を裏切ったか?」
「裏切ってない」
「何故俺に付いてくる」
「それは・・・」
「答えろ」
「水本未軌に好意を抱いているし、貴方がいないあんな集団に居てもただの地獄だから」
雪は微かに頬を赤らめるが強い眼差しで未軌を見る。
「・・・お前のスキルは?」
「転移者」
「能力は?」
「短距離から長距離まで自分の視界の中を転移すること」
「最後に聞く、なんの思惑もなく俺に付いて来たいか?」
「いいえ」
「・・・」
未軌の目から光が消えていく。
「思惑とは?」
「・・・ーーーい」
「あわよくば。この世界で貴方の側にずっと居たい!」
未軌は無言で再び歩き始めた。
「待って!」
雪は『右腕』を伸ばした。
「?!」
雪は『左足』も戻っているのを確認すると未軌を追った。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回は雪の視点があったのですが、side雪、のように文頭に誰視点かを書いたほうがいいか迷いましたが、無しの方向で書いてみました。
他にも、直した方が良さそうな所やアドバイスがあればメッセージやコメントで指摘してもらえると、助かります。