不安の結末
翌日、未軌は目の下のクマが取れないまま朝を迎えた。
(昨日のは小川さん、いや!そんなはず無い!小川さんだけはこっちに来てもずっと僕に話しかけてくれてて・・・でも・・・)
未軌は思考がループし続けていた。
「水本君。おはよう。」
後ろから聞こえた雪の声に、ビクッと肩を震わせながら未軌はゆっくり振り向いた。
「小川さん、おはよう」
「雪って呼んでよ。それより顔色悪いよ?何かあった?」
「だ、大丈夫!それより朝食を摂ろうよ」
未軌は慌てて雪から離れた。
もともと未軌は道場通いで友達は少なく、会話するのは得意ではなかった。
事務的な受け答えや学校での事を話すのは平気だが、趣味や遊びの話はまるっきり苦手だった。
そんな未軌と話すのは若葉や雪、道場に通っている生徒や師範代で、その中でも学校でも話すのは若葉と雪くらいで、学校では基本授業の予習や復習をしていた。
その2人の内若葉はこの世界に来てからよそよそしくなり、雪まで・・・と思うと未軌は眠れるどころではなかった。
未軌を見て首をかしげる雪を朝食に誘い話を変えようとする未軌に、雪は言う。
「何があったの?水本君。変よ?」
「そうかな?昨日の夜は眠れなくて疲れてるのかもしれない」
「そうなの?ちゃんと寝なきゃダメよ?」
「う、うん。心配させてごめんね」
「気にしないで。」
そう言うと、雪は未軌の手を取り器ん取りに行った。
「お、小川さん?」
「ご飯食べて元気出して。」
「あ、ありがとう」
未軌は頭の中で昨日のは見間違いだと1人で納得して頭の中を切り替えた。
丁度2人が朝食を済ました頃、未軌の元に若葉がやって来た。
「未軌君おはよう、突然なんだけど今日は探索組を手伝って欲しいの、平気かな?」
「おはよう若葉、なんで僕が探索組を?」
「それがね、昨日の夕食の時、探索組がいなかった分食料が少なくて、探索組の夕食が少なかったの」
「それで僕が食料を運ぶ係を?」
「うん、荷物係みたいで悪いんだけど、お願いできない?」
「でも、僕弱いよ?」
「大丈夫!私も守るし、探索組の皆んなも守るから!」
「うーん、まぁ、若葉が守ってくれるなら安心だよ!分かった、今日は探索組を手伝うよ」
「未軌君、ありがとう!じゃあ準備が出来たらロッジの前に来てね!」
「分かった」
「私は先に行ってるね〜」
未軌は若葉の背中を見て少し安心していた。
その一方、若葉の背中を怒りの念が篭った目で睨む者がいた事は誰も知らない。
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探索組のメンバーが全員集まると、早速出発した。
探索組の中で、未軌はモンスターを警戒し周りを見回していた。
「どう?モンスターはいた?」
「目に見える範囲ではいないね、小川さんは見つk・・・小川さん?!」
「はい。小川雪です。」
「な、なんで小川さんが此処に?!」
「水本君1人じゃ危ないでしょう?」
「いや、今日は探索組の人達もいるから!」
「そうね。でも此処まで来てしまったし。遅いわ。」
「遅いわって、でも小川さんって凄く強かったし平気そうだね」
「あなた。私の心配より自分の心配をしなさい。」
「うん、確かにね。僕は一番弱いからね」
未軌が苦笑すると、雪の表情が一瞬緩んだ・・・気がした。
ガサッ
未軌が再び辺りの警戒に集中した瞬間、探索組の先頭辺りの生徒の頭上から全長10mはある紫色の大蛇が現れた。
生徒達は即座に避けたが、須藤と話していて気を取られていた若葉が1人反応しきれなかった。
「若葉ッ!」
未軌は咄嗟に若葉へ走るがどう考えても大蛇より先にたどり着けない。
(クソッ!こっちに来ても初めて使うけどッ!)
「水本流脚術『流迅』ッ!」
途端、隣にいた雪は未軌の姿を見失い気づいた時には未軌が若葉を抱え、大蛇から若葉を逃していた。
「皆んな!ポイズンスネイクを引きつけて!魔法が使える者は僕の合図で一斉に砲火してくれ!」
神崎の指示で直ぐに大蛇は討伐された。
未軌は戦闘が行われてる場所から離れ震える若葉に優しく声をかける。
「若葉、平気だよ。さっきの蛇は神崎君達が倒してくれたから」
「うん、未軌君・・・私怖かった」
「大丈夫、若葉は僕が守るから」
「・・・・」
若葉は未軌に抱き着き小さくすすり泣いていた。
戦闘が終わり大蛇から必要な物を剥ぎ取った生徒達が若葉を心配する。
その頃には若葉は未軌の隣に座っていて、須藤からは「腰抜けが逃げた」と言われ、神崎には「勝手に行動するのは危険だ」と注意された。
雪は少し離れた場所から静かに未軌を・・・未軌に抱き着きていた若葉を見ていた。
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探索は順調に進み、途中で湖を見つけたのでそこで休憩を取ることになった。
若葉は須藤のグループで話しながら昼食を摂り、未軌は雪と昼食を摂っていた。
「水本君。さっき佐々木さんを助けた時のは何?」
「あれは僕の道場で習う基本中の基本で、体内での力の流れをコントロールして移動に応用したものなんだ」
「難しそうね。」
「そうでも無いよ?僕なんか1週間かかったけど、小川さんなら3日もかからないと思うよ」
「そんなものなの?」
「うん、簡単だよ」
「なら帰ったら教えて欲しいのだけど」
「全然構わないよ!ロッジにいても食料集め以外やる事が無いからね」
未軌と雪が話していると、そこに若葉がやって来た。
「未軌君・・・」
「若葉!もう平気なの?」
「うん、それより話が・・・」
「あぁ、小川さんちょっと・・・」
「気にし無いで。行ってらっしゃい。」
若葉は未軌の手を取り探索組から離れる。
「未軌君・・・さっきはありがとう」
「うん、気にし無いで、僕も若葉に腕を治してもらったし」
「あの時あの蛇と目が合って、私怖くて動けなくて・・・未軌君が居なかったら私どうなってたか」
未軌と若葉は歩きながら周りを警戒していた。
「未軌君?なんか怖いよ?」
「周りを警戒し無いといつモンスターが出るかわから無いから」
「あぁ、それなら平気だよ、内村さんが結界師っていうスキルを持ってて、ここら辺のモンスターなら入れ無いから」
「ヘぇ〜、あ!だからロッジにモンスターが入ってこ無いのか!」
「そうだよ、じゃなかったら夜も眠れ無いよ」
若葉はクスクスと笑い、未軌は恥ずかしそうに頭を掻く。
2人が歩いてると目の前に大きな穴が現れた。
その穴はとても大きく、直径15m程で底は見えず、吸い込まれそうなほど暗い闇のみだった。
「な、何だろうこれ。少し怖いな」
「未軌君、これはね『底無しの穴』って言うんだよ」
「底無しの穴?何で若葉ぎ知ってるの?」
「この穴は昨日たまたま見つけたの」
「そ、そうなんだ。落ちたら危ないし離れようよ」
「そうそう、未軌君」
「なに?」
「昔、私が高い木に登って降りれなくなっなとを覚えてる?」
「うん、覚えてるよ」
「あの時ね、未軌君が梯子を持ってきて助けてくれて私とても嬉しかった」
「そ、そうなんだ」
未軌は恥ずかしそうに若葉に背を向ける。
必然的に目の前には底無しの穴が来る。
未軌は怖かったが、今は恥ずかしさの方が強かった。
「でもね、高校の入学式の日助けてくれたでしょ?あれは凄くイラついた」
「え?」
未軌は後ろを向くのが怖くて向けなかった。
「折角中学から付き合ってた須藤君と同じ高校で、須藤君・・・裕也の友達と話しかけてくれたのに」
(ゆ、裕也?友達?話しかけてくれた?)
「そこで思ったの、未軌君って邪魔だなって」
「な、何を」
「私がいくら遊びに誘っても道場!道場!昔はあんなに好きだったのが本当に馬鹿らしい。何かあれば若葉っていって邪魔してきて」
「それは若葉が困ってると思って」
「困ってる?私はもう高校生なの、男子に話しかけられて何で困るのよ」
「そ、それは」
「でもね、私、未軌君を好きだった気持ちがある時もあったの。だから最後は私が・・・」
「最後っt」
トンッ
「え?」
未軌は自分の体が穴に落ちていくのを理解できず、ただ後ろを振り向くだけだった。
そして見えた若葉の顔は笑顔で、それは未軌を嘲笑っているようだった。
何時からいたのかわから無いが、須藤が若葉の肩に手を載せこちらに卑下た笑みを向ける。
「じゃあな?ゴミ本君♫」
その瞬間未軌は全てを理解し、絶望した。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回は結構急足のような気がします。
アドバイスや直した方がいいんじゃ無い?という所があれば気軽にメッセージやコメントで指摘してもらえると助かります。