違う世界へ
トンッ
「え?」
後ろを振り返ると笑顔で僕を見る若葉の顔が見えた。
しかし、その笑顔の中には嘲りの色が濃く出ていた。
そしてスローな世界の中で若葉の肩に手が置かれているのが見えた。
「じゃあな?ゴミ本君♫」
若葉の肩に手を置き、ニヤニヤと笑っている須崎裕也が僕を見ていた。
〜2日前〜
今日から、高校2年になる。
まだ日が出ずに辺りが薄暗い朝、僕はいつも通り起きると洗面台に向かった。
時計の針は4時12分を指している。
顔を洗いうがいを済ませると自分の部屋の隣の部屋のドアをノックする。
「母さん、起きないとまた遅刻するよー」
「う〜ん・・・」
「朝ごはんは机に出しておくよ、早く起きなよー」
「わかった〜・・・」
「もうっ」
僕は母さんが起きて来るのを祈りながら台所へ向かい、朝食を作り始めた。
もう少しで朝食が出来るというところで階段を降りる音が聞こえてきた。
「未軌〜、出来た〜?」
「待って、今持ってくから座ってて」
「は〜い、それにしてもあんた、朝から朝食作るなんて主婦にでもなるの?」
「ならないよ、母さんが作ってくれるの?」
「私の作った料理を食べたいの?」
「い、いや」
僕は以前母さんが作った野菜炒めと称した炭を思い出し、苦笑いした。
「じゃあ、僕は先に出るよ」
「行ってらっしゃ〜い」
家を出るとそこには知った顔が見えた。
「若葉、おはよう」
「未軌君、おはよう!」
彼女は近所に住んでいる佐々木若葉。僕の幼馴染だ。
背中まである艶のある切り揃えられた黒髪を持ち、凛とした顔つきで、見ている此方が緊張してしまう。
僕と若葉は田舎に住んでいるので学校から遠く、いつも2人で朝早く家を出るのだ。
「未軌君、学校は平気?」
「うん、大丈夫だよ。若葉も僕が道場に行っているのは知ってるだろ?」
「そうだけど・・・」
「そんなに心配しないで?」
「うん、本当に平気なのね?」
「うん。ほら、早く行こう」
僕は若葉に笑顔で言った。
若葉が心配しているのは学校で僕が受けているイジメの事だ。
高校の入学式の日、若葉に話しかけていた3人の男子がいて、新しい友達かと思ったら強引に遊びに誘っていたらしい。
僕が先生を連れてくると3人は直ぐに逃げて行った。
しかし、その3人と僕はクラスが一緒で、次の日からイジメに会うようになっていた。
何かと文句を付けては、先生の目を盗み殴る蹴るの暴行や、物を隠したりなどの嫌がらせにあっていた。
僕は昔から鍛えていたので暴行は問題なかったが、物を壊したり、隠したりされるのは困るので、先生に相談したりするが、その度に事実無根の噂を流され僕はクラスで孤立していた。
それでも若葉が心の支えになる事で、なんとか高校生活を送っていた。
学校に着き教室に入ると早速3人が来た。
クラスの男子グループのリーダーである須藤裕也とその取り巻きだ。
須藤は僕の耳元で小さく囁く。
「よぉ〜ゴミ本〜、今日は俺の若葉とは別々に登校したよなぁ?」
勿論若葉は須藤と付き合ってなく、本人が勝手に言っているだけだ。
それでも少しイラッとするが抑える。
隣には若葉が居るので、僕は須藤を無視しようとするがそこでもう1人の男子が僕に話しかけてきた。
「水本君!君は何故クラスメイトが話しかけているのに無視をするんだい?」
そこにはこの学校のアイドル神崎海斗いた。
神崎は嘘の噂を鵜呑みにして僕を嫌い、「佐々木さんに付きまとうな!」「もっと真面目になれ!」だのを毎回公衆の面前で言ってくるのだ。
しかも神崎は文武両道のイケメンなので、周りの女子からも僕はイジメを受けていた。
因みに僕は運動も勉強も出来ないと聞かれると、そうでもない。
神崎の所為で目立たないが僕は毎回テストでは苦手な日本史以外学年1位だったりする。
運動も小さい頃から僕の祖父の道場に通っているので悪くないと思っている。
その事を神崎に言った事があり、テストの結果表を見せると「不正だ!」と叫び、僕を風紀委員の元へ連れて行き風紀委員長に話し、僕だけが監視の元再テストとなる事態まで発生したのだ。
そんなこんなで僕はこの学校でとてもじゃないが、まともな生活を送っているとは言えない状況だ。
何時ものように神崎の話を聞き流していると教室の扉が開かれた。
「起立、気をつけ、礼、」
朝のホームルームが終わると直ぐに1時限目の先生が入ってきた。
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帰りのホームルームが終わり帰りの支度をしていると異変が起きた。
「扉が開かない!」
クラスの男子が扉の前叫ぶ。
「こっちもよ!」
後ろでは女子が叫ぶ。
「皆んな落ち着くんだ、滑りが悪くなってるだけだよと思う」
神崎が前に出て扉を開けようとするがビクともしない。
「おい!窓も開かねーぞ!」
須藤が窓を叩きながら怒鳴る。
僕はそれより目が離せない物があった。
それは教室の床に広がって行く、ほんのりと光った線だ。
その線は何本にも別れ幾何学な模様を作って行く。
教室全体に広がる頃には僕はそれが本などで読む魔法陣だと思った。
その瞬間、僕の意識はブラックアウトした。
・
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頬に冷たい濡れた感触を感じながら僕の意識は覚醒していく。
ぼんやりと目を開くと視界一杯に10mは超えているであろう大きな樹が乱立していた。
周りを見渡すとクラスメイトと担任の教師が倒れていた。
僕は若葉を見つけると直ぐに起こす。
「若葉!起きて!」
「う、う〜ん」
「大丈夫?」
「ここどこ?」
「僕も今起きたばかりで分からない」
周りの生徒たちも段々と意識を取り戻し起き上がっていく。
それから全員が目を覚ますと担任と神崎が前に出て話し始めた。
「全員いるみたいだね。まず皆んなに聞きたいことがあるんだ」
神崎は皆に聞こえるように言う。
「ここがどこかわかる人はいるかい?」
暫く誰も声を出さなかったが、ある男子が徐に手を挙げた。
「田中君、ここがどこか分かるのかい?」
「それに関係ある事なんだけどいいかな」
「どうしたんだい」
「僕は植物が大好きだ」
田中君と呼ばれた男子はクラス内でも植物博士と呼ばれるくらいに植物の事を知っていて、夏休みに外国で新種の植物を見つけて名前をつけるほどだ。
「そうだね、それとここが何処かとの関係とは?」
「うん、ここに生えている植物を僕は1種類たりとも見た事がないんなだ」
「え?そ、それはつまり・・・」
「馬鹿げてるかもしれないけど、少なくとも地球じゃない可能性がある」
全員が唖然とする中、僕は以前読んだ異世界転移物の小説を思い出した。
(もしかして、あれが出来るかも)
僕はここが異世界だと確信するであろう事を試す前に、その答えを後ろにいる男子が叫んだ。
「お、おい!ステータスが開けるぞ!」